山羊蝗(ゴートライダ)
西の砦は、峡谷を利用した関に建てられていた。
岩を削って造られた大きなトンネルのような出入口。
その上には、橋を渡したような堅牢な見張り台が架かっている。
「ゎあ、ライルゥ、たかーい」
「遠くまで見渡せそうだな」
ラキは、仰向き過ぎて倒れそうになったが、モーラのボスがスッと支えた。
「あ~、モーラありまと」
いつの間にか近づいていたフローズ。
「ラキちゃん。今度、モーラ達と遊ばせてくれない?」
「ローズ、モーラ?」
「そう。黄土竜子団を描きたいし、調べたいの。お願~い」
「ん~、ライルゥ?」
「モーラ達が嫌じゃなければ遊んでもらえよ」
「ぅん」
「じゃあ、いいの?」
「ローズ、ラキ、モーラあそぶぅ」
両手を挙げて跳ねて喜ぶ、ラキの頭頂の髪もピョコピョコ跳ねた。
「ベルナップ様~」
崖のようなところには、両側スロープ状になった道が出来ており、それを馬で駆けおりた集団が出迎えた。
「ご無事なお姿を拝見し、安心致しました」
「お出迎えご苦労、ダンテット隊長。それで、塔の魔物の様子はどうなの?」
馬上のベルナップの元に控えた三人。
「今のところ、新しい魔物の動きはありません」
「そう。こちらは、ダングルが抜けた穴を調整する為に、一度訓練する必要がありそうだ。悪いけど、何日か滞在させてもらうよダンテット隊長」
「勿論です。我々が不甲斐ないばかりに、ベルナップ様にご足労をお掛け致します」
*
「ちょっと待て、それは何だ?」
いやに盾が多いと思えば、工兵隊の一人一人が盾を両手に持って、周囲や頭上を囲い一塊になっていた。
「ムスクルスの代わりだよ」
ベルナップが説明する。
「五人で囲んで、残り二人で追い立てるしかないんだ」
「あれでか?」
盾が重すぎてまったく進めていない。
「こうする他ないんだよ」
そんなに恐れる程の魔物とは訊いていないが、これなら、冒険者だけで塔を登った方が良さそうだが?
「ライル……これをニーアとフローズに渡してくれ。それから、ラキ君は置いて行った方がいい」
ベルナップの代わりにルーミスが差し出した物は、細かい格子の布だった。
『今さらなんだ?』
「ベルナップ様~、大変です!」
砦から再び馬で駆けおりたダンテット隊長は、「山羊蝗の大群がこちらに向かって来ています。すぐに避難を」と言って、自分は降りてベルナップを馬に乗せた。
大気を揺るがす耳障りな音がしたかと思ったら、駆け橋のようになっていた見張り台がどんどん黒い物で覆われていく。
「「「ギャーッ」」」
砦から逃げてくる兵士の中には、お前ふざけてんのかって顔した者が交ざっていた。
「クッ、ククッ」
「ライル! 笑っている場合じゃないよ。あれに咬まれたら、君だってああなるんだよ!」
『そう言う事か』
私はすぐにラキの万能スーツを操作し、次いで自分も顔を覆うマスクを出した。
「あの魔物の弱点はなんだ?」
「お、音だよ。大きな音。確か、砦に鐘が吊り下がっていたはずだよ。それを鳴らせばいいと思う」
「わかった」
突然顔を覆った私達に驚いているベルナップ。
私は、ラキを抱き上げて砦のスロープを登った。
果敢にも、アッサムが着いてきてくれて、音が大きくて火力の弱い爆弾を投げて援護してくれたんだ。
登りきった先には、大きな釣り鐘が見えたんで、片手で思い切り押した。
だが鳴らない。
「なんでだ?」
中を覗けば、沢山の山羊蝗が詰まっているじゃないか。
アッサムは、爆弾がきれて、モーラ達の掘った穴に退避している。
何かないかと探していたら、山羊蝗達に襲われた。
咬まれる心配はないが、全身にたかられて前が見えない。
「んん、ぃやあー!」
ラキが叫んだら、胸の辺りが光った後、山羊蝗達はポトポト落ちていった。
「ラキ、助かったよ」
「ライルゥ……」
表情はわからないが、気持ち悪かったようだ。
それで落ち着いた私は、懐からカーボナイトの棒を取り出して鐘を叩いたんだ。
カツ、カツ、カン、カーン。
徐々に鐘の中にいた山羊蝗が落ちて、しまいにはやっと大きな鐘の音がした。
砦に取りついていた山羊蝗達は、その音を嫌がり上空に飛ぶと、お互いを咬みあって共倒れしていった。
「この音で混乱するのか」
しばらくの間鐘を鳴らしていたが、ダンテット隊長の声で止めた。
「まさか、山羊蝗が鐘の中に入り込んでいるとはな」
「ブーッ、ククッ」
真面目に言った隊長の顔は、瞼からハート型の腫れ物が出ていて笑う。
「アイツ等は、顔ばかり狙って咬みつくんだ!」
「ヒーヒーッ」
駄目だ笑いが止まらない。




