訓練とギルマス
「君達! ちょっと待ちなさい。ああ、せっかくの『ブレンダーズルーム』が消えてしまったようだ」
残念そうに言ったギルマスは、ギルド裏にある練習場に移動しようとした私達を呼び止める。
「何か? 今、急いでいるんで後にしてもらえます?」
「すぐに済む。私達の目には、そこの子供が『ブレンダーズルーム』に触れた瞬間、消え失せてしまったように見えたのだが、その子供が消し去ってしまったのかね?」
「いえ、中で話しを聞けましたよ」
「やはり、本物だったのか! それで、中はどんな風で誰がいた? 詳しく話しを聞かせてくれないか?」
「中は、私の故郷でしたね。それで、狼男が『能力』について色々教えてくれましたよ」
「うん、それで?」
カウンター内に居たはずのギルマスに、いつの間にか腕を掴まれていて驚く。
「だから、ベルナップ様に頼まれているんで、急ぐんですよ」
「あ、君達が砦に向かう者達か」
全員を見回したギルマスは、「少し見学させてくれ」と言って勝手について来てしまったのだ。
ギルド敷地内の広い訓練場。
「ラキ、ギルマスと一緒に見学していてくれないか?」
「待って下さい。戦闘に参加するなら、一緒に訓練しなければ、逆に危険じゃないですか」
真面目なプランツの意見に、何人かが頷いた。
ムッ。
「いいだろう。但し、ラキに怪我でも負わせたら、その時は……」
怒りで震えていると、ラキが「ライルゥ、ラキ、いしょ」と可愛い声がした。
一触即発の雰囲気が、スーッと消えたな。
余裕が出来たんで、挑発する。
「かかってこいよ、実力が知りたいんだろう?」
ラキを全力で守ると決めたとたん、恐ろしい程の力が湧いてきたからな。
そんな私の余裕な様子に、冷や汗を拭うジュマルに、ミールが一歩下がり採掘鷲のスワロは、飛んで行ってしまった。
「よし、私が審判をしようじゃないか」
面白そうに首を突っ込んでくるギルマス。
「目的は、互いの実力を計るだけだからな。間違っても、怪我なんかするなよ」
「それをあんたが言うのかい? 可笑しな男だね」
今まで黙っていたニーアが笑った。
「一対一の対戦でいいのかな?」
ギルマスに問われた私は、手のひらを上に向けて更に挑発した。
「面白いじゃないか。ジュマル、アッサム行くよ」
「けっ、任せろ」
「……」
「よし、僕達もいつもの型で攻めるぞ。フローズ、スワロは大丈夫か?」
「そうね、驚いて上空を旋回しているだけだから平気よ」
「こっちはいつでもいいぞ、プランツ」
「ラキ、モーラ達を呼んでくれないか?」
「はあい、モーラァ~」
シャキーン!
全員の配置と準備が終わり、ギルマスが開始を告げた。
先制攻撃は、ニーアの大きなブーメランに隠れてスワロが突っ込んできた。
脅すように、私とラキの間を割いていく。
スワロを軽く掴もうとしたが、警戒していたのかフワッとかわされた。
『やっぱり、野生とは違うな』
プランツが正面から剣で斬りかかり、隙をミールが弓で射ってくる。
懐からカーボナイトの棒を出して、剣の軌道を逸らしていく。
弓矢は、優秀なモーラ達が跳ねて真っ二つにしている。
プランツの盾を壊す訳にも行かず、防御して上げた瞬間両足を引っ掛けようとしたが、背後からジュマルが跳躍して厚い半月刀を振りかぶっていたのだ!
それを、プランツを引き寄せて、そのまま盾で防いでから、二人が怯んだ隙にプランツの足を掬い上げて、いつものようにまとめて吹き飛ばしてやった。
「はい、二人失格」
と、ギルマスに言われて場外に行ったようだ。
『ジュマルの奴、殺す気だったんじゃないだろうな』
弓矢の攻撃に混じり、今度は火薬が……。
分断したモーラが一匹倒れた。
「モーラァ!」
「危ない、ラキ!」
飛び出した先にスワロが急降下して、私の足は弓矢で止められていて……。
モーラ達が徒党を組んで、何と壁になりラキを守ったよ。
ラキに近づこうとする私にブーメランが襲い、それをなんなく掴めば、反撃開始だ。
ラキは、モーラが壁になり守っているから、素早く動いてミールを強襲する。
弓を構えていれば、動きは鈍くなるからな。
逃げようとしたところをブーメランで引っ掛けて、そのまま遠心力で吹き飛ばす。
「はい、失格」
ニーアが、小刀で向かってきたが、反対の手に持っていたカーボナイトの棒で受け止めた。
アッサムから、爆弾のような物を投げられたので、その中をブーメランで避けながら突進して、アッサムを投げ飛ばすつもりが、吹き矢を使われたんだ。
「うわっ!」
顎をかすったかと思ったが、万能スーツが伸びてくれたので、当たらなくてすんだ。
逃げるアッサムに、ブーメランを投げてみたら簡単に当たってしまった。
「はい、失格」
ニーアは、モーラ達と交戦していたが、ボスモーラの作戦なのか、尻を穴に埋めらてもがいていた。
「やるな、アイツ等」
フローズを守る為に、スワロは上空を旋回していたが、「もう実力はわかったろう?」と訊けば頷いたので終了。
「ラキ、大丈夫か?」
「あ~、ライルゥ、モーラ……」
傷ついたモーラを抱きしめたラキが泣いていた。
しかし、ラキから力でも貰ったのか、不思議な事に血が出ていたモーラの腕の傷がふさがっていったのだ。
他のモーラにも「いいこいいこ」してやれば、全員のスリ傷が回復していった。
「素晴らしい『能力』ですね」
覗いて見ていたギルマスが大袈裟にラキを褒めた。
その後、ギルド専任の医者に見てもらい、治療費でかなり金貨を消費したよ。
「君も、何か振り回す物を購入した方がいいかもしれないね」
妙に、馴れ馴れしくなったギルマスに言われるまま、重すぎて売れない金属の棒を買わされた。
三人がかりで持って来てくれた物だから、ぶら提げる用の固定具もなくて、手に持つしかないようだ。
泣いて疲れたのか、ラキが眠そうにしていたので抱き上げて帰る事にした。
ギルマスが、みんなにアドバイスしてくれたお陰で、なんとかやって行けそうだよ。




