クピクピ族の食事
クピクピ族の受け付け嬢に紹介された宿は、私達以外の客がいないせいか、とてもサービス過多だった。
「クピクピ、食べなきゃ大きくなれないわよ。はい、あ~んクピッ」
ラキは、肉を食べさせようとする宿の女将から、「やあん」と言って私のところに逃げてきたが、私のところには、クピクピ族の可愛いお嬢さんを紹介しようとする、女将の母親が来ていて、私も逃げたいんだよラキ。
そんな中、「水を持て」や「裾を直せ」とか、堂々と女将の娘達を使っている奴がいた。
「ラキ、出掛けるぞ」
野放しにしていた風船を引っ掴み、トールのオッサンに全員押しつけようと、サッサとラキを連れて出掛けた。
「ラキ、お腹すいてるか?」
「ん~、これ、くぅらい?」
細いお腹に丸を描いた。
宿で、肉ばかり出されたのかもしれない。
後で、お願いしておくか。
「コッコッコッケケケーッ」
俺を無視するなと、また頭を突っついている風船。
屋台の一つも見当たらないので、また受け付け嬢に訊くと、下に降りた所に熱い湯が湧き出る場所があると教えてもらった。
そこで、クピクピ族の皆が食事をしているそうだ。
「クピッ、ありまとぉ」
「クピクピ、いつでも来てねぇ」
と、微笑ましい別れ。
右側にある、大きな釜の像が目印だったんだな。
マァルを肩に張り付かせたラキと、階段を降りると湿気って少しムシっとした。
「上の洞窟が暖かいのは、このお陰なんだな」
「ん? あたかい?」
万能スーツがあればあまり関係ないが、トールのオッサンが昨夜騒がなかったからわかったんだ。
私は、ラキの万能スーツを一時停止して丁寧に教える。
ラキは、自分が井戸の中で寒い思いをしていたからか、「あたかい、ライルゥ」と喜んでいた。
『もう、ラキに寒い思いはさせないからな』
ラキの無邪気な笑顔に、誓いが増えていく今日この頃。
中心にある大きな湧き湯では、沢山のクピクピ族が卵や野菜を茹でていた。
「あ~、ライルゥ、ぷくぷく」
お湯に近づこうとするラキに、今度は火傷を教える。
クピクピ族達も、長いお玉を使って茹でている。
「クピクピ、何処から来たの坊や達?」
「クーナ村からだよ」
「珍しいクピ、こんな所まで来る人なんて滅多にいないからね」
「その、野菜を食べたいんだけど、何処で買える?」
「クピクピ、こっちよ」
クピクピ族は、みんな世話やきのようだ。
削られた岩に案内されて、程よく茹でられた野菜や卵が皿で運ばれ、茶色のソースや緑のソースが運ばれてきた。
「ありがとうございます、支払いは何処で?」
「クピクピ、気にする事ないわ。私達のついでだからいいのよ」
「クピッ、ありまと」
ちゃんとお礼を言うラキ。
クピクピ族のオバチャンは、デカくて長い耳を揺らした。
「コッコッコッ」
『あ、ぶね。風船が突っつくところだった』
寸前のところで、足を掴んで引き寄せたぞ。
しばらく、私の頭を突っついていたが、ラキが食べない卵を見つけて、ガツガツ食っていた。
『あ、そう言えば餌をやるのを忘れていたな』
マァルもラキも、美味しそうに野菜を食べていた。
あれ、肉がないな。
「肉はないんですね?」
「クピクピ、あなた方は、宿に泊まっていないの?」
「ちゃんと泊まっていますよ」
「クピッ? おかしいわね、貴重な肉をお客様に出さないなんて……」
あんなに大きな耳が器用に左右に向きを変えたぞ。
「違います。宿泊している宿の方達は、親切だし肉も沢山出してくれています。ただ、甥は、肉が食べられなくて……」
「クピピッ! 肉を食べられない人がいるのね!」
凄く驚かれてしまった。
「私達は、斑胴食肉猫の肉ばかり食べていたから、野菜が美味しいんですよ。クピクピ族も、遠慮していないでちゃんと食べた方がいいですよ」
「で、でも、クピピッ。私達が肉を食べると……ポッ」
『なんだなんだ? 何故、恥ずかしそうにするんだ? いや、触れないでおこう。何だか、悪寒がするからな』
「ライルゥ?」
私が食べないのを心配して、顔を覗き込んできた。
「どれが美味しかった?」
「あ~、ん~、これ。あい、ライルゥ」
ラキが串に刺してくれた赤い野菜を食べたけど……。
『ラキ、私はこれが嫌いなんだけどなあ』
ニコニコ食べさせてくれるラキに、それは言えなかったよ。ううっ。




