ディミトリ
『やっぱり、駄目だったんだな……』
抜け殻のようなディミトリの体を横たえる。
少しショックを受けたが、今はそれどころじゃないと振り切った。
地平線が見える荒野の真ん中では、向こうからもこっちからも丸見えだ。
ただし、万能スーツから暗視スコープを出してかけないと、暗闇の中を視ることは出来ないが。
馬車の前方から、丸い塊が猛スピードで迫ってくるのが視えた。
『群れるってことは、野獣か』
程なく意識が戻ったディミトリ。
「我の言に耳を傾けもせん」
と偉そうに言った。
「なあ、ディミトリはもういないのか?」
「居るが、寝ている」
「起こしたらどうなる?」
「酷く暴れるであろう」
「んじゃ、代われ」
「起こすのは構わんが、その後の事は知らんぞ?」
「いいから代われ」
「しょうがないのう」
ブチブチ言うオッサンがウザイ。
「フシャーーッ!」
団体さんの到着だ。
しなやかな体躯の山猫。
ではなく、剛毛の胸毛か腹毛(あるのか?)のあるベンガル虎も真っ青な太く鋭いキバを持つ猛獣だよ。
『斑胴食肉猫:胴の斑点は、磯巾着のような攻撃をするので注意』
万能スーツの解析が入った。
まだ、半覚醒のディミトリをポイッと群れの中に投げ込み、怯んだ隙に手前の二匹の尻尾を掴み、振り回してなぎ倒しにしてやった。
肩にのし掛かられていたディミトリは、変な風に体を捩り闇雲に腕を振って、周囲の斑胴食肉猫を吹き飛ばしている。
『アイツ、超人みたいだな』
こっちも、捕まえた斑胴食肉猫を振り回し続けるから、仲間は中々近づけずに隙を伺っている状態だ。
そのうち、ディミトリのツン刺髪から青白い電気が走って、周囲に放電しまくり地面にまで穴をあけまくりだ。
斑胴食肉猫は、驚いて四散して逃げた。
持っていた二匹は、キバが折れて絶命していたが、それで、危険物のディミトリを構わず伸してやったのだ。
「ヴヴーッ」
ドサリ。
『まったく、お前はバーサーカーかよ。あーあ、辺り一面穴だらけだよ。馬車で通れるか、これ?』
首根っこを掴んでディミトリを回収した。
「うおー、全身が痛い!」
どうやら、オッサンが目覚めたらしい。
そりゃ、あれだけ暴れたら体も悲鳴をあげるさ。
出血は、手の甲ぐらいだったので、とりあえず馬車の中にディミトリを突っ込んで、トリシャに手当てを頼んだ。
斑胴食肉猫の状態の良い物を何体か解体して、後は、ディミトリが明けた穴に入れて埋めておいた。
『このキバは高く売れそうだな』
肉も腿の辺りが旨そうだったので、確保しておいた。
ピエールは、私が守っていたから無事だし、後は、この血の臭いに他の魔物が集まって来ないか、朝まで見張っておかないとならないな。
サバイバルでは、これが一番大変だ。
*
「やたら、素材の取れる地域だな」
さして必要もない手綱を満身創痍のディミトリに任せて、素材を載せたキャリーを引いて横を歩く。
「また出たな」
斑胴食肉猫のキバをスコンと投げた。
土から出ていた鰐淵穴子の頭に刺さったようだ。
通り抜けた時に、キバだけ抜いて持っていく。
鰐淵穴子は、土の養分になって高く売れると言うが、臭いが……。
魔物蔓延るこの荒れ地では、先に見つけて次々仕留めていくに限る。
「冒険者を雇うつもりだったが、こんなに安全に進めるなんてなあ」
「本当、ライルもディミトリも頼りになるわ」
天気が良くて、安全だと思われているから、馭者台の方にアーデンやトリシャラキが顔を出していた。
マァルは、ディミトリの肩にいる。
「近道だと聞いたが、もっと回り道するのが普通なのか」
「だから、こんなに荷を積んできているのよ」
「息子に迎えに来てくれとも言えねぇしな」
「向こうに着いたら、一緒に暮らすんでしょう?」
「そうなの。テニイ(息子)が可愛いお嫁さんをもらってね、孫が産まれたのよ」
「そうだ。それで、いてもたっても居られなくなってな」
「孫に会いたくて押し掛けるのか。迷惑なジジババだ」
「まあ、酷いわライル」
ポンポンと宥めてやるラキ。
「ありがとうラキちゃん。孫もラキちゃんみたいに可愛いに違いないんだから」
ぎゅうぎゅう抱きしめるトリシャ。
「クーナの村には子供はどれくらい居るんです?」
ディミトリがまたドン引きするような質問をした。
「あんたは、黙ってなさい」
「ライル、またディミトリが拗ねるわよ」
「祖先か何かが偉い人だったみたいで、自分が中心じゃない事が不満なだけだから。今は、戦闘の中心はディミトリだから、魔物にチヤホヤされて満足している筈だよ、な?」
「毎回、中心に放るのはそう言う事だったのか。ライル!」
突然怒り出したディミトリ。
「ブヒブヒ」
それを煩そうにピエールが注意したようだ。
何やらブチブチ文句を言っているが、まあ平和な旅だよな。




