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ディミトリの怪

 緩い登り道を、ディミトリに馬を引いてもらい、私が後ろから押して歩いた。


 ラキやトリシャも降りて歩いている。


 『ずっと馬車に乗っているのも辛いもんだしな』



 ラキは、トリシャの傍らにいて、まるで、魔物から守っているみたいだった。




 『まだ、街が近いからか魔物の気配はしないな』


 二三日は、天気にも恵まれてのんびり旅が続いていたな。




 整備されていた道がなくなり、景色が何もない荒れ地に変わった頃、雨に見舞われて身動きが取れなくなってしまった。




 馬車から斜めにフィルム状の布を張り、雨避けにしたその下で馬を休ませて、反対側も同じように施した。


 そこでみんなで過ごせば、幾らか気がまぎれていいと思ったんだ。


 「しかし、酷い雨だな」


 「今日一日は、ここで過ごすしかないわね」


 マァルは、アーデンの膝に居て温めてやっていたし、ラキとトリシャは二人並んで毛布を掛けていた。


 ディミトリはと言うと、旅を初めてからは無口になっていた。


 人懐っこい筈のラキが、ディミトリにはまとわりつかないばかりか、お互い様子見をしているように見えるのだ。


 『ディミトリの中に何かがいるのがわかるのか?』


 『いや、まさかな』







 「ラキ、こんな時はな、皆で歌を歌ったり踊ったりして、楽しい話しをしたりするもんなんだぞ」


 「ライルゥ」


 退屈だったのか、そう言って私の膝に座ってきたんだ。


 アーデンがすぐに指笛を吹いて、最初にラキを喜ばせた。


 「アーテ、すこ」


 ショーの時に学んだ拍手をして、大興奮だ。


 私も負けじと鳥の鳴き真似をしてやると、クルット振り向いたラキに、またも、顔を覗かれてタジタジだ。




 「あ~、ライルゥ、いっかい、いっかい」


 『ああ、覚えたいのか』


 すると、今まで黙っていたディミトリが、鳥の鳴き真似を完璧に模写したものだから、ラキは出来ない自分に泣きそうになってしまう。



 『ディミトリ、お前って子供を擁護してなかったか?』


 「弱きを救うのは、神の教えです」


 シャアシャアと応えたぞ。


 「ラキは、まだ弱い子供なのに、神の教えが聞いて呆れるな」


 すると、顔を雲らせてボソリと言った。


 「弱くない」


 「あ?」


 「ラキは弱くない」


 アーデン達と顔を見合せたが、夫婦は首を振るばかりだ。


 「お前、まさか隠れてラキを苛めたりしてないだろうな?」


 私は、人懐っこいラキが、ディミトリに懐かないのはそのせいじゃないかと邪推したぞ。


 「そんな事はしない。旅の間中、教祖の私ではなく小動物達はラキに貢いでいる。お前も、二言目にはラキラキと呼び、ご夫婦は、目に入れても痛くない程の可愛いがりようだ」


 「「「はぁ?」」」



 わたし達三人は、それが何か? と呆れていた。


 するとトリシャが急に変な事を言い出した。


 「まあいやだ、ディミトリはラキに嫉妬していたのね。フフッ」


 「なんだ、そうか。教祖だなんて言ってはいるが、ディミトリはまだまだ子供だな。ハッハ」



 善良な夫妻は、ディミトリを優しい目で見ているらしい。


 『いや、待て。私は納得していないぞ。第一、コイツの中身は、半分は偉そうなオッサンじゃないか』




 「うわっ!」


 ご夫婦の手前引いたが、後で確しかめてやると考えながらラキを見たら、ラキはジッと私を見ていたから驚いたぞ。


 「どうした、ラキ?」


 「ぅ~、ライルゥ」


 そう言って甘えて来たから、可愛いくて仕方がない。


 『絶対にお前もお前が生きるこの世界も守るからな』


 誰にとも知れない誓いを胸にする。




 ラキを楽しませて過ごしている間に、辺りは、暗く寒くなってきていた。


 ご夫婦とラキを馬車に入れて、私とディミトリと交代で見張り番をする。


 みんな、何故ディミトリを連れて来たのか不思議に思っているかもしれないが、不思議な力を持ってそうなコイツを連れてこない選択はない。(つまり、護衛)



 二人になった所で、さっきの話しを問い詰めてやる。


 「今、どっちなんだ?」



 「どっちだと思う?」


 不敵に笑いやがる。


 「命の恩人に対して、その態度はなんだ」


 「命の恩人ね……」


 すると、揶揄するような笑いに変わった。




 「なっ、まさか……アイツ駄目だったのか?」


 『えっ、溺死しちゃっていたのかよ!』


 焦る私を面白そうに見ていたが、野獣の遠吠えが聞こえてきたので、またも一次中断してピエールをこちら側に連れてきた。


 「ブヒブヒ」


 馬車は、前後に扉がついているので閉めてしまった。


 「襲うつもりかな?」


 「どれ、見てくるとしよう」


 フッと魂が抜けたディミトリの体は、クテっとくずおれてしまったのだ。


 「あ、おい!」


 呼んでももう遅く、意識のないディミトリの体をどうしたものかと、考えていた。

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