クーナ村に出発
「トリー!」
「まあ、お帰りなさい」
「これ、んー」
「綺麗なお花ねぇ。どうしたの?」
「トリー。んー、はい」
「私にくれるの? 嬉しいわ」
ラキは、トリシャが花の薫りを楽しんでいる間に、足下にまとわりついていたが、だんだん頭が揺れてきていた。
「あらあら、疲れてしまったのねぇ。今日は、はしゃぎっぱなしだったからかしら」
抱き上げようとしたトリシャを止めて、代わりにラキを抱き上げてベッドに寝かせてやった。
「もう、肩は大丈夫なのよ」
「ラキは、最近二人に可愛がられて太りましたからね」
「元が小さくて細いものね、ラキちゃんは、幾つぐらいなのかしら?」
「私も、ラキの事は全く知らされていなかったんで(嘘)、知らないんですよ」
「まあ、そう。それなら、あなたが迎えに行く前に、独りで苦労したのかも知れないわね」
「よさないか、トリシャ」
アーデンが余計な詮索を止めてくれて助かった。
この人達に、あまり嘘はつきたくないからな。
「ところで、いつ出発しますか?」
「そうだな。悪いが明日、必要な物を買い揃えて来てもらえないか?」
「当座の食料と水に飼い葉、他に何が必要ですか?」
「それなら、私も行きたいわ」
「じゃあ、私が荷物持ちしますよ」
「ありがとう、本当に助かるわ。ライルもラキちゃんもそのまま、クーナの村に住めばいいのに」
「そんな事言って、私が迷惑をかけたらどうします?」
「あら、それは困るわよ。でも、そうなったら最善の方法を一緒に考えましょうね」
穏やかな微笑みを向けられた。
『ラキがいたから、こんな良い人達に会えたのか……』
「その前に、大変な仕事を終わらせないと」
「探し人は見つかったんだから、後は送り届けるだけだろう?」
「その後に、まだ大仕事が待っているんですよ。だから、本当は、ラキを預かってもらいたかったんですがね」
「無理だな」
「そうね、ちょっと私達では期待に応えられないわね」
そんなに、ラキが泣いて騒いだのかと思ったら、静かに慟哭するものだから、その悲壮感に自分達も胸が痛くて耐えられなかったそうだ。
それは、本当に悪い事をしたな。
それから、買い出しに付き合い、馬とディミトリを迎えに行って、やっと出発だ。
面倒そうにしながらも、親切にしてくれた宿の主人に別れを告げた。
「ん、ライル、マァル、ラキ、またくるぅ」
「その前に、好き嫌いを失くせよ坊主」
「ぅん」
ガリガリのラキを心配してくれていたのか。
「こちらは、主からでございます。どうぞ、お受け取り下さい」
従者がベルナップの代わりに見送りに来てくれていた。
「昨日、ディミトリを引き取りに行って、挨拶は終わらせたのにな。わざわざありがとうございます」
「いえ。他に主から伝言がございます。旅の安全を願っていると。それから、帰りには必ず寄るようにとのことでございます」
「わかりました」
大きな箱を貰ったが、人が五人も乗るので手狭だ。
仕方なく、不要な物は宿の主人に分けた。
馭者台には、私とディミトリとラキ。
中に、アーデンとトリシャにマァルだ。
駄馬だと思っていたが、中々に力強い出足。
「んー?」
新しい馬の名前を知りたがるラキに、ベルナップから聞いていた名前を教えてやった。
「生意気にもピエールだと」
「んー、ヒエールゥ」
ラキが、すっこ抜けたように呼んだら……。
「ブヒ」
と振り向いて返事した。
「「……」」
「んー、ラキ、んー、ヒエールゥ」
「ブヒブヒ」
「「……」」
ディミトリも何か言いたげだ。
こんな感じで、のんびり旅の始まりだ。




