ベルナップ隊長
そして、やっとベルナップから連絡が来た。
貴族様だから、こんな安宿には出入り出来ないんだろう。
迎えを寄越すから、それに乗って来いってさ。
「うっわ、豪邸だな」
上位世界で連れていかれた大使館の宮殿程ではないが、ウッドオイルでも塗ってあるのか、木目の茶色が艶々としたモダンな造りの屋敷だ。
執事に案内されて、屋敷の裏にまわると、牧草地が広がっていて、そこを馬が自由に走っていた。
「綺麗だな」
「やあ、よく来たねライル」
シャツにベストと言う軽装で現れたベルナップ。
「これ、全部お前ん家の馬か?」
「うん、まあね」
「まさか、ここから一頭くれるとか言うなよ」
「それは無いよ、これは全て父様のものだから」
「じゃあ、何だよ」
馬房から出されたのは、少しクタビレた感のある駄馬だった。
「この馬は、ちょっと癖があるけど、まだまだ走れる馬だからと馬丁が譲ってくれたんだ」
「うん、無いよりましだろう。で、幾らで譲ってくれるんだ?」
「お詫びを兼ねてご夫婦に進呈するよ」
無料程高いものはない。
「ところで、ライルは、明日予定を入れているのかな?」
何かあるなと思えば、また厄介事か。
「街の郊外で、突然空いた穴から水が涌いた話しは知っているかな?」
「前にギルドの掲示板で読んだなあ」
「そこを調査する前に『メッセンジャー』と名乗る者達に占拠されてしまったそうなんだ」
「ふ~ん」
「興味ないようだな」
「で、何で騎士でもない工兵隊隊長でしかないあんたが、立ち退きさせなきゃならないんだ?」
「それは……」
「それは?」
「話さないと協力してはくれないのか?」
「信用問題ですから、当然です」
ツンと澄まして言ってやる。
ベルナップは、困ったように顔を曇らせて、私の顔を二度見してから決心したみたいだ。
「実は、お祖父様の気紛れで、末っ子の僕が後継者候補に上がっているんだよ」
「ああ、それで風当たりが強いんだな」
私は同情した。
「なら、失敗すればいいんだから簡単じゃないか」
「うん、だけど母様が……二番目なんだよ」
妾って事かな? だから話したくなかったのか。
「悪い、そこまで話させる気はなかったんだ。よし、聞いたからには何でも協力してやるよ」
「本当に助かるよ。部下も先日の輩を逃がしてしまって、全員減俸させられた。僕一人お咎め無しだったから、それからは、変な雰囲気になってしまっているのさ」
持っていたら持っていたで、中々苦労が絶えないんだな。
「そんなんじゃ、いつ後ろから襲われるかわかったもんじゃないな」
「僕は、どうしたら良かったのさ」
『……』
「最悪、あんたが取り残されたとしても、私が守ってやるよ」
「そ、そんな目には遇いたくないな」
*
で、翌日。
ベルナップの従者として馬車に乗り、付き従って郊外の問題の場所近くまで来た。
確かに、八人程いる工兵達は、ベルナップに敬意も払わない。
『ならず者の集まりじゃないか』
斜に構えた者達の中で、一人余裕ある背の高い男がいる。
『あれが、ボスだな』
そいつは、ダングルと呼ばれていた。
「では、この手紙をダングルとイットで渡して来てくれ」
お世辞にも整列とは言えない、バラバラな並びに向かって指示を出すベルナップ。
「知らせる必要なんてないよな」
「「「エッヘッヘッヘ」」」
「奇襲をかけて、殲滅すりゃあいいんですよ」
駄目だな。完全にナメられている。
「貴様らそれでも軍人か! 上官に対する不敬は目に余る! 従わないのであれば、上に報告するまでだ」
一喝してやれば、ザコはビビっていたが、ダングルは殺気立った。
ここは少し見せしめとして、痛い目を見てもらおう。
「たかが、従者の分際で生意気な」
ナイフを振りかざして向かって来たが、その腕を軽く払えばナイフが横に逸れていった。
続いてダングルからの、ハンマーブロウに横からの足蹴りコンボ、それらを避けて更に回し蹴りをした足の上を飛ぶ。
ヒョイ。
ダングルが流れるように掬い上げてきたアッパーをそのまま受けとめて、待っていれば、ダングルが拳の痛みで背を丸めたところをブロウで沈めた。
ベルナップは、呆然としていて、一歩も動かなかったな。
「他には? なんなら全員でも構いませんよ?」
何人かは反応したが、部が悪いと踏んで下がったようだ。
それから出来るだけ慇懃にベルナップに向かい合う。
「主、出過ぎた真似をしました。お許し下さい。ですが、時には実力を見せる事も必要かと存じます」
ハッキリ教えてやったので、今、私の頭の中で「ビー、ビー」とレベルアップ音が鳴っている。
「そ、そうだな。軍の規律とはそう言うものだ」
で、大人しくなった工兵二人に、立ち退き勧告の書状を持たせて行かせたようだ。
*
「ベルナップ隊長、イット達が戻って来ます」
「報告ご苦労」
「ハッ!」
あれ? 普通だな。
「ベルナップ、いつからこんなに部下と拗れたんだよ?」
テントを張らせて、中は二人きりだ。
「先月? 先々月? うーん、どちらだったかな?」
「最初からこんな態度を取られた訳じゃないんだな?」
「そう言われると、お祖父様が後継者候補を決められた後からのような気がします」
「なら、原因はベルナップじゃなく、間者だな」
「間者?」
「陥れられたって事だよ」
「まさか!」
その時だ。
「第二工兵隊所属イット、他一名。返事を持って参りました」
「入れ」
「「失礼します」」
「それで、どんな様子だった?」
「ハッ! 胸におかしなモノを提げた青年がリーダーのようでした」
「他には?」
「ハッ! 中は子供ばかりで溢れておりました」
「子供?」
「ハッ! 身なりからして、退廃地区の者達ではないかと見受けられます」
「返事は何と?」
「ハッ! 話し合いたいとの事です」
「わかった、すぐに向かう」




