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退廃地区

 染め物屋のスダンが、馬を売ったお金を届けてくれたのと、私の馬探し情報で夫妻の心配も薄らいだようだ。 



 幸い二三日で、トリシャの肩は回復して、旦那のアーデンも顔色が良くなってきていた。


 ラキはすっかりトリシャに懐いていて、毎日楽しそうに過ごしている。


 だが、人探しの方はと言うと……。


 これだけ沢山の人が住んでいる街じゃ、ツントゲ頭の青年一人なんて、中々見付けられるもんじゃない。


 「そう言えばベルナップから連絡が来ないなあ」


 「ナププ?」


 巻き舌や口すぼみなんかをトリシャに教えてもらって、それから、話し相手でもあるから、随分ラキが喋るようになった。


 「ッ、小さいッだよ。歯の間に舌をつけるんだ」


 「チィ~!」


 どうやら舌を噛んだらしい。


 トリシャの膝に甘えに行ってしまった。


 相変わらずラキの万能スーツは、アーデンの足に被されている。


 取り去るとラキがしょんぼりするらしい。


 トリシャもアーデンもラキには甘いな。


 マァルは、アーデンのベッドにいて、心も身体も癒してやっているようだ。




 『さて、今日はどうするかな』


 来たばかりだったが、意外に順調に資金は稼げている。


 『街の端から探して行くか……』


 もしかしたら、別の町か村に行った可能性もあるしな。


 そこで、まだ探していない奥の危ない地域を探してみる事にした。


 *


 何処にでもある退廃地区。


 早速、目をつけられている。



 面倒なのでやり過ごそうと、倒れそうなボロ屋の開いてる扉を引いて、その陰で万能スーツをボロ服にチェンジする。


 そのままズルズルと地面に座っていると、やんちゃな少年が覗きに来た。


 他にも二人程来て、「何処見てたんだよ、まったく」と最初に見に来た斥候役の少年に悪態をついたのだ。


 そして、最後には扉を蹴って去って行った。




 「危な……」


 『少年だったのか。なら話しをしてみれば良かったな』


 で、暫くはジッとしていたが、それからフラフラ歩き出して人が集まっている場所を探して回ったのさ。


 『思った程治安は悪くないか』


 ライルは、自分の育った場所と比較していた。


 ここには、飢えた子供がいないな。


 自分のいた場所では、僅かでも気紛れでも食料を貰えるかもしれないと、小さな子供が道をうろうろしていたものだ。



 『胸くそ悪いぜ』






 昼過ぎまでフラフラして、ようやく人の集まる場所を見つけたぞ。


 壊れそうな木箱に座る男数人が、沸かした鍋から茶色の液体を汲んでいた。


 「それ、一杯もらえないか?」


 虚ろな顔した男の一人が立ち上がり、欠けた器に茶色の液体を入れて持ってきた。


 指で二本見せたので、ここで一番小さい硬貨を二枚出して渡し、器を受け取り木箱に座って飲んだんだ。


 『渋!』


 「見ない顔だ、どっから流れて来た?」


 「隣り町で洋裁をやってたんだ」


 「本当か?」


 「あんたが今着ているシャツは、紫蘇で染めた物で、二番目のボタンを失くして似た物を代用している。だろう?」


 「「「おー」」」


 学校に通えなかった連中は、うんちくを言うと信じてしまう。


 「で、そんな奴が何でこんなところに来た?」


 「妻を奪った男を探しているんだ」


 「そいつは、あんたより格好いいのか?」


 「ワイルドなところに惹かれたって、手紙が……」


 「ああ、無い物ねだりだな」


 「真面目なあんたより、相手の男の悪さに惹かれちまうなんて、女には良くある事だぜ」


 「私は、今でも妻を愛しているんです。見つけたら必ず連れ戻すつもりで、ここ迄来ました」


 「あんた、何もかも投げ売っちまったのかよ」


 「はい……」


 「で、相手の男はどんな男なんだ?」


 自分より不幸で落ちぶれた者には親切にしてくれる。


 ディミトリの人相を話して、見つけた人には僅かだがお礼をするって言っておいた。


 これで、襲われる事もないし、万が一見付かったら教えてくれるだろう。


 違う場所で同じ芝居をしてから、退廃地区を抜け出した。


 後は、二三日したらまた来てみよう。

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