ラキの偏食
ラキは、肩揉怪獣と仲良くなってから、更に明るく活発になった。
『兄弟みたいにじゃれてるもんな』
それから、あの日を境に突然偏食が始まる。
炙った肉を渡してやると、イヤイヤと顔を私の背中に擦り付けるのだ。
「どうした?」
「ライゥ……」
焚き火の明かりで、ラキの瞳がウルウル濡れているのがわかる。
「フゥ」
「肉を食べないとパンもないから、ラキの食べる物がないぞ?」
肩揉怪獣のマァルに、ラキに渡すはずの串焼き肉を食べさせた。肩揉怪獣は雑食で、可愛い容姿と違いなんでも食べるからな!
『末恐ろしい』
そう言えば、パンはないがお金の代用品の小麦粉は買ってあったな。あと、ジジババから貰った果物がある。
私は、果物の汁を使って小麦粉を混ぜて、それを石の上で薄く焼き、残ったその果物を炙って巻いてやった。
ラキは、炙って甘くなった果物の匂いをスンスン嗅いで、お腹をクゥと鳴らしてビックリしている。
「ラキの体は正直だな。食べないと元気が出ないってちゃんと教えてくれているんだぞ」
「ラキの?」
「フッ、わかったらホラこれ食べてみろよ」
「ふぅー、ふぅー、あむ」
お腹が空いていたのか、二つ作った物をペロリと食べてしまった。
それで、覚えたのか、積極的に木に成っている実等を集めるようになって、自分で小麦粉に混ぜて焼くようになったんだ。
『ラキは本当に賢いな』
私のレベルも、領主が住むカンツールの街に着く頃には次の『アソリティ』になっていた。
ラキのまっさらな知識が、素直に教えた事を吸収するから、それが、私のレベルアップを促進しているみたいなんだ。
普通の人間は、見も知らない人間の言う事なんて信じないもんな。
そう考えると、この能力の経験値の設定は低いのかもしれない。
旅の間、殆ど魔物に襲われる事もなく、逆に小動物達が、栗の実やら何やらを置いていってくれて、ラキは食べる物に困らなくて済んだみたいだ。
『人タラシだけじゃなくて、動物タラシでもあったのか』
どういう訳か、ラキは構いたくなると言うか何と言うか、人を惹き付ける感じが増したような気がするんだよな。
これで、大きな街に入って大丈夫だろうか?
*
道が拓ければ、利用する人がいるのは当たり前。
「領主様が住む街だから、通行人が沢山いるなラキ」
「ぅん」
「ニャアーン」
マァルは、ポテッとした丸い体で、ラキの帽子の上にのっかった。
「あ~んー」
楽しそうにじゃれている。
ガラガラガラガラ。
「のけーっ! 道を開けろ!」
二頭だての馬車が、こんな人の多いところを猛スピードで走ってきたぞ。
当然、避けきれず横転してしまった馬車が出た。
ヒヒーン。
「キャーッ」
「馬車が倒れたぞ」
「下敷きになった者がいる、手を貸せ!」
厄介事に関わりたくないので、後ろを見ずに先に進むつもりが、ラキは放り出された人のところに走っていた。
「フゥ」
振り返れば、周囲の男達が集まって、挟まれた人を救出しようと荷が沢山載った馬車を起こそうとしているところだった。
「おい、そっち持ってくれ」
「見てないで手伝えよ」
渋々私は、皆と力を合わせるフリをして、軽々と馬車を起こしてやったさ。
怪我人を引っ張り出せた事に喜んでいて、誰もそれには気付いていないがね。
後は、端に避難させて、応急手当てをしているところをボケっと見ていた。
いや、だってラキが戻って来ないんだよ。
心配そうに傍にいて、水をあげようとしているんだ。
仕方なく、火事場泥棒しようとする輩を追い払い、荷馬車の見張りをして待っていた。
『馬は、もう駄目だな。脚を折って起き上がれないんじゃなあ……』
「おい! この馬俺達に売ってくれよ」
ならず者みたいな連中が、三人程絡んできたぞ。
「本当に払うのか?」
ニヤニヤする連中に一応訊いてみた。
「それは、兄さんの腕にかかってんだろうな」
ジリジリと迫ってくるゴロツキ達。
「ライウ!」
タイミング悪くラキがこっちに来てしまい、「何だコイツ」とリーダーと思われる男に捕まってしまった。
襟首の辺りを摘ままれて、仔犬みたいにぶらーんと垂れ下がり、「ぅん?」と言うラキの可愛いこと。
「プッ」
ゴロツキも、威勢をそがれて「気持ち悪いなコイツ」と、ポイっと端に放ってしまった。
『人質にされないなんて、希有な子だなあ』
ラキは、面白かったのか、また捕まえた男のところにトコトコ戻り、キラキラした瞳を向けている。
男は無視していたが……良心に耐えられなくなり、「覚えてろよ!」と言って去って行った。
『何を覚えておくんだか』
「ライウ~」
指をさして三人を残念そうに見送るラキ。
「また、次に会った時にでも遊んでもらおうな」
「ぅん……」
「さて、行くか」
「あ」
怪我人の事は忘れたと思ったのに、思い出してしまったらしい。
「んー」
今度は引っ張って行かれた。
「ラキ、私は馬車を見張っているんだから、離してくれよ」
「うぅん」
困ったように眉を寄せての懇願には、どうにも弱い。
しょうがなく、最初に手伝えと言った男に見張りを頼んで交代した。
挟まれた足を縛られて、顔面蒼白だ。
もう一人は、馬車から投げだされて肩を強打したみたいだ。
「フゥ、医療の知識はないんだよな」
肩を強打した女性には、フイルム布で腕を吊ってやり、抱えて馬車に乗せておく。
足の怪我をした者の方は、チタンの棒とフイルム布で簡易の担架を作り、それに載せて馬車の中に運び寝かせてやった。
「これからどうする?」
気付いたら、律儀に馬車を見張っていた男しか周囲には残っていなかったな。
「悪いが、馬の処分を頼んでいいか?」
「わかった。で、あんた達はどうするんだ?」
「コレを引いて医者を探すよ」
「この、人が乗った馬車を引くって?」
「早くしないと、怪我人が生きていないかもしれないからな」
「悪い事は言わない。ワシが中で人を頼んで来てやる」
「それじゃあ、遅い」
ラキも馬車の馭者台に座らせて、鉄で編まれた紐を馬車にくくりつけたら、それを掴んでゆっくり発進だ。
やっぱり、とても軽いな。
ちょっとした鞄を持ったぐらいの重さしか感じない。
スイスイと進み、手続きを済ませて医者まで送り届けてやったよ。




