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可愛い人タラシ

 飲み過ぎて朝帰りか。


 何だか、ラキに会うのが怖くて酒に逃げてしまったな。


 早速、一段落ついた宿の主人に昨日の男の人相を訊いた。


 「あんたと同じ冒険者風で、三十代ぐらいの男だったが、本当に知り合いじゃないのか?」


 「初めてこの町に来たんだぞ! 知り合いがいる訳ないだろう」


 「だが、あんたの連れている子供は、すんなり戸を開けて「あっち、あっち」と叫んでいたんだがな」



 「ラキが? あっち、あっちって……?」


 「もう、いいか? 盗られた物もないし、子供も無事のようだから、俺は、休みたいんだよ」


 考え事をしているうちに、宿の主人は中に引っ込んでしまった。



 確かに、何も盗られてはいないんだが……。



 やめた。ラキに誰が来たのか訊いた方が早い。


 『よし!』



 ラキに尋ねようと部屋に入れば……。



 「きゃあ~、あ、あ」


 「ニーニ」


 あどけなく笑うラキをまん丸の肩揉怪獣(モミミン)が舐めているところだった。


 良かった。元気になったのか。


 嬉しそうに笑うラキにホッとしながら、ベッドに腰掛ければ、ラキに顔を寄せられてから「うー!」と唸られた。


 「ごめん、酒臭いか? 仕事で少し飲んだんだ」


 『なんだ、やっぱりいつもと変わらないじゃないか』


 ライルは知らないのだ。


 昨夜、ラキの身に何があったかを。




 *


 ラキに、鳥のチャームをつけた帽子を被せると、肩揉怪獣(モミミン)はラキの肩に張り付いた。


 「ライウ、こっちマァウ」


 「マァウ? ああ、肩揉怪獣(モミミン)の名前か」


 「マァウ」


 指で円を描き、ニッコリ私を見上げるラキ。


 「丸いからマァルか。可愛い名前だな」


 ポンポンと帽子を叩けば、嬉しそうに手を伸ばしてくる。



 『やっぱり、何時もの素直なラキだな』


 そのまま手を繋いで、宿を払い大棚の小間物屋(インポート)に向かった。


 コニーの話しからすると、捜索に協力してくれるだろうと踏んだからだ。


 行き交う人皆にニッコリするラキ。


 すると、どういう訳かラキに食べ物をくれる者が続出したのだ。


 抱えたまま歩くラキに、とうとう鞄までくれる人が出た。


 「んーの? れしい」


 はにかむラキは、とても可愛いくて、マァルの毛並みの美しさもあって、何だか知らんが目立っている。


 「真っ白な肩揉怪獣(モミミン)なんて珍しいねぇ」


 「マァウ」


 「そう、マァウって言うの」


 警戒心の欠片もない笑顔で、ジジババにうけているようだ。


 ラキが楽しいならそれでいいが……心配だ。


 小間物屋(インポート)に着いた頃には、ラキの貰った鞄はパンパンに膨れている。


 『これなら、食うには困らないか』


 そこは安心できるなと。




 でだ、堂々と正面から入り依頼状を見せて話しを聴きたいとお願いすれば、別室に案内してくれたのさ。



 あまり広くはないが、品のいい部屋だった。


 長椅子に座った隣りにちょこりと座るラキ。


 肩揉怪獣(モミミン)は、ラキの肩に掴まったまま器用にも寝ているようだ。


 ドスドスドス。


 バッターン!



 肩揉怪獣(モミミン)が飛び上がって起きてしまい、ラキの帽子の中に頭を突っ込んだ。


 ダンダンダンと足音をさせながら、血の気の多そうな大柄な男に、顔色の悪い細い男が付き従って入ってきた。


 ドスンと目の前に腰をおろした男は、力強い目付きでこちらを向いた。


 「底の村(ボトムビレッジ)から依頼されて来たと言うのはお前か?」


 「はい。縁あって子息の捜索を頼まれました、ライルです」


 つと、ラキを見る。


 ラキはニッコリして「ラキ、マァウ」と指をさして答えていた。


 この偉い男にもラキのスマイルは効果があったようだ。


 「弟を連れてあの山を越えて来たのか。大変だっただろう」


 急にトーンが下がったな。


 「で、また金の要求か?」


 「ここには、捜索の為に詳しい経緯を説明していただきたいのと、協力をお願いできればと思って伺いました」


 「協力か。それは、だから金だろう?」


 まったく、あの村長は上司のレプリカより悪どいようだ。


 「私も脅されて捜索させられているので、ご同情申し上げます」


 慇懃に嫌みを言ってやった。


 「ワハハッ、けっこう生意気だな」


 「よく言われます」


 「隣りに居るのは、お前の弟か? 正反対だな」


 大棚の主人なのか、大声で笑ったから、ラキも嬉しそうに笑っている。



 「姉夫婦の遺児です(作り話し)。ショックで言葉が少ししか話せないんです」


 「差し出がましい事を訊いてしまったな」


 「いいんです。それで、二人身分証を持っておりませんので、その協力をしていただけないかとお願いに参りました」


 「ふん」


 急に押し黙ってしまったな。


 「少しは、ディミトリの事を調べたんだな?」


 『鋭いな』


 「ご明察です。この町を出たのに、まだ村には戻っていない。となると、領主様のいる街に向かったとしか考えられないんですよ」


 「それで、このタラシの甥を連れて協力して欲しいとワシに言うんだな」


 「うっ、まあ、そう言う事です。まったく、やりにくいな……」



 「ワハハッ、本音が出たようだ。よし、気に入った。力になってやろう」


 主人は上機嫌で我々の保証人となり、身分証を作成してくれたのだ。



 「小さな甥を連れて、あの山を越えるとは、見所のある男だ。いずれ、何か依頼する事もあるだろう。その時は頼んだぞ」


 最後にバシリと背中を叩かれて、その音に肩揉怪獣(モミミン)はまたも飛び上がった。


 領主のいる街迄の詳しい地図を描いてもらったので、すぐに出発だ。


 ラキの鞄は、私が持つ事にして、携帯用のゼリーを入れていた袋に水を入れて、ラキの懐の袋に入れさせた。


 幾らかの硬貨と布も入れておく。


 ラキは、言葉にこそ出ないが、今まで沢山の事を教えてきたので、知識はある筈なんだ。


 で、今度は数字を教えてみる事にした。


 お金の事だけは覚えないと暮らしてはいけないからな。


 大概の数字嫌いは、ややこしく考えるからだと思う。


 ラキは、何の疑問も持たないから、のみ込みは早かった。


 マァルと自分とラキを指せば、「さぁん」と答える。


 「ご褒美が幾らあっても足りないぐらいラキは賢いなあ」


 「ライウ~♪」


 マァルに頭を踏み踏みされながら奮闘するラキは、確かに構いたくなる人タラシかもしれない。

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