ラキの変化
足取り軽く戻ってみれば、宿の主人が呼び止めた。
「さっき、あんたを訪ねて男が来ていた」
「男?」
「貸した物を取りに来たって……」
言い訳がましく伝える宿の主人に、ハッとしたライル。
「ラキ!」
やはり置いて行くんじゃなかった。
急いで扉を開けて中を確認すると、容態の落ち着いた肩揉怪獣の横に、ラキがグッタリと横たわっていた。
「ラキ、ラキ!」
怪我はないと見てわかったが、不安には勝てない。
たまらずに起こしてみれば……。
「まだ眠いぞい」
と言って欠伸をしながら起き上がったんだ!
何がとは言わないが、鳥肌が立った。
「……ラキ?」
「なに? それよりお腹空いたぞい」
「!」
ラキがハッキリと意思を伝えるなんて!
動揺してしまい、宿の食事を取らせてラキが眠った後は、こっそりと出てきてしまった。
自分が成長するのだから、ラキだって……イヤ、むしろ成長期にあるラキの方が急激に伸びるのかもしれない。
『帰ったら、宿の主人にはもう少し詳しく男の人相を聞いてみよう』
*
フラフラと先程の通りに向かえば、賑わっていた人も落ち着いてきていて、店の者達は、後片付けをしているところだった。
「フゥ、どうやら間に合ったみたいだな」
慌てていて、旅人の服のままだった事に気付き、近くに山積されていた箱に隠れて、お洒落服にチェンジする。
丁度、そこに出て来た店員の女性を見つけて、声を掛けて呼び止めたんだ。
「今、終わり?」
「ええ、そうよ」
「それじゃ、行こうか」
脇の腕を少し空けてみせれば、「いいわよ」と言って腕を絡ませてきた。
「ライルだ。まだ名乗っていなかったね」
「コートニーよ。コニーでいいわ」
「コニーか。なんだかずっと前から呼んでいた気がするなあ」
「まあ! ライルは、女性の扱いが上手いのね」
「そりゃあ、少しはモテたりするさ。特に、おば様方にね」
少しはモテたで、ムッとしたコニーだったが、それが母性からなら許せるようだ。
「ふふ、モテないよりはモテた方がいいに決まっているわ」
「食事だけど、食べたい物がある?」
「ん……特にないわね」
「それじゃ、コニーを待っている間に見つけた店があるんだ。そこでいいかな?」
「勿論よ。楽しみだわ」
値踏みされてるなあ。
ラキのお土産を買った店で、紹介してもらっておいて良かった。
軽く冗談を言いながら、紹介してもらった店に到着だ。
成る程、軽快な演奏の音が聴こえてくる。
「あら、大丈夫なの? ここ、ちょっとするわよ」
少しは助言してくれるなんて、いい娘だな。
私は、ニコッとしてから、金の粒の入った袋を広げて見せた。
「凄いわ! ライルって冒険者なんでしょう?」
「そう。金持ちの依頼しか引き受けないね」
「まあ! ふふ。入りましょう」
店の中には、ステージがあり、清潔なクロスが掛けられた丸テーブルの席が、幾つも点在していた。
端の席に案内されて、店自慢のデミグラスソースのシチューと、焼きたてのパンを楽しんだのさ。
そしてやっと、葡萄酒を飲みながら、『ディミトリ』の話しを聴く事が出来たんだ。
「彼は、随分と暴虐な人間で、店でも嫌われていたわ」
「そうか、自分も似た人を知っているよ。親子ってそこまで似るんだね」
「ふふ、ライルも大変ね」
店内の照明が暗いせいか、コニーのグラスを持った白い指が妖しく光って見える。
「だから、ディミトリが店に来なくなっても誰も心配しないものだから、給料を支払う日になって、ようやく店のご主人が知る事になったのよ。そこから大騒ぎだったわ」
「そりゃあ、そんな男でも預かった以上は責任があるからね」
「そうね、もっともだわ」
もう少し喋ってもらいたいので、お酒を追加注文する。
店の演奏も、夜に相応しいムードのある音に変わっていた。
「ディミトリには、知り合いとか彼女はいないのかな?」
「私なら、ライルの身辺を知りたいわね」
笑んだ口元の指を動かしてみせるコニー。
「目の前に気になる異性がいたら、自分だって同じ気持ちになるさ」
お返しに、胸の服を少し開けて手で扇いでみせた。
「それに、調べられるのは役人じゃない方がいい」
「うふふ、敵わないわね」
頬杖をついて、斜めからの流し目か。
「いいわ、続けるわよ。ディミトリの場合は、色々と調べたのは町の役人よ。二ヶ月前にこの町から黙って出たみたいだわ」
「一人でか?」
「そう聴いたわ」
「良くわかったなあ」
「ええ、役人が記録を取っている中に、『人助けをしに行く』と言った若者がディミトリだったみたい」
「粗暴だった男が人助けするって?」
なんだか今日は、驚いてばかりだな。
「まあね。店の人達も信じていないけど、ディミトリの親も信じていないから、だから、ライルがこうして来ているんでしょう?」
「フッ、そうだね。コニーは、綺麗で頭がいい」
そう言って、葡萄酒を一口飲みながら、コニーを見詰めた。




