(5)肉食のスタミナ切れ、草食の逆襲
後半も勢いを持って攻め込んできたのは、肉食チームだった。まるで一気に試合を決めかかっているかのように前係の陣形だ。
最終ラインのスピノサウルスが最前線に鋭い縦パスをつける。オフサイドラインぎりぎりでボールを納めたティラノサイルスは、単独突破を図ろうとするも、トリケラトプスとセントロサウルスに左右から挟み込まれ、ボールキープが精一杯。その隙にブラキオサウルスの巨体が前方を塞いでしまう。ティラノサイルスは後方からフォローに入ったユタラプトルにボールを戻すと、ユタラプトルは素早い判断で、がら空きの左サイドに大きく展開。このスペースをヴェロキラプトルとデイノニクスの連携で攻略し、俊足を生かして3バックの裏のスペースへ抜け出したオルニトミムスがゴール前に折り返す。そこに待ち構えていたアロサウルスがピンポイントで合わせて、突き放した。
「肉食4-2草食」
美しい崩しに歓声が上がる。肉食チームの中には楽観ムードが漂いだした。
ところが、後半15分を過ぎると、肉食チームの運動量が目に見えて落ちる。苦し紛れのバックパスが増え、パスミスも目立つようになった。プレーが止まると肉食チームの選手ばかりがピッチ脇の水だまりへ頭をつけて水を大量に飲んでいた。
序盤から飛ばしすぎたこともあろうが、肉食獣の習性から、獲物をしとめるために短距離の爆発的な速さはあるが、持久走となれば分が悪い。
それに伴い、草食チームの逆襲が始まる。パスの出しどころを探して立ち往生しているヴェロキラプトルからボールを奪ったトリケラトプスが左のセントロサウルスへ展開、セントロサウルスが縦に突破した後に上げたセンタリングを逆サイドで待ち構えていたアンキロサウルスが相手をブロックしながら折り返す。その浮き球をイグアノドンがオーバーヘッドでぶちかます。
「肉食4-3草食」
イグアノドンは小さくガッツポーズしただけでゴールの中のボールを掴み取ると、走ってハーフウェイラインまで戻った。
この一点が両チームに与えた影響は大きかった。2点差は危険な点差と言われるが、追い上げられる方が精神的に浮足立つ。
たまらず、ティラノサウルスは、小型獣脚類トリオのヴェロキラプトル以外の2頭を大型獣脚類のアクロカントサイルスとビスタヒエヴェルソルに交代するよう指示。守備ができてフレッシュな選手を中盤に入れ、早くも守りきりに入る。
ここで交代した2頭はサイドバックの位置に入り、翼竜類2頭は一列上げる。守備力に関して貢献度の低い翼竜類を変えるという手もあったが、草食チームが竜脚類を前線に挙げてパワープレーを仕掛けてこないとも限らない。そのときに翼竜類がいなければ致命的だ。結果として、守備的な4バックの手前にユタラプトルとヴェロキラプトル、フォワードの2頭が陣取り、翼竜類2頭が最前線でプレッシャーをかけるという布陣となった。
肉食チームが攻めてこないのがわかると、竜脚類3バックもその重い体を移動させて、DFラインをハーウェイライン近くまで押し上げる。
この竜脚類3バックの壁が相手のクリアボールをことごとく跳ね返してしまう。運よく隙間を抜けてきても、肉食チームには攻撃に転じるだけの力が残っていない。そのため、ゴールキーパーのパラサウロロフスが飛び出して回収してしまい、草食チームが繰り返し攻撃を仕掛けてくる。
守る肉食、攻める草食。構図は逆転した。
ドン引きして、スペースを埋められる中で、ケラトプス・カルテッドが流動的に動き、打開策を探る。運動量ではこちらの方がまだ勝っている。肉食獣たちはついていくのが精一杯だ。
前線では、アンキロサウルスとステゴサウルスがセンターバックとサイドバックの間にポジションを取ってボールを引き出し、隙があれば果敢にシュートを狙う。真ん中のイグアノドンはスピノサウルスの徹底マークを外すために動きを止めない。
そんな中、草食チームに同点ゴールが生まれる。
相手のクリアボールをアルゼンチノサウルスが胴体でブロック、それを回収したトリケラトプスからプロトケラトプス、カスモサイルスと右サイドへ展開され、アンキロサウルスとのワンツーで裏へ抜け出したカスモサイルスかゴールキーパーとディフェンスの間に強めのグラウンダーのパスを送る。イグアノドンがつぶれ役になると、逆サイドに走りこんでいたステゴサイルスがダイレクトで合わせる。そのシュートはキーパーのギガノトサウルスが横っ飛びではじくも、そのこぼれ球に反応したイグアノドンが豪快に蹴りこむ。ついに同点に追いついた。
「肉食4-4草食」
ストライカーとしての嗅覚を発揮し、ハットトリックを達成したイグアノドンは、バク転で喜びを表し、草食サポーターたちを煽った。残り10分、勢いは草食チームにある。そして、ただでさえ苦しい肉食チームにとって致命的な事件が起きる。