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侵入者

「クー君、侵入者の様子とかわかる?」


 うちのダンジョンは一部屋しかない。コアルームに直結している状態なので、出来たらその前にどんな侵入者なのか知りたい。


「詳しくは無理だな。ダンジョン内ならわかるが領域ってだけじゃ……」

「えっと、人数は? というか、人?」

「たぶん人間。五人かな。そこそこ戦えると思う。一人、他より飛び抜けて強い」


 生物は基本的に魔力が多いほど強いとされている。魔力が多ければ、それだけ放出する魔素も増えるため、コアにはなんとなく侵入者の強さがわかるのだ。


「うーん、ダンジョンに入ってくるかな? 旅人が気が付かずに侵入したのかもしれないよね?」

「まぁ、領域がかなり広いしな。ダンジョンに気付かないで、領域を横断するかも」


 そっか。それならDPだけ貰えるんだけどな。


「グルル?」


 戦うの? か……


「とりあえず、待機ね。戦うのはダンジョンに入られて、コアを壊されそうになったらね。ダンジョンに入られても、コアを狙わないなら敵対しない方向で」

「ガル!」

「ミランの方針に従うなら、敵対は避けたいよな」

「そうなの。出来たら本好きな学者や研究者とかならいいなぁ」


 そして仲良くなれたらいいなぁ。


「楽観的だな………」




 ◆◇◆◇◆




 動きがあったのは、侵入者が来てから三日目のことだった。


 その時私たちは、コルすらも寛いで気楽に話をしていた。ラビは眠っている。


「このまま通り過ぎるかな?」

「さぁ? まぁDPは美味しいよね」


 領域からの収入で溜まっていた1300DPに加えて、侵入者からは合計で1892DPも手に入った。その後、20DPのソファーを交換したので、現在持っているのは3172DP。


「もし侵入者と敵対してもなんとか出来そうだな」

「うん! 新しくコボルトキングとか呼んでも、まだ本を交換できるもんね」


 コボルトキングは2400DPである。


「また本……まぁ、うん。コボルトが好きなのか?」

「同じDPのゴブリンよりは」

「グル!」

「ん?」


 コルが何か来たと言ったその時。


 ガチャっ。


「おい! 不用意に開けるな!」

「ええー、普通の家っしょ? それに僕斥候だし」

「普通の家はこんな森の真ん中に建ってない」

「この前まで魔素溜まりだったんだぞ! ダンジョンの可能性が……」


 こんな会話と共に、一人の女性が入ってきた。彼女はぎょっとして動きを止め、こっちを凝視している。


「えっと……こんにちは?」


 声をかけてみるも、何故か後退りされた。


「………クー君、どうしたらいいかな」

「いや……コボルトナイトが寛いでたら、こうなると思うぞ」


 そうなのかな? まぁ、モンスターだからしょうがないのか。


「ガルグルルゥ?」

「別にコルは悪くない。常識がおかしいミランのせいだ」

「なんでよ」


 なんだか、普段のやりとりになってきたところで、外から声が聞こえた。


「おい? アデル?」


 すると、固まっていた女性がはっと我に返った。


「か、カリッドさん……これ、なんでしょう………」

「は?」


 カリッドさんと思われる、女性と似た格好の男性が中を覗いてきた。そして、アデルと呼ばれた女性と同じように固まる。


「カリッドさん? 雨降ってきましたよ。危険が無いなら入れてくれません?」


 また外から他の声が聞こえた。そういえば、雨の音も聞こえてきた。


「これは……うーむ………」


 カリッドさんが困惑しているうちに、雨が激しくなってきたようだ。このまま放置は出来ないので声をかける。


「あのー……入っていいですよ? 私たちに命の危機が無ければ襲いませんから」

「あー………失礼、します」


 漸くカリッドさんが入ってきた。続いてアデルさん、更に後ろから二人の男性と一人の女性がやって来る。


「うおー! 既にびしょびしょだ! って……」

「はぁ……あ?」

「…………」


 やはり全員、こちらを見て硬直してしまう。


「まぁ……こんにちは。私はミラン。こっちはクー君。冒険者さん?」

「あ、ああ……俺はカリッド。ランクはCだ。こっちは皆新人で………」


 おお! 確かCランクってベテランだったはずだ。新人ならFかEランクかな? 冒険者に関する本もあったからわかる。


「そっか。じゃあ、まぁ、ゆっくりしてって。あ、クー君、この人達の水滴だけ吸収とか出来ない?」

「はぁ……まぁ、出来なくはない。めっちゃ面倒だけど」

「やって」


 本が濡れたら困る。


「はいはい……」


 クー君が五人の水滴だけを器用に吸収してみせると、カリッドさんの表情が強張った。


「なぁ、ここ……ダンジョン、か?」

「うん」

「っ!? おい! ダンジョンなのかよ!? マジで!?」


 大柄で一番重そうな装備の男性、ロートックが急に大声をあげた。びっくりしてラビが起きちゃったじゃない。


「そんなに驚くこと?」

「驚くこと」


 淡々とそう言ったのはシルロ。剣を持った小柄な女性…というより少女だ。


 一方、魔法使いっぽい男性であるヒューズも驚いてはいたが、本棚に目が釘付けだった。同類?


「………ちょっと話が聞きたい。雨がやんだら、俺の姉を呼んできていいか?」

「わかった。いいわ。」

「………いいのか? ここがダンジョンなら、人を呼びたくないんじゃ……」


 ああ、そういえばダンジョンの本に書いてあったわね。



 ダンジョンは魔素溜まりに発生することがある。その目的は、モンスターを作って外に出し、生物を襲わせること。つまり世界の敵だと。


 ダンジョンの機能を止める方法は不明だが、ダンジョンの中には生物では心臓にあたるコアがあり、それを壊すことで止まるという説。そして、ダンジョンを領するマスターがいて、そのマスターを倒すことで止まるという説がある。


 どちらにしても、ダンジョンを守るため。それに加えてモンスターを作るのに邪魔だから、ダンジョンに人間が入ってきたら排除するために動くといわれている。



「だから、俺たちも排除するんじゃ……」

「とんでもない。ほとんど間違いだからね、あの仮説」

「そ、そうなのか?」


 そう言ったのはヒューズさんだった。


「逆に人に来てくれなきゃダメだし。だからお姉さん呼んできていいよ。細かくはその後で話すから」

「わかった」

「………なぁ、ミラン。俺はやめて欲しいんだけど」


 え?


「なんで? このダンジョンのコンセプトを考えたら……」

「ああ、そうじゃない。えっと、そのカリッドには、出来るだけ領域にいてほしいんだ。収入が桁違いだから」

「収入?」


 アデルさんが聞いてきた。


「えっと……DPっていうポイントがあるの。生物が滞在すると貰えるんだよね。魔力が多くて強い人の方が多いんだっけ」

「そうだな。で、ダンジョン内だと個別で貰えるDPがわかるんだ。それが、カリッドが特に多い」

「まぁ、そりゃカリッドさんはベテランだからな」

「でもクー君、多少はしょうがないんじゃない?」


 お姉さんを連れてきてもらう方が大事だ。特に多いとはいえ一人分だし……と、思っていたのだが。


「………ミラン。メニューのデータからわかる。見てみろ」

「うん……え? この……飛び抜けてるのが、カリッドさん?」

「そのはずだ」


 ………なにこれ?


 そう思ったのも無理はないよね?


 だって、他の四人は38、24、45、36と二桁前半。なのに一人だけ803DPなんだよ?


 もう飛び抜けてる。というか、他の四人の二十倍ぐらいじゃない? これは確かに、領域にいてほしいね。一日で本を八十冊交換出来るじゃないの。


「………お姉さんって、カリッドさんじゃなきゃ呼べませんか?」

「ちょ、あの人を僕らに呼びに行かせようっての? カリッドさん無しで? やめてよ? 僕は嫌だからね?」


 と、アデルさん。他三人も拒否した。


 どうやらカリッドさんのお姉さんは、お偉いさんらしい。新人の冒険者じゃ簡単には会えないから、やっぱりカリッドさんが行くしかない。


「じゃあ、カリッドさん。出来るだけ早くお願いします。この四人はここで預かるので」

「な……ダンジョンに置いていけと?」


 カリッドさんは険しい表情で私を睨んだ。


「俺には責任がある。一応、コイツらを預かってるんだ。いくら襲わないと言っていようが、ダンジョンに置いていくわけにはいかない」


 彼の目には覚悟が宿っていた。私は思わず呟いた。


「わぁ………」

「………は?」

「うん……うん! いいよ! 全員で呼んできていいよ! 気長に待っとくから!」


 先程とは反対の言葉に、その場の全員が唖然とした。


「ミラン、いいのか?」

「いいの!」


 かっこいいじゃないの! こういう、責任感が強い人!


「わ、わかったよ……出来たら、戻って来てほしい」

「あ、ああ……」


 こうして、雨があがった後、カリッドさん達はダンジョンを出ていった。名残惜しそうにしていたのはヒューズさんだけだ。


 カリッドさんのお姉さんとダンジョンの話をするのは、そこまで遠くない未来のこととなった。

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