ダンジョンマスターとしての生活……?
「ふんふふ~ん」
私は手に入れた本を読んでいた。異世界の本って面白い。勝手に翻訳してくれるのも素晴らしい。
「なぁ、ミラン。それ、何読んでるんだ?」
解放したはいいが、誰も来なくて暇なんだろう。ラビをモフっていたクー君が話しかけてきた。
「これ? 魔道書よ。【浄化】ってやつの」
「………は? 魔道書!? え、出たのか!?」
「そうだけど」
五十冊手に入れた本だが、ジャンルとか本当にバラバラだった。
武術の指南書、冒険者の心得の本、鍛治の入門書、恋愛小説等々。この辺りは普通に読めるから大歓迎。
ただ、シリーズものと思われる小説の三巻だけとか、あってもねぇ……
あと扱いに困るのが、危険な感じの本。
暗殺術の本とか、人をモンスターにする薬の研究書とか、ヤバいのも数冊混ざっていたのだ。これ、図書館に置いたらヤバくない? って本もあるとは……
そして、当たりと思われるのが今読んでる【浄化】の魔道書。魔道書はこれ一冊だけど、増えたら図書館に魔道書コーナー作ろうかな。
「…………………」
クー君に本の説明してたら、黙ってしまった。なんで?
「おーい、クー君?」
「…………ランダムって怖いな」
そうかな?
「まぁ確かにシリーズものの一巻を読んで、二巻が全然出ないとかあり得るし……」
「そこじゃない……なんか、一般人が読んだらヤバい本だって出るかもしれないだろ? 実際出てるし。それを誰でも読める所に置くのは………」
「ああ、それなら大丈夫よ。ちゃんと分けるから」
地下にも部屋を作って、地上は一般向け、地下は専門書を置く感じにしたい。ヤバい本は地下の禁書コーナー行きにすればいいからね。
「そうなのか……分けれるのか?」
「内容の危険度でフロアを分けて、本当にヤバい本のフロアは強いモンスターを放てばいいのよ。ダンジョンなんだから、ね?」
DPが溜まってからにはなるけど、禁書コーナーにはドラゴンでも放てば、一般人は絶対近づかないはずだ。モンスターの強さで本を読む人をある程度選別出来る。
「なるほど」
「まぁDP溜めてからだけどね」
「DPか……人来ないな………」
ああ、クー君暇なのか。
「ねぇクー君。暇なら本読んだら? とりあえず五十冊あるよ。まぁラビと遊んでてもいいけど」
「む……読んでみるか……」
「じゃ、これとかどう?」
薄くて読みやすそうな本をクー君に勧め、私も読書に戻る。せっかく転生したんだから、たっぷり本を読んで、今の生活を満喫しなきゃ!
ダンジョンの見張りとラビの相手はコルが引き受けてくれた。
◆◇◆◇◆
転生してかなりの時間が過ぎた。時計なんてないし、外にも出てないから正確な時間はわからないけど。
ちなみに一時間は六十分、一日二十四時間、一年三百六十五日と、地球と同じように時間が流れるらしい。
その間に、開放直後には私を尊敬してる感じだったのが、今では呆れてるというか、残念なものを見る目になったのは気のせいだと思いたい。
まぁ、それはどうでもいいとして。
「ねぇ、クー君」
「ん?」
「そういえば、領域って自由に増やせるの?」
本を三十冊読み終えたところで、ふと思ったのだ。領域が広ければそれだけ有利だし、その分何か制限があるのかな? と。
「そうだな……人間とモンスターがいないところなら、基本的に自由に増やせる。ただ、あんまり広すぎると管理出来ないぞ。コアの能力がまだ初期だからな。あとは、他のダンジョンの領域は出来ないな」
「コアの能力……えっと、魔素をいっぱい吸収すれば上がるんだっけ?」
そんなことも、ちらっと言っていた。
「そうだ。だが領域広げても、ダンジョンにするにはDPで部屋を作らなきゃいけないぞ?」
わかりにくいが、領域とダンジョンは別らしい。領域の中にダンジョンを建てるという感じだろうか? 領域はコアが魔素を吸収出来る範囲。ダンジョンは、コアが魔素をより多く吸収する出来るように、領域に多くの生物を集める為の道具だ。
「じゃあ、このダンジョンを中心にして、出来るだけ領域を広げてくれない? って、メニューでやるんだっけ?」
「いや、領域の拡大は俺がやる。メニューで出来るのはダンジョンの作成だ」
「ああ、そっか。じゃあよろしく」
「わかった……うん、ギリギリまで広げたが、どうするんだ?」
おお、クー君が理由を聞かずにやってくれた! 図書館に文句言ってたから、まず理由を聞かれるかと思ったんだけどね。
「ふふ、領域は広い方が良いでしょ? その方がDP増えるじゃない。というか、領域全部をダンジョンにしなきゃいけないってルールとかある?」
「………ない」
やっぱりそうなんだ。じゃあ、領域は広げておいた方が良いに決まっている。
「あぁ……なんというか、ミランといると、常識が崩れてくな………これなら一日250DPぐらい入るぞ。開放直後に、ここまで領域を広げられるとは思わなかった」
なんかクー君がぶつぶつ言っているが、それはいい。
「250DPってほんと? 本を二十五冊……」
「ああ……もういいや」
「チュチュ?」
クー君がラビを撫でだした。
気が付くとモフってるんだよね。モフモフ好き? なんとなく現実逃避にも見えるけど。
「グルル? ガルグルゥ?」
「ああ、大丈夫だ。ありがとな、コル」
何故かコルがクー君を慰めている。
あ、そうそう、コルもラビも結構賢い。最初はただの鳴き声に聞こえるが、少ない声のレパートリーでもちゃんと喋っている。
さっきの鳴き声だって、「クー君、大丈夫?」と言っていたのだ。
コルとラビは、私のことをミランと呼ぶしクー君のことはクー君と呼ぶ。たぶん私とクー君の会話で覚えたのだろう。
「モンスターって思ったよりずっと賢いよね」
「チュ?」
「コルは人型で高いからともかく、ラビなんて20DPだったのに」
「ま、ダンジョンのモンスターだからな。マスターに従ってコアを守るぐらいは出来るだけの知能がなきゃ困るだろ。………会話出来るってのは初めて知ったけど」
「グル? ガルルル、ガルル、ガルルぅ?」
「コルもラビも賢いだけよ。おかしくないわ」
「チュっ!」
「まぁ……賢いのはメリットだし、いいか」
「………よし、休憩終わり」
程よく休憩出来たので、私は次の本を手に取り開く。
「また読むのか……やっぱり本を読みたいだけなんだな………」
なんか諦めたように呟いているクー君も、既に十冊以上の本を読んでいる。やることないし。人が来なくて暇だし。今のところDPは溜めているから、私たちの行動は、読書かお喋りかラビに構うかの三択である。
「クー君、ほら、これとかどう?」
クー君を放置するのも……と、本を勧めてみたのに、クー君はため息をついた。解せない。
「グルゥ、グルル、グルルぅ」
「え? コルも読みたいの? んー、字、読めるの?」
「グルッ、グルゥ、グルルぅ。ガルルゥ、ガル」
ああ、文字を読めるようになりたいのか。勉強をしたいと。
「じゃあクー君、教えてあげて」
「は? なんで俺?」
「クー君、暇でしょ? あと私じゃ教えられないし」
実は、転生するときにこの世界の言葉は不自由しないようになっていたみたいなのだ。どうやら言葉は勝手に翻訳されるらしい。
これは喋る時だけでなく、文字の読み書きにも適用されている。だから本も読めるわけだが、逆に言えば、どんな文字でも日本語に見えてしまうということだ。
だからコルに文字を教えられない。なんたって、こっちの文字を知らないんだから。日本語ならわかるけど、日本語を教えたところで本は読めない。私には翻訳されて見えるけど、コルは違うからね。
「まぁ……わかった。一応、この世界の言語なら大体わかるしな」
「ガルグルっ!」
「いいんだよ。ミランの言うとおり暇だし……おっ?」
クー君が唐突に声をあげて、入り口の方に目を向けた。
「クー君?」
「ミラン! 侵入者が来たみたいだぞ!」
初めての侵入者が領域にやって来た。