理想のダンジョン、完成
「よし、完成!」
説明を一通り聞き終わり、自己紹介を終えた私がカタログを操ること暫し。
遂に、私のダンジョンが完成した。
DP残高は10。なかなかいい出来なんじゃない?
「お、出来たか。どれどれ……おい」
「ん?」
「ふざけんなああああああっ!」
「ひゃあああっ!」
「ミラン、なんでこんなダンジョンにしたんだ? なに考えてんだ? お前の頭のなかはどうなってんだ?」
酷い言い様である。
私のダンジョン、クー君には大不評だった。なんでだろう。
「どこがいけないの?」
「………ほぼ全てだ!」
「ええー……」
「えーじゃねぇよ!」
そう言われてもね………
ま、確かに趣味に走ったのは否定しないよ?
でも、これならちゃんと人、いっぱい呼べると思うんだけど、ダメ?
◇◆◇◆◇
俺はダンジョンコアNo.9。マスターミランに付けてもらった通称はクーだ。
作りたいダンジョンが決まったと言うから任せていたら、ミランはとんでもないダンジョンを作ってしまった。
ダンジョンの形は建物型を選んだようだ。それはいいのだが、中が問題だらけだった。
まず、部屋が一つのままなのだ。
普通なら、せめてもう一部屋ぐらい作るだろ! 入ってすぐコアルームという、危険な作りになっていて頭が痛い。
次に、ダンジョンとは思えない配置物。
部屋の中央には、コアの本体が乗った石の台座。壁際には大きな本棚が二つ。台座を挟むようにして机二つと椅子四つ。片方の机の上には、ペンとインクと紙の束……
これでは、ただの書斎である。もはやダンジョンではない。
そして、二体しかいないモンスター。
ある程度は数を揃えたい開放前に使うモンスターには、20DPで交換出来るゴブリンかコボルトを選ぶだろう……普通は。
だがミランが交換したのは、120DPのコボルトナイトを一体と、20DPだがゴブリンやコボルトよりも戦闘が不得意なホーンラビット一体だけなのだ。
コボルトナイトは、コボルトの進化系のコボルトソルジャーが更に進化したモンスターだ。戦闘経験の少ない人間では勝ち目はないほど強い。
「だからって、いきなりナイト?」
「コアと私の護衛だからいいの!」
「………ホーンラビットは?」
「ペット。可愛いでしょ?」
「………まぁ、百歩譲ってそれはいいさ」
これが一番の問題だ。
「なんで本を大量に交換した!?」
そう、今本棚に収まっている本が……五十冊。DPにして500。つまりミランは、1000あったDPの半分を本に注ぎ込んだのだ………
「生活に必要だから」
と、ミランは言い切ったが。
「認められるかよ! この本……せめて半分ぐらいなら、その分部屋増やして、モンスター置いたりトラップ置いたり色々出来たのに………」
「DP増えるんだからいいでしょ別に。あともしもの時は、まだ余ってる60DPも使えるよ?」
「そうだけど……」
DPは、領域の空気中からの吸収、領域への侵入者の滞在・撃退、物質吸収で手に入る。
空気中からの吸収は場所と領域の広さで変わるが、今なら一日80DPぐらいだろう。何もしなくてもそこそこ溜まるだろうが……
「DP以前に、ちゃんとしたダンジョンを作る気はあるのか?」
正直、DPが増えても……まともなダンジョンになる気がしないのだが。
「ないわよ」
「……………やっぱりか」
「あ、わかってた?」
そりゃ、いきなり書斎作ったの見たらな……
「ミラン……ダンジョンを書斎にする気か?」
「ん?ちょっと違うわ。図書館にしたいの」
「図書館?」
図書館って、あれだろ。本がいっぱいあって、本を借りれるところ……
「どうやって図書館にする気なんだ……」
「本を増やして、本棚増やして、部屋増やして……知能のあるモンスターに司書の仕事をしてもらうの! あとは、そうね……利用カードとか、出来ない? あ、保証金とか必要かな……」
ミランの思考回路が本当に理解出来ない。
「それもう、ダンジョンじゃねぇだろ!」
「なんで? コアがあって、マスターがいるんだから、ダンジョンだよ」
いや、それはそうだが、ダンジョンというのは、普通モンスターやトラップ、アイテムなんかの要素があるものだ。人間に本を貸すダンジョンなんてあり得ない。
そう主張したら、反論された。
「モンスターならいるけど? コアの護衛がちゃんと。ペットだけどホーンラビットもいるし、図書館運営は基本的にモンスターにお願いするつもり。高いだろうけど、喋れる人形のモンスターだっているでしょ?」
……確かに、知性のある人形のモンスターは存在する。ダンジョンが大規模になった時に、運営をサポートさせる為の存在だから、ミランの考えは間違いじゃない。一体で10000DP以上はかかるが。
「アイテムなら本があるでしょ。返してもらうの前提だけど、人間用の餌としては機能するはず。トラップは、幻覚見せるとか、図書館でも有効なのを考えればいいわ」
………ちゃんと考えてるのか。
ならダンジョンと言えなくもない、か……?
「何より、ダンジョンは人間を呼ぶための施設なんでしょ? 図書館にしたら、普通のダンジョンに来そうな冒険者的な人だけじゃなくて、本を読みたい非戦闘員も呼べる。人を多く呼ぶために、私が最適だと思ったダンジョンが、図書館なのよ」
俺はこれを聞いてはっとした。
ミランは決してふざけて作っていた訳ではなかったのだ。このダンジョンのことを真剣に考えた結果、この常識とは離れたダンジョンに落ち着いた……
その考えに至ったとき、俺の口から出たのは謝罪の言葉だった。
「…………ごめんなさい、マスター!」
「………え?」
ミランはポカンとしているが、これは謝らないと。
常識的とは言えないが、これだけ、しっかり考えてダンジョンを作っていたマスターに、随分と失礼な発言をしてしまった。元々コアはマスターの方針に従わなきゃいけないというのに。
「えっと……何に対して、なのかな?」
「マスターの方針を否定してしまったことに」
本来コアとしては絶対にしてはいけないことだ。転生したてのマスター相手だったから、俺の方が上にいる気分でいたらしい。大反省だ。
「………そんなの、別にいいのに」
「マスター、でも……」
「気にしないで。納得したならいいの。あとマスターじゃなくて名前で呼んで」
「………わかった、ミラン。ダンジョンのことは、ミランに頼むよ」
俺はこの時から、ミランを心から信頼するようになった。
ミランに、このマスターに任せれば、このダンジョンは大丈夫だと思ったから。
ダンジョンの役割を果たそうと真剣な凄いマスターという評価は、長続きしなかったが。
◇◆◇◆◇
建前を並べて、クー君からダンジョンを図書館にする許可を勝ち取った。
なんか崇拝? するような目を向けてくるようになったけど……
まぁ建前とは言っても、そう考えてるのは嘘じゃないし、いいよね。
本音?
ただ自分で図書館作って、本に囲まれて暮らしたかっただけです。
「じゃあミラン、ダンジョンを開放するぞ! 開放後は、いつ侵入者が来るかわからない。コボルトナイトは、ちゃんとコアを守れよ!」
「グルっ」
了解! と言うように鳴いた、今までホーンラビットとともに部屋の隅で大人しくしていたコボルトナイトは、二足歩行の犬そのままだ。鳴き声は狼っぽい? ナイトだからか、元から鎧を着て、剣と盾を持っている。
……名前つけようかな。ホーンラビットも。
「じゃあコボルトナイトはコル、ホーンラビットはラビね」
「グル?」
「名前よ。よろしくね、コル」
「………誰でも思い付きそうな名前だな」
うるさいなぁ。覚えやすくていいじゃん。
「グルッ!」
「チチュッ」
「ラビもよろしく」
「チュッ!」
ラビはネズミのような鳴き声だ。姿は角が生えている以外は普通のウサギである。可愛い。
「じゃあ、開放しよう。クー君」
「おう! ダンジョン、開放っ」
クー君の言葉と同時に、コア本体が一瞬光った。
「これでダンジョンの出入りが可能になったぞ。マスターやモンスターも……侵入者も」
ここから、私のダンジョンマスターとしての生活が始まる。