ダンジョンマスターに転生
「お? 起きたか?」
目を開けると、そこには赤い髪の少年がいた。先程とは違う人物だ。
「えっと……あなたは?」
「俺はダンジョンコアNo.9だ。よろしくな、マスター」
「マスター? コア……あ」
そうだ、確かあの自称神に転生させられたんだ。ダンジョンマスターに。
「うええ!? マジでダンジョンマスターなの!?」
「はぁ? アイツから聞いてきたんじゃないのか?」
「アイツ?」
「神のことだ。会わなかったか?」
ああ! あの適当な神ね!
てか、神をアイツ呼ばわり……まぁあんなのじゃ、しょうがないか。
「なんか、『ダンジョンマスターに転生させるから、ダンジョン作ればオーケーだ。詳しくは相方のコアに聞け。じゃ、頼んだぞー』とか言ってたけど」
「説明俺に丸投げしたのかよアイツ!」
「そうね。だから詳しい話は何も聞いてないの。えっと、ここってダンジョンなの?」
「ああ……まだ未解放だけど一応ダンジョンだ」
「未解放?」
「ああ、もう……とりあえず、本来アイツが転生前に説明するはずだった内容、順番に話すから」
私は彼からの説明を黙って聞くことにした。
この世界に存在するものは、「魔素」という物質を空気中に放出している。それは植物、動物、人間等生物でも、生物でなくてもだ。
魔力を持つものに限られているが、この世界では基本的に全ての生物、さらに水や鉱物等にも魔力が含まれている。魔素の放出は基本的に世界中で行われているのだ。
この「魔素」だが、溜まりすぎると「魔石」という魔素の塊が出来、これは「モンスター」という生物が発生する元となってしまう。
モンスターは人々を襲う有害な生物であり、倒せば貴重な素材や利用価値のある魔石を得られる。しかし、増えすぎれば世界の存続すら危うくなる。
そこで、神が「コア」を作成した。
コアは、魔素を吸収し変換する為の道具だ。これを魔素の多い地域に設置し、そこを領することで、魔素を吸収しモンスターの発生を抑えることが出来る。
そこで、コアを設置した地点を中心としたコアの領域に「ダンジョン」という魔素吸収施設を作成することにした。
施設の作成に使うのは、コアが吸収した魔素。これでダンジョンを発展させ、人々を中に呼び込む。
すると、本来なら空気中に放出される魔素をコアが直接吸収出来る。
こうして空気中の魔素を減らし、世界的なモンスターの大量発生を抑えるということだ。
その際、コアが吸収した魔素を使用し、ダンジョンの管理、発展を担当する存在が必要だった。
よって、知性ある生物を選び、コアの所有者として登録させることに。その登録者こそが「ダンジョンマスター」である。
「で、あんたが俺の登録者で、このダンジョンのマスターってことだ。」
「………じゃあ、ダンジョン…コアの領域を大きくして、人々を呼び込んで、出来るだけ多くの魔素を集めればいいの?」
「そういうことだな」
ひとまず、ダンジョンマスターだのコアだの、あの自称神が言ってたことが判明した。
「てか、転生前に説明してほしかったんだけどそれ」
「しょうがないな……アイツだし、どうせ説明なんてしてる暇あったら、彼女といちゃいちゃするか、自分の創った世界に遊びに行くかするだろうな」
え、なにそれ。あの神リア充なの?
それに遊びに行くとか……
「仕事してないの? あの神」
「いや、してる……はずだ。少なくとも最低限は」
「…………まぁいいわ」
あの神のことは置いておこう。
「それよりダンジョン作るんじゃないの?」
「ああ、じゃあダンジョンの作り方な」
よろしく。
「まず、コア本体に触れてる間じゃないと出来ない。これ持って、メニューって言うんだ」
差し出されたのは楕円形? の大きめの石だった。言われた通りに抱えるが、重さを感じなかった。
「メニュー……わ、なにこれ」
目の前に半透明の板が現れた。
書いてあったのは
・データ
・マップ
・カタログ
の三つだった。
データには、魔素を数値化して置き換えたものであるDPやモンスター、アイテム等所有しているものが表示される。
マップではダンジョンの構造と、モンスターやトラップ、アイテム等設置したものや侵入者の位置を確認することが出来る。
カタログは、DPで交換出来るものの一覧表で、DPの残高はここにも表示される。
「……と、まぁメニューの説明はこんなところだ。とりあえずカタログを開け。タッチでも目線でも開ける」
開いてみると、新たな画面が出てきた。迷宮、モンスター、アイテム、とざっくり分かれている。
DP残高は900DPか。
「えっと、まず迷宮かな? っと……外観は0DP?」
ダンジョンっぽい洞窟にも、塔やお屋敷といった建物にも出来るらしい。
「それは未解放サービスだ」
「未解放?」
「まだ誰も入ってこれない状態のことだな。次から外観を変えるときは結構DPかかるから、よく考えて選べよ? まずはどんなダンジョン作るか、方針を考えた方がいい」
「方針ね……」
ダンジョンといえば洞窟?
でも、建物型の方が色々選べそうだし……
「なんか、コンセプト? を決めるといいらしいぞ。どんなダンジョンにするかはマスターの自由だが、コアを守る戦力は用意しろよ! コアを壊されたら、俺もマスターも死ぬから」
「え!?」
ちょっと、初耳なんですけど。それ、滅茶苦茶重要な情報だよね!?
……となると、もっと色々聞かなきゃダメか?
「うーん……他にはない? 戦力は必須とか、そういう系のアドバイス」
どんなダンジョンにするにしても、外せない要素があるなら守らなきゃ命に関わるし。
「そうだな……出来るだけ人が集まるように工夫がいるとか。倒されるの前提の弱いモンスターを用意して、魔石や素材を提供したり、アイテム入れた宝箱を置いたり」
そっか。コアを守る強いモンスターだけじゃ、人は来ない。人を呼ぶための餌が必要なのね。
「あと、コアを置く台座は絶対交換してくれ! とりあえず一番安い石の台座でいいから」
石の台座……20DPね。
「そういえば、なんで残高、900DPなの?」
なんか、中途半端よね。普通は1000DPとかじゃないの?
「ああ、それは準備用に支給されたDPだな。1000DPなんだけど、部屋(小)の分100DPが最初から引かれてる」
ああ、今私達がいるこの部屋の分が引かれてるのね。一部屋分ぐらい、おまけしてくれてもいいのに。
「でも、これで小さいの?結構広さあるけど」
「そりゃ、ダンジョンだから戦闘とかをある程度想定してあるんだよ」
ああ、なるほど。
「まぁ、後は自由にやって大丈夫、だな」
自由に、ねぇ……
カタログを眺めながら考える。
「ねぇ、私ダンジョン内に住むの?」
「うん。あ、でもマスターもコアも食事睡眠不要で歳もとらないから問題ないぞ。まぁ部屋増やして一番奥で生活、かな?」
ダンジョンの最奥は「コアルーム」という、ダンジョンの最後の砦兼マスターとコアの私室にするのが普通らしい。
「……食事睡眠不要なら、本を読む時間もとれそう? でも本てあるのかな………」
「本? 確かカタログにあったはずだが……魔道書は最低5000DPだぞ?魔法覚えるのは後回しだな」
………魔法?
「ねぇ、魔法って? 魔法、私でも使えるの?」
「お、おう。簡単な魔法なら魔道書を読めば誰でも覚えられる。読むのに魔力が必要だけどな」
「魔力?」
「ああ。魔力は誰にでもあるから大丈夫だ。ただ、量には個人差があって、魔力が多くないと、難しくて強力な魔法は覚えられないんだ。魔法が難しいほど魔道書を読むときに必要な魔力が増える」
魔道書とは、魔法を使う為に必要な知識が詰まった本だ。覚えるのに魔力が足りる状態で読めば、誰でも覚えられる。
しかし、一流の魔法使いにしか作れず、非常に高価だという。しかも魔道書一冊で覚えられる魔法は一つだけ。威力が高ければ値段も高くなる。そして魔力的な負担も大きい。魔法を複数使える魔法使いになるのは、お金と魔力がかかるのだ。
DPカタログの魔道書も最低5000~と高く、万単位のものも多い。
「だから、使えるのはもっと先だな。ランダム取り寄せの本でも可能性はあるらしいが、ほぼないだろうし」
……ランダム取り寄せの本?
見てみると、カタログには確かに、こう載っていた。
本:10DP
「決めたっ!」
「うおっ!? 何だマスター、急に……何を?」
「コア君、マスターじゃなくて名前で読んでくれない?」
「………聞いてないんだけど。あとコア君て、コアあと八つあるんだけど」
コアって九個あるの? あ、No.9って言ってたっけ……
「じゃ、No.9だからクー君ね」
「………まぁいいや。マスターは?」
「ああ、私は葉月美蘭。美蘭が名前ね。どんなダンジョンにするか決めたから、楽しみにしてて」
絶対に理想のダンジョン、完成させる!