師弟
アリエスは、刀をゴルフクラブと一緒にキャディバッグに詰め込んだ。
この世界は、剣も一本に数えられるらしい
ゴルフクラブはパタークラブ含めて合計14本まで。
そのルールや、基本的なルールは異世界でも変わらない。
どうやら元いた世界から異世界にMASA経由で伝えられたらしい。
意外と知られていないが、ラウンド中の使用するクラブの総本数が14本を超えなければ途中で補充する事は認められているのである。
アリエスの場合は、刀を入れても8本のクラブセットなので問題はなかった。
(1W、3W、7I、9I、AW、SW、パター、それに刀か)
内容を確認して、一通りの種類があることに安堵した
(クラブは多くても使いこなせるとは限らないからな。扱いやすい奇数番手のクラブを中心に本数を減らしてキャディバックの重量を軽くして移動の負担を下げるのは悪くない)
「よくわかんないけど、どういうこと?」
(このクラブセッティングしたヤツはかなりできるってこと)
「なんかお父さんほめられたみたいで嬉しいかもっ!」
(あんまり遅いのもマナー違反だぞ。とりあえずハーフスイングでしっかりボールを捉えてコースに戻そうか)
「私の方がアイツより飛んでないのにそんな消極的でいいの?」
狸人に目を向けてアリエスが心配そうに聞いてきた。
(周りに小石が見えるほど荒れてるのにフルスイングはないな。足下が不安定の状態でボールをクリーンに打つ技術がいる。それならばキッチリとボールを捉えられるようにここはハーフスイング。ちゃんと打てる場所から次の一打で巻き返す)
OBギリギリの場所は、基本的に地面が荒れていたり傾斜になっているケースが多い
ここも例に漏れていなかった。
「ししょー!わかりましたっ!」
そう言ってアリエスが指示通りにボールを打った。
ふわっとした弧を描き、フェアウェイ中央を捉えた。
(ナイスショット!素直にいい球だな)
迷いのないハーフスイングだった。
出会ったばかりの見ず知らずの他人なのに信じて打てるのは普通できない。
「ありがとうっ。けど、ししょーのおかげだよ。さ、次いこっ」
馬鹿正直に素直
アリエスの事が少しわかった気がした。
(まて、師匠はやめろ。ほんの少し詳しいだけだから。普通にカズキでいい)
元の世界で嗜み程度だったのに師匠と言われるのは違和感があった。
(オレはそんなにすごくないんだよ…)
そんな心の声も、アリエスには届いてしまう。
「カズキはすごいよ!私、あんな球打ったの初めてだもん」
ハーフスイングは、コースに出て打つ機会は少ない。いや、語弊がある。あえて打つ勇気を持つ者が少ないのだ。少しでもカップに近づけたい。その一心でプレイしているとフルスイングしか出来なくなるのだ。
だから
(迷いなく打てたアリエスがすごいんだよ…)
誇張でもない本心。彼女となら…
アリエスが顔を真っ赤にして歩き出してしまった。
(あー、心の声がダダ漏れなんだった…。ごめんっ!)
何故か咄嗟に謝る
「カズキっ!あと5ホール、20打差だけど勝とうね!」
(ちょっとまてーーー!!)
「ふふ〜んっ♪」
鼻歌を奏でながらアリエスは歩く
カズキの叫びを無視して、カズキを信じて