よよいのよい
男は高みから、聴衆に向かって叫ぶ。
「既存のシステムはぶっ壊さなければならない!」
社会の閉塞感に風穴を開けようという趣旨。
「利権は許さない。癒着は絶つ。ゼッタイだ」
それは、過去にも類型があった。が、
「古びた、カビの生えた連中の頭など替えてやる。取り除く」
男の熱意はほとばしる。やがて、周囲は巻き込まれるようにざわめき立った。読み取ったのか、男もさらにボルテージを上げ、右拳を固める。
「ダメなヤツらはアウトだ。アウト、アウト!」
「アウト、アウト、アウト!」
「「アウト、アウト、アウト!!!」」
コールアンドレスポンス。男は乗りながら乗せて、乗っていく。
「「アウト、アウト、アウト!!!」」
ひとしきり手を振った後、男は壇上から降りた。秘書が駆け寄ってくる。声は張ったためか、かすれ気味。
「お疲れ様でした。演説は見事と言う他ありません」
「ま、まあまあの出来かな。でも、いい感触だった。支持はさらに増えるだろうよ」
「情勢はこちらに傾いています。おそらく我が党が勝つでしょう」
秘書はどんな時でも冷静に情報を伝達する。それが大事な役割。
「ですので、テキは作り過ぎない方が。今後の運営に支障が出るか、と」
「いやぁ、攻めの姿勢は変えない。このアピールこそが、今回の選挙にとって重要なファクターだからね」
「ですが、その叩いてるソーリこそがセーフの中心なのですが」
「それは悟らせないさ」
あっけらかんと言い放った。
それでよいのか。まあ、よいか。秘書は思案した。あと一週間は合わせておく。調整は裏で、難しくはなるが、
「負ければ、アウトだからな」
次に向けて、秘書はスタッフを集め、音頭を取った。