理事長と二人の生徒会長と私 そして流血沙汰?
昇降口に上がると、既に私が碓氷生徒会長を一喝した話が伝わっていたらしく、なんだか騒がしい。どうやら人の恋路を邪魔する無粋者と言う、新しい称号もついたらしい。もう、朝から気分悪い。一限の授業はフケよう。うん、今決めた。
しかし、上履きを履く前に全校放送がかかる。
『三年A組の碓氷峠君、二年C組の石城茂君、理事長室に直ちに来なさい。もう一度連絡します。……』
全く気が進まないが、やむを得ない。理事長室に行くか。
私が理事長室に来たとき、室内には既に私の祖母で理事長の石城千鶴と、碓氷峠、更には御殿場雫の三人がいた。碓氷は相変わらず変な着こなしだ。私は普段着は適当で、まるで戦後直後の傷病兵のようだと言われるが制服の着こなしは、船乗りだった母方の祖父に影響されて、ピシッとした着こなしにこだわっている。そんな私にはいくら生徒会長で、秀才であろうと、変な着こなしは許せない。それはともかく、私は校帽を脱ぎ、右脇に抱えて直立不動の姿勢をとる。
「二年C組石城茂、出頭致しました。」
と言うと、理事長はこちらに振り向き、まずいまどのような噂が教員のあいだに流れているかということを言った。どうやら私が御殿場雫にいかがわしい目的で話し掛けようとしたが、碓氷峠が私を遮ったので、私が碓氷に暴言を吐いたと云う内容だった。
なんだ、いかがわしい目的って。私は衆人監視の中そんな羞恥プレイ、出来ん。そんな趣味無いもん。しかし私が口を開く前に碓氷がそれを肯定する。間を置かずに御殿場も肯定した。そして理事長は頷くと、私に一週間の自宅謹慎を言い渡すとともに、二人の生徒会長に退出するよう言った。全く不愉快極まりない。何で私が自宅謹慎なんだ。しかもまだ退出させてくれないし。
二人の生徒会長が退出し、暫くしてから理事長は私に、何故今朝のような事をしたかを問うが、正直解らん。しかも尾鰭がついている。
「しらんよ。私は。」
すると理事長は
「解ってる。やってないのは。でもね、ただでさえ贔屓扱いされている貴方がここで無罪放免になったら余計に立場が悪くなる。だから処分したの。」
「私は納得致しません。」つい語気が強まる。理事長は穏やかに答える。
「今は納得しなくていい。だから落ち着きなさい。」
私は何をすれば良いのか解らないまま理事長室から出された。理不尽だ。しかも何故か鋼洗女子高校校内地図を渡され、第八倉庫に行けと言われた。一体いくつ倉庫が有るんだ…。
鋼洗の教員や生徒に見つからないように、拾った段ボールを被って第八倉庫に向かう。段ボールは戦士の必需品だ。
第八倉庫は戦前の和洋折衷のモダンな建物で、倉庫には見えない。鍵の無い扉をあけ、入ると、何年間もの間、使われていなかったのか濛々と埃が舞う。奥にはくすんだ鏡が有った。腐った机の残骸とか、棚の幽霊見たいな遺物とかはもはや目に映らなかった。私はふらふらと鏡に近寄って行った。その鏡はまるで血潮が飛び散った跡が有った。そういえば母が昔、鋼洗女子高校の七不思議の一つ、血染めの鏡について教えてくれた事が有った。その鏡に自分の血を垂らすと、初代生徒会長に呪われると。
だからどうした。私にそんな趣味はない。何か他に無いか探してみる。暫く探すと、やたら新しいノートが出て来た。開いて見ると……見なけりゃ良かった。御殿場雫について書いた詩が何ページにも渡って書かれていた。多分女子が書いたのだろうそれは。百合?腐ってやがる。早過ぎたんだ。その時、後ろから生暖かい風が吹き込んできた。おかしい。窓は閉まっていた筈だ。
それは怒涛の如くやって来た。そして私の背中に裁ちバサミを突き刺し、ノートを引ったくると叫んだ。清船の男子が居ると。叫びたいのは私だ。いきなり裁ちバサミで刺されたのだから。そいつは裁ちバサミを抜くとふたたび私に刺した。血が派手に飛び散り、そして私の意識は急速に失われて行った。