そこにいたアンコウの心温まる恋愛譚
私事ですが、アンコウ鍋は好きですか?作者はまあまあ好きです。でも鍋なら、シンプルな鱈が一番好きです。
「うおー!浅いなここ!陸はそろそろか!?」
イオちゃんがずんずん進みながら言うので、わたしは少し遅れたばしょから返事をしました。
「まだまだですよー、ここは少しだけ浅いだけです。置いてかないでくださいー」
ちぇー、なんだよ!と前から声が聞こえ、イオちゃんは止まってくれました。そこに向かってゆっくりゆっくりと、わたしは進んで行きます。
「なあ、あれなんだ?」
やっと追いついたわたしをしりめに、イオちゃんはめせんで指差しながらわたしに話しかけてきました。そのめせんの先には、小さな小さなお魚さんが一匹、いっしょうけんめい泳いでいました。
「追っかけてみよーぜ!」
「えー・・・」
わたしがはんろんする前に、イオちゃんはわたしをおいてそのお魚さんの方に行ってしまいました。幸いお魚さんはとってものろまだったので、わたしでもなんとか追いつくことができました。
「あ、あなたアンコウさんですね」
「アンコウ?ってあのアンコウか!?ちっちぇーな!子どもか?」
「いえ、オスですね」
「オス!?」
まるで小がくせいのように驚くイオちゃんに、私はせんせいになって教えてあげます。
「大きめのアンコウのほとんどはメスです。アンコウのオスはからだのほとんどが子どもを生むためのきかんでできているんです」
「それでどうやって生きていくんだよ!」
「あなたはなんねん深海で生きてきたのです?生き延びるためにはいろいろな生き方があるんですよ」
「そうなのかアンコウ」
アンコウさんに話しかけましたが、イオちゃんの言葉には全くはんのうしません。
「彼には感情なんて無いに等しいんですよ」
「じゃあどこに向かって泳いでるんだ?」
「追いかけてみましょうか」
わたしのていあんにイオちゃんは快くしょうだくしてくれました。必死におよぐアンコウさんをみていると、やっぱり生きるのは大変だなあと実感します。
「ん?あれ何だ?」
「どうやらあれもアンコウさんのようです。しかもメスの」
泳いだ先にはイオちゃんぐらいの大きなアンコウさんがいました。大きなアンコウさんは、わたしたちを見るなり、けっこうきさくに話しかけてきました。
「あら?ダイオウグソクムシにセンジュナマコじゃない。こんな浅瀬に来るなんて珍しいわねぇ」
「オスのアンコウさんを見つけたので、おいかけてきたんです」
「あら、そうなの。で、そのアンコウは?」
「お、アンコウがアンコウに噛み付いたぞ!」
「あら、もうくっ付いたのねぇ」
わたしたちが会話をしているあいだに、オスのアンコウさんはメスのアンコウさんのお腹あたりにかみつきました。アンコウさんたちからすれば、これが子孫はんえいの方法なんです。
「あれ、オスのアンコウ動かなくなったぞ」
「オスのアンコウはメスのアンコウに噛み付くと、そのままメスのアンコウの一部になっていくのです。そうすることでこどもをふやすんです。わかりましたか?」
「ってことは、オスのアンコウは死んじゃうのか?」
「さぁ・・・陸にはこうびの後にオスをたべてしまうカマキリという動物がいますが、それとは違いますからね・・・」
イオちゃんからの質問にわたしがなやんでいると、かわりにメスのアンコウさんがこたえてくれました。
「たぶん、生きてるわよ」
「多分てなんだよ」
「このオスも、私に噛み付くことで私と一体化したのよ。この時すでに、わたしとこのオスはひとつのアンコウなのよ。二匹じゃなくて、一匹のね」
「なるほど、そういう考えかたもあるんですね、勉強になりました」
「うん。私も元気な子供産めるようにがんばるわ」
わたしたちは陸をめざして再びすすみはじめました。アンコウさんとのおはなしは、とてもいい経験でした。
「じゃーな!オスも元気に産んでくれよー!」
「当然よ〜!」
私たちの深海の旅は、まだ始まったばかりです。
こんな感じで続けて行こうと思います。