この世界を脱出するんだ
私はこの世界が嫌いだ。
暗くて、じめじめしている。
ご飯も食べられない時はないけれど、いつも隅の方で食べる。
たまには広い、気持ちの良い所で食べて見たいな。
でも外の世界は怖い。
昨日も友達が
「明るい世界へ行ってみるよ! 」
と出ていったきり戻ってこなかった。
僕の住む世界は洞窟だ。狭くて左右の壁はとても高い。
といっても、登れないわけじゃないんだ。
つるつるに見えても、小さなでこぼこがある。そこに手足をかければ簡単なのさ。
【ぐ~っ】
お腹が鳴った。お腹減ったなぁ。
なんか美味しそうな匂いがしてきた。
ふらふらと、匂いのする方向へ歩いて行く。
≪おい!ぼうずっ!何処へ行く? ≫
長老が僕を呼びとめた。
「なんか、美味しそうな匂いがするよ。
行ってみるんだ。」
≪だめだ!行ったら戻ってこれんぞ!
これは魔族のまやかしの匂いだ。≫
「そうして分かるのさ? 行ったことあるの? 」
≪あるとも。この足を見よ。この足はまやかしの匂いに釣られて行った時のことだ。≫
そう言って、長老は話しはじめた。
≪あれは、まだ儂が若いころじゃった。その時もこの良いにおいがしてな。村の大人
衆と匂いのする方へ出向いたのだ。狭い道を抜け、切り立った崖を、命がけで降り
てな。やがて小さな屋敷が見えた。どうやら、そこから匂いがする。
我らは、そっとその屋敷に入って行った。
ところがじゃ。そこはどろどろの沼じゃった。沼の上に屋敷が建っていたんじゃ。
まず一人の大人衆が沼の餌食になった。その大人衆は抜けだそうと必死にもがいた
さ。でも、逃れることはなかった。儂もな、その時大人衆の背におぶさっておって
な。片足だけ沼にとられたのよ。もがいてもがいて、足がちぎれるほどもがいて、
やっと生きて帰ったのじゃ。≫
これが長老の話だ。
はじめは、この話が怖かった。とてもリアルだし、長老の足はないし。
「ねえ、魔族ってどんなやつなの?」
僕は聞いてみた。
≪魔族はとてもでかい。この村に棲む我らが、すべて合わさったとて、魔族の大きさ
の半分にもなりゃせん。その分、動きは鈍いがな。でもな、奴らは暗い所では思う
ように動けんらしい。
それに大きいくせに武器も持っておる。儂が見た時は、村の若いものを大きなこん
棒で殴り、その若者は命を亡くしたのじゃ。≫
【ぶるぶるっっ】
僕は怖くて身震いした。
あれから、月日がたった。僕は立派な青年になった。天変地異か、この世界は急激に
冷え込み、村の衆も大勢死んでいった。洞窟の向こうに暖かそうな光が見える。
あの時、聞いた長老の話は本当だったのだろうか? ひょっとしたら、この世界を出
ていこうとした僕を、危険があるからと戒めただけなのではないか? 最近、そう思
うようになった。
よし、明日に旅に出て見よう。いい所であったなら村の衆を呼びに来よう。
次の日、僕は長い洞窟を抜けて、明るい世界へ飛び出した。
「きゃあ~!ゴキブリ~!」
魔族が叫んだ! 魔族はいたんだ!
【べしっ】
僕は自分の体が、魔族に潰されるのを感じた。意識がなくなっていく…。
長老の言う事を聞いていればよかった…。
END




