太陽系外へ~ビヨンド・ザ・ソーラー・システムシリーズ~その2
ヘンリー・ヤコブの遺伝子を受け継ぐ人工授精ギリシア人クリス・サマラスは量子コンピューターハンナによって創造された。彼は同士を集め、SⅬE共同体をさらに発展させて火星に全てのSⅬEを移動させ、火星政府を樹立して火星政府初代大統領に就任した。一方地球ではスペイン人ホセ・ノーメンが現れて世界連邦10代大統領に就任していたが、カリスマ性を発揮して地球を統一してテラ帝国を建国し、ノーメン朝初代皇帝になった。
クリス・サマラス ギリシア人 火星政府初代大統領
リン・ジーミン 台湾人 大総統府初代副大統領
エメリッヒ・アードラー ドイツ人 科学省長官
鷹野希 日本人 言語文化食料開発省長官
ティム・アンドロス スイス人 恒星間航行開発局員長官
シャルル・アンドレアニリナ ОEF代表
地球帝国
ホセ・ノーメン スペイン人 世界連邦10代大統領 テラ帝国初代皇帝
アンソニー・デ・リーゾ 世界連邦10代副大統領
アンソニーオ・ロドリゲス ポルトガル人 ホセ・ノーメンのライバル
アリシャ・ファティマ パキスタン人 秘書長
1
ヘンリー・ヤコブが次の世界に移行した翌年2314年、クリス・サマラスは誕生した。ヘンリーによって選別されたSⅬEは大小のサイズはあるが、すでに12体ほどが地球の軌道上にあった。平均するとそれぞれ1万人程度の選別者たちがいた。そして彼らとは別に、少し離れた場所にもうひとつ、一切の通信機能もないSⅬEもあった。
そして2334年、クリス20歳の時に人類が激動の時代に突入していった。1945年以降400年近く存続していた国際連合が遂にその役割を終えたのだ。存在自体はもうすでに機能してはいなかったのだが、アカデミックなどの細かい部署でのみ存在しているだけだった。この時点では名称を変えていて『世界連邦』となっていた。
崩壊の予兆はSⅬEが完全に揃った2317年にはすでにあった。この年はSⅬE初年度とされていて、彼らの結束は強く、SⅬE連合を作って相互交流をよく行っていた。彼らは独自の採掘船を持ち、小惑星帯などから鉱物資源などを手に入れていた。そしてSⅬE内部でも農作物の栽培が可能になり、地球から無菌肉を持ち込んで自給自足がほぼできるまでになっていた。
ところが、SⅬE入植者に選ばれなかった地球人類たちは、地球上ですさまじい抗争を始めていた。SⅬE住人たちは、その他にもこれまでの人類では考えられないくらい理性的にあらゆることをこなすことができていたのだが、残された地球人類は理性的ではない状態になってしまっていた。すでに国という概念はなくなっていて、各民族、宗教、言語その他の要因で分断が進んでいた。無意味な紛争が地球規模で頻発して、国所有だったSⅬEはやむなく独立せざるを得ない状況になっていた。
それぞれのSⅬE自治政府は地球上での無秩序状態を鑑みて、一旦地球から距離を置いた方が賢明であるという結論に至った。そしてSⅬE連合から名称を変更して『ОEF(地球外連合)』を結成した。宇宙開発財団の後押しもあってのことだったが、それに激しく反応したのが地球人類だった。
イベリア半島は他民族国家だったので、抗争は激しかった。それを武力統一したのが、バスク地方出身のホセ・ノーメン率いる『ヌエストラ・ティエラ(我らの地球)』だった。名称からわかるように、彼らは当初から地球統一を目指していた。ホセのカリスマは相当に強く、彼らはホセを『皇帝』と呼んでいた。
このような状態の地球をよそに、若いクリス・サマラスはSⅬE「スぺス・ノストラ」内にあるОEFの事務局で働いていた。クリスは事務局長でもあった。スぺス・ノストラとは「我らの希望」という意味のラテン語である。地球との関係が悪化し始めた頃に、宇宙開発財団の資金でОEFが建造した最新式のSⅬEである。
地球とは異なり、至って平穏で粛々と事務作業をこなす事務局は、ある意味クリスにとっては楽で楽しい仕事だった。ギリシア人の父母の元に生まれたクリスは、そもそも変わった子だった。大人しいのに妙に行動力があり、いつの間にかクリスは同世代たちのリーダーっぽくなっていた。
事務局仕事の休憩時間に、同じ部署の友人リン・ジーミンが話しかけてきた。台湾人であり、クリスが最も信頼する友人でもあった。
「クリス、聞いたか?ホセ・ノーメンがまた征服したそうだぜ。地球ではナポレオンの再来とか言われていてさ、もうすでにヨーロッパを押えているらしい。」
「聞いたよ。なんか、大した奴だよな。」
「そんな悠長な状態じゃないぜ。この間インタビューされててさ、俺たちも統合するそうだ。」
「まあなあ。面倒くさくならなきゃいいけどな。」
彼らの標準語は、いつの間にかラテン語になっていた。メインコンピュータ―『イブ』の言語がラテン語に設定してあったので、そうなるのは必然的ではあった。SNS内ではシンプルな食べ方が主流で、彼らが食べているのは、将来を見越して天然肉と合成肉を合わせたハンバーガーだった。このこともクリスがОEFに提言して開発しているものだ。
「・・・段々美味くなってきてるよな、この肉。いずれは完全合成もできなきゃいかんが。」
「お前が提言した時、上の連中の顔色が変わっただろ。みんな薄々気がついてはいるんだが、やっぱりそうなるのか?」
「じゃあ逆に訊く。リンはどう思う?悠長なことではないし、征服者が仕事を完了したとしても次のターゲットを探すことは明らかだ。それに、彼らとは交渉も何もできやしない。いちいち感情的になってくるようではな。」
「戦争になるかどうかはわからんが、分断は避け・・・。」
「間違いなく戦争になる。そのためにあれこれ準備しておかなきゃな。」
「だけど、俺たちには軍隊はないぜ。」
「戦争には・・・軍隊はもう不要になってくるさ。」
「どういうことだ?」
「代理戦争・・・無人戦争とも言うかな。つまり開発中の疑似集団意識が完成すれば、でかくて標的になりやすい戦艦なんかはいらなくなる。我々の頭脳とイブがうまく合体できるようにしないと・・・あ、忘れてた。」
「どうした?」
「そのイブに呼ばれていたんだ。IFPのバージョンアップの件でね。じゃあ行ってくる。」
「そうか、じゃあイブによろしく・・・え?お前、イブと話してんのか?なんで?」
「言ってなかったか?前から友だちだよ。」
「えー!お、おま、ちょっとそれ・・・おい!」
リンが驚くのも無理はない。ОEFではイブは神扱いされていた。イブは絶対にこちらからの問いかけには応じないし、そもそもどこにあるのかすら明確ではないのだ。必要な時に必要なことを一方的に発するだけだ。クリスはスぺス・ノストラの事務局を出て、パークに入っていった。ここは市民は誰でも自由に利用できる公園だ。だがクリスが向かったのは、パーク内にある管理棟だった。事務局員なので自由に入ることができる。
管理棟に入ると、クリスは管理棟内にいる管理人たちと会話した。ごく普通の挨拶程度の会話なのだが、その時に異常発見コールが鳴った。管理人は異常箇所に向かっていき、クリスは管理棟の中の壁の前に立った。すると、クリスが立っていた床が円形に割れ、下降し始めた。およそ5Ⅿほど下ると、そこは広い部屋があり、正面に大きな機械があった。周囲には何もない。
「イブ、お呼びですか?」
『ああ、クリス、よく来ましたね。』
中年くらいの女性の声が聞こえてきた。すると中年でおだやかな表情の女性の姿がモニターに浮かび上がった。ちょっと前のファッションの服を着ていた。
「そりゃ来るでしょ。だって私の中にはあなたの夫ヘンリーの遺伝子が組み込まれている。言ってみればあなたは私の妻だし。」
『それを伝えた時、あなたは全く驚かなかった。ヘンリーの言った通りだったわ。』
「まあねえ。私の母がヘンリーの姪だったし、組みこみやすかったんでしょう。驚いたり悲しんだりする前に、すごくしっくり来たことは今でも覚えている。」
ヘンリーは自分の妹がギリシアにいるので、わざわざギリシアに行って会っていた。そのたびに少しずつ自身の遺伝子を組み込んでいった。そして彼らをSⅬE移民に入れるように手配していた。
『そうね。でもそれだけではないのよ。ヘンリーは、あなたのお父さんのこともよく研究していてね、近い将来にあなたがリーダーとなるように設定していたの。』
「へえ、そうなんだ。それは地球とのことかな。」
『さすがね。もう間もなく、地球のヌエストラ・ティエラは本当の意味で帝国化していくわ。そうなると次は間違いなくSⅬEね。』
「その準備しなくちゃね。そのためにIFPをバージョンアップしないと。まだまだ我々は意思統一できていない。不要な感情だけを排除することは可能なのかい?」
『残念だけど、それは難しいわね。あなたたちは理性が強い人たちだし、そもそも感情を抜きにできる。でも、来るべき際には必要よね。』
「帝国化が完了するまでどれくらい必要?」
『おそらく、10年くらいね。地球に残った人たちは感情が先に出る。彼らはより強いものを求めていくし、潜在的にあなたたちを恐れている。だから、なすべきことは地球から去ること。新しく移民先を見つけることね。でもそれには10年ではとても無理。だから、ひとまず火星に政府を作ることよ。それでも戦争は避けられないけど。』
「そうか。当然、一旦は負けるんだろう?時間稼ぎするためでもあるし。」
『その通りよ。それでは、早急にIFPのバージョンアップを行いましょう。そしてあなたはОEFの指導者にならなければならない。いい?』
「問題ないよ。」
2
太って体格いいホセ・ノーメンは会議を終え、葉巻に火をつけた。葉巻とは言っても、オールドファッションスタイルの水蒸気版だ。香りもいい。水蒸気を吹き出して、ホセは非常に不機嫌そうに叫んだ。
「どうしてだ!なぜあそこは反発しかせんのだ!」
目の前のモニターには世界連邦10代副大統領アンソニー・デ・リーゾの細長い顔が映っていた。ホセの激高には慣れていたので、何事もないように返事をした。
『それは最初からわかっていたことです、アジアが難しいことは。なにせ中国とインドがデンとあるわけですし。とりあえずヨーロッパと地球海沿岸は抑えています。焦ってはいけませんよ。』
「やかましい!理屈じゃないんだ!俺の言う事を聴かんことが腹立っているんだ!」
世界連邦10代大統領であり、かつヌエストラ・ティエラ初代総統ホセ・ノーメンはとにかく怒りっぽかった。一日に何回怒り狂うのか、側近ですら呆れるほどだ。このカリスマは対外的には尊大で温厚なイメージであり、かつてのローマ帝国版図規模の民をまとめ上げていた。
『大統領はカリスマがおありになる。いつものようにお振舞いになっておられれば、私たちでどうにかいたします。』
「なあアンソニー・・・アンソニーオの奴がちょこちょこやらかしよるじゃないか。俺はそれにも苛立っておるんだ。あいつはどうにかならんのか?」
『南米連合ですな。あれは、ただただ大統領の座を狙っているだけではないかと思われます。』
「思われますじゃない!このままでは世界連邦が崩壊してしまうじゃないか!それでは困る!ただでさえ、あの忌々しいSⅬE連合が地球から離脱しようとしている。あいつらは地球以外にたんまり資源を持っている。あの資源は何としても死守せねばならん。それなのにあのアンソニーオの野郎が!」
『世界連邦・・・大統領、もはや不要では?』
「なんだと?どういう意味だ?」
『国連から世界連邦に移行して、もう60年にもなります。あの国連時代のゴタゴタからようやく連邦がここまでまとめあげたわけです。しかし、もはや過去の民主主義などは無理ではないですか?』
「民主主義が無用?」
『わたしはずっとそう思っておりました。この混乱の時期においては、絶対的な権力が必要です。民主主義というものは素晴らしいと思いますが、一方では脆弱さも持ち合わせています。IFPが開発され、以前よりもずっと共有度が高まりました。しかし・・・やはり人間は機械ではなく、意思を持っています。反抗して無意志化した者もかなり多くなってきています。人間はどこかで、絶対的に頼りになる存在を求めているのです。それが宗教であり、権力です。このままでは世界連邦も無価値になってくることは明白です。現に南米連合は事実上世界連邦とは別個の存在になっております。当然アジアも同じです。となれば・・・。』
アンソニーはIFPを通じてデータをホセに送った。
「なんだ、これは?」
『南米同盟とアジア以外の国々からの陳情です。簡潔にまとめてあります。』
「・・・たしかに、頼ってきているな。それに、ОEFへの恐怖・・・だと?どういうことだ?」
『先ほど大統領が申されたことです。彼らは地球から離脱しようとしている、その動きは明白です。彼らの資源と製品に、我々も頼らざるを得ない状況です。しかも、このようなデータもあります。』
アンソニーから送られてきたデータを見て、ホセは驚いた。
「おい、これは・・・奴らの食料輸入か?本年は、現段階で昨年の・・・1/10しかないだと?どういうことなんだ?」
『わかりませんが、彼らは地球の食料から自由になった・・・としか言えません。具体的にはわかりません。そして資源も持っていて、製品で我々を圧迫してきている。畏怖するのも無理はありません。ですから、大統領はもう一度世界を統一しなければならないと、私は思うのです。』
「君ではどうなんだ?世界連合会議では、君の方が存在感があるぞ。」
『閣下、それは閣下がおられるからです。私は小者で、駒でいる方が良い。ですから閣下に願いを託したいのです。』
ホセはデスクを指で軽く叩き、飲み物を出した。好みの緑茶を干して、ホセは唸った。
「少し考えさせてくれ・・・俺は今でさえ皇帝と言われている。実際になったら・・・シャレにならん。」
『まだ時間はございます。ゆっくりお考え下さい。』
モニターからアンソニーの姿は消えた。ホセは立ち上がって、大きな世界地図が映し出されている壁の前に移動した。世界地図の前に立ってどこをどう見たいと思えば、IFPにデータが転送される。ホセはまず、南米を見た。するとホセの目の前には現在のライバルである、アントニオ・ロドリゲスの演説シーンが浮かんできた。
「くそ・・・偉そうにしやがって。」
アンソニーオは南米を一つのエリアとして統一し、何かといえば地中海のホセをライバル視していた。世界連邦会議でも必ずホセに反対していたし、小国を支配下にしようとしていた。かつての大国アメリカ合衆国でさえ、現在では南米の意向を確認しなければならないほどに形勢逆転していた。
つぎにホセが見たのは、現在でも旧態依然とした中国とインドだった。中国共産党はとっくの昔に崩壊していて、現在では中華大国として周囲に影響を与えており、インドは変わらずマイペースだった。中華大国の楊春明大統領とインドのシャンカール・マー首相は常に対立していて、東方の経済大国日本は軍事面でも台頭しつつあって、この三か国がアジアの軸になっていた。彼らは事実上一つのエリアだと言っていいほどだ。
「アジアか・・・最後はここだな。」
ホセは地図から離れ、SⅬEの状況を確認した。SⅬEの数は増えておらず、一見変わっていないように見える。だが彼らの間のシャトル交通は地上との交流をはるかに上回っていた。ОEFがひとつのエリアになっていることは明白だった。
ホセは少しの間メンタルケアを行うと予定に入れ、ポッドに入った。これは最近開発されたもので、これもやはりОEF製だった。だがこれ以上のケア製品はない。ホセはポッドに入り、ポッドは自動的に横になった。そしてホセに必要な栄養素などを計算し、固形薬剤として出してきた。ホセはそれを飲みこみ、そして脳波を安定させる段階に入った。
計算された振動が伝わってきて、ホセは深い眠りについた。だが長時間眠るのではなく、5分で一晩程度の質を得ることができた。かなり高価なものなので、これを購入できる立場の者は限られていた。こうして多忙なホセは、短い眠りについた。
3
地球外連合が発足したのは、ホセ・ノーメンの台頭とほぼ同時期だった。地球では多くの国が消滅したり、合併したり、あるいは細分化したりしていて、ただでさえSⅬEに必要なエネルギーや食糧などの補給が複雑になってきていた。となると底値も上昇していく。結果としてSⅬEは互いに協力していかなければならなくなっていた。
するとそれまでもSⅬEらに対して的確な指示を出してきていたイブが、積極的に関与するようになっていた。まずイブが出したのは、SⅬE全体としての意思統一だった。そして誕生したのが共同体であるОEFだった。当初はそれぞれのSⅬE代表が共同体を統括するシステムになっていた。彼らは基本的には地球の世界連邦とのスムーズな交流を望んでいた。
ところがホセの台頭によって、地球のエリアが急速に統合されていく現状の中で、ОEFも大幅な路線変更を余儀なくされていた。この日、「スぺス・ノストラ」内にあるОEFの事務局では本年の代表であるシャルル・アンドレアニリナが、会議室内で各SⅬE代表とリモート会議を行っていた。彼の両親はマダガスカル出身で、最初にSⅬEに移住したグループだった。
「それで、我々としては地球ときちんと話し合いたいのは変わらないということでよろしいのかな?」
ホログラムで映し出された各代表から、賛同の意思を示すランプが点滅した。
「それでは本会議はこれで・・・。」
「お待ちください、アンリ・ベルナール。」
割り込んできたのは、クリス・サマラスだった。
「どうしたんだね、事務局長。」
「代表の皆さまには大変失礼と思いますが、つい先ほど私はイブに呼ばれてメッセージを預かっております。」
「イブが?君を呼んだのか?どういうことだ?」
シャルルだけではなく、代表全員が驚いていた。イブが最近積極的に提言していることは知っていたが、それは事務局にメッセージとしてだった。しかしクリスは、自分が受け取ったと言っている。それはありえないことだった。
「いずれ申し上げる予定でしたが、その立場になるまで待機しておりました。実は私の母がヘンリー・ヤコブの姪で、ヘンリーは密かに自分の遺伝子を姪に組み込んでいました。それはイブも承知していたことなのです。ヘンリーは将来我々がどうなるのかを詳細に分析し、予想を幾つかイブに与えていました。そして私は、そのメッセンジャーとして選ばれたのです。」
ザワザワしていたが、ヘンリーが選抜した面々の代表たちは理性を多分に持っていた。驚きと同時に、我々はどうすればよいのかをすぐに考えていた。ひとりの白髪で細身の男性が意見ありとのサインを出してきた。
『クリス・サマラス、私はフランスSⅬEリベルテ代表アンリ・ベルナールだ。早速イブのメッセージを聴きたいところだが、その前にひとつだけ確認しておきたいことがある。』
「はい、承ります。」
『我々はあくまで共同体だ。それぞれ地球との繋がり具合は異なっている。それは承知の上なのだね?イブのメッセージはそれでも伝えるべきものなのかね?』
「もちろんそうです。私は子供のころからヘンリーがなぜそうしたのかをイブに聞かされていました。そして事務局長に就任し、より多くの知識を得たところです。それゆえ、イブのメッセージには少々驚くべきことはありましたが、納得できるものでした。後は皆さまのお考え次第です。」
「そうか・・・では皆さんに伝えてくれたまえ。」
「わかりました、シャルル。」
クリスは改良されたIFPを発動させた。これは量子もつれを活用した通信を使用したもので、より大きな情報を伝達することができる。しかも各個人特定量子にしか反応しない。受け取った本人は、まるで目の前に相手やデータがあるような感覚になる。これはヘンリー・ヤコブが考案し、イブに伝えていたものだ。各代表の前に、ヘンリー・ヤコブの立体像が現れた。ヘンリーはかなりの老体のようだが、ゆっくり語り始めた。
『この映像を、今どなたが見ているかは私にはわからない。なぜなら、私はもう次の存在に行っているからだ。おそらくはSⅬEの方々ではなかろうか。その前提でお話させてください。』
ヘンリーは苦しいのか、手元の飲み物を一口飲んで話を続けた。
『私は宇宙開発財団に脅されたのです。ミュータントをどう活用するのか、SⅬE移民をどう選抜するのかを迫られましてね・・・実は私の妻も娘もミュータントの要素を持っていました。私は彼女たちを匿いながら研究を重ねてきましたが、やはりミュータントの力は常人には耐えられるものではなく、やがて二人とも先立ってしまいました。しかし、私はイブの意識をデータとして保存する技術を開発しました。そして人格アプリも導入して量子コンピューターに入れ、イブと名付けました。彼女・・・としておきましょうかねえ。あなた方に適切なアドバイスと未来イメージを、適切なタイミングで適切な者に提供できるようにしました。それはなぜか・・・それはなぜミュータントと言う存在が産まれたのかと同じだからです。ミュータントは現在、火星と地球の中間にSⅬEとして98名移住していますが、それほどまでに扱わなければ危険なのです。ミュータントたちの思考波動やパターンは地球に生命が誕生したのと同じものでした。その力たるや、まるで思考がアメーバのように作用し、周囲の思考を食いつくすのです。人類は宇宙に住むことという環境の変化によって、そしてこれはとうとう私にも発見できませんでしたが、生命誕生の際に地球意思から与えられた何らかのメッセージがあるのです。おそらく遺伝子として人類の誰にでもあると思うのですが、その遺伝子を最大限に発揮させる遺伝子Ⅿを持ったマリア・ヴァルガという女性が突然変異として生まれたのです。その子孫たちがミュータントとなりました。このあたりの詳細はイブに与えてあります。』
ヘンリーはまた飲み物を飲んで続けた。
『ではなぜそんな突然変異が起きたのか。それはガンマ線バーストによってです。それで変異した遺伝子が5世代後にミュータントとして能力を発動させました。そして影響はその他の人類にも及びました。人類だけではなく、あらゆる生命体に影響を与えていたのです。地球は、悲鳴を上げていたのです。だから、ミュータント誕生を押えることができなかった。そして皆さんは、その影響下にない人たちでした。私は理性で物事を整理できる人材をということで宇宙開発財団に申し入れましたが、実際はあなた方の中には遺伝子Ⅿを抑制する能力が非常に高い力が備わっているのです。そしてそのゆえに、あなた方は地球から分離しなければならないのです。』
「分離だって?」
「どういうことだ?」
戸惑いが代表たちの表情に浮かんでいた。確かに自立はしているものの、まだまだ地球に依存している部分が大きいのが現状なのだ。
『非常に無責任だとは思っています。しかし、地球は・・・一度は地球意思で浄化しなければなりません。その過程においては、あなた方は不要なのです。地球で影響を受けた生命同士が長い期間触れ合うことで、少しは元に戻っていくでしょう。人類が完全に復活するためには、あなた方の力が必要なのです。しかし、すぐに地球に戻れるわけではありません。あなた方は純粋なのです。一度、別の人類として別の世界で生き続けなければなりません。それがどこなのか・・・それは私にはわかりません。皆さんで見つけていくしかないのです。』
もう誰も驚かなかった。信じがたいことなのだが、彼らは全てを飲み込むことができていた。
『私に理解できることは、ひとまずは火星に独立国を作ることです。現在の技術でもSⅬEを火星まで運ぶことは可能ですから。そこで政府を作り、移住のためのプランを作ることです。そのためには本当に長い時間を必要とします。ひょっとしたら、あなた方は人間の形を失うかもしれません。それでも必要なのです。私はそのために、当時考えうる限りの知識で私自身の遺伝子を姪に組み込みました。そして出産したクリス・サマラスは現在まだ若者ですが、必要な遺伝子を持っており、彼と彼の子孫はイブと直接アクセスできます。これは相当に大変なことです。これができる者は、決して長命ではなくなります。それだけ、思考力を量子コンピューターと接続することは危険なのです。しかし、クリスはおそらく、自らの運命を受け入れていると思われます。イブにそうなるように指示したからです。』
「その通りです。私はおそらく40歳まで生きることはできないでしょう。しかし私の遺伝子と思考パターンはイブの中に収納され、ある意味生き続けます。」
クリスはごく普通に、まるでデータを報告するかのように語った。その間もヘンリーのホログラフは続けていた。
『この映像を撮影している現在、すでに地球では世界連邦が事実上崩壊しています。この映像があなた方に届く時にはさらに変化しているでしょう。地球に残った人類は、セルフコントロールが難しい人です。そこがあなた方とは全く違う。理性があまり働かず、混乱の中で淘汰されていくしか道はありません。そして理性がはたらきにくいのであれば、民主主義は成立しません。おそらくは独裁国家が誕生して、地球を制圧していくでしょう。現状では、SⅬEは地球に敵いません。そのためにも火星に仮の政府を作り、移民の星を探し、星間航行技術を開発していかなければなりません。そのために皆さんは選ばれたのです。』
4
クリスの発言権は、彼の生い立ちや謎を理解することでОEF内では急速に強くなった。元々理性が強いので、これまでのイブの動きや地球の現状などを考慮してみても、ヘンリーの意思をすぐに受け入れることができた。
ОEFはこの場で動議が出され、結果クリスはОEFの仮代表に選ばれた。クリスがまず行ったことは、ヘンリーのメッセージにあるSⅬEをどうやって火星に移動させるかだ。SⅬE高天原は地球とケーブルで繋がっていて、フランスやイギリスは国の上空にある。簡単に移動することは難しい。
「リン、君はどう思う?推進力だけだったら何とかなる。しかし移動の間の食料などの資源確保はどうすればいいんだ?」
「そうだなあ・・・スイスのティム・アンドロスはいい考えがあるかもしれない。」
「ティムか。いいな。早速コンタクト取ってみよう。」
リン・ジーミンはSⅬEの中では感情が出るタイプだった。しかし彼はその感情をコントロールすることができた。リンはクリスとの繋がりを何より大切に考えて行動し、ごく自然にОEFの副代表に選ばれた。そしてクリスに次いで改良型IFPを皮膚内に入れ、システムをダウンロードしていた。ティムはEUのSⅬEにいる。
「ティム、クリス・サマラスだ。今いいかな。」
『問題ないよ。ああ、代表に選ばれたんだって?君なら当然だろうね。』
「ありがとう。君は現在EUのSⅬEで科学技術担当だったね。それで頼みがある。」
『なんだい?』
「SⅬEを火星まで移動させる方法はないか?」
ティムの思考が一瞬止まった。
『何を言いだすんだ?何を言っているのかわかってるよね?』
「もちろんだ。」
『あのさ、火星は地球に近くて頑張れば居住可能だ。だけどさ、普通の高速宇宙船でさえ5カ月以上は必要なんだぜ。ましてやこんなでかいSⅬEを移動させるって・・・。』
「方法はないのか?」
ティムは腕組みをして考えた。何を考えているのかもよく伝わってくる。
『ない訳では・・・ない。理論的には。』
「ほう・・・ヒッグスレスだって?それはどういうことだ?」
『ヒッグス場があるから、質量があるだろ?それを中和させることができれば、物体の質量はなくなる。しかし、どれだけの間ヒッグスレス状態にできるかはまだわからない。』
「君はもうすでに取り組んでいるじゃないか。頑張ってやれないか?」
『まあ・・・そりゃそうだが。僕が取り組んでいるのはヒッグス場に電荷を与えて質量化を阻止させることだ。その電荷が問題でね。どう与えればヒッグス場が長時間維持できるかが全くわからないんだ。おまけにヒッグスレスがうまくいって慣性ゼロになったとして推進力は最初しか効果がない。コースをどう維持するのか?そしてもうひとつ。宇宙船の重力はどうなる? 人口回転力では無理だよ。そしてその間宇宙船防御はどうすればいい?問題は山積みなんだ。』
「そこは任せるしかない・・・あ、そうだ。まだ先の話なんだが、僕はいずれОEFを完全独立させるつもりなんだ。」
『へえそうな・・・なんだって?じゃあ地球と切れるための火星移動なのか?』
「そうだ。おそらくだが、火星政府のようなものを作り、火星の資源を利用して生活できるようにする。その時君に肩書があった方がいい。そしていずれは太陽系外の居住可能惑星まで行けるようにしたい。だから仮に恒星間航行開発局員長官なんてどうかな。」
『肩書なんてどうでも・・・いいな、それ。』
多少お調子者のようだが、ティムはそちらの方がより効果的だと判断したのだ。クリスは後の移動問題などはティムに任せ、次にドイツ人のエメリッヒ・アードラーを呼び出した。エメリッヒはドイツとオーストリアの「ゲルマニア」SⅬEにいる。
『おや!これはこれは、共同体代表様じゃありませんか。何かご用ですか?』
「ああ、初めましてエメリッヒ。クリス・サマラスだ。クリスと呼んでくれ。」
ゲルマニアは文字通りゲルマン民族のSⅬEだ。かなりこだわっていて、壁にもホログラフで絵画が浮かぶようになっている。早くから反物質エネルギーの研究を行っていて、間もなく完成かとも言われていた。
「君は相当に優秀だそうだね。反物質エネルギーの方はもう解決したのかい?」
『いや、まだまだ完成じゃない。理論的にはできるはずなんだが。反物質の管理が大問題なんでね。』
「そうか。実は先日の共同体会議でこんなことが決議されたんだ。」
クリスはIFPで先日の会議をエメリッヒに伝達した。
『え?この映像・・・すごいな!IFPを改良したのか?情報量が全然違う・・・火星に移住だって?ヘンリー・ヤコブの提言?』
「ああ、イブと共同で開発したんだ。それで、移動と移住にあたって、君のエネルギーが非常に重要になってくる。実用化までいけるのかい?」
『うーん、理論的にはね。反水素陽子を生成して磁気容器に閉じ込めるところまではもうできている。しかしだ、どうやって高濃度エネルギーを生み出すのかとか、その駆動力の仕組みとかがまだまだだ。粒子加速機は、改良は可能だし・・・。』
「できると思っていいのか?」
『ま、まあね。一番は重力をどうやって操るかだ。重力と磁力の組み合わせでなんとかできるとは思うよ。』
「そうか。ならばだ、代表権限でエメリッヒ・アードラーを、ОEFの科学技術担当に任命したい。受けてくれるか?」
『なんだ、そんなことは問題・・・え?大問題じゃないか。もっと偉い学者はたくさんいる。私などの若造では・・・。』
「引き受けないんだね?」
『いや・・・あ・・・やります。だってこんな研究やってるのは私くらいだし。』
「頼むよ。」
多少優柔不断気味のエメリッヒだったが、これだけ慎重だと逆に信用が高まる。クリスは最後に、高天原の鷹野希にコンタクトした。
『え・・・クリス・サマラス?わー、びっくりした!』
「はじめまして。君は浮いているね。シャフト内にいるの?」
『ええ。考え事するときに、たまに来ているの。集中できるから。』
「いきなりで悪いね。実は色々動くことがあってね。」
『・・・そうなんだ。こちらでもちょっと話題になってたところなの。でも、可能なの?』
「色んな人に頼って入る。君は高天原では相当に美味しい料理を作っているって話だよ。」
『ええ?そんなあ。あたしは普通にやってるだけで・・・。』
「謙遜するところはいかにも日本人だね。実は君にお願いがあるんだ。君は言語学でも有名のようだ。その若さで言語学者なんだって?」
希は浮きながら赤面していた。
『嫌だ。誰がそんなこと言ったんですか?一応博士号は持っているってだけです。』
「実は、ОEFは地球から独立することになったんだ・・・これ見たらわかるよね。」
『ええ・・・話は聞いています。でもなんであたしに?』
「君は、もう地球には身寄りいないんでしょ?」
『・・・ええ。』
「それもあるんだが、SⅬE共同体は言語的にはバラバラだ。まだ民族語で話している。それをひとつにしていきたい。できるだけスムーズな会話で無駄なくしていきたいんだ。IFPも改良してはいくんだが、それだけだと人間らしくない。」
『それはそう思います。で、どう統一するんですか?』
「地球上では日常言語としてのラテン語は使われていない。復活させたいんだが、そのためのプログラムをIFPに組み込みたい。それに加えて、食糧問題を解決しなければならない。地球に頼っていたら、独立なんかできないだろ?」
『そうですけど・・・まさか、あたしにそれやれって?無理ですよ!』
「君しかできないんだ。他にも人材はいるんだが、イブの指名なんだよ。」
『え?イブが、あたしを?なんで・・・。』
「実は僕も賛成なんだ。君は謙遜しているけど、凝縮食料の開発に取り組んでいるよね。それを活かしてくれないか。言語も含めてね。」
希は困って固定を忘れて、シャフト内の壁にぶつかった。
『痛!・・・あ、ごめんなさい。お返事は、もうちょっと待ってもらえますか?心の準備ができてなくて。』
「もちろんだ。朗報を待っているよ。」
クリスは連絡を切った。思ったよりも大変そうだが、急務でもある。地球では、ホセが急速に独裁化しているとのニュースが入ってきている。急がないと間に合わない。
最後にクリスはガブリエル・ベルナールを呼び出した。まだ若いが言語学においては人類の中では最も優秀な才能を持っている。
「やあガブリエル、久しぶりだね。」
『ああ、クリス。本当に久しぶりだ。どうしたんだ?』
「口頭よりこちらの方が速そうだ。」
クリスはIFPで、今後のことについて説明した。
『統一言語か。それをラテン語にね・・・しかしラテン語はもはや死語だよ。これを共通言語にするってどういうことだ?』
「地球に漏れてもいいようにね。」
『・・・なるほどね・・・じゃあ、英語をベースにして、固有名詞をラテン語に変換するのはどうだい?結構解読難しいよ。』
「君に任せるよ。」
『わかった。しばらく時間を要するけど・・・鷹野希って知っているかい?彼女は日本語をわかりやすく英語で口頭化させている。彼女とならどうにかなりそうだ。時間はどれくらい?』
「たぶん、8年から9年の間くらいかな。」
『わかった。やってみるよ。』
クリスは連絡を切り、ガブリエルが言っていた期間について考えた。
(できれば、地上が統一される前に移動しなければ。)
『その通りよ、クリス。』
「イブ、君の予想では、地上が独裁化されるまでどのくらいかかりそうなのか?」
『インドも中国も、予想より早くなびきそうね。南米のアンソニーオ・ロドリゲスはかなりホセにライバル心持っているから、彼がどれくらい抵抗できるか次第ね。南米は北米寄りだけど、アメリカはもうリーダーシップは無理。だから余計に意地を張っている。意外にしぶといから、時間稼ぎはできるかも。』
「それからまだ気になる。ミュータントのSⅬEはどうなんだ?」
『それは私にもわからない。ただ言えるのは、彼らの思念パワーと言うものはすごい。信じられないかもしれないけど、時々私にアクセスしてくるの。今のところはブロックできているけど。』
「思念が量子コンピューターにアクセス?本当なのかい?やっぱり、彼らは危険だな。」
『そうね。火星に行くまでは関わらない方が賢明ね。関わる時には、逃げるしかない。』
「系外惑星も早く見つけないといけないね。」
クリスはコンタクトを切り、リラックスポッドに入った。ヘンリーの遺伝子でイブとコンタクトできるのだが、相当に心身にダメージがある。クリスは少し長めに、10分間設定した。まだまだやることは多いのだ。
5
そのSⅬEは地球と火星の間の軌道にあり、地球と正反対の位置にあった。一般的なSⅬEがシルバーメタリックベースなのに、このSⅬEは真っ黒だった。そして小さい。高天原の1/10くらいしかなかった。しかも回転シャフトすらなく、疑似重力もない。まるで人間が居住できる環境ではない。だが、この漆黒のSⅬEの中には120名の人類がいた。
彼らはミュータントと呼ばれている者たちで、当初98名だった。疑似重力もなく、食料すら多くないこの環境下ですら、彼らは子を産んでいた。まともに食べることもできないはずなのだ。
SⅬEの中には移住した時の荷物などのありあわせ材料で作った祭壇のようなものがあり、そこにはひとりの老人女性の写真と像が飾られていた。そして祭壇の前にはぼんやり光る立方形のモヤのようなものが数十個並んでいた。SⅬE内には照明もなく、祭壇の横にある小さなライトくらいだった。
祭壇の前にはひとりの女性が座っていて、頭を下げて祈っていた。女性は30歳くらいの美しい白人で、黒いショーツを被っていて、灰色のワンピース姿だった。女性は黙って祈っていたが、やがてゆっくりと顔を上げた。
『マルギット、イロナからの伝言はあったのかい?』
背後から気配がした。高齢女性の姿があったが、彼女はアジア人のようだ。
『プトゥ、ありましたよ。』
彼女たちは言語を使ってはいなかった。使う必要がないからだ。祭壇の前にいたのはマルギット・フェケテで、背後にいた女性はインドネシア人のプトゥ・ハッタである。彼女たちだけでなく、住人全てが言語を必要としていなかった。古株の中には時折話す者もいるが、ほぼ不要だ。
『そうかい。イロナのおかげで私たちは暮らしていける。なんて言っていたのかね?』
『地球ではもう暮らせない。太陽系から出て行く方がいいね、だってさ。』
『へえ、やっぱりねえ。わたしたちは、地球から弾かれている者たちだからね。でもなぜ今なんだい?』
『プトゥ、太陽系から出て行くのはわたしたちだけじゃないの。SⅬEの人たちも出て行く運命。だって、不自然に別れさせられたんだしね。』
やがて、多くの意思が伝わってきた。
『ヘンリー!あの疫病神め!』
『何回殺しても足りない!』
『みんな、しずまって。』
マルギットの意思は誰よりも強かった。
『今さらヘンリーを憎んだところでどうにもなりません。どのみち、わたしたちは人類に抹殺されていたことでしょう。だけど母は言っていました。こうなったのは運命だって。わたしたちは食事を必要としないでしょ?重力もないはずなのに、ちゃんと座れている。空気だっていつも澄んでいる。わたしたちは思いさえすれば、宇宙でも地球と変わらない暮らしができる。わたしたちの肉体維持は宇宙線エネルギーだけで足りるし、ミトコンドリアは変異してしまっていて、食事でエネルギーを必要としない。これは全て、母の遺産。母がわたしに方法を伝えてくれたおかげで、こうして暮らしていける。父は地球で死んだけど、父の力はもっとすごかったみたいね。だから力を抑えられずに・・・もうわたしたちは人間じゃなくなっているの。ずっとこのまま・・・だけど少しずつ・・・わたしたちは思念だけの存在になっていくの。それも運命よ。思念さえ残るなら、それでもいい。だから、静かに生きていきましょう。この・・・ケルベロスの中で穏やかにね。』
マルギットの意思で、住人たちの怒りは静まっていった。さすがイロナの娘だけのことはある、そんな意思が伝わってきていた。マルギットはプトゥを振り返って見た。
「久しぶりに言葉を使いたくなっちゃった。プトゥはそのままでいいのよ。」
「あたしも・・・喉を使おうかねえ。本当に久しぶりだよ。」
「無理しないで。プトゥはもう高齢なんだから。」
『すまないね。それにしても・・・。』
プトゥは祭壇のイロナの写真をまじまじと見た。
『イロナのおかげで、あたしたちは生きていられる。ここだけの世界だけど、満足はしている。』
『ママは言わなかったけど、本当はヘンリーに助けられていたのよ。』
『え?どういうことだい?』
マルギットの強い意思は、他に漏れないようになっていた。
『ママは言っていた。わたしたちが隔離される時に、ヘンリーと目が合ったって。そしてヘンリーはその中で、わたしたちがどうやって生きていくのかを具体的に教えてくれたそうよ。そしてね、いつになるかわからないけど、いつかわたしたちは人類と合体するかもしれないって。なんだか、データを移すみたいに可能だって。ヘンリーはね、思念と量子の関係性まで研究していたようで、その方法も教えてくれたそうよ。だからわたしも、時々思念を彷徨わせてみるの。時々人間じゃない意思に出会ったりして楽しいわよ。』
マグリットはゆっくり立ち上がり、町に向かって歩き出した。
『いつか人間と合体・・・いつなのかしらね。』
6
かつてカザフスタンの首都だったアスタナには、豪華なビル群が立ち並んでいた。その中央にはひときわ大きくて、白い壁のビルがあった。他のビルと決定的に異なるのは、そのビルには贅沢な庭園があることだ。今どき庭園など不要な時代になっていたが、あえてこしらえたように見える。そういう雰囲気が漂っていた。
周囲のビルは白く大きなビルを囲むように少し低いビルがあり、外縁に行くたびに高層になっていった。明らかに何かの機能がある構図だ。かつてあったアスタナの美しい景観はそのまま残されていて、その横にビル群が建設されていた。元々中央アジアでは最高クラスの都市だったのが、今ではさらに絢爛豪華かつ重厚な都市になっていた。
かつての道路には水素を利用した超電導システムが埋め込まれていて、タイヤを利用しない超電導モーター車が走り、ヌルスルタン・ナザルバエフ国際空港はさらに大きくなり、地球で最も利用客数が多い空港となっていた。そして砂漠の中を突き抜けるように、超高速道路が数多くあった。超電導システムが実用化されたために、飛行機も超電導駆動システムに切り替わっていた。
白いビルの最上階には多くの者たちが動いていて、そこは他と違って空間が広かった。つまり、天井が高いのだ。多くの部屋があり、贅沢な絵画などが無造作に飾られていた。
最上階の中央には大きな部屋があり、部屋は白を基調としていて、多くの観葉植物があった。部屋の窓側には大きなデスクがあり、そこには髭を生やした大柄の男が座っていた。そして壁にはホログラフで世界地図と何かの組織図が映っていた。
「大統領、そろそろお時間です。」
「ああ・・・わかった。」
男は少し老いて少しメタボになったホセ・ノーメンだった。声をかけたのは秘書長アリシャ・ファティマだ。民族衣装をエレガントに着こなしている。ホセは立ち上がり、デスクの前に立った。そして話し始めると同時に、映像システムが動き出した。
「世界連邦の皆さん、ホセ・ノーメンです。かねてからお約束していたように、本日この時間を以て世界連邦はなくなります。多くの皆さんからの要請を受けて、本日より新にテラ帝国の設立を宣言いたします!」
アンソニー・デ・リーゾから民主主義廃棄を打診された日から、もう9年が経過していた。南米同盟のアンソニーオ・ロドリゲスが不慮の死を遂げたことで世界連邦は一気に崩壊へと向かい、ホセは武力と攻略で世界を制圧してきたのだ。
「これからテラ帝国の組織を強固にしてゆかねばなりません。そのためにはあと1年は必要でしょう。帝国民が幸せであらんことを!」
ホセは演説を止め、右手を目の前に出した。すると掌には地球がバレーボールくらいのサイズで投影された。
「なぜ帝国としたか。それはもちろん、地球全ての民が同じ恩恵を受けるためです。そのためには議会は民主主義で行い、施政も同様ですが、より強い力が必要だからです。地球は様々な問題を抱えています。そのひとつが宗教です。GBⅮなどの宗教は民を堕落させ、既存の宗教をないがしろにしています。テラ帝国にはGBⅮなどの反体制宗教は必要としません。よって、彼らを断固排除いたします。それから・・・。」
ホセは地球を消し、上を指差した。
「SⅬEの存在もです。彼らは我々と断交していて、共同体であるОEFを形成しています。彼らは地球に寄生しているくせに、我々とは違うと言わんばかりの態度だ。こんなことが許されたいいのか?いいや、許してはならん!ここで宣言します。テラ帝国は彼らを我々の一員とすべく、場合によっては戦争も辞さない覚悟です。それに、すでに幾つかのSⅬEはなぜか消えている・・・ではどこに行ったのか?我々の調査では、彼らは火星にいるのです!そして火星政府なるものを作っています。皆さん、彼らは味方ではありません!もちろん交渉はしますが、一切の容赦はいたしません!アスタナの地において、宣言いたします。それでは皆さん、また次の報告をお待ちください。」
映像配信は終わった。ホセは軽くため息をついてソファに腰かけた。同時に心地よい振動が全身を癒す。
「皇帝、正式な戴冠式はいかがします?」
「アリシャ、たった今言っただろう。最低でもあと1年は必要だ。世界連邦の組織を踏襲するにせよ、寄せ集め連邦と帝国では結束力が違いすぎる。組織が終わったらやろう。」
「承りました。その際の主教はいかがします?」
「ああ、そうだな・・・では帝国で新しく作るか。それはアンソニーと話していてくれ。それから・・・少し休む。1時間ほど寝る。」
「承りました。ごゆっくりお休みください。」
アリシャは恭しく頭を下げて退出した。ホセの妻がカザフスタン人であったことからこの地を拠点とするようになった。途中で事実上の国家建設を宣言してからは、外交と戦争の毎日だった。心身ともに疲れは溜まっていた。その過程で怒った様々なことを思いだしながら、ホセは深い眠りに落ちていった。
7
クリス・サマラスは、火星軌道上にやっと落ち着いた「スぺス・ノストラ」の事務室でリラックスポッドの中にいた。この9年間、心身共に疲弊していた。無理もない。エメリッヒ・アードラーとティム・アンドロスの献身的な努力のおかげで、SⅬEを移動式に改造して火星まで来ることができたからだ。火星はまだテラフォーミングできていないので、食料やエネルギー問題など山積みだった。
まだ地球軌道に残っている最後のSⅬEも、もうすぐ移動を開始する。機能的にも政治的にも半端ない大変さだった。さすがにリラックスポッドがなければ身が持たない。10分ほど休むと、身体も軽くなっていた。クリスはポッドを出て、デスクの前に座った。
(そういえば、このギガメタルの開発が大きかったな。エメリッヒのおかげだ。)
小惑星上で実験を行い、超重量の圧縮合金アードラーの開発に成功していた。これを船艇に置くことによって、回転力に頼らない重力の確保ができた。さらに、ティムが開発したヒッグスレス発生装置と、ジョナサン粒子変換炉の開発も大きかった。かつてダークマターと呼ばれた半熟物質ジョナサン粒子からエネルギーを抽出することで、莫大なエネルギーをほぼ無尽蔵に使えるようになっていた。ちなみに、ジョナサンとはエメリッヒの恩師とのことだ。ヒッグスレス発生装置は船体の慣性を無効化し、光速以上という推進力を得ることができた。だがまだどちらも改良点だらけであり、火星まで移動するのがやっとだった。
さらに鷹野希の尽力で、必要栄養素の固形化と、水の超循環もできていた。これにより、料理までは無理だったが単純に栄養だけなら十分な量を確保することができ、生活水の確保もできた。そして食事の「思い込み」プログラムもできて、単純な栄養素を摂取しても本人は普通の食事を食べたような満足感になれる、催眠療法だ。加えて遺体のリサイクルシステムも完成し、アンドロイドペットも開発していた。いくら理性が強いSⅬE住人とはいえ、癒しは必要だった。するとリン・ジーミンがやってきた。この男は火星政府の副代表として、細かい部分で貢献していた。
「おお、もういいのかい?」
「ああ、リン。もうすっかり元気だよ。」
「あんまり無理するなよ。君は・・・。」
「長生きしないからな。大丈夫だ。君たちがいるからな。」
クリスの体力消耗は激しかった。それは本人も自覚しているとはいえ、周囲は心配するものだ。
「そんなことはないよ。俺なんざ、君がいるから目立ってるだけで。」
「それこそ、そんなことはない。私がどれだけ救われているか、君はまだわかっていない。頼りにしているよ。」
リン・ジーミンの存在は確かに大きい。この台湾人が出す雰囲気は周囲を楽にさせてくれる。ある意味クリスよりも人気があった。
「俺はお調子者なだけだよ。ところで、地球ではいよいよ帝国が発足したぜ。ホセが演説したらしい。あいつらはSⅬEを目の敵にしているだろ?戦争仕掛けると思うか?」
「そうだな・・・そこはイブに訊ねるしかない。個人的にはやっと地球を統一したばかりだろ?やることは山ほどある。とりあえず我々を敵扱いはするだろうね。こういう場合には、共通の敵が必要になる。非常に未熟だし、いつか自分たちに跳ね返ってくるだろうけどね。しかし、それが精一杯だろう。」
「そうか・・・あ、それから代表会議が行われる。移動が全て終わったらね。で、聞いた話なんだが・・・新政府を樹立するのかな?」
「ヘンリー・ヤコブはそう言っていた。そういうものを作るだろうって。」
「君はこれまでも事実上のトップだった。大統領にでも就任するのかな?」
クリスは苦笑いした。
「正直、そんな話はどうでもいい。確かにこれまでも仲間のおかげでここまでやれてはきた。しかしそれから先はどうなっても構わないと思ってる。誰かがやればいい。」
「そうかい?俺ならすぐやるけどなあ・・・あ、でもやんないからな!絶対やんない!」
普段は感情が表に出ないクリスだったが、さすがに吹き出した。こういうところが好まれるのだ。
「プッ・・・君らしいな。」
「へへ、じゃあ俺、エメリッヒと話して来る。」
リンはなぜかエメリッヒと相性が良かった。リンガ去った後、クリスは鷹野希を呼び出した。望は木々が投影された部屋で、何か作業を行っていた。
「希?今いいかい?」
『あら、クリス。大丈夫よ。今ちょうど、例の食事催眠療法を改良していたところ。』
「へえ、どう改良したんだ?」
『今まではメニューが少なかったの。各民族に違うでしょ。それをずっと集めていたんだけど、どうにかなりそう。あ、それからね、ガブリエルとラテン語プリグラムに取りかかってる。』
「そうか。おかげでみんな退屈しないで済むし、共通言語ができれば色々やりやすい。」
『そうね。あ、これいいのかな?』
「何だい?」
『あのね、よく聞くんだけど、ОEFが今の私たちでしょ?』
「そうだよ。」
『でね、今度のトップ会議で、クリスが初代大統領に選出されるんだって。』
「え?なんだい、それ。私は何も聞いていないよ。」
『そう?じゃあ単なる噂かな。でもね、そうなってほしいな。』
「なぜ?」
『なぜって・・・クリス以外にそんな人いないじゃない。SⅬE代表の中から選ぶというなら別だけど、もうそんな状態じゃない。火星で資源を確保したり食料や水を精製したりしないといけないから、そうなると強い指導力がないとね。』
「なぜ、そう思うんだ?まだ火星に上陸もできていないんだ。」
『だって、この間ティムが言っていたよ。火星に上陸して生活できるようになるまでに10年くらい必要だって。それに太陽系外探査機設置と恒星間航行システムも同じくらい必要だって。クリス、わたしたちって、太陽系を捨てるんでしょ?』
クリスは驚いた。望の直観力が優れていることは知っていたが、そこまで正確に未来像を構築できるとは思ってもいなかった。
「ティムが言っていたの?まあ、いずれはそれも必要になるかもしれないね。火星ではテラフォーミングできないから、住居なら作れる。けどそれは、火星の資源次第。火星の地下には水もあるようだし、必要な栄養素も土壌から植物を栽培して確保できるとは思う。だけど、それと私が大統領になるなんてことは別のことだよ。今は仮の代表にすぎないしね。」
『そうなの?つまんないな。だってさ、もしクリスが初代大統領にえらばれたら、あたしも・・・。』
「え?」
『あ・・・いやいやいや!何でもないの!忘れてね!じゃあまたね!』
希は一方的に連絡を切った。クリスは望が何を言いたいのか少し気になったが、それよりも行わなければならない事案が山積されていたのだ。クリスはすぐに行政関係の構築作業に切り替えた。
8
「クリス・サマラス・・・どんな奴なんだ?」
「相当に切れ者のようです。あちらが独立してから情報が入ってきておりませんので、判明している限りでは若い頃からSⅬE共同体の中では異彩を放っていたようです。ギリシャ人の両親の元に生まれ、その両親はもう他界しています。身内はいません。」
「それだけか?それでどうやって会談しろってんだ?」
帝位についてもう7年が経過して、2343年になっていた。皇帝になってからのホセは、ますますメタボになっていた。元来が女好きなので世界中から好みの女性を集めたりしていたが、どうしてもОEF、今では火星政府のことが気になって仕方なかった。いつ連中が宇宙から攻撃を仕掛けてくるのかという妄想ばかりが、脳内で激しくローテーションするのだ。ホセの参謀でもあるアンソニー・デ・リーゾ帝国首相は、ホセの不安定さをさらりと受け流していた。
「会談は、現状維持を飲ませることでしょう。そこさえブレなければ大丈夫かと。」
「現状維持だって?あいつらがいつ攻撃してくるかもわからんじゃないか!いつの間にか地球を離れやがって!我々を空から支配するつもりなんじゃないのか!」
「まあまあ・・・陛下、まだ情報はあります。まず、SⅬEの連中を束ねているのはクリス・サマラスですが、実際は量子コンピューターが指示しているようです。おそらく、移民選別を行ったヘンリー・ヤコブが置いていったのでしょう。ヘンリーが指示をしたのか、あるいは暴走しているのかはわかりませんが。我々のコンピューターの意見では、連中が火星に到達するまでほぼ一か月かかっています。通常の高速宇宙線以上のスピードですが、もし彼らが超高速航行を身につけたとしたら、おそらくは一日で移動できていたはずだとのこと。しかも彼らはSⅬEを移動させるだけで精一杯のはず。こんな短期間で兵器まで開発することは到底無理です。しかし今後はどうなるのか見極めねばなりません。また、我々の武器も宇宙空間で戦えるほどの戦力はありません。せいぜい成層圏までです。ですから、現状維持なのです。」
「なるほどな・・・あいつら、ついこの前までシャルル・アンドレアニリナを全面に出して交渉していた。それがいきなりクリス・サマラスに変わっている。そしての火星政府だ。俺が不信感を持つのも無理はないだろう。」
「確かに、彼らが我々を警戒していることは間違いありません。少しでも彼らがどこまで進化しているのかを知ることです。」
「まあ、いいだろう。会談は直にか?」
「それは今後次第で。できるだけ直になるよう交渉してみます。それからもうひとつ・・・陛下のお耳に入れておかなければならないことがあります。」
「なんだ?」
「陛下はミュータントという者たちをご存じでしょうか?」
「昔、俺が子供の頃にニュースになっていたな。人を操れる連中だとか。絶滅したとか?」
「はい。実は彼らも、彼らのSⅬEの中で生きております。」
「なんだって?」
ホセは思わず立ち上がってアンソニーに顔を近づけた。
「あの怪物たちが本当にいたのか!しかも生きているだと?」
「これは宇宙開発財団が行ったことのようです。ミュータントたちの力を宇宙開発に利用しようとしたのですが、それは失敗しました。それでヘンリーたちが彼らをSⅬEに閉じ込めて、おそらくは火星と地球の中間あたりに追放したようですな。今すぐ彼らをどうこうはないのですが、陛下のお耳に入れておかねばと思いまして。」
「宇宙開発財団か・・・あの連中の資産も全て押えているはずだ。その点はどうなんだ?」
「はい。組織は解体し、資産は我々帝国のものです。」
ホセは肩をすくめて、ブランデーの瓶に手を伸ばした。最高級のブランデーで、皇帝専用に作らせたものだ。
「帝国建設まで多忙過ぎて、連中のことなどまるで知らなかったわ・・・お前は知っていたのか?」
「いえ、宇宙開発財団の総資産をチェックしていくうちに、使途不明資産が出てきました。探らせているうちに判明した次第です。」
ホセはブランデーを一口飲んでまたソファに腰を降ろした。
「フー・・・ミュータント、か。今まで連中が我々と関わったことはないな。アンソニー、もう少し進めてくれ。あいつらがどういう状況なのか、何を望んでいるのかを知っておきたい。」
「了解いたしました。」
アンソニーは皇帝執務室を出て行った。ホセはバルコニーに出て、広がる庭園とアスタナの街を眺めた。今は平和な状態だが、少し前までは謀略と戦争の毎日だった。世界を統べるためには民主主義は不要だというアンソニーの言葉は、正解だった。気のせいか、SⅬEが独立したあたりから、急に世界が無秩序になったような気がしていた。
「あの連中が世界の良心だったって・・・ハッ、バカバカしい。まあいい・・・いつかあの忌々しい連中も支配してやるさ。」
砂漠の太陽が、間もなく沈もうとしていた。
9
2343年になっていた。必死だったこの期間において、事実上のリーダーは29歳になったクリスだった。もしテラ帝国だったら頭角を現すことなど到底無理だっただろう。だが火星政府はスムーズに受け入れていた。しかしさすがにまだ若いので、この期間中はシャルル・アンドレアニリナ、かつてのОEF代表がそのまま代表を務めていた。
代表者会議が行われ、シャルルが口を開いた。この男も相当に心身負担が堪えていたようだ。完全に白髪になり、発音もしにくくなっていた。
「諸君、ご協力感謝いたします。ようやく地球から離れ、火星軌道に乗ることができました。イブが予想し、ヘンリー・ヤコブが我々を選抜したことが正解だとわかるまで、私自身も多少なりとも懐疑的でした。しかしホセ・ノーメンの侵略戦争によって、世界の国々は軒並み我々との取引を渋るようになってまいりました。ホセは征服欲の塊ですので、いずれは我々を傘下に置くはずです。遅かれ早かれ、我々は地球から離れざるを得なかったでしょう。我々はその前に自立宣言していましたから、それは彼にとっては我慢できないことだったでしょう。そして・・・なぜヘンリーが我々を選別したのかが明確になってまいりました。地球に残った人たちは感情をコントロースことが難しい。このままでは人類はいずれ、滅亡していくしかなかったはずです。現に大量破壊兵器が使用されています。我々はSⅬEのおかげでその被害を受けずに済んでいます。さらに、クリス・サマラスのグループはSⅬEを火星までそのまま移動させることに成功しています。食料や水分の確保もある程度できていて、ヒッグスレス発生装置と、ジョナサン粒子変換炉、ギガメタルの開発など快挙にいとまがありません。しかしながら、食料や水分にも限界があります。そこで火星の開発と資源確保が必須になってまいります。この点につきましては、直にクリスから説明してもらいましょう。」
シャルルの映像が消え、クリスらの顔が映し出された。
「彼らを紹介します。科学担当エメリッヒ・アードラー、統一言語担当ガブリエル・ベルナール、食料と厚生担当鷹野希、恒星間航行担当ティム・アンドロスです。これからも、彼らの力を借りて、我々は生きていきます。まず、今後のプランから説明いたします。我々は火星までやってきました。先ほどシャルルから説明があったように、我々は人類ではありますが地球人類とは違います。我々を選別したのがヘンリー・ヤコブでした。ヘンリーはいずれ、我々は火星に政府を作るのではないかと予想しています。私はこの仲間たちと頻繁に話し合ってきました。地球に独裁帝国がある限り、我々は彼らと共存はできません。火星に政府を作っても、いずれ戦争を仕掛けてくると思われます。イブの意見を聞いてみましょう。」
ホログラムに、穏やかな表情の高齢婦人の姿が映し出された。
『みなさん、イブ・ヤコブです。夫が成したことは、宇宙開発財団による強制的なものでした。そんな状態でも夫は考えを巡らせ、このままでは人類は崩壊してしまうと思い、宇宙開発財団をうまく口説いてあなた方を選別しました。将来、おそらく1000年単位になると思われますが、みなさんは地球人類と再び合体していく運命にあるのです。』
代表たちはざわざわし始めた。
『それがいつになるのかまではわかりません。しかし、方法は明確です。皆さんは系外惑星を探し出し、そこまで移動し、新たな人類として地球人類を治療するのです。地球自身がかなり病んでいて、そのためミュータントという突然変異のグループを生み出してしまいました。彼らは言ってみれば、腫れと同様なのです。そんな地球には現在、独裁政権が控えています。このままでは再びミュータントのような異物を生み出していくでしょう。地球には治療が必要なのです。』
「系外惑星だって?」
代表の一人がつぶやいた。それは相当に困難なことだったからだ。
『みなさんは太陽系から出ることで、本当の治療薬となるのです。私の見通しでは、ホセは生存中に攻撃をしてくることはないと思われます。統一したとはいえ、それは困難なこと。その間にみなさんは探査し、火星から資源を確保していかねばなりません。そして恒星間航行を確立していかなければなりません。大変なことですが、私は全面的に協力します。』
イブの姿は消えた。そして再び会議に戻った。
クリスは代表たちのホログラフが落ち着くまで様子を見た。彼らも人間なので感情もあるし、動揺もする。しかしそれはすぐにおさまった。
「イブの予想では、ティムが開発したヒッグスレス発生装置と、ジョナサン粒子変換炉、ギガメタルなどの開発には時間を要するだろうということです。ヒッグスレス発生装置は、たとえば宇宙線の先端付近に設置することで船の質量は一時的に失われます。これはまだまだ改良しなければなりません。そしてジョナサン粒子変換炉はジョナサン粒子という半物質化したものを純粋にエネルギーに変換するもの。これによって長期の航行が可能になります。そしてギガメタルは、これこそ当分地球では開発不可能でしょう。純粋な真空状態の中で圧縮しなければなりませんし、そのためには核融合並みの装置が必要です。ギガメタルを船底にどう配置するかで疑似重力が確保できます。これは我々でも大変な作業になってきます。そのためにも火星に本部を置いての研究が必須です。そうですよね、ティム。」
「え?ああ、その通り。」
もうちょっと言えよと思ったが、クリスはそのまま続けた。
「鷹野希は、食料増産の方法を考え出し成功しています。それにはリサイクルが必須です。火星に施設を置いて、水を使わないでエネルギーのみで主食を作れるのです。その植物はオムニスヌトリティオで、クロレラを変異させたもの。これは船内でも作れますが、大量に作って圧縮しておけば相当に維持できます。そして・・・ここからはちょっとハードな内容になります。」
クリスはエメリッヒ・アードラーを指名した。
「私とエメリッヒ、そしてリンの3人でとことん協議しました。それは、意識と肉体を分け、機械となって航行する方法です。」
『え?どういうことだ?』
『意味がわからんぞ!』
代表から動揺が伝わってきた。あまりにも突飛なことだったからだ。クリスはしばらく黙り、そして続けた。
「これはあくまで、相当に長期航行をしなければならない場合、及び万が一戦争になった場合において有効な手段です。実はすでに、ヘンリーは意識のデータ化に成功していました。つまり、肉体をキープしておいて、意識のみをロボットや戦闘機に移し、長期航行や戦闘において人的損失を限りなく失わない方法です。そしてもしロボットに意識を移植した場合、食事はもちろん有機物質である必要はありません。しかもちゃんと食事をしたと思い込むことも可能なのです。戦闘においては、イブの子機を装備して併行して行うことができます。もし撃墜された場合、その瞬間に意識データは本体に移行し、戦闘時のデータのみ抽出して転用ができます。正直申し上げて・・・。」
クリスはリンをチラ見した。リンは軽くうなずいた。
「長期恒星間航行も、地球との戦闘も不可避だと判断されました。ここにいるリン・ジーミンとよく相談し、何回も予想していった結果です。しかし戦闘においては、勝利する必要はありません。地球に勝ったと思わせて、我々の時間を稼ぐだけです。リン、話してくれ。」
クリスからリンに変わった。リンは軽く咳払いして話し始めた。
「私は心理学的観点から、考えうる限りのシミュレーションを行いました。それをイブに変段してもらい、その結果がこうなりました。ロボットのボディで航行するなどとんでもないと、私自身がそう思いましたよ。しかし仕方がない。それに、この方法とコールドスリープの併用ができれば、平均寿命が300歳にまで伸びるのです。これをどう判断するかは、みなさん次第です。」
リンの説明は終わり、再びクリスが映し出された。黙って聴いていたシャルルが口を開いた。
「みなさん、どう思われますか。より原始的になりつつある地球に戻るか、それとも新しい未来に期待するか。」
しばらく間が空いた。そしてシャルルがまた言いかけた時、代表のひとりから発言があった。
『高天原の森安だ。我々も何度も話し合ってきた。色々な意見もあったが、最終的にはこのような結論に行きついた・・・我々はイブとクリス・サマラスを信じる。』
そして次々に代表たちは同調していった。
「森安さん、ありがとう。みなさんも各SⅬEで話し合われたことと思います。我々は現在でも努力し続けています。我々は選ばれた民です。未来に向けて進んでいきましょう!」
こうして全員の同意が得られた。そして新たな会議の席で、クリス・サマラスを筆頭に新たな組織『火星政府』の樹立を宣言した。クリスは初代大統領に就任し、リンは副大統領になった。
10
2350年、統一されたテラ帝国では、独裁に対する反発も多かった。ホセ皇帝は独裁帝国を建国したために、それは当然のことだった。特に反発が強かったのが、かつての大国ロシア、中国、そしてアメリカだった。帝国に従う地域も多かったのだが、大国をもう一度と願う地域では頑として認めなかった。
帝国の首都アスタナにある皇居では、ホセは常に動き回っていた。陰謀や戦力では圧倒できていても、雑草のような反発集団を抑えることは非常に困難だった。宗教も違い、歴史も違う地域をまとめることは尋常ではなかった。ホセはあれこれ指示を出しながらモニターの前に座って指示を出していたが、この日は疲れて自室で休憩していた。ソファに横になって、目を閉じた。
(しかしなんであんなに反発するんだ?)
ホセが帝国を起こしたのは、違った歴史を持つ多くの人種をまとめるには必要だと感じたからだ。世界連邦時代から、絶対的な権力を求めていたはずなのに、いざ添乗すると反発に回ってしまう。意味がわからなかった。
「陛下、副大統領がお見えです。」
「ああ、通せ。」
秘書管がアンソニーを中に入れた。アンソニーは相変わらずホセに臣従していた。副大統領として、戦場にも赴いたりしていたので、すっかり軍人っぽくなっていた。勲章だらけの軍服を着ていた。
「陛下、アンソニー参りました。」
「ああ・・・お疲れだ。そこに座ってくれ。どうだ、ロシアは。」
「・・・根強いですね。素直に従えば済むものを。」
アンソニーは執務室にあるソファに腰かけた。ホセは立ち上がって酒瓶に手を伸ばした。
「どうだ・・・飲むか?」
「いえ、これから今度はアメリカに飛びますので。」
「そうか・・・アメリカはどうだ・・・分裂しそうか?」
「もう寸前です。今や大小の政党だらけで、国としての体裁を成してはいないと思います。ですがあそこのまた、かつての栄光を捨てきれない民が多くおります。パックスアメリカーナがいまだに実現すると訴える政党支持者たちは手に負えません。」
ホセはブランデーを注ぎ、一気にあおった。
「くう・・・酒だけは裏切らんな。今のところ手はないか。」
アンソニーは少しため息をついて、ふと思いだしたように顔を上げた。
「そう言えば・・・妙な噂を耳にしました。」
「なんだ?」
「かつてミュータントが地球にいて、そのほとんどはSⅬEで火星と地球の間にいます。彼らとは何の交流もできておりませんが、何人かの者たちが彼らと話したと言うのです。彼らは追放されて50年以上経過しておりますが、全く何も変わっていないそうです。彼らをうまく扱えることができれば、ひょっとしたら統べることはできるかもしれません。」
「ミュータントを使う、だと?可能なのか?」
「わかりませんが、彼らは何も変わっていないということは、現状を曲げて伝えることも可能ではないでしょうか。つまり、地球連邦を脅かす勢力がいると・・・地球にも火星にも。」
ホセはアンソニーをじっと見た。かなり手詰まり感がある中で、これは打開策になるかもしれないのだ。
「ミュータントたちは、何も変わっていない・・・追放時の世界情勢しか知らないということか。その、連中とコンタクトできる者はすぐアクセスできるのか?」
「それは・・・はい、おそらくは。」
「よし、早速取り掛かってくれ。最優先だ。」
「わかりました。」
アンソニーは執務室を出て、自身専用の戦闘空母に乗り込んだ。これだけで陸海空に対処できる、飛行できる空母だ。副大統領の執務室でもあるので、アンソニーはすぐに対ミュータントのために人材を探し出した。
ヘンリー・ヤコブの遺産はすでに消去されていたので、アンソニーはコンタクトできると証言した者たちを集めるしかなかった。人数は7名ほどしかいなかった。アンソニーは彼らに訊ねた。
「君たちは、どんなことを感じたんだ?」
誰も反応しなかったが、ひとりだけ答えた。
「私はチベットのドマと申します。僧侶です。私たちはよく瞑想を行いますが、その際に何度も同じ風景が頭の中に入ってきました。それは大きい体育館ほどもある閉ざされた場所でした。そこには美しい白人の女性がいて、何か祈っておりました。他にも100名ほどの住人がいたように思います。」
「そうか・・・他の者はどうだ?」
皆うなずいていた。ほぼ同じ映像を見ていたようだ。アンソニーはドマに続けるよう促した。
「他に・・・そう、彼らは純粋だと感じました。」
「純粋・・・か。ドマ、彼らとコンタクトはできそうか?」
「わかりません。しかし、一度だけ・・・その美しい女性が私を見たように感じました。それがどういうことなのかはわかりません。」
それがどういう意味なのか、アンソニーはすぐに察した。彼らが見たのは間違いなくミュータントたちが住むSⅬEだ。ミュータントたちの思念は電磁バリヤーが弱ってきたためか、外部に漏れだしていたようだ。そしてドマのような感じやすい者たちと接し、ドマたちの存在に気がついたのだ。
「ドマ、君が感じた者は確かにかつて存在した者たちだ。だが、彼らは地上で神となろうとしたゆえに追放された。彼らは純粋だと言ったな。そこに我々への怒りはなかったのか?」
「怒り?それは感じませんでした。ただ生きているというだけで、邪悪さは微塵もなかったと思います。」
アンソニーはこの状況を考えた。ミュータントたちが彼らの存在に気がついたのなら、彼らの中にある世界を強調してやればいい。
「君たちは今現在、我が帝国の保護の元にある。しばらく君たちを調べることにする。悪いようにはしない。安心したまえ。」
彼らは一か所に集められ、そこで催眠療法が施された。現在帝国が問題視している地球の状況、及びSⅬEによる火星政府の問題を徹底的に『信じ込ませた』のだ。彼らがミュータントたちをアクセスした場合、この状況をそのまま捉えるだろう。アンソニーはホセに報告するために、執務室のモニター前に座った。
11
新大統領となったクリスは2346年にプランを発表した。それは次の通りだった。
①移住可能な惑星の探索。特にアルファケンタウリ方面に向けて。
②超大型移住船の建造
③コールドスリープと人体構成成分の保存、及び再生
④無人戦闘機及びコントロールシステムの構築
⑤火星での資源開発、特に水分とレアメタルなどの発掘
SⅬEには着陸機能はないので、これらの開発を行うためにまず取りかかったのは着陸艇の建造だった。これはEUのSⅬE内でドイツグループによって無人着陸艇が開発されていたので、そのまま活用することになった。最初の着陸時には、政府の全員が見守った。
着陸艇は帝国内の探査機がない場所のひとつであるカセイ峡谷に無事着陸した。そして当初の予定通りに、着陸艇自身を用いた簡易基地の建設にも成功した。
「よし。次はいよいよ人の着陸だが・・・最初は私が行こう。」
「え?大統領が?それは無茶です。」
「なぜだ?現在の我々にとって人的資源は貴重だ。実際に体験してみないと、今後のプランが全て無駄になりかねない。それに、イブもそう言っている。」
そう言われるとリンは何も言えない。仕方なく、10名ほどの探査チームが派遣されることになった。今回は火星からの離脱も行わなければならないので、離脱艇を内臓しての着陸だった。
着陸は慎重に計算され、地球歴2316年、初の人類自身による他惑星への着陸が行われた。そして無事に行われた。この時の多くのことが貴重なサンプルになった。チームはすぐに施設に入り、様々な機器も追加されて、どうにか人間が短期間居住できる環境を確保することができた。今後も多くの内容整備などを行わなければならない。
チームが行ったことは、その他に資源確保だった。チームはできるだけ峡谷内を探索していった。その結果、実に多くの金属資源を確保可能だと判明した。地下10m付近には水分も含まれていて、金属採掘と同時に水の確保も可能となった。チームはエメリッヒ科学省長官チームが主流なので、第一回探査は多くの重要な資源確保可能という業績を上げて終わった。
着陸と同時に行ったことは、ティム・アンドロス恒星間探査航行庁長官チームによる探査機の派遣だった。地球からでは観察できない場所でも、土星付近まで行かせられれば相当なデータを得ることができる。ティムはSⅬEの射出口からアンドロス望遠鏡を発射し、データを得て報告してきた。
「大統領、キャンディデイトは火星よりは居住できそうです。見事にハビタブルゾーン内にあって大気らしいものも確認できます。極論すればテラフォーミングも可能かもしれません。少なくとも、恒星間航行の基地には充分なりうるでしょう。」
「ティム、よくやった!あそこまでは4・3光年だったな。となれば、その前にどこかに居住基地を作る必要があるのではないか?」
「その通りです。土星までは300キロほどの距離です。すでに候補を天王星衛星オベロンに決めています。あそこは岩と水でできていますから、資源確保と外宇宙探索前線基地としては適当でしょう。ヒッグスレス発生装置も精度を上げますが、土星までは通常で行かないとダメです。数カ月は必要でしょう。その間のコールドスリープや管理コンピューターなどの開発も急務です。さらにアステロイドベルトや岩その他のデブリが多すぎます。ですからオベロンに前線基地を作ることを前提でプランを進めていきます。」
「頼む。地球ではかなり混乱しているようだ。彼らがいつ地球を脱出するのかわからん。彼らより先に我々は行かなければならない。」
急ぐのはそれだけではなかった。クリスの肉体は長く持たないことがわかっていたからだ。当然後継者も見つけなければならないが、基礎だけは確率しておかなければならない。さらに地球では、ホセ・ノーメンを認めない勢力があり、ややカオス状態になっていた。
混乱の元は様々だが、最も強く抵抗していたのはあのGBⅮだった。ホセが無宗教主義者の上に、各宗教原理者たちを徹底的に弾圧したために余計に抵抗していたのだ。往々にして権力者は他に共通の敵を作って、国を統べる傾向にある。油断しているといつ攻撃してくるかわからないのだ。
そしてすでに、建造中のSⅬEを密かに改造して、宇宙船として地球を脱出したグループもいるという知らせも入ってきていた。ドムンと言う名の惑星が発見されたという話も入ってきている。地球からの脱出はまだまだ続くかもしれない。そうなると帝国ノン狂暴性は増していく。猶予はない。
クリスは鷹野希に連絡した。
「希、進行具合はどうだい?」
『ああ、クリス。報告しようと思ってた。マウスで実験を繰り返していたんだけど、ついさっき再生に成功したよ!』
「再生?本当かい?」
『ええ。意識データをマウス用にキープしていて、マウスの肉体データでマウス生体成分と合わせてみたの。嫌になるくらい失敗したけど、やっとできた!だけど問題もある。再生しても長く生きられない。だから考えたの・・・ロボットに意識データのみ入れて、日常生活ができないかって。そうすればコールドスリープしていても、意識だけはずっと残るでしょ。後はそれをどう生身の肉体に移植するかだけよ。』
「なるほど・・・その発想はなかった。機械に日常生活をさせるわけだね。それなら確実に長期航行ができそうだし、うまくいけば生身では生きられない惑星でも調査は可能だ。ありがとう、希。」
『わたしの仕事だしね。』
「そうだな・・・私の仕事はどこまでできるのかな。」
作業は急ピッチに進められ、2348年火星政府はケンタウリ星系に向けて探査衛星を発射させた。
12
2350年、ホセの体調は最近思わしくなかった。過労に加えて、飲酒と贅沢な食事でさらに太ってきていた。皇帝権は絶大なので、医者は決して機嫌を損ねる言動はしなかった。その結果である。
ホセの忠実な側近、アンソニーでさえ近ごろでは少々老いを感じてきていた。以前のようなキレがなくなり、疲労が取りにくい。2人は会えばお互いの健康を話すようになってきていた。
「陛下、具合はいかがです?」
「良くはない・・・俺ももうすぐ75歳になる。長くはないだろうな。」
ホセは最低限の要件以外はほとんどベッドの上で過ごしていた。かなり太っていて、肌に艶がなくなっていた。帝位に就いた頃は元気で、頻発する抵抗勢力を調略と軍事力と経済力で圧倒していたものだが、最近はその元気がない。とりあえずアンソニーは皇帝代理として抑えてはいたものの、先行きは不安定な帝国だった。
「陛下の威光で帝国は安定するのです。ぜひお元気なお姿を民に見せてやってください。」
「アンソニー・・・お前しか頼れる者はいない。多くの者がここに仕えているが、腹を割って話せるのはお前だけだ。だからこそ、話しておきたい。」
「なにを・・・でございますか?」
ホセはベッドを少し起こして口を開いた。
「まず、お前の口からは聞いておらんが、地球から逃げ出した連中がいるそうだな。それほど俺の帝国が嫌なんだろうな。」
「お伝えするほどの事ではないと思いまして・・・あ奴らは火星政府と合流もしておりません。どこか遠方に行ったのでしょう。冷凍睡眠の技術も目覚ましい状況ですから。わが帝国でも火星政府との闘いが勃発した時のために、無人戦闘機や冷凍睡眠その他の開発にいそしんでおります。」
「それは知っている・・・だが、火星政府の連中は相当に切れる者たちを選んでいると聞く。我々の技術などもうすでにできあがっているのではないか?」
「その可能性はあります。あ奴らが我々の知らぬ間に速攻で火星まで行く技術を開発できていたことが現実です。それに、相当な指導力を持つ者も・・・。」
「クリス・サマラス、か。」
ホセはホログラフにクリスの画像を出した。SⅬE2世でもあり、データは若い頃の画像だけだ。端正で感情が全く見えないクリスの姿を見ながら、ホセはつぶやいた。
「火星政府内には地球にいたことがある連中もいるはずだ。奴らは決して地球を敵対視してはいない。それなのに、地球をほとんど知らない若者に全てを託すとは・・・どんなやり方なのだ?俺にはできんことだ。それから、ミュータントたちとの交流はどうなっている?GBⅮの過激派の動向も気になる。」
アンソニーはソファーに腰を降ろした。ホセの面前でこのようなことができるのは子Pの男くらいだ。
「近頃、腰が言う事を聞いてくれませんので・・・失礼いたします。」
「お前にも苦労かけるな。」
「とんでもございません。まずGBⅮですが、かなり抑えています。奴らの神ソロスはまず歴史がありません。新興勢力ならではの勢いはありましたが、しょせんその程度。各拠点を次々に潰しています。ミュータントとは、交流まではできておりません。奴らは我々を見ているだけです。それに、恐ろしいことですが、奴らの見た目は全く変わっていないそうです。加えて空気もない上に、食事も必要ないとのこと。」
「なに・・・それはまるで、ゴーストみたいじゃないか。」
「左様です。ただ、奴らの思念というものは少しずつ明確になってきているそうです。おそらく、SⅬEに装備されている電磁バリヤーが弱ってきているのでしょう。思念の漏れ出しが強くなってきています。奴らに火星政府を憎ませることは、まだまだできません。」
ホセはクリスの映像を消した。そして別の資料を出した。
「主治医以外に、俺は別医者に診察させている。その結果だ。」
「これは・・・陛下!」
「そうだ・・・胃癌だ。もうすでに転移している。もう長くはない。帝国医はまともな報告はしないはずだからな。手術もできん上に、ターゲットクラッシャー治療も無理だそうだ。多すぎてな。」
ホセは診断書を消し、別の映像を出した。森があり、海もある場所だ。」
「俺の故郷、スペインのカタルーニャだ。もう一度帰りたかったが・・・。」
ホセは苦しそうに動いた。すると横からアームが出てきた。水と鎮痛剤だ。ホセは飲み、深くため息をついた。
「アンソニー、次の帝位はお前に譲る。お前には子供もいただろう?継承させるがよい。俺には子はおらんのでな。」
「陛下・・・。」
「もう遺書は作っている。俺が死んだら、国民に示せ。そして、俺の死因は全て火星政府が悩ませたからだと言え。そうすれば帝国は安定する。反乱分子は全て、火星政府の手先だとしろ。それから・・・。」
ホセはアンソニーに近くに寄れと言い、アンソニーはその通りにした。
「お前も掴んでいるかもしれんが、アントニオ・ロドリゲスの野郎がまた画策している。奴らはロシアやGBⅮを引き入れようとしている。間もなく帝国は地球を統一する。だが・・・そうだな、2,3年後に反乱が起きるだろう。奴らにも火星の手先だというレッテルを張れ。火星政府の人間の証言だとな。いいな、必ずやれ。」
「陛下・・・わかりました。仰る通りにいたします。」
ホセは言うと安心したようにベッドに深く身を埋めた。鎮痛剤も効いてきたようだ。
「思えば・・・ヌエストラ・ティエラの頃は面白かった。多くの裏切者を粛清してやれたからな。そして何よりも情熱があった。お前は・・・なぜずっと俺についてきてくれたんだ?」
「陛下・・・単純な答えです。あなたには敵わないし、それに好ましかったからにすぎません。あなたについていければ、私はそれだけで良かった。」
「お前は全てを投げうって尽くしてくれた。一切の疑念はなかった。だからこそ、最後の願いを聞いてほしい。」
「・・・何なりと。」
「俺が死んだら、俺の人形を民に見せるようにしろ。だが、俺自身は人知れず埋葬してくれ。墓もいらん。余計で面倒なことが増えるだけだ。いいな。そして、俺が死ぬ前に遺書を公開しろ、不満を抜かす連中は全員粛清だ。お前は優しい・・・それが命取りになりかねん。やるんだぞ!」
「陛下・・・。」
「わかったら・・・もういい。1人にさせてくれ。」
アンソニーは静かに去っていった。ホセはIFPの特殊回線に繋いだ。
「ああ・・・俺だ・・・いいな、アンソニーが失敗したら・・・そうだ。遠慮はいらん。頼んだぞ。」
ホセが繋いだのは、ヌエストラ・ティエラ時代から育ててきたアサシングループの頭だった。
「俺がいたから、こいつらがいたから、アンソニーはやれたんだ・・・荒れるな。」
そしてこの日から2か月後、稀代の英雄ホセ・ノーメンは死んだ。そして火星政府も、ケンタウリ星系アルファの状態を観察することができた。
ホセの死後、本人が懸念していた通りに皇位継承問題が起こった。そして各地で紛争が起こり、そのさ中にアンソニー皇帝は謎の死を遂げた。
13
クリス・サマラスはイブの部屋にいた。量子コンピューター自体は熱に弱いので部屋自体は相当に冷やしている。クリスはホログラフで会話していた。
「クリス、まだ体力はもちそうですか?」
「イブ、かなり無理がきていますね。あなたのおかげで無事そうには見えていますが。」
「仕方ないですよね。ヘンリーの遺伝子と共に、私の遺伝子も入っていますから。ミュータントとしての力は弱くても、生身の肉体には負担が大きい。しかしあなたは、もうその覚悟はできていますから。」
「それはもう。そして、私の意識データはあなたの中に残るようになっています。来るべき時代において、私の遺伝子がどう復活するのか楽しみです。幸い、アンドロイドへの意識データ移入も問題なくなりました。後はアンドロイドの脳内操作のみです。」
クリスはホログラフの中のイブをじっと見た。
「あなたを見ていると、つくづくそう思うのですよ。いずれ私も、このように誰かの前に現れるのかな、ってね。」
「これは伝えていませんでしたね。私も自己改造しているのですよ。」
ホログラフは消え、部屋の中は昔の地球の家になった。
「イブ、これは?」
「あなたの意識にアクセスしたの。私はずっと意識について計算してきたんだけど、行きついたのは量子もつれだった。そこのシンクロをどうすればいいのかが課題だったけど、やっとあなたにはできるようになってきた。ここは、私とヘンリー、そしてハンナの家なのよ。」
クリスの服は、かつてヘンリーが着ていたスーツ姿になっていた。そして目の前にはイブがいた。クリスの前には紅茶があり、クリスは飲んだ。
「紅茶だ・・・すごいね、イブ。味覚まで再現できるのかい?」
「あなただからできるのよ。シンクロ率が高いから。こうしていると、ヘンリーとくだらないことばかり話していたことが蘇るわ。ヘンリーはね、私と話す時には意識してそうしていたみたいね。あの人は大変な課題を抱えていたんだけど、私とハンナの前ではいつも普通のお父さんだった。あなたにも、ヘンリーの優しさがあるはずよ。」
「ハンナは、会ったことはありませんね。姿を見せることはできるんですか?」
「できるけど、やらないほうがいい。だってね、意識を知れば知るほど、迂闊なことはできないなってわかるの。あなたがいない時だけ、私はハンナと話してる。」
「それはひょっとして、ミュータントのことと関係あるんですか?」
イブは少しだけ間を置いた。
「ええ、その通りよ。ミュータントのSⅬEはまだちゃんと軌道を回っているし、電磁バリアが低下して彼らの思念が漏れ出してきている。ミュータントたちの思念はね、私も計算できない。宇宙の誕生を知るのと同じくらい未知の部分が大きい。そしてあなたもミュータントの遺伝子Ⅿを有している。ミュータントたちがいつあなたと接触しないか心配なのよ。現に、彼らの思念は地球人類にも影響を与えているの。過激な宗教集団が暴れているし、ホセ・ノーメンが亡くなって大混乱している。ミュータントたちの思念の中には、自分たちを地球から追放させたヘンリーへの憎悪もある。もし彼らの思念が何らかの因子で繋がったら脅威でしょ?」
クリスはイブをじっと見て、そして紅茶を飲んだ。
「うまいな・・・そうか・・・私の生体寿命が終わるまでには何とかなると思いますか?」
「たぶんね。ホセの遺言で、テラ帝国はミュータントと接触して私たちを攻撃しようとしている。でも、ミュータントと接触することは本当に大変。だから、時間は大丈夫。あと100年くらいはね。」
「そうか、ならばいい。ケンタウリのアルファ自体は観測できましたが、我々が住むには不適格でした。まず水がない。それで、天王星の衛星を拠点としてケンタウリを系外惑星探査の拠点とします。ティムの話だと、そこから割と近くにあるはずだそうです。連星ですからね、あそこは。連星は近くに大きな重力があることが多い。ヒッグスレス発生装置の性能もかなり向上しているし、必要な資源も確保できつつあります。おそらく私の生存中に戦争は起こらないと思いますので、まずは天王星を目指します。それから、我らの星・・・
ノストラパディアを探します。」
イブは笑みを浮かべて、クッキーを勧めた。
「ヘンリーが好きだったのよ、これ。そうね、あなたはもう後継者は決めているの?」
「私には仲間たちがいます。私が選ぶと割れる危険性が高い。それで、もし帝国と戦争になった場合において、最も優秀な者を選び、トップとします。それまでは合議制でいかなければ彼らのためにもなりません。」
「そうね。それがいいと思います。それにおそらく、言語も名前もラテン語になってくるでしょうからね。まだあなた方は民族を多少とも引きずっている。それが混在した時点で新しい人が誕生するでしょう。もちろんその人には、ヘンリーの遺伝子は入れない。ヘンリーはあなたで事実上終わり。その方がいい。」
「そうですね。それでは私はそろそろ、仕事に戻ります。」
「それじゃあね、クリス。」
部屋の景色は元に戻り、クリスは部屋を出て行った。そして3年後、クリス・サマラスはその生涯を終えた。遺言により、全ての肉体は分子に分解保存され、意識データはイブが管理することになった。
14
2354年、テラ帝国の混迷は極めて深刻だった。ホセほどのカリスマはそうそう出現しない上に、ミュータントたちとの接触によってより混乱していた。陰謀と混乱と大小の紛争によって地球の人民は相当数が飢餓状態に陥る状況だった。
この混乱の時期を収束させるのは、3045年にアーキム・ムフタールの登場まで待たなければならない。およそ150年もの間、地球は混迷し、大小の勢力が独自で政治を行っていた。
そして火星政府では、副大統領だったリン・ジーミンの呼びかけによって、当初クリスが集めたメンバーが集まっていた。エメリッヒ・アードラー科学省長官、ガブリエル・ベルナール言語文化省長官、ティム・アンドロス恒星間航行開発局長官、鷹野希言語文化食料開発省長官の4人にリンを含めた中枢メンバーたちだ。他にクリスの秘書をしていたピーター・ノエルもオブザーバーで参加していた。
「みんな、ありがとう。各々の部署で大変な時なんだが、クリスがいなくなった我々は、今後どうしていいのかを早急に決めなければならない。リモートでは漏れやすい。そのために君たちの意見を訊きたい。それに何よりも君たちは、クリスの意思を受け継いでいる。他の者たちも納得してくれるだろう。」
メンバーたちも年齢が50歳を超えていたりしていた。希などは事実上引退している。
「まあ、リンの言う通りだ。しかしここは重力が火星に合わせてあるね。おかげで体が軽いよ。」
まず反応したのはエメリッヒだった。ギガメタルの管理や恒星間航行用のコールドスリープや駆動の開発、ヒッグスレス装置の開発など業績は皆が尊敬するところだ。
「エメリッヒのおかげで我々はタイミングさえ合えば、クリスが提唱していた系外惑星探査に乗り出せる。そして何よりも、ここ火星でこんなに快適に暮らせるようになるとはね。」
「そこは希の功績だろう。火星でも穀物栽培を可能にしてくれたんだからな。」
「エメリッヒ、ありがとう。もう何がなんだか全くわからないまま、クリスの想いだけでやってきた、ただそれだけよ。」
全員が知っていたのだが、希はクリスに惹かれていた。だがクリスにはヘンリーとイブから与えられた使命があったので、結ばれることはなかった。だが最近になって、同じ日本人と結婚してもいた。
「確かに、まさか火星でできるとはね。地下水脈の発見も大きかった。エメリッヒのおかげで水の圧縮技術ももうすぐ完成しそうだ。」
「リン、そのことだが、新たに判明したことがある。オールト雲まではヒッグスレスでは航行できない。そこまではデブリが多すぎてね。だから水の圧縮は必須だ。コールドスリープを活用しないといけないんだが、そこで今取り組んでいるのは管理ОSの開発とアンドロイドの完成だ。」
「ティム、アンドロイドは必要なのかい?」
「俺は必要だと思うよ。なくてもいいんだが、もし意識データを作れてアンドロイドに移植できたんなら、事実上恒星間航行で肉体は必要なくなる。例えばここでコールドスリープしていて、アンドロイドだけで探査もできるようになるかもしれない。そしてその時のアンドロイドの記憶も感情も移植できるようになれば、もうそれだけで十分じゃないかな。」
ティムの説明はメンバーに大きな影響を与えた。この発想はなかったのだ。この方法なら確かに旅をしたのも同然だ。植民惑星の探査に余裕ができる。
「ティム、さすがだ。ちょっとここで、クリスに訊いてみよう。」
リンはイブへのコンタクトコールをした。まだクリス以外ではイブと直接会話はできない。しかしクリスの意識データにならアクセスできる。ホログラフが現れ、若い頃のクリスの姿が映し出された。
『やあみんな、揃っているね。嬉しいよ。』
「クリス、今の我々は歳とっているんだよ。その姿はどうかと思うよ。」
『リン、それが仕方ないんだ。まだ完全に条件をクリアできていないんでね。それで、僕を呼び出した理由はなんだい?』
リンは会議の説明をした。
『うん、全く問題ない。君たちを選んだことを誇りに思うよ。』
「それではこのプランで進めるよ。」
『ああ、そうだ。ガブリエル、ラテン語の件はどうなっている?』
「やあクリス。現在は自前の量子コンピューターにラテン語を組み込む作業をしている。なにせほとんど死語になっている言語だ。修正が大変でね。そして間もなく、我々に睡眠教育ができるようになるよ。」
『そうか。それでいい。統一した言語で我々は一体化できる。そして君たちの意識データも順次取り込まれる。なぜなら、君たちこそ我々が到達すべき惑星、ノストラパディアの基礎となるからだ。楽しみだな。それでは、このくらいでいいかな。まだ意識を持っていられる時間が少ないんだ。』
「ありがとう、クリス・・・あ、希が話したいそうだ。」
『ああ、希。元気かい?』
「クリス・・・また会えるのよね?」
『ああ、ここでね。』
「じゃあその時に、一番言いたかったことを言うわ。それだけ覚えていてね。」
『わかった。それじゃあな、みんな!』
クリスの姿は消えた。リンはメンバーに伝えた。
「最後に・・・火星政府の大統領は、今は私だ。だが生前にクリスが言っていたことなんだが、我々の意識データがイブに取り込まれた時から、大統領なんてのは必要なくなると思うんだ。なぜなら、我々は今後地球人類ではなくなる。地球を引きずらなければならなかったから、クリスと私が大統領を引き受けた。だがもうそれも必要ない。我々は人類から脱皮して植民惑星を探し、その時に新たな代表が誕生するだろう。それまでは、我々とクリスの意識データが時々現れて、軌道修正したりアドバイスすると思う。どう思うかね?」
誰も異論はなかった。多少の違いはあれど、全員がそうなるだろうと予想していたからだ。リンは会議を解散して、各自が戻るべき部署に戻っていった。火星の赤い大地は、彼らの今後を見守るように見えた。
太陽系外に進出するにあたって、自分ではまず完全に地球から独立しなければならないと考えました。その結果、火星政府という存在にいきついたわけです。SⅬEに選別された人類の多くは科学者たちでしたので、彼らは火星に高度な環境を構築できました。しかしいずれは地球と対決しなければならないと判断し、ヘンリー・ヤコブの意思もあって火星からも出ていくことになります。




