天才少女たちの推し活~~異世界召喚された俺、なぜかフィクション扱いされて悲鳴を浴びる
明日から始まる高校生活。名門・帝凰学園。最初は諦めていた。けど、応援してくれる依織ともハルカのお陰で、なんとか奨学金を勝ち取れた。
維持するには弛まぬ努力が要求されるだろう。でも、それ以上に――今は嬉しい。
部屋の扉を開け、最高の一日を始めるはずだった。
……ハズだったのだ。
だが、扉の向こうは見たことのない世界で、少女たちが俺を囲んでいた。
「き、きた……!」
眼の前の少女が息を呑む。眼鏡越しに零れ落ちそうな瞳を限界まで見開き、次の瞬間――
「きゃああああああっ!!」
耳をつんざく悲鳴。
え、なに? だれ? 誘拐? 俺なにか間違えた? 完全にパニック状態だ。目の前の少女は、泣きそうな顔で俺を指さしてんだけど。
「ま、待って! 落ち着いて! 俺、何も――」
言い終える前に、左右に控えていた少女たちまで一斉に距離を詰めてきた。
「本物……本物だ……」黒髪の少女は美術品でも鑑賞するかのような感想で。
「やばい、成功しちゃったよ……」ツインテールの少女は呆然と言った。
「ねえ、見て! この目元のほくろ! 挿絵通り……」
口々に言う。
挿絵? 何を言っているんだ。
他人に指を刺されるのは気まずい。混乱のまま、視線を落とすと床には歪んだ円陣があった。黒板にチョークで書いたみたいな線が、石畳に焼き付いている。
不意に、冷たい風が吹き込んだ。顔を上げると、小さな窓が天井の高い部屋にいくつもついている。
窓の外には、赤色の月が二つ。
……うん、これ、俺の世界じゃないな。
異常事態だと理解した瞬間、背筋が凍る。背後には少女たちの気配――俺を見ている。
「お、お前ら……誰だよ。ここ、どこ――」
「あなたは」
ツインテールの少女が、拳を握って言った。目は異様に爛々と光っており、俺の言葉が通じているとは思えない。
「トウジョウ・スズ様、ですよね?」
たしかに、俺は東城すずだ。個人情報を握られている?どのみちごまかしようがない。頷いてみせると、隣のメガネの女――最初に俺に悲鳴を上げた女だ――が俺の手を取り食い気味にいった。
「わ、わたしっ、アルヴィラ・アムールといいます!! ぜ、ぜひ、アルとと、読んでください! その、名前で呼ばれるの……私、ずっと……っ」
アルが俺の手に触れた瞬間、ツインテの子の肩がピクリと跳ねた。ブルブルと震え、次の瞬間にはアルの手を引き剥がして吠えるように言った。
「スズ様はハルカ様以外とそういう空気にならないのよ! そこ、崩したら全部終わるの!」
「カミリー。訂正を要求する。イオリとハルカ以外、である。 原作第21話を忘れたか?」
なんでこいつらが二人の名前を知っているんだ!?
「おい、なんでイオリとハルカの名前を、」
俺は思はず、黒髪の少女のにんまりとした不気味な笑みに固まった。少女はアル、カミリーと呼ばれた少女たちに向かって誇らしげに言う。
「聞いたか? やはり僕は正しかった! イオリと、ハルカ! イオリが先なのだ!!」
「だまりなさいエデラ!! あんたの妄想を打ち砕く根拠なら原典に死ぬほどあるのよ!!」
「ふ、ふたりとも落ち着いてっ」
もはや俺の存在を忘れたかのように、取っ組み合いになる少女たち。
「おい、どういうこと――」
「――いい加減になさい。 私が協力したときの条件を忘れたの?」
奥から、ひときわ小柄な少女が現れた。存在にすら気づいていなかったのに、第九に見合わぬ圧倒的な威圧感を放ち、その場の全員が彼女の次の言葉を待った。
「貴方を召喚したのは――貴方の持つ、聖なる治癒の力、あなた達の言葉で、超能力を使ってもらうためよ」
冷酷な目。明らかに俺を対等な人間として見ない目で彼女は言った。
「あっ、ち、わ、わたしは違いますから!」「私だって!」「僕も違うよ!」
「そうね、その三馬鹿は違うけど……私は、貴方を必要としているの。 協力しないというのなら」
ゆらりと、彼女を取り巻く空気が殺気へ変わる。
さっきまでもみくちゃになっていた三人の少女は、俺を守るように前に出た。だが、不安そうに振り返り、自信なさげに手を握りしめている。
「ご、ごめんなさい。いきなり巻き込んで、驚くかもしれないけど、イオリ様は――」
「……原典だ」
エデラが、淡々と口を挟んだ。
「イオリは原典に登場する人物。君の世界の人間じゃない。――この世界の物語の登場人物だ」
「は?」
俺が声を漏らすと、エデラは視線を床の魔法陣へ落とした。
「僕らが改造した召喚は、実在じゃなく概念に触れる。だから呼べた。――あなたを」
「な、なにをいって……」
「ち、違うの、怖がらせたいわけじゃ……!」
アルが慌てて割って入る。
「スズ様は、この世界で……本当に本当に有名で……古典で……。だから、私たち、推しを――」
どうしたら俺に伝わるのか、途方に暮れてた彼女は、もっと端的に言うことにしたらしい。
「……あなたは、ここではフィクションなの」
「フィクション? 超能力? お前らは、なにいっってんだ……?」
アルは地に頭をこすりつける勢いで、リーダー格らしき女に向き直った。
「も、申し訳ありまんせん、フリージア様! スズ様はっ」
アルを無視して、フリージアは俺をみた。絶望を宿し、わなわなと震えながらも、威厳を宿した振る舞いで最後の確認をした。
「――答えなさい。 あなた、今物語のどこにいるの」




