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プロローグ
雨は細く、終わりのない線のように降り続いていた。
街は灰色ににじみ、すべてがぼやけて見える。
男は歩きながらネクタイを直した。
整ったスーツ、雨で濡れた革靴、手にはブリーフケース。
通りはほとんど無人だった。
遠くの車の音と、雨音だけが響いている。
背後の足音に、彼は気づかなかった。
黒ずくめの男が二人。
黒いジャケット、黒い手袋、黒いスキーマスク。
そのうちの一人が拳銃を持ち上げる。
冷たい金属が、男の後頭部に押し当てられた。
彼は凍りついた。
ブリーフケースが手から滑り落ち、濡れた地面に鈍い音を立てる。
二人の男は何かを怒鳴り始めた。
短く、荒々しい言葉。
声が重なり、焦りが混じる。
しかし雨がすべてを飲み込んだ。
言葉は聞き取れない。
まるで水の中にいるようだった。
男は何か言おうとする。
声が震える。
怒鳴り声が強まる。
そのとき――
赤と青の光が、濡れたアスファルトに反射した。
通りの角から、パトカーが近づいてくる。
二人の男は同時に振り向いた。
一瞬、時間が止まる。
そして――
銃声が雨を切り裂いた。
男は前のめりに倒れ、地面に崩れ落ちる。
サイレンの音が近づく中、二人は闇の中へ消えた。
雨は、ただ降り続けていた。
何事もなかったかのように。




