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転生したら錬金術が得意な貴族家の女の子でした  作者: 双葉アリア
第二章 アトリエ開業編

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83話 行き交う日々、整わぬ拠点

行き交う日々は、思っていた以上に慌ただしかった。


「……また、ですか?」


思わず漏れた声に、


「はい。本日三往復目になります」


リリアが、いつも通り落ち着いた声で答える。


「……三回目……」


視線を落とすと、足元には運びかけの木箱。

中身は、錬金用の素材や器具が詰め込まれている。


視線を上げれば、少し離れたところで――


「それ、こっちにまとめるんだっけ?」


「いや、そっちは生活用品だろ。こっちが工房用」


メルとカイルが、手際よく荷物を仕分けていた。


言い合いではなく、確認しながら進めているだけ。

……ただ、声が少し大きい。


「これも一応、そっち?」


「それは微妙だな……あー、いや、工房だな」


「了解。じゃあこっちに」


……うん、ちゃんと進んではいる。


「……エレノア様」


隣で、リリアが小さく息をつく。


「このままでは、日が暮れる前に終わりません」


「……そうだよね」


分かってはいる。

けれど――


「……一回、整理し直そうか」


そう言いかけた、その時。


「――おい」


低く落ち着いた声が、会話を遮った。


振り向くと――


日向に寝そべっていたはずのノエルが、いつの間にかこちらを見ている。


「積み方が甘い」


短く、それだけ告げて。


「そのまま運べば、途中で崩れるぞ」


「……あ」


思わず足元の木箱を見る。

確かに、上に乗せたものが少し不安定だ。


「……すみません」


慌てて持ち直すと、


「謝る前に直せ」


淡々とした返答。


けれど、その声音はどこか落ち着いていて。


「……はい」


自然と頷いていた。


「あと」


ノエルは一度だけ視線を巡らせてから、


「そっちの二人」


ぴたりと、メルとカイルに向ける。


「ん?」


「どうした?」


「運ぶ前に分けろ」


一言。


「混ぜたまま動かすな。二度手間になる」


「……あー、確かに」


「先に仕分け切った方が早いな」


二人は顔を見合わせ、あっさりと頷いた。


「……すごいね」


思わず呟くと、


「事実を言っただけだ」


ノエルはそれだけ言って、再び目を閉じる。


まるで、最初からそこにいたかのように。


「……助かりました」


小さく礼を言うと、返事はなかった。


けれど――


(ちゃんと見てくれてるんだよね)


そう思うと、少しだけ肩の力が抜けた。


「エレノア様」


「うん?」


「次の便ですが――」


リリアが手元の紙を確認しながら言う。


「この後、市場に向かう予定となっております」


「……市場?」


「はい。不足している生活用品と、簡易家具の追加購入を」


「……ああ」


言われてみれば、思い当たる。


運ぶことばかりに意識が向いていたけれど、

新しい拠点で“使うもの”も揃えなければいけない。


「……そっか」


ぽつりと呟く。


「まだ、“運ぶ”だけじゃ足りないんだね」


「はい。“整える”段階に入っております」


その言葉に、少しだけ実感が追いつく。


ただ移すだけじゃない。


ここから――


“形にしていく”んだ。


「……よし」


小さく息を整える。


「この分を終わらせたら、市場に行こうか」


「かしこまりました」


「市場か、ちょうどいいな」


「必要なもの、まとめて買っちゃいましょ」


メルとカイルも自然に頷く。


「遊びじゃないからね?」


「分かってるって」


「ちゃんと働くわよ」


……たぶん。


「……はぁ」


小さく息をつきながらも、


少しだけ――


さっきより軽い気持ちで、

私は次の木箱に手を伸ばした。


石畳を踏む音が、軽やかに響く。


王都の市場は、今日も変わらず賑わっていた――はずだった。


「……すごい人」


思わず呟いた、その直後。


「――道を空けてください」


低く、よく通る声が前方に響く。


同時に、人の流れがすっと割れた。


「……やっぱり目立つよね」


護衛たちが進む道を整える。

その中を通ると――


視線。


あちこちから向けられる、強い興味と驚き。

そして、わずかな警戒。


中には、小声で噂する者もいた。


「すげー護衛だな」


「おい! あれって噂のセレスティア伯爵じゃないか?」


「噂通り子供なんだな……」


「でも、あの護衛の数……普通じゃねぇぞ」


ひそひそと交わされる声が、耳に届く。


「……」


一瞬だけ、足が鈍りかける。


けれど。


「気にするな」


すぐ隣から、低い声。


ノエルだった。


「見られる立場だ」


短く、それだけ。


「……うん」


小さく頷く。


守られる立場。

そして――見られる立場。


「エレノア様」


リリアが、さりげなく一歩だけ近づく。


「進みましょう」


「……うん」


その一言で、足が自然と前に出た。


周囲の視線は消えない。


けれど――


立ち止まる理由も、もうない。


「……買い物、するんだもんね」


「はい。本日の目的は物資の調達です」


「……だよね」


小さく息を整える。


護衛に囲まれながら。

人々の視線を受けながら。


それでも――やることは変わらない。


「……行こうか」


その一歩に合わせて、護衛の隊列も静かに動いた。


整えられた道を、まっすぐ進む。


少しだけ背筋を伸ばして。


“いつも通り”を装いながら。


けれど――


(……ちゃんと、やらなきゃ)


そんな意識が、胸の奥に灯っていた。


再び歩き出し、市場の奥へと進む。


人の流れは少し落ち着き、代わりに漂う匂いが変わる。


乾燥した葉の香り。

根や樹皮の、わずかに苦みを含んだ匂い。


「この辺りですね」


リリアの声に頷きながら、視線を巡らせる。


そして――


「……あ」


見覚えのある店先が、目に入った。


整えられた薬草の束。

丁寧に並べられた瓶。


間違いない。


「ここ、いつものところだ」


そう呟いた、その時。


「――あら?」


柔らかな声が、店の奥から聞こえた。


ゆっくりと姿を現したのは、白髪の女性。


「まあ……久しぶりねぇ」


目を細め、優しく微笑む。


名前を呼ぶことはない。


けれど――


ちゃんと、覚えてくれている。


「……お久しぶりです」


自然と、少しだけ声が柔らかくなる。


「元気にしてた?」


「はい」


短く答えると、


「それならよかったわ」


ほっとしたように頷いた。


そして、視線がゆっくりと周囲へ向く。


護衛たち。


「……まあ」


少しだけ驚いたように目を丸くしてから、


「ずいぶんと、立派なお付きの人たちねぇ」


くすりと、優しく笑った。


「……ちょっと、色々あって」


曖昧に返すと、


「ふふ、そういうことにしておきましょうか」


それ以上は踏み込まない。


ただ、受け入れるような穏やかさ。


「でも、来てくれて嬉しいわ」


その言葉に、少しだけ肩の力が抜ける。


「……私も」


小さく呟いてから、店先へと目を向ける。


「いつも通り、見てもいいですか?」


「もちろんよ」


優しく頷く。


「好きに見てちょうだい」


その一言で――


空気が、少しだけ変わる。


“見られる場所”から、

“いつもの場所”へ。


そっと、薬草へと手を伸ばす。


「……これは、新しいですね」


指先で触れ、香りを確かめる。


「昨日入ったばかりよ」


「状態もいい」


「ええ、今年は出来がいいの」


嬉しそうに目を細める。


「……こっちは」


別の束を手に取り、少しだけ眉を寄せる。


「少し乾燥しすぎてますね」


「あら、やっぱり分かるのねぇ」


くすりと笑う。


「この時期は難しくて」


「湿度が安定しませんから」


穏やかなやり取りが続く。


「これと、これ。それから――」


「はいはい」


おばあちゃんは、ゆっくりと、けれど正確に取り分けていく。


急かす様子もなく。

けれど、無駄もない。


「(……やりやすい)」


自然と、そう思う。


「――長く居すぎるな」


ふと、護衛の声。


「……あ」


顔を上げると、人の流れが少し滞っている。


「……ごめんなさい、まとめます」


「あら、気にしなくていいのに」


そう言いながらも、手は止めない。


「全部で――これくらいよ」


支払いを済ませ、袋を受け取る。


「……また来ます」


「ええ、いつでもいらっしゃい」


変わらない笑顔。


「待ってるわ」


「……はい」


自然と頷き、店を後にする。


次に向かったのは、食器を扱う店だった。


棚に並ぶ皿やカップを前に、足が止まる。


「……種類、多い」


「用途が違いますからね」


リリアが淡々と説明する。


「スープ用、主菜用、デザート用――」


「……全部いる?」


「必要になります」


即答だった。


「……増えた」


「増えますね」


三度目である。


「これとかどう?」


メルが手に取ったのは、花柄の皿。


「可愛いですね」


「だろ?」


「ただ――」


リリアが静かに口を開く。


「同一の意匠で揃える必要があります」


「……戻すね」


即座に棚へ戻された。


やり取りの中で、少しずつ選別していく。


――が。


「……あれ?」


ふと気づく。


「同じのばっかり選んでる」


並ぶ皿は、ほぼ同じもの。


「統一感はありますね」


「ありますね」


「あるね」


全員一致だった。


「……でも、区別つかなくない?」


その一言で、空気が止まる。


「……確かに」


結論は早かった。


そして――


分ける。

増える。


「……増えてない?」


「増えてますね」


結果だけが、静かに確定した。


「全部で、これくらいか」


まとめられた量は、どう見ても多い。


「……運べる?」


「任せろ」


カイルが動こうとした、その時。


「――お持ちいたします」


護衛が一歩前に出る。


次の瞬間。


周囲の護衛たちが無駄のない動きで荷物を運び始めた。


あっという間に。


「……終わった」


「早っ」


「……すごいね」


「任務ですので」


短い返答。


そして――


「……あ」


「……私、一個も持ってない」


一拍。


「……護衛ですから」


「任せておけ」


「楽できたね!」


「……うん」


手ぶらのまま、頷く。


「(……買い物、した気がしない)」


「……では、戻りましょうか」


リリアの一言で、帰路につく。


市場の喧騒を抜け、通りへ出ると馬車が待っていた。


乗り込めば、すぐに動き出す。


揺れは少なく、滑るような進行。


「……便利だね」


「護衛が道を確保していますので」


納得するしかない。


やがて――


屋敷へ到着する。


「――搬入を開始します」


その声と同時に、荷物が次々と運び出される。


「……あれ?」


思わず呟く。


「こんなにあった?」


「ありましたね」


「いっぱい買ったもんね!」


「……」


運び込まれていく箱を見つめる。


増えていく量。


そして。


「――配置はどうされますか」


護衛の問い。


「……これ、全部……?」


「はい」


当然のような返答。


屋敷の中へ視線を向ける。


広い。


けれど――


「(……大変なの、これからじゃない?)」


じわりと現実が押し寄せる。


「エレノア様?」


「……うん」


小さく頷き、歩き出す。


「……とりあえず、中見ようか」


そう言ったものの。


背後では、まだ運び込まれ続ける箱、箱、箱。


「(……終わるのかな、今日)」


小さな不安は――


しばらくして、現実のものになるのだった。

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― 新着の感想 ―
国がすごく大事にしてくれるのはいいけど、すごく息苦しい環境だね。
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