表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したら錬金術が得意な貴族家の女の子でした  作者: 双葉アリア
第一章 幼少期編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

88/97

77話 慌ただしい一日、過剰な護衛

陛下から伯爵位を賜ってから五日が経過し、七歳の誕生日も無事に迎えたある日のこと――。


私はいつも通り、王城へ納品するポーションに加え、港湾都市バレンシア用の強力解毒ポーションの作製に追われていた。


「一気に千五百本は、さすがにキツいよ……」


「俺も手伝ってますから、頑張りましょう……」


「はわわわ……! 忙しいです!」


「さ……さすがに休憩しませんか……?」


今までは私一人でも十分に作れていた。

しかし、一か月にわたって私からの納品が止まっていた影響で在庫が不足しているうえ、港湾都市バレンシアへ納品する強力解毒ポーションの作製依頼まで舞い込んできた。


その結果、メル、カイル、リリアの三人を加えた四人体制で作製を行う事態となっていた。


王城からも、オスバルト伯爵様からも――


「申し訳ない……無理のない範囲でいい」


そう言われてはいるのだが……。


「そんなこと言われても断れるわけ無いじゃん!」


思わず叫んでしまった私に、三人は苦笑いを浮かべた。


「エレノア様……声、大きいです……」


リリアが慌てて周囲を見回す。

とはいえ、ここは屋敷の錬金工房。多少騒いだところで問題はないのだが。


「でも、本当に大変ですよね……千五百本ですもん……」


カイルはそう言いながら、調合台の横で薬草を細かく刻んでいる。

その手つきはすでに慣れたもので、最初に比べればかなり安定していた。


「メル、次のビーカーお願い!」


「はわっ! ま、任せてください……!」


メルは大きなビーカーの前で、ぐるぐるとかき混ぜている。

魔石を組み込んだ加熱装置の上で、ビーカーの中の薬液が淡く輝いていた。


「温度安定してます! あと三分で魔石投入のタイミングです!」


「了解!」


私は別の調合台で材料を量りながら頷く。


薬草、蒸留した水、そして魔石。

順番を一つでも間違えれば、ポーションはただの濁った液体になってしまう。


「カイル、その刻んだ薬草こっち!」


「はい!」


受け取った薬草をすぐにビーカーへ投入する。


すると――


ふわっ。


ビーカーの中で淡い緑色の光が広がった。


「おお……!」


カイルが思わず声を上げる。


「成功ですね……!」


「まだまだだよ」


私はビーカーの様子を確認しながら、次の工程に入る。


「ここから魔石を入れて……」


小さな魔石をビーカーへ落とすと、液体の色がゆっくりと変化していく。

淡い緑から、透明感のあるエメラルド色へ。


「攪拌速度上げて!」


「はいっ!」


メルが必死にかき混ぜる。


その間にも、別のビーカーでは次のポーションが仕上がり始めていた。


「リリア、瓶の準備!」


「はい!」


リリアは机の上に並んだガラス瓶を素早く並べていく。

そして、完成した液体を慎重に注ぎ込む。


とくとくとく……


透明な瓶に、美しい緑の液体が満たされていく。


「強力解毒ポーション、十本完成です!」


「よし! 次のビーカーいくよ!」


私は額の汗を袖で拭いながら、次の材料へ手を伸ばした。


……しかし。


机の横に積まれた木箱を見て、思わず遠い目になる。


まだ空の瓶が、山のように積まれていた。


「……あと何本だっけ」


「えーと……」


カイルが手元の紙を確認する。


「残り、千三百七十本です」


「…………」


工房の空気が一瞬止まった。


そして――


「終わる気がしないんだけど!!!」


私の悲鳴が、屋敷の錬金工房に響き渡ったのだった。


とはいえ――


叫んだところで本数が減るわけでもない。


「はいはい! 手を止めない!」


私は自分で自分に言い聞かせるように声を上げた。


「メル、温度維持!」


「は、はいっ!」


「カイル、薬草の刻み追加!」


「了解です!」


「リリア、瓶の補充お願い!」


「い、今やります!」


工房の中は、すでに完全な作業場と化していた。


調合台の上にはビーカーがずらりと並び、

淡く光る薬液が静かに揺れている。


薬草の香りが部屋いっぱいに広がり、

攪拌の音とガラス瓶の触れ合う音が絶え間なく響いていた。


「よし……このビーカー完成!」


私は液体の色を確認すると、そっと瓶へ注ぎ込む。


とく、とく、とく……


「強力解毒ポーション、十本!」


「次いきます!」


メルがすぐに新しいビーカーを差し出す。


私は手際よく材料を投入する。


薬草。


蒸留水。


順番どおりに入れ、攪拌し、温度を調整する。


「カイル、薬草!」


「はい!」


刻んだ薬草を受け取り、すぐに投入。


ふわり、と緑色の光が広がる。


「いい感じ!」


私はすぐ次の作業に移った。


そうして――


どれくらい時間が経っただろう。


リリアが手元の紙を見ながら言った。


「エ、エレノア様……」


「ん?」


「えっと……残り本数なんですが……」


私は嫌な予感しかしなかった。


「……いくつ?」


「ちょうど千本です」


「まだそんなにあるの!?」


思わず机に突っ伏しそうになる。


「休憩しましょうか……?」


カイルが心配そうに言う。


だが私は首を横に振った。


「だめ……今止まると、たぶん再開できない……」


この作業は勢いが大事だ。


一度止まると、気力が一気に消える。


「このまま押し切る!」


「了解です!」


「は、はい!」


三人もすぐに動き始める。


そのときだった。


――コンコン。


工房の扉がノックされた。


「エレノア、いるか?」


聞き慣れた声。

お父様だ。


さらに扉の向こうから、重い鎧の音が聞こえる。


ガシャッ……

ガシャッ……


どうやら騎士団の人も一緒らしい。


「エレノア、少しいいか?」


お父様がもう一度声をかける。


だが――


私はビーカーから目を離さず叫んだ。


「今ちょっと無理!!」


工房の中は完全に作業モードだった。


「カイル、薬草追加!」


「了解です!」


カイルが刻んだ薬草を素早く渡してくる。

私はそれをビーカーへ投入する。


ふわり、と淡い緑の光が広がった。


「いい感じ……!」


その横では――


「メル! 次の薬草まだ!?」


「い、今やってます……!」


メルは必死に薬草を洗い、選別していた。

泥や傷んだ葉を取り除き、調合用に整えていく。


さらにその隣では――


「リリア、瓶の補充お願い!」


「は、はい!」


リリアは机の上に空の瓶を次々と並べていく。

作業台の端には、すでに何十本もの完成したポーションが整然と並んでいた。


「よし……このビーカー完成!」


私は液体の色を確認し、慎重に瓶へ注ぐ。


とく、とく、とく……


「強力解毒ポーション、十本!」


「次いきます!」


カイルがすぐに新しいビーカーを差し出した。


工房の中では、四人の作業が流れるようにつながっている。


薬草の下処理。

調合。

瓶詰め。

補充。


その作業を延々と繰り返していた。


「次、いくよ!」


「了解です!」


「は、はい!」


三人もすぐに動き始める。


そのときだった。


――扉の向こうから、お父様の声が聞こえた。


「……エレノア?」


どうやら中の騒ぎに気づいたらしい。


だが私はビーカーから目を離さず叫んだ。


「今ちょっと無理!!」


「……何をしているんだ?」


扉の向こうで騎士たちがざわつく。


「工房の中……光ってますが……」


「まさか魔法実験では……?」


しかし私はそれどころではない。


「あと千本あるのーー!!」


工房の中が一瞬静まり返る。


そして扉の向こうで――


お父様がぽつりと呟いた。


「……入っていいのか?」


私は即答した。


「だめ! 今入ると困る!!」


ビーカーがずらりと並ぶ錬金工房は、今まさに修羅場だったのだから。


「カイル! 薬草!」


「はい!」


「メル、次の下処理終わった?」


「い、今です!」


「リリア、瓶補充!」


「はいっ!」


作業は止まらない。


ビーカーへ薬草を入れ、攪拌し、魔石を投入し、色を確認する。

完成した液体を瓶へ移し、次の調合へ。


同じ作業を、何度も何度も繰り返す。


気が付けば――


工房の床には、完成したポーションの箱がいくつも並んでいた。


「あと……」


カイルが紙を確認する。


「残り三十本です!」


「見えてきた……!」


私は最後のビーカーを見つめながら言った。


「メル、最後の薬草!」


「はいっ!」


薬草を投入する。


ふわり、と淡い緑の光が広がった。


「温度安定!」


「攪拌維持!」


「瓶、準備できてます!」


三人の声が次々と飛ぶ。


そして――


最後の液体を瓶へ注ぐ。


とく、とく、とく……。


私は瓶の色を確認し、深く息を吐いた。


「……完成」


一瞬、静寂が工房を包む。


「強力解毒ポーション――千五百本、完成!!」


その瞬間。


「終わったぁぁぁ……!」


私はその場にぺたりと座り込んだ。


「つ、疲れました……」


「腕が……」


「指が……」


メル、カイル、リリアの三人も机に突っ伏している。


時計を見ると――


作業を再開してから、すでに三時間が経過していた。


工房の中には、完成したポーションの箱が山のように積み上がっている。


「……これ、全部?」


カイルが呟く。


「全部」


私は短く答えた。


そのときだった。


――コンコン。


扉が再びノックされた。


「エレノア、もう入っていいか?」


お父様の声だ。


私は椅子にもたれながら答えた。


「……どうぞ」


ガチャ。


扉が開く。


そこに立っていたのは、お父様と数名の騎士だった。


そして、その後ろには――


見慣れない二人の人物。


一人は鎧を身に着けた若い騎士。

もう一人は、ローブを纏った女性の魔導士。


二人は一歩前へ出ると、姿勢を正した。


「近衛騎士団所属、アランです!」


騎士の青年が力強く名乗る。


続いて、隣の女性が静かに頭を下げた。


「元魔導士団所属、ミィナと申します」


私は椅子に座ったまま、首をかしげた。


お父様が軽く咳払いをする。


「エレノア。今日来てもらったのは、この二人を紹介するためだ」


「紹介?」


私はますます首をかしげる。


すると、お父様は少し真面目な顔になって言った。


「この二人は、王城から派遣された」


「……?」


「エレノア付きの護衛だ」


「…………え?」


思考が止まる。


「え?」


もう一度言ってしまった。


アランとミィナは、同時に一礼する。


「今後、外出の際の護衛を担当いたします」


「屋敷内の警備も、我々が担当します」


私は二人とお父様を交互に見た。


「……?」


頭の中に浮かぶのは、疑問符だけだった。


「……なんで?」


私の率直すぎる一言に、その場の空気がわずかに止まった。


すると、お父様が小さくため息をつく。


「エレノア……お前は自分の立場をもう少し理解した方がいい」


「立場?」


私が首をかしげると、騎士の青年――アランが一歩前へ出た。


「エレノア様は現在、セレスティア伯爵です」


「うん」


「そして王族の命を救った功績者でもあります」


「……うん?」


アランは真面目な表情のまま続けた。


「さらに、王国にとって極めて重要な錬金術師です」


「そうなの?」


思わず聞き返してしまう。


すると今度は、隣に立つ女性――ミィナが静かに説明した。


「はい。非常に重要です」


ミィナは工房の中を見渡した。


ビーカー。

薬草。

そして――


山のように積まれたポーションの箱。


「これほどの量のポーションを短時間で作れる錬金術師は、王国内でもほぼ存在しません」


カイルが小さく呟く。


「確かに……」


リリアもこくこく頷いている。


ミィナは静かに続けた。


「つまりエレノア様は、国にとって非常に重要な存在です」


「へぇ……」


私は素直に感心した。


「それに――」


今度はアランが口を開く。


「そのような存在は、狙われやすい」


「……?」


「他国、犯罪組織、あるいは貴族間の権力争い」


アランの声は真剣だった。


「エレノア様を手に入れようとする者、利用しようとする者は必ず現れます」


私はしばらく考えた。


そして――


「……そうなの?」


その場にいた全員が固まった。


お父様が額を押さえる。


「そうなのだ」


アランも真顔で頷く。


「そうです」


ミィナも静かに言う。


「かなり狙われやすい立場です」


「……えぇ?」


私は工房を見回した。


ビーカー。

薬草。

ポーションの山。


そして疲れ果てている三人。


「でも私、今ポーション作るので忙しいんだけど……」


思わず本音が出る。


するとお父様が軽く咳払いをした。


「安心しろ」


「?」


「護衛は二人だけではない」


「……え?」


アランが姿勢を正した。


「我々は、王城から派遣された護衛部隊の者です」


ミィナも続ける。


「本日より、この屋敷の警備とエレノア様の護衛を担当します」


私は目をぱちぱちさせた。


「部隊?」


お父様が頷く。


「外出時の護衛、屋敷周辺の警備、移動時の警護」


アランが説明する。


「今後は我々の部隊が担当します」


ミィナも一礼した。


「すでに屋敷の外には部隊の者が配置についています」


私はしばらく沈黙した。


そして口を開く。


「……そんなに?」


「そんなにです」


アランが即答する。


「とてもです」


ミィナも続ける。


私は少し考えてから言った。


「……とりあえず」


二人は顔を上げる。


「ポーション運ぶの手伝ってくれる?」


工房に沈黙が落ちた。


そして――


アランがぽつりと呟く。


「……護衛とは」


ミィナが小さく言った。


「……力仕事だったのでしょうか」


こうして――


王城から派遣された護衛部隊は、初日からポーション運搬を手伝うことになったのだった。


その後も、ポーションの納品、バレンシアへの出発準備、そして護衛部隊との調整などで、屋敷はしばらく慌ただしい日々が続くことになる。


けれど――


それらの出来事も、今となっては少し懐かしい思い出だ。


なぜなら。


――あれから二年の月日が流れたのだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ