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転生したら錬金術が得意な貴族家の女の子でした  作者: 双葉アリア
第一章 幼少期編

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閑話 寝落ちの光景

月明かりが深い夜空を照らす頃――

書斎で書類仕事をしていた私は、机の上に置かれた小さな時計を見て驚いた。


「しまった……もうこんな時間か」


時計は既に1時を回っており、屋敷内は寝静まっていた。


「これ以上は明日に差し支える……そろそろ寝るとしよう」


ランプを消し、廊下へと出て自室へ歩き始める。

途中、厨房で湯冷ましの水をコップに注ぎ、飲み干す。

そして自室の廊下へ向かおうとしたとき、エレノアたちの部屋から明かりが漏れているのに気づいた。


「こんな時間まで起きているとは……錬金術の研究かな?」


エレノアの部屋の扉をノックし、応答を待つ――

だが返事はなく、寝静まった空間特有の静寂だけが支配していた。


「エレノア! 入るぞ!」


そう告げて部屋に入ると、エレノアとメルは既にベッドで眠っていた。


「なるほど……寝落ちか……」


明かりを消そうと魔道具に触れると、エレノアのベッドから青白い光が漏れていることに気づいた。


「おや……こんなところに照明なんてあったかな……」


エレノアを起こさないよう光源を辿ると、薄い板状のものが光を放っているのがわかった。


「なんだ、これは……」


板状のものには、見たこともない文字がびっしりと羅列されている。

指で触れると、文字は動きと共に別のものへ切り替わった。


私はその不思議なものに、ひとつ心当たりがあった。


「これは……もしや、影が報告していた魔道具か……?」


私はその板状の魔道具を注意深く観察し始める。


「ふむふむ……指の動きで操作できるんだな……」


いろいろ触っていると、鉄砲魚に関する調査記録が記されたものが表面に表示された。


「確かに絵にしては精密すぎる……」


絵と思われるものに詳細に記された鉄砲魚の生態。

どれも私にとって興味深かった。


しばらく板状の魔道具を見ていると、後ろから気配を感じた。


「女の子の寝込みを襲うのは感心しないわね」


「ミストルティン様……」


振り返ると、そこにはこの魔道具を譲った神族――

ミストルティン様が立っていた。


「あちゃー、エレノアったら小説見ながら寝落ちしちゃった感じかな?」


「小説……これのことですか……?」


「そ! それのこと!

厳密に言えば、そのタブレットで最初に見ていたであろうもののことだけどね」


そう言いながら、私はミストルティン様にタブレットを手渡す。


「ミストルティン様……この魔道具は一体……?」


「うーん……これ、言っていいのかな……」


ミストルティン様は少し困ったような表情で、悩み始めた。


「神族のルールとか、そういうものに反する内容なんですか……?」


「というより、エレノアが秘密にしている内容だからなー」


「エレノアの秘密……?」


「うん……私個人的にはあなたになら教えてもいいんだけど、エレノアは嫌がりそうだからね……」


そう言って、ミストルティン様は眠っているエレノアの方へ視線を向ける。

小さく寝息を立てながら、ベッドの上で静かに眠っている娘の姿。


その様子を見て、私はしばし考え込んだ。


確かに、エレノアには時折――年齢に似つかわしくないほどの知識や発想がある。

錬金術にしても、これまで見たことのない発想や理論を当たり前のように口にすることがあった。


だが、それを問いただしたことはない。

あの子には、あの子なりの事情があるのだろうと思っていたからだ。


私はゆっくりと息を吐く。


「……なるほど」


そして小さく頷いた。


「エレノアが秘密にしていることなら、無理に聞き出すつもりはありません」


そう告げると、ミストルティン様は少し驚いたように目を瞬かせる。


「おや?」


「ですが……」


私は声を潜め、ミストルティン様へ視線を向けた。


「もしそれが、あの子の身に関わること――あるいは、あの子を守るために知っておくべきことなのであれば……」


少しだけ間を置き、静かに続ける。


「私は父として知っておきたい」


部屋には、エレノアとメルの寝息だけが静かに響いている。


「もちろん――他言無用にします」


私は真っ直ぐミストルティン様を見つめた。


「父としての誓いです」


「……なら、教えてあげる」


ミストルティン様は小さく息を吐き、静かに口を開いた。


「エレノアはね、この世界とは違う世界の住人だったの。

ここみたいに魔法なんて存在せず、空想上の技術だと思われている世界のね」


その言葉に、私は一瞬言葉を失った。


だが、すぐに思い当たる節が頭をよぎる。

あの子の時折見せる知識や発想――そして、この不思議な魔道具。


「……転生者、ということですか……?」


私の問いに、ミストルティン様はゆっくりと頷いた。


「そう。前世の記憶を持ったまま、この世界に生まれたの」


静かな声だった。

だが、その言葉は重く、部屋の空気に静かに沈んでいく。


「前世の……記憶を……」


私は思わず、ベッドで眠るエレノアへ視線を向けた。

あどけない寝顔。


だが思い返せば、あの子の知識や発想は、確かに普通ではなかった。

錬金術の理論、見たこともない道具の発想、そして――この魔道具。


「……なるほど」


私は小さく呟き、再び手元の板状の魔道具へ視線を落とす。


「では、この魔道具も……」


「そう」


ミストルティン様は軽く肩をすくめた。


「それはエレノアの前世の世界の道具。

向こうでは“タブレット”って呼ばれてるものだよ」


「タブレット……」


聞き慣れない言葉だった。


だが、この精密な絵や文字の表示、指の動きで操作できる仕組み――

どれも、この世界の魔道具とは明らかに違う。


「本来なら、この世界には存在しない技術なの」


ミストルティン様は、眠るエレノアを見ながら静かに続ける。


「でも、あの子は前世の知識を持ってる。

だから、こういう物を理解できるし……使うこともできる」


部屋の中には、エレノアとメルの穏やかな寝息だけが響いていた。


私はしばらく黙ったまま、タブレットを見つめる。


そしてゆっくりと息を吐いた。


「……なるほど」


視線を再びベッドへ向ける。

そこには、ただ静かに眠る娘の姿があった。


「だからあの子は……あれほどの知識を……」


私が呟くと、ミストルティン様は小さく肩をすくめた。


「まあ、全部が前世の知識ってわけじゃないけどね。

あの子自身の努力もかなり大きいよ」


そう言いながら、ミストルティン様は私の手の中にあるタブレットへ視線を向ける。


「それに、そのタブレットを渡したのも理由があるんだ」


「理由……ですか?」


「うん」


ミストルティン様は軽く頷いた。


「エレノアの前世の世界にはね、この世界とは全然違う学問や技術が山ほどあるの。

化学とか、生物学とか……まあ、この世界の人には少し難しい概念なんだけどさ」


そう言いながら、タブレットの画面を指で軽く操作する。

鉄砲魚の生態が表示された画面が、ゆっくりと動いた。


「だから思ったの。

あの子の前世の知識と、この世界の錬金術が合わさったら――」


ミストルティン様はそこで少し言葉を区切った。


「きっと、この世界にとって大きな意味を持つ力になるってね」


その言葉は、どこか意味深だった。


だがそれ以上は語らず、ミストルティン様は軽く笑う。


「まあ、難しいことは置いといて。

せっかく前世の知識を持って生まれてきたんだし、それを錬金術に生かしてほしいなって思ったの」


「それで、このタブレットを……」


「そ。

前世の知識を思い出したり、調べたりするのに便利だからね」


私は手元のタブレットを静かに見つめた。


確かに、この精密な図や文字。

そして、指の動きで自在に操作できる仕組み。


どれも、この世界の技術では到底再現できないものだ。


「……なるほど」


私は静かに頷いた。


「確かに、あの子なら――それを錬金術に生かすこともできるでしょう」


ミストルティン様は満足そうに笑う。


「でしょ?」


そして視線をベッドへ向ける。


そこでは、エレノアとメルが何も知らずに穏やかな寝息を立てていた。


「まあ……本人はそこまで深く考えてないと思うけどね」


小さく肩をすくめながら、ミストルティン様はそう呟いた。


しばらく静かな時間が流れる。


やがてミストルティン様は、ふと思い出したようにこちらへ視線を戻した。


「あ、そうだ。ひとつ忠告」


「忠告……ですか?」


「うん」


ミストルティン様は人差し指を立てる。


「エレノアの関係者――例えば家族とか、あの子の近くで支える人たちには教えてもいいよ」


その言葉に、私は少しだけ驚く。


だが次の言葉は、どこか悪戯っぽい調子だった。


「ただし――エレノア本人にバレないようにね」


「……え?」


思わず聞き返すと、ミストルティン様は苦笑した。


「だってあの子、このこと秘密にしてるでしょ?」


そう言って、眠るエレノアをちらりと見る。


「本人としては、“前世の記憶がある”なんて知られたら色々面倒だと思ってるみたいだからさ」


私は静かにベッドへ視線を向けた。


そこには、いつも通りの――

ただの娘の寝顔がある。


「……なるほど」


小さく頷く。


「父として、その秘密は守りましょう」


そう言うと、ミストルティン様は満足そうに笑った。


「うん、それが一番いいと思う」


そしてタブレットをそっとエレノアの枕元へ戻す。


青白い光は静かに弱まり、やがて消えた。


部屋には再び、月明かりと二人の寝息だけが残る。


「それじゃ、私はそろそろ帰るね」


ミストルティン様はそう言うと、ふっと姿を消した。


静寂が戻った部屋で、私はもう一度エレノアの寝顔を見る。


「……前世、か」


小さく呟き、そっと毛布をかけ直した。


「どんな秘密があろうとも――お前は私の娘だ」


それだけを胸に、私は静かに部屋を後にした。

バレンシア編で一気に進めすぎた感があるので少しずつ閑話を混ぜていきます。

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