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[毎日更新中]転生したら錬金術が得意な貴族家の女の子でした  作者: 双葉アリア
第一章 幼少期編

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閑話 帰る前の小さな思い出

バレンシアに来て、まもなく一ヶ月。

鉄砲魚の調査も一通り終わり、街の騒動もすっかり落ち着いていた。


市場には再び鉄砲魚が並び、港にはいつもの活気が戻っている。

あれほど慌ただしかった日々が、まるで遠い出来事のように感じられた。


私は窓の外に広がる海を眺めながら、小さく息をついた。


穏やかな波がゆっくりと岸へ打ち寄せ、太陽の光を受けた水面がきらきらと輝いている。


しばらくその景色を眺めていると――


「海を見てどうしたのー?」


ミストルティン様が声を掛けてきた。


「綺麗な海も、明後日で見られなくなるのかと思って……」


私たちは明後日には王都へ戻ってしまう。

思えば黒鴉商会の件や調査、治療に追われ、観光する機会はほとんどなかった。


「なら、思い出作りに海に泳ぎにいく?」


ミストルティン様のその提案に――


「いいわね!」


「行きたいです!」


「俺、海で泳いでみたい!」


アメリアお姉さまやメル、カイルもすぐに賛成した。


「でも、騎士がいっぱい来るし、海水浴どころじゃないんじゃ……?」


「いいじゃねぇか! 俺も久々の海水浴、楽しみだぞ!!」


後ろを振り返ると、すでに準備万端のアル様の姿があった。


アロハシャツのような上着に短パン、そしてサングラス。


「……アル様?」


思わず声をかけると、アル様は得意げに腕を組んだ。


「どうだ、この完璧な海水浴スタイルは」


「準備が早すぎませんか……?」


私が呆れたように言うと、アル様はにやりと笑う。


「海と聞いた瞬間に着替えてきたからな!」


その様子に、アメリアお姉さまがくすりと笑った。


「本当に楽しみにしていたのね」


「当然だろ。海水浴なんて久しぶりだからな」


カイルも興味津々といった様子でアル様を見ている。


「それ、海に入るときも着るの?」


「いや、それは脱ぐに決まってるだろ」


そんなやり取りを見ながら、メルが少し心配そうに口を開いた。


「でも……本当に行くんですか? 騎士の方たちが大勢ついてきますよね……」


「そこが問題なんだよね……」


私たちが外出すると、なぜか大勢の騎士がついてくる。

海水浴ができるのかという疑問があった。多分、陛下の配慮だとは思うが、少々やりすぎのような気もしていた。


「多分、大丈夫じゃないか?」


アル様が気楽そうに言う。


「ついてきても特に問題ないし、いいんじゃない?」


「うーん……」


私は少し考え込む。


確かに護衛がいるのは安心だが、海水浴となると話は別だ。

浜辺に騎士がずらりと並んでいたら、さすがに落ち着かない気もする。


「まあ、まずは騎士の方たちに話してみましょう」


そう言って、私は立ち上がった。


アメリアお姉さまも軽く頷く。


「そうね。伝えないまま出かけるわけにもいかないもの」


「よし、それじゃ決まりだな」


アル様は満足そうに言いながら、さっさと歩き出した。


「早く行こうぜ。海が待ってるんだからな!」


その勢いに、私たちは思わず顔を見合わせる。


「アル様、気が早すぎます……」


メルが小さく呟いた。


それでも私たちはその後を追い、建物の外へと向かった。


廊下を抜け、階段を下りていく。


外へ出ると、港町特有の潮の香りを含んだ風が頬をなでた。


青空の下、遠くにはきらきらと光る海が見える。


その景色を横目に見ながら、私たちは門の方へ歩いていった。


門の近くには、いつものように数人の騎士が警備に立っている。


外出する時には、まずここで声をかけることになっていた。


私は歩みを緩めながら、門の前へと近づいた。


「エレノア様! どちらへお出かけでしょうか?」


「バレンシア滞在の思い出に、海水浴へ行こうかと思いまして……」


騎士にそう告げると――


「了解しました! 第一小隊、護衛準備!!」


……やっぱりこうなるのね。


結局、騎士を大勢引き連れて砂浜へとやってきた。


まずは着替えをしようと、有料の更衣室の受付へと向かった。


「お待ちください! エレノア様、先に安全確認をさせていただきます!」


「はい……?」


騎士はそう言うと、女子更衣室内に客がいなくなったことを確認した後、数名で中へ入っていった。


その様子にアメリアお姉さまとメルが首を傾げていると――


「お待たせしました! 室内の安全が確認されましたのでお使いください!」


「あ……ありがとうございます」


混乱しつつも、更衣室に入り着替えをした。


着替えを終えて更衣室の外に出ると、潮の香りを含んだ風が頬を撫でた。


目の前には青く広がる海と、白い砂浜。

波が静かに打ち寄せ、太陽の光を受けて水面がきらきらと輝いている。


「わぁ……」


思わず声が漏れた。


バレンシアに滞在している間、港や市場には何度も来ていたけれど、こうしてゆっくり海を見るのは初めてだった。


「綺麗ですね」


隣に出てきたメルも、海を見つめながら微笑んだ。


「本当ね。こんなに穏やかな海を見るのは久しぶりかもしれないわ」


アメリアお姉さまも穏やかな表情で頷く。


……けれど。


視線を少し遠くへ向けると、水平線の近くに数隻の船が見えた。


よく見ると、それは王国海軍の軍艦だった。


「……あれって」


「王国海軍の巡視船ですね」


すぐ近くに立っていた騎士が真面目な顔で答える。


「エレノア様が海に入られると聞き、念のため周辺海域の警戒を行っております」


「そ、そうなんですね……」


私は苦笑いを浮かべた。


そしてさらに視線を近くへ戻すと――


砂浜から少し離れた海の上に、小さなボートが浮かんでいた。


その上には、鎧姿の騎士たちが数名。


しかもこちらをじっと見ている。


「……あのボートは?」


「近距離護衛です!」


騎士が胸を張って答えた。


「エレノア様が海で何かあった場合、すぐ救助できる体制を整えております!」


……徹底してるわね。


私は小さく息をついた。


「まあ、安全なのはいいことよ」


アメリアお姉さまがくすっと笑う。


「それにしても、ずいぶん大がかりね」


「本当ですね……」


メルも苦笑いしていた。


私は砂浜の上に立ち、軽く肩を回した。


「それじゃあ、まずは準備体操をしましょう」


いきなり海に入るのは危ないと、前に本で読んだことがある。


腕を回し、体を伸ばし、足首を軽く動かす。


メルも隣で同じように体を動かしていた。


「エレノア様、意外と真面目ですね」


「怪我をしたら大変ですから」


そう言って、私はもう一度腕を大きく伸ばした。


準備体操を終えると、砂浜をゆっくり歩いて海へ向かう。


足先が水に触れると、ひんやりとした感触が伝わってきた。


「冷たっ……!」


思わず声が出る。


けれど、少しずつ慣れてくる。


波が足元を優しく撫でていった。


私はそのまま、ゆっくりと海の中へ入っていく。


膝まで、腰まで、そして胸のあたりまで水に浸かる。


「気持ちいい……」


海水は思っていたよりも澄んでいて、足元の砂まで見える。


太陽の光が水の中で揺れていた。


「エレノア様、泳ぎますか?」


メルが楽しそうに聞いてくる。


「はい、少しだけ」


私は軽く息を吸い込み、体を前へ倒した。


水の上に体が浮く。


そしてゆっくりと腕を動かし、海の中を進んでいった。


水をかくたびに、ひんやりとした海水が体を包む。


波の揺れも心地いい。


私は少しだけ沖の方へ泳いでいった。


すると遠くでは王国海軍の船が静かに海を見守っている。


そしてすぐ近くには、例のボート。


騎士たちが真剣な顔でこちらを見ていた。


……なんだか、すごく見守られている気がする。


私は思わず苦笑しながら、もう一度水をかいた。


青い海の中を、ゆっくりと泳いでいく。


バレンシアで過ごす最後の時間は、穏やかな波の音に包まれていた。


しばらくの間、私たちは海で遊んだ。


ゆっくり泳いだり、波に身を任せたり、時にはメルと水をかけ合ったり。


「メル、そっち行きますよ!」


「えっ、ちょっと待っ――きゃっ!」


ばしゃっ、と水しぶきが上がる。


「もう、エレノア様!」


メルが笑いながら水をかけ返してくる。


そんなやり取りをしていると、アメリアお姉さまもくすくすと笑っていた。


遠くでは王国海軍の船が静かに海を見守り、近くでは騎士たちの乗ったボートが一定の距離を保ちながらついてきている。


……見守られているのは少し恥ずかしいけれど、それでも海はとても気持ちよかった。


やがて十分に遊び終えると、私たちは砂浜へ戻った。


「楽しかったですね」


メルが髪の水気を軽く払いながら言う。


「ええ、本当に」


私はそう言いながら、もう一度海の方を振り返った。


青い海は相変わらず穏やかで、波の音が静かに響いている。


「さて、そろそろ戻りましょうか」


アメリアお姉さまが言う。


その前に――


砂浜の近くに並んでいる屋台の方から、いい匂いが漂ってきた。


焼いた魚の香ばしい香りに、揚げ物の香り。


「……少し何か食べていきませんか?」


私がそう言うと、メルの目がぱっと輝いた。


「いいですね!」


私たちは屋台の並ぶ海の家の方へ向かった。


簡単な木造の建物の前には、いくつかの屋台が並んでいる。


焼き魚の串や、揚げた魚の軽食、パンに挟んだ簡単な料理などが売られていた。


「これ、美味しそうですね」


メルが指差したのは、揚げた魚をパンに挟んだ軽食だった。


「じゃあ、それを三つお願いします」


私がそう言うと、屋台の店主はにこやかに頷いた。


しばらくして渡されたそれは、揚げたてでまだ温かい。


「いただきます」


一口かじると、外はさくっとしていて中はふわっとしている。


「美味しい……」


思わず声が漏れた。


「本当ですね」


メルも嬉しそうに頷く。


アメリアお姉さまも上品に一口食べて、微笑んだ。


海風を感じながら食べる軽食は、なんだかいつもより美味しく感じる。


少し休憩した後、私たちは屋敷へ戻ることにした。


帰り道、振り返ると海は夕方の光に照らされていた。


バレンシアで過ごす時間も、もう残りわずか。


明後日には王都へ戻る。


けれど――


今日のこの穏やかな時間は、きっと忘れないと思った。

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