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転生したら錬金術が得意な貴族家の女の子でした  作者: 双葉アリア
第一章 幼少期編

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73話 王国の要請、毒の町⑳

屋敷襲撃から一週間が経過した。

あの事件が公表されると、市民たちは戦慄し、非難の矛先は黒鴉商会の関係者へと集中した。

それまで別荘の前で抗議をしていた人々も、態度を一変させる。

むしろ、驚くほど協力的になっていた。


「エレノア様! 本日獲れた鉄砲魚です!」


「ありがとうございます! 後ほど調査しますね!」


今では港に立っているだけで、漁師たちが自発的に鉄砲魚を持ってきてくれるようになった。

そのおかげで、それまでとは比べものにならないほど調査の速度が上がっている。


「陛下の声明が、市民の皆さんの意識を変えたのかもしれませんね」


隣で資料をまとめていた騎士が、そう呟いた。


「そうですね!」


私は頷きながら答える。


事件の発表と同時に、陛下は異例とも言える声明文を発表していた。


――バレンシアにとって、故郷の味は大切にしなければならない。

だが同時に、これまで以上に安全に口にすることができるよう、現在調査を進めている。

完了するまでの間、どうか派遣されている調査団への協力をお願いしたい。


この声明は、想像以上に市民の心に響いたようだった。


港には、次々と漁師たちが魚を持ってきてくれる。

中には、わざわざ沖で獲れたばかりのものを届けてくれる人までいた。


「これで調査もだいぶ進みそうですね」


騎士が周囲の木箱を見回しながら言う。


私たちの足元には、すでにいくつもの箱が積まれていた。

どれも調査用として預かった鉄砲魚だ。


「はい。皆さんのおかげです」


私は港に集まっている人たちへ軽く頭を下げる。


漁師たちは少し照れくさそうに笑った。


「気にしないでくれ、エレノア様」


「俺たちだって怖いんだよ」


「子どもたちにも食わせる魚だからな」


その言葉を聞いて、私は小さく頷いた。


「必ず原因を突き止めます」


そう言うと、漁師の一人が力強く言った。


「頼んだぜ、錬金術師様!」


港に、どっと笑い声が広がる。

先日までの重苦しい空気が嘘のようだった。


――だが。


「エレノア様」


隣にいた騎士が、小さく声を落とした。


「屋敷に戻ったら、これらはすぐ調査に回しましょう」


「ええ、そうですね」


私は頷く。


足元に積まれた木箱の数は、すでにかなりの量になっていた。

これだけの数があれば、何かしらの傾向が見えてくるはずだ。


黒鴉商会の件は終わった。

ここからは鉄砲魚の調査を一気に進める時間だ。


「そろそろ別荘へ戻りましょう」


「わかりました」


こうして私たちは別荘へ戻り、調査を開始することになった。


別荘へ戻った私たちは、厨房を借りて調査を開始した。

漁師さんたちからいただいた鉄砲魚は、木箱にして十箱ほどの量になっている。


「まずは、大まかな特徴ごとに分けましょう!」


私の声に、騎士やメルたちが頷いた。


「了解です!」


「任せてください、エレノア様!」


机の上に魚を並べ、種類や大きさ、状態ごとに仕分けていく。


二時間ほどかけて作業を続けた結果――


厨房の机の上には、いくつものグループが出来上がっていた。


「……こんな感じですね」


メルが額の汗をぬぐいながら言う。


私は出来上がった仕分けを見渡し、小さく頷いた。


「ありがとうございます。ここからが本番ですね」


ようやく、調査の準備が整った。


「じゃあ鑑定を開始しますね」


私はそう告げ、鉄砲魚に意識を集中させる。


しばらくして、一匹を手に取りながら口を開いた。


「これは食べちゃいけないみたいですね。かなりの強毒をもっています」


そう言って、別の山へと移す。


続けて別の個体を手に取る。


「こっちは似た特徴ですが、食べても大丈夫そうです。ただ……結構見分けが難しそうなので、やめておいたほうがいいかもしれません」


「なるほど……」


騎士が腕を組みながら魚の山を見つめた。


「つまり、見た目では判断できないということですか?」


「はい」


私は小さく頷く。


「個体によって毒の強さにかなり差があります。完全に安全とは言えないものも多いですね」


厨房の机の上には、

「危険」「不明」「問題なし」といった形で、次々と山が作られていく。


メルが少し驚いた声を上げた。


「思ったより危ない魚が多いですね……」


「そうですね」


私は静かに答える。


「ただ、全部が危険というわけではありません」


再び別の魚を手に取る。


「えっ……これは……」


私が手にした鉄砲魚。

見た目はタイリクトラフグとほぼ同じだが、強烈な違和感を覚えた。


【鑑定結果】

名前:鑑定不能

品質:高品質

備考:詳細不明のフグ

   別種と交配した結果誕生した個体の可能性が高い

   食べるのは非常に危険


「この個体は、別種と交配した種類のようですね……」


「どういうことですか?」


騎士が首を傾げる。


「見た目はタイリクトラフグとほぼ同じみたいなのですが、別種と交配した結果生まれた新種のようです。

こうなってくると、交配した種類によって毒性が変わってくる可能性があるので、一概に安全とも危険とも言えません」


騎士は机の上の魚を見つめながら言った。


「そんなことが起こるものなのですか?」


「遺伝子が同じだったり、似たような遺伝子同士が交配した結果、新しい種類が生まれることがありますね」


私はそう説明しながら、もう一度その個体を見つめた。


「ただ、普通はそこまで頻繁に起きるものでもありません」


「ということは……」


騎士が周囲の鉄砲魚を見回す。


「他にもいる可能性があるということですか?」


「はい」


私は静かに頷いた。


「見た目だけでは区別がほとんどつきません。

なので、混ざって流通してしまう可能性は高いですね」


メルが少し不安そうに口を開く。


「それって……かなり危ないですよね?」


「そうですね」


私は苦笑いを浮かべる。


「安全な個体もありますが、同じ見た目で危険な個体も混ざるとなると……」


そこまで言って、私は言葉を区切った。


「調理人の方たちでも見分けるのは難しいと思います」


騎士は腕を組んだ。


「なるほど……」


そして小さく息を吐く。


「確かに、それでは事故が起きても不思議ではありませんね」


厨房の机の上には、まだ多くの鉄砲魚が残っている。


私はそれらへ視線を向けた。


「とりあえず、この個体と似た特徴のものを集めてみましょう」


「了解です」


騎士とメルが頷く。


手分けして先ほどの特徴を持つ鉄砲魚を集め、一匹ずつ捌きながら毒性の有無を確認していく。

すると、やはり毒のある部位にはかなりのばらつきがあった。


「身に毒はないようですが、本来この種類では安全なはずの部位が毒をもっている個体もあるので注意が必要ですね」


そう言いながら、私はひとつの皿を前に出した。


皿の上には、先ほど調べた個体の各部位が分けて並べられている。


「通常なら、この部位は安全なはずなんですが……」


私は指先で示す。


「この個体では毒が確認されました」


騎士が顔をしかめた。


「それは……かなり危険ですね」


「はい」


私は静かに頷く。


「見分けがつかない上に、毒の場所まで個体ごとに違うとなると……」


言いながら、私は次の皿も前に出した。


「こちらの個体は逆に、一般的に危険とされる部位の毒がかなり弱くなっています」


メルが驚いたように声を上げる。


「えっ、そんなこともあるんですか?」


「ありますね」


私は苦笑する。


「交配種の場合、こういう“ばらつき”が起きることがあります」


騎士は机の上に並ぶ皿を見渡した。


「つまり……」


「はい」


私はゆっくりと言った。


「この種類は、従来の基準では安全確認ができません」


厨房の空気が、少しだけ重くなる。


今までは――

危険な部位を取り除けば食べられる魚だった。


だが、この個体たちは違う。


「……これは、厄介ですね」


騎士が低く呟いた。


「はい」


私は小さく息を吐く。


「少なくとも、この種類が混ざっている可能性がある限り――鉄砲魚は安全とは言えませんね」


厨房の空気が、少しだけ重くなる。


しかし私は、すぐに続けた。


「ただ、少し安心できる点もあります」


「安心できる点、ですか?」


騎士が顔を上げる。


「はい。こうして別種と交配して新しい種類が生まれること自体、実は極めて稀なんです」


私は机の上の個体を指差した。


「それに、遺伝子が混ざり合う以上、完全に同じ特徴になることはほとんどありません」


メルが首を傾げる。


「つまり……?」


「必ずどこかに“違い”が出るということです」


私は魚の体表を軽く指で示した。


「体の模様、ヒレの形、色合い、骨格……そういった細かい部分に変化が現れることが多いんです」


騎士が少し納得したように頷く。


「ということは、見分けること自体は可能なのですね」


「はい」


私ははっきりと答えた。


「販売する際に注意深く観察すれば、問題のある個体を弾くことはできると思います」


メルが少しほっとした表情を見せた。


「よかった……全部食べられなくなるわけじゃないんですね」


「ええ」


私は微笑みながら答える。


「今回見つかった個体の特徴をまとめておけば、漁師さんや市場の人たちにも共有できます」


騎士が腕を組みながら言う。


「なるほど……それなら、完全に禁止する必要はなさそうですね」


騎士が腕を組みながら言った。


「そうですね」


私は机の上の資料を見ながら頷く。


「問題は“混ざる可能性がある”ということなので、見分け方を周知できれば事故はかなり減らせると思います」


「では、このあと残りの個体も確認していきましょう」


「はい!」


メルが元気よく返事をした。


それから私たちは、残っている鉄砲魚の調査を続けていった。


似た特徴の個体を集め、捌き、毒の有無を確認し、特徴を記録していく。

地道な作業だったが、数を重ねるごとに少しずつ傾向が見えてきた。


そして――数時間後。


「……これで最後ですね」


私は最後の個体を確認し、小さく息を吐いた。


机の上には、いくつものメモと皿が並んでいる。


騎士がその結果を見ながら言った。


「どうやら整理できましたね」


「はい」


私は頷いた。


「鉄砲魚には、いくつかの種類が混ざっているみたいです」


机の上には、大きく二つのグループが作られていた。


安全に食べられる種類。

そして――食べてはいけない種類。


「つまり……」


騎士が確認するように言う。


「食べられる種類と、食べられない種類が存在するということですね」


「その通りです」


私は答えた。


「見分け方も、ある程度整理できました」


メルがほっとしたように笑った。


「これなら、漁師さんたちも助かりますね!」


「はい」


私は微笑む。


「全部を禁止する必要はありませんから」


騎士も安堵したように頷いた。


「では、この結果をまとめて伯爵に報告しましょう」


「そうですね」


こうして鉄砲魚の調査は、大きな成果を得ることになった。


調査結果はすぐにオスバルト伯爵へと報告され、さらに王都へも正式な報告書が送られた。

後日――陛下のもとにも、この件はしっかりと伝えられることとなる。


そして数日後。


王都から正式な通達が届いた。


鉄砲魚は全面的な禁止とするのではなく、

安全が確認された種類から順次販売を解禁するという方針が決定されたのだ。


見分け方や注意点もまとめられ、漁師や市場、料理人たちへと共有されていく。


「これで、バレンシアの皆さんも安心して魚を扱えますね」


メルが嬉しそうに言った。


「そうですね」


私は港の方角を見ながら頷いた。


あの騒動から始まった鉄砲魚の問題も、ようやく一つの答えにたどり着いた。


こうして――

バレンシアの“故郷の味”は、再び食卓へ戻ることになったのだった。

港湾都市バレンシア編次回完結!

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