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転生したら錬金術が得意な貴族家の女の子でした  作者: 双葉アリア
第一章 幼少期編

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閑話:神の後始末

お知らせ:4月から諸事情により一日2話更新を一日1話更新(15時更新)に変更する予定です。

もしかしたら変えないかもしれないけど......

現状一日2話更新はかなり大変なので変える方向です。


「ふわぁぁぁぁ……風が心地いい……」


心地よい潮風が客室へ優しく吹き込み、ポカポカと暖かい太陽がクロノアの眠るソファに降り注いでいた。


「うるさいアルもミストルティンも朝早くからいないし、思う存分ゴロゴロしないとね」


ソファに置かれたクッションにボフッと顔を埋め眠りかけた瞬間だった。


「クロノ......護衛対象がいないとはいえだらけているのはどうかと思うよ?」


「うるさいな......僕が動くことがない方が平和でいいじゃん」


「それはそうだけどさ......」


ソファでだらけるクロノアを見下ろすように一人の女性が呆れた表情を浮かべていた。


「ソフィアはなにしにここに来たの......?」


「ミストルティンが保護したエルフの少女の様子を見に来たのよ」


「その子ならそっちのベットにいるよ......」


クロノアはソファでだらけたまま、その方角へ指をさした。


「じゃあ様子を見るわよ?」


「どうぞー。僕のことは起こさないでね……」


「起こさないでねって……」


その言葉に呆れながらも、ソフィアはエルフの少女が眠るベッドへと歩み寄った。


静かに息を整え、少女の額へそっと手をかざす。


魂識再編(リコレクト)


淡い光が、ソフィアの指先から静かに広がる。


それは肉体ではなく、魂へ触れるための魔法だった。


普通の治癒魔法では届かない、精神や記憶の領域へ干渉する術。


だが――


光はすぐに弱まり、やがて静かに消えた。


「……やっぱり」


ソフィアは小さく息を吐く。


「ミストルティンの言った通りね……」


少女の魂の奥を覗いた時、見えたものは――


あまりにも少なかった。


「記憶の断片が少なすぎる……」


眉をわずかに寄せる。


「これじゃ、治そうにも治せない……」


ベッドの上で、少女は静かに眠り続けていた。


まるで何も知らない子供のように。


ソフィアはその顔を見つめながら、小さく呟く。


「……どれだけ削られたのよ」


その声には、わずかな怒りが混じっていた。


ソファの方から、のんびりした声が飛んでくる。


「無理だった?」


クロノアは相変わらずクッションに顔を埋めたままだった。


「ええ。魂そのものは綺麗なんだけど……」


ソフィアは少女の胸元を見下ろす。


「記憶だけが、不自然なくらい消えてる」


わずかに眉を寄せる。


「いくら古代の精神系統魔法を使ったとしても……ここまで綺麗には消えないわ」


クロノアが片目だけ開ける。


「へぇ?」


ソフィアは少女の魂の痕跡を、もう一度静かに辿った。


そこに残っているのは、確かに精神を破壊する系統の魔法の痕跡。


だが――


「術式が歪んでる」


小さく呟く。


「精神破壊魔法の痕跡はある。でも……これは原因じゃない」


クロノアが少しだけ身体を起こす。


「じゃあ他に原因があるんじゃない?」


「精神に影響を及ぼす術式なんて限られてるわ」


ソフィアは静かに言った。


「古代精神魔法以外なら――特殊奴隷紋くらいしかない」


だが、すぐに首を横に振る。


「でも、そんなもの……体に刻まれてないし……」


ソフィアは少女の身体を慎重に調べ始めた。


足の裏。

腕の内側。

背中。


奴隷紋が刻まれる可能性のある場所を、一つ一つ確認していく。


奴隷紋は目立つ場所には刻まれないことが多い。

隠されやすい場所に刻むのが常識だからだ。


だが――


どこにも、それらしい紋様は見当たらない。


ソフィアはさらに注意深く視線を走らせる。


太ももの内側。

腰の裏側。


そして、最も刻まれやすい場所の一つ――

下腹部や性器の周辺まで確認する。


それでも。


「……ない」


小さく呟く。


「やっぱり奴隷紋は刻まれてない……」


クロノアがソファの上でごろりと寝返りを打つ。


「特殊奴隷紋の可能性があるなら、魂に直接刻まれてるんじゃない?」


ソフィアが眉をひそめる。


「だとしたら、ミストルティンが解呪してるはずよ」


神族である彼女が見落とすとは思えない。


だが――


クロノアは気の抜けた声で言った。


「うーん……」


クッションに顔を埋めたまま、ぼそりと続ける。


「魂の深層に刻まれてたら、ミストルティンでも見落とすよー」


ソフィアの手が止まった。


「……深層?」


クロノアはのんびりと天井を見上げる。


「うん」


「ミストルティンってさ、基本的に“壊れてる部分”しか見ないんだよね」


「治療する時も、そこを直すだけだし」


少し間を置いて、付け加える。


「でも――」


「魂の奥に埋め込まれた術式って、壊れてるわけじゃないからさ」


ソフィアの瞳が、わずかに細くなる。


クロノアはあくまで軽い調子で言った。


「だから案外、見落とすんだよ」


部屋に、静かな沈黙が落ちた。


ソフィアは再び少女の寝顔を見る。


そして小さく呟いた。


「……なるほどね」


その視線は、先ほどまでとは少し違っていた。


「じゃあ念のため確認してみようかしら」


ソフィアは再び少女の額へ手をかざす。


魂識潜査(ソウル・ダイブ)


淡い光が静かに広がり、少女の魂の奥へと沈んでいく。


肉体ではなく、魂のさらに深い領域へ。


通常なら触れることのない――

魂の深層。


そして。


「……あった」


ソフィアの瞳がわずかに細くなる。


魂の最奥部。


そこに刻まれていたのは、黒い鎖のような紋様だった。


歪に絡み合い、魂そのものを縛り付けている。


「見つかった?」


クロノアがソファの上から声をかける。


「ええ」


ソフィアは静かに答えた。


「魂の深層に刻まれた特殊奴隷紋」


術式を読み取り、低く呟く。


虚心隷印ヴォイド・サーヴァント……」


クロノアが少しだけ顔を上げた。


「なにそれ」


「人格を空にする奴隷紋よ」


ソフィアの声は冷たかった。


「記憶を削り、感情を消し、最後には――」


少女の魂を見つめる。


「思考そのものを奪う」


クロノアが小さく息を吐く。


「……えげつないね」


ソフィアは静かに頷く。


「もうほとんど終わってるわ」


少女の魂は綺麗だった。


だがその内側は、空洞に近い。


思考の核はすでに壊されていた。


「このままだと完全な人形になる」


クロノアがぼそっと言う。


「もうなってるんじゃない?」


ソフィアは少し黙った。


そして答える。


「……ぎりぎり、まだ残ってる」


「ほんの欠片だけどね」


少女の魂の奥に、小さな光が残っていた。


それが最後の“核”。


ソフィアは小さく息を吐く。


「これ以上壊される前に止める」


魔力を静かに集める。


魂刻解放(ソウル・リリース)


光が奴隷紋へ触れた瞬間――


黒い鎖の紋様が震えた。


ギシ、と軋む音のような感覚が魂に響く。


そして。


パキン。


奴隷紋が崩れた。


黒い紋様は霧のようにほどけ、完全に消えていく。


ソフィアはゆっくり手を下ろした。


「……終わったわ」


クロノアが聞く。


「助かった?」


ソフィアは少しだけ首を横に振る。


「完全には無理ね」


少女の魂を見つめる。


「思考は……もうほとんど消えてる」


「残ってるのは本当に微かな核だけ」


クロノアがクッションを抱えたまま言う。


「じゃあ作り直すしかないじゃん」


ソフィアが苦笑した。


「簡単に言うわね」


そして再び少女の額へ手をかざす。


「でも、それしかないわね」


静かに詠唱する。


知識転写メモリー・インストール


柔らかな光が少女の魂へ流れ込む。


現代語。


基本的な思考構造。


最低限の意思疎通。


失われた思考の“骨組み”だけを、慎重に組み直していく。


やがて光が消えた。


ソフィアはゆっくりと手を離す。


「……これで大丈夫」


クロノアがソファの上から聞く。


「人間として戻る?」


「ええ」


ソフィアは少女の魂をもう一度確認する。


深層に刻まれていた奴隷紋は完全に消えていた。


残っていた思考の核も、最低限ではあるが再構築されている。


「少なくとも、もう人形にはならないわ」


ベッドの上で眠る少女は、静かな寝息を立てていた。


クロノアはクッションに顔を埋めたまま言う。


「じゃあ解決だね」


「そうね」


ソフィアは小さく頷いた。


そして少女の顔を見つめながら、ふっと息を吐く。


「……まぁ」


少しだけ苦笑する。


「ミストルティンに怒られそうだけど」


クロノアが片目だけ開いた。


「怒られるの?」


「そりゃそうでしょ」


ソフィアは肩をすくめる。


「魂の深層に干渉してるんだから」


クロノアは少し考えてから、のんびりと言った。


「でもさ」


「放っておいたら完全に壊れてたんでしょ?」


「ええ」


「じゃあ仕方ないじゃん」


ソフィアは少しだけ笑った。


「……そうね」


そして窓の外へ視線を向ける。


「後処理をするのも――」


小さく呟く。


「神の仕事だもの」


クロノアはクッションを抱え直しながら言った。


「いや、それソフィアがやったじゃん」


ソフィアはため息をついた。


「……ほんとね」


そして静かな客室に、再び穏やかな時間が戻った。

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