表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したら錬金術が得意な貴族家の女の子でした  作者: 双葉アリア
第一章 幼少期編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/97

7話 五歳の錬金術師、畑を耕す

朝の柔らかな日差しが庭を照らす中、エレノアは昨日のポーション作りを思い出しながら花壇に立っていた。

手には小さなジョウロ、傍らには庭師のオリバーさんがいる。


「昨日は、ちょっと爆発しちゃったけど……魔力を少しずつ注ぐと、ちゃんと成分が溶け出したのよね」


オリバーさんは微笑みながら、花や野菜の苗を見回す。

「エレノア様、まだ土の湿り具合が少し足りませんね。ここも、もう少し優しく水をあげてください」


エレノアはジョウロを傾け、水をそっと土に注ぐ。

葉や花が水を吸い込むたび、昨日使った蒸留水と薬草の香りがふと蘇った。


「薬草も、こうやって丁寧に世話してあげれば、もっと元気に育つはず……」


「その通りです。手をかける分だけ、植物はきちんと応えてくれますよ」


花壇に落ちる水滴を眺めながら、エレノアは心の中で小さく決意を固めた。

――まずは庭の片隅から、自分だけの薬草畑を作る準備を始めよう。


水やりを終え、テラスでのんびりしていると、妖精たちが周りに集まってきた。


「ねーねー、薬草畑はいつ作るのー?」

「まずはお父様に許可をもらってからだから、早くても午後かなー」


勝手に薬草畑を作れば、間違いなく怒られる。

物事には順序がある。お父様の許可なくして、何も始められない。


とはいえ、準備くらいなら問題ない。

もし許可が下りなかったとしても、花壇に使えばいいのだ。


前世では、ガーデニングが趣味の母を何度も手伝っていた。

基本的なやり方は分かる。

けれど、せっかく育てるなら、植物たちが本当に生き生きと育つ畑にしたい。


そこで、妖精たちに教えてもらうことにした。


「畑作り自体はできないけど、準備はしたいの。色々教えてもらってもいい?」


そう尋ねると、妖精たちは目を輝かせ、エレノアの周りを飛び回る。


「いいよー!」

「いっぱい教えてあげる♪」


エレノアは妖精たちの話を聞きながら、庭の片隅に小さな畑用区画を思い描いた。

土を耕す場所、日当たり、水やりの頻度……。

細かく計画を立てるだけで、胸がわくわくしてくる。


昼食を終えた後、エレノアは少し緊張しながら書斎の扉をノックした。


「お父様、少しお話をしてもよろしいですか?」


書類に目を通していた父が顔を上げ、にこりと微笑む。


「おお、エレノアか。どうしたのかな?」


エレノアは深呼吸をひとつしてから、はっきりと告げた。


「庭に、小さな薬草畑を作らせていただきたいのです」


父は一瞬驚いたように目を丸くしたが、すぐに穏やかな表情に戻る。


「そうか……まだ小さいのに、そんなことを考えていたのか」


「はい。ポーション作りのために、鮮度の良い薬草を安定して使いたくて……。

もちろん、庭や屋敷に迷惑はかけませんし、水や日光の管理もきちんとします」


少し考え込むように頷いたあと、父は優しく言った。


「分かった。安全に気をつけて、きちんと管理できるなら、作ってもいいよ」


「ありがとうございます、お父様!」


エレノアは嬉しそうに両手を握りしめる。


父はその頭を撫で、笑顔で続けた。


「無理をせず、でも楽しんで育てるんだよ」


――まずは庭の片隅から、自分だけの薬草畑を。


許可をもらったことを妖精たちに伝え、エレノアはいよいよ準備に取りかかった。

まずは材料の準備として、栄養たっぷりの土の材料となる腐葉土と馬糞、そして栄養剤の材料を集める。

馬糞は馬丁にお願いすればもらえるが、問題は腐葉土と栄養剤の素材。事前に調べたところ、いずれも魔法練習場の近くの森に行かないといけないらしい。


妖精たちと一緒に森へ向かうと、妖精たちが袖を引っ張り、ある植物のところまで連れて行ってくれた。

「これー!栄養剤の材料としても使えるし、ハイポーションの材料にもなるよー!」


エレノアは鑑定してみる。


【鑑定結果】

名前:月光草

品質:高品質

備考:一般的にはあまり知られていないハイポーションの材料。栄養もたっぷりで、栄養剤としても使用される。とてもイキイキしている。


「これ!ハイポーションの材料なの!?本では書かれていなかったけど……」

「うん!だって貴重だし、あまり知られていない植物だもん。株分けすれば薬草畑でも育つと思うよー!」


妖精たちは力を合わせ、丁寧に地面から引き抜いた。


「栄養剤の材料になる植物って他にもある?貴重な植物なら、他の種類も使ったほうがいいかな……」

「ちょうど隣にあるよー!」


妖精たちが集まっているところを鑑定してみると、


【鑑定結果】

名前:アオイ草

品質:高品質

備考:どこにでも生える雑草だが、栄養価はとても高く、水分を保持する力がある。とてもイキイキしている。


「へー、水分を保つ力があるのね!これも回収してもらっていい?」

「いいよー!」


こうしてアオイ草も回収してもらい、あとは腐葉土を集めれば、素材集めは完了となった。


エレノアは庭の片隅に戻り、早速準備を始めることにした。

「まずは畑の土作りからだね……ふかふかで栄養たっぷりの土にしないと」


庭の広場に馬糞と腐葉土を広げ、小さな円形の作業スペースを作る。

「ふむ……ここで錬金発酵をすれば、土の栄養も増すはず!」


妖精たちも興味津々で周りを飛び回る。

「どうやるの?」

「ふかふかの土になるように魔力を注ぐのよ」


エレノアは両手をかざし、ゆっくりと魔力を流し込む。

馬糞と腐葉土が少しずつ温かく膨らみ、土の香りがふんわりと漂う。

「わあ……すごい、柔らかくなってきた!」


妖精たちも手伝うように小さな光を放ち、土に栄養を回す。

「ふかふかの土……これで薬草も喜んで育つね!」

「そうね、これなら安心だわ」


こうして魔力と自然の力で土を発酵させ、畑用の土は完璧に仕上がった。


次に、栄養剤作りの準備に移る。

「次はアオイ草と蒸留水を使って栄養剤を作るのね」


エレノアは実験室へ向かい、ビーカーに蒸留水を注ぐ。

その中に刻んだアオイ草を入れ、魔力をゆっくりと注ぎ込む。

妖精たちもビーカーの周りを飛び回り、魔力のバランスを整えるのを手伝う。


やがて水の色が淡い緑色に変わり、ほのかに草の香りが立ち上る。

「これで栄養剤の完成……ふかふかの土に混ぜれば、薬草も元気に育つはず」


アオイ草で作った栄養剤を、小さなガラス瓶に移し替える。

淡い緑色の液体は、光を受けて静かに揺れていた。


「これで……土も、ちゃんと応えてくれるはず」


エレノアはそっと栓を閉め、ラベルを貼る。

錬金はうまくいった。魔力の流れも安定している。


そのとき、実験室の扉が控えめにノックされた。


「エレノア様、失礼いたします」


扉を開けると、庭師のオリバーさんが、鍬や木枠を抱えて立っていた。


「あ、オリバーさん?」

「旦那様から、薬草畑づくりを手伝うように言われまして」


その言葉に、エレノアは一瞬驚き、それから小さく微笑んだ。

――お父様、ちゃんと分かってくれている。


「ありがとうございます。ちょうど栄養剤もできたところなんです」

「それは良いタイミングですね」


二人で庭の片隅へ向かう。

そこには、錬金発酵によってふかふかに仕上がった畑用の土が広がっていた。


オリバーさんは土に手を入れ、感触を確かめる。

「……これは見事です。通気性も水持ちも申し分ありません」

「錬金で、少しだけ手を加えました」


「なるほど。では、この土を活かす形に整えましょう」


オリバーさんは木枠を置き、畑の輪郭を作っていく。

水の流れを見ながら畝の高さを微調整し、余分な土を均す。


「ここは少し高めに。こちらは浅くして、根が張りやすいように」

「はい……」


エレノアは小瓶を抱え、教えられた通りの位置に立つ。


「では、栄養剤を少量ずつ、均等に混ぜましょう」

「分かりました」


淡い緑色の液体が土に染み込み、しっとりと落ち着いた色合いに変わる。

オリバーさんは特に不思議がる様子もなく、自然な反応として土を馴染ませた。


「これなら、植え付けには理想的です」

「よかった……」


エレノアには分かっていた。

土の奥で、小さな気配が嬉しそうに揺れていることを。

――でも、それはまだ誰にも言わない秘密。


「準備は整いましたね、エレノア様」

「はい。あとは……植えるだけです」


エレノアは畑を見つめ、静かに息をついた。

お父様の許可、オリバーさんの手助け、そして誰にも見えない存在。


すべてが揃った、この小さな場所で――

彼女の薬草畑は、確かに始まろうとしていた。


「では、植え付けに入りましょう」


オリバーさんの言葉に、エレノアは小さく頷いた。


籠の中から、エレノアは最初に淡く白い葉を持つ株を取り出した。

見慣れない姿の植物に、オリバーさんの視線が留まる。


「……これは、あまり見たことのない草ですね」

「はい。森の奥で見つけました」


それ以上は、何も言わない。


「葉の張りはいいですが、根は繊細そうだ」

「だから、浅めに植えようと思って……」


エレノアはふかふかの土に、そっと小さな穴を開ける。

柔らかな土が指先を包み、静かに形を変えた。


株を置き、周囲の土をやさしく寄せる。

押さえる力は、ほんのわずか。


「いいですね。その草は、強く扱わない方がよさそうです」

「……はい」


次にエレノアが取り出したのは、瑞々しい緑色のアオイ草だった。

ただし、株は一つだけ。


「こちらは?」

「栄養剤の材料になる草です。畑の状態を見るために、少しだけ植えておこうかと」


オリバーさんは納得したように頷く。

「なるほど。では、畑の端に。土の水分を保つ役目にもなります」


言われた通り、区画の縁に浅く穴を作り、アオイ草を植える。

こちらは丈夫なため、軽く土を寄せてしっかり固定した。


「これで……全部かな」

「ええ。主役は最初の草ですからね」


最後にジョウロで静かに水を与える。

水が土に染み込み、根元が落ち着いていく。


エレノアは畑を見渡し、胸の奥で小さく息をついた。


――必要なものだけ、ここにある。


土の奥で、誰にも気づかれない小さな気配が、嬉しそうに揺れていた。

けれど、それを知っているのはエレノアだけ。


オリバーさんは一歩下がり、畑全体を眺めて言った。

「良い始まりです、エレノア様。あとは、日々の手入れですね」

「はい。大切に育てます」


夕方の光の中、白い葉がほのかに輝いた。

この畑で本当に価値を持つものが何か――

それを知る者は、まだ誰もいない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ