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【20万PV突破・毎日更新中】転生したら錬金術が得意な貴族家の女の子でした  作者: 双葉アリア
第一章 幼少期編

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62話 王国の要請、毒の町⑨

本来閑話のはずだったのに設定がモリモリすぎて本編に昇格しちゃいました......

ーー王城・執務室


まだ太陽は完全に昇りきっておらず、王都は淡い朝焼けに包まれている。

人々は朝食の準備をし、これから始まる一日の仕事へ向かう支度をしていた――そんな時間帯だった。


しかし、その穏やかな朝とは対照的に、王城の奥深くにある執務室には、張り詰めた空気が漂っていた。


この国の中枢を担う者たち――宰相、軍務卿、近衛騎士団長、各騎士団長、副騎士団長、魔導士団長、そして魔導士団副団長。


王国を支える重鎮たちが、緊急招集という形でこの場に呼び集められていた。


「……この顔ぶれを朝一番に呼び出すとは、穏やかな話ではなさそうだな」


低く呟いたのは軍務卿だった。


誰もが同じ考えを抱いているのだろう。

執務室に集まった面々の表情は硬く、軽口を叩く者すらいない。


その理由は簡単だった。


この場に呼ばれるということは――国家の根幹に関わる問題が発生したという意味だからだ。


そしてもう一つ。


この招集には、王国でもごく一部の者しか知らない組織が関係している。


王の直属の影。

王国最深部に存在する諜報組織――影の諜報機関。


その名が、今まさにこの場で報告されようとしていた。


執務室の扉の前で、近衛騎士が静かに姿勢を正す。


「陛下がお見えになります」


その言葉と同時に、室内の空気がさらに張り詰めた。


重い扉が、ゆっくりと開かれる――。


姿を現した陛下は、いつもの穏やかな表情ではなく、どこか張り詰めた面持ちだった。


「朝早くに呼び出してすまない」


低く、しかしはっきりとした声が執務室に響く。


重鎮たちは一斉に頭を下げた。


国王は短く息をつき、すぐに本題を切り出す。


「影の諜報機関から――緊急通信が入った」


その言葉が落ちた瞬間、室内の空気がさらに重く沈む。


影の諜報機関。

王国の裏側で動く、王直属の諜報組織。

その存在を知る者は、この場にいる者たちのようなごく限られた重鎮のみだ。


そして――その組織から緊急通信が入るということは。


ただ事ではない。


誰も口を開かない。

ただ静かに、陛下の次の言葉を待っていた。


「傍受の可能性もあるとのことで、直接報告するとのことだった。少々待ってほしい」


その言葉に、宰相がわずかに眉をひそめる。


「傍受……ですか」


魔導通信は本来、王城の魔導結界によって厳重に保護されている。

それでもなお傍受の可能性を考慮し、直接報告を選ぶ――。


それが意味することは一つ。


報告内容が、それほどまでに機密性の高いものだということだ。


室内に再び沈黙が落ちる。

重鎮たちは互いに視線を交わしながらも、誰も軽々しく言葉を発することはなかった。


そして――次の瞬間。


執務室の中央に、淡い光の魔法陣が浮かび上がった。


光が弾けるように収束し、一人の男の姿が現れる。


「影の諜報機関第一隊《常闇》所属、隊員番号二七。任務先より帰還いたしました」


現れたのは、先程までエレノアの近くで護衛任務についていた騎士の姿だった。


だが――この場にいる重鎮たちは知っている。

彼がただの騎士ではないことを。


この者は、エレノアが誘拐されて以降、極秘裏に常任警護を任されている影の部隊――

影の諜報機関第一隊《常闇》の隊員の一人であった。


執務室の空気が、さらに重く沈む。


影が直接、王の前に姿を現す。


それはつまり――通常の報告ではない。

国家を揺るがしかねない事態である可能性が高いということを意味していた。


一瞬の静寂が執務室を包む。


そして――陛下がゆっくりと口を開いた。


「……それで、緊急の報告を聞こうではないか」


その言葉を受け、常闇の隊員は一歩前に進み、深く一礼した。


「はっ。任務中に確認された極めて重要な案件について、至急報告いたします」


低く落ち着いた声だったが、その言葉の重さに、執務室の空気がさらに張り詰める。


宰相が腕を組み、軍務卿がわずかに眉をひそめた。

近衛騎士団長は無言のまま隊員を見据え、魔導士団長も静かに耳を傾けている。


そして――その中にいる一人、魔導士団副団長でありエレノアの父でもある男は、わずかに表情を曇らせていた。


「任務内容を確認する」


陛下が静かに言う。


「現在の任務は――」


「はっ。王都近海にて実施されている鉄砲魚調査任務の護衛であります」


その言葉に、重鎮たちは小さく頷いた。

この調査自体は既に彼らも把握している。


だが――影がわざわざ王城へ直接転移してまで報告する理由にはならない。


陛下が静かに続ける。


「……それで?」


常闇の隊員は一瞬だけ言葉を区切り、改めて背筋を伸ばした。


「調査中、護衛対象――」


「エレノア・フォン・レーヴェン様が所持する魔道具について、極めて重大な事実を確認いたしました」


その瞬間、執務室の空気が変わった。


宰相が目を細める。

軍務卿が低く唸るように呟いた。


「……魔道具?」


近衛騎士団長が静かに問う。


「それほどの報告を要する魔道具なのか」


常闇の隊員は迷いなく答えた。


「はっ。少なくとも――」


そこで一度言葉を区切る。


そして、はっきりと言い切った。


「私の判断では、最重要国家機密級、あるいはそれ以上の価値を持つ可能性がある魔道具です」


その言葉が落ちた瞬間――執務室の空気が一気にざわめいた。


宰相が思わず声を上げた。


「……最重要国家機密級、だと?」


軍務卿も目を細める。


「影の第一隊がそこまで断言するとはな。よほどの物らしい」


近衛騎士団長は腕を組み、低く問う。


「具体的に説明しろ。どのような魔道具だ」


執務室の視線が、すべて常闇の隊員へと集まる。


隊員は一度深く息を整え、報告を続けた。


「護衛対象――エレノア・フォン・レーヴェン様は、調査結果を記録する際、板状の魔道具を空間収納より取り出しました」


「板状?」


魔導士団長が眉をひそめる。


隊員は頷いた。


「厚さは薄く、片手で持てる程度。表面には光る文字が表示されており、指で触れることで操作していました」


その説明に、魔導士団長と副団長が同時に反応する。


「……文字が光るだと?」

「そんな魔道具は聞いたことがない」


隊員は続けた。


「さらに、その魔道具は鉄砲魚の姿を極めて精密に記録しておりました」


宰相が怪訝そうに言う。


「絵を描く魔道具か?」


隊員は、はっきりと首を横に振った。


「いいえ。絵ではありません」


そして、静かに言い切った。


「実物そのものと見紛うほどの像が、その板の中に映し出されていました」


執務室の空気が凍りつく。

軍務卿が低く呟く。


「……幻影魔法か?」


魔導士団長がすぐに否定した。


「いや、幻影魔法なら魔力の流れが必ず発生する。それに板状の魔道具に固定して映すなど聞いたことがない」


そのとき、常闇の隊員がさらに続けた。


「加えて――」


一瞬、言葉を区切る。


「その魔道具は、その場で見たものを瞬時に記録しておりました」


「……なんだと?」


近衛騎士団長が低く声を漏らす。


隊員は報告を続ける。


「護衛対象が板を構えると、小さな音とともに鉄砲魚の姿が記録され――その記録が、そのまま調査資料として保存されていました」


宰相の顔から表情が消えた。


「……それはつまり」


軍務卿が言葉を引き継ぐ。


「現場の情報を、完全な形で記録できる魔道具ということか」


誰もすぐには言葉を発せなかった。

もしそれが事実なら――軍事、諜報、研究、記録、あらゆる分野の常識が変わる。


魔導士団長が静かに呟いた。


「……そんな魔道具が存在するなら」


その視線が陛下へ向く。


「国家の在り方すら変わりかねません」


執務室に、重い沈黙が落ちた。


そして――国王がゆっくりと口を開いた。


「……その魔道具は、誰が作ったものだ?」


その問いに、常闇の隊員は迷いなく答えた。


「はっ。エレノア様は――」


一度、言葉を区切る。


そして報告した。


「ミストルティン様からいただいた魔道具であると説明しておりました」


その瞬間、執務室の空気が再び大きく揺れた。


「……それは魔道具を通り越して、神具として扱ってもよいかもしれぬ案件ですね……」


魔導士団長が、思わずそう呟いた。


その言葉に、副団長であるエレノアの父も静かに目を細める。


「……神具、か」


宰相が低く息を吐いた。


「大げさに聞こえるが……否定できんな」


軍務卿が腕を組み、重い声で言う。


「現場の状況を瞬時に記録し、後から完全な形で確認できる魔道具など聞いたことがない。軍事利用された場合の影響は計り知れんぞ」


近衛騎士団長も頷いた。


「戦場の記録、敵兵の装備、魔物の特徴、地形――すべてを正確に残せるとなれば、戦術そのものが変わる」


騎士団長が苦い顔をする。


「下手をすれば、他国が血眼になって奪いに来るぞ」


その言葉に、執務室の空気がさらに重く沈む。


宰相が静かに言った。


「……つまりだ」


視線が一斉に一点へ集まる。


「その魔道具は、国宝級どころではないということだ」


軍務卿が続ける。


「最重要国家機密。いや――」


そこで言葉を区切り、低く言い直した。


「国家存亡級だ」


常闇の隊員は黙って報告姿勢を崩さない。


そのとき、魔導士団副団長――エレノアの父が口を開いた。


「陛下」


落ち着いた声だった。


「一点、確認してもよろしいでしょうか」


陛下が頷く。


「許可する」


副団長は常闇の隊員へ視線を向けた。


「その魔道具――エレノアはどれほど自然に扱っていた?」


隊員は迷わず答える。


「……極めて自然でした」


「迷いは?」


「一切ありません」


執務室の何人かが小さく息を呑む。


隊員は続けた。


「記録、分類、絵のようなものの整理まで――一連の操作を迷いなく行っていました」


副団長は静かに目を閉じた。


そして小さく呟く。


「……そうか」


それは父としての声ではなく、魔導士団副団長としての冷静な判断の声だった。


「つまり――」


ゆっくりと目を開く。


「エレノアは、その魔道具を完全に理解して使っているということだな」


「その通りです」


常闇の隊員は即答した。


再び沈黙が落ちる。


そして――陛下がゆっくりと椅子の背にもたれた。


しばらく考えた後、静かに言う。


「……なるほど」


その声には、わずかな苦笑が混じっていた。


「どうやら我々は――」


重鎮たちを見渡す。


「想定よりも遥かにとんでもない人物を守っているらしいな」


誰一人、否定する者はいなかった。

むしろ――この場にいる全員が、同じ結論にたどり着いていた。


エレノア・フォン・レーヴェン。

その少女は、もはや単なる貴族の令嬢ではない。

国家が総力を挙げて守るべき存在なのだと。


陛下はゆっくりと立ち上がり、指示を出した。


「エレノア嬢の警戒レベルを最重要と認定し――王冠案件クラウン・コードを発令する!!」


その一言で、執務室は一瞬で凍りついた。

重鎮たちは息を呑む――王冠案件(クラウン・コード)が発令された意味を、誰もが即座に理解していた。


王冠案件(クラウン・コード)――それは、陛下自身が自身の警護をも凌ぐ重要性を認めた人物に対してのみ発令される、国家非常事態宣言級の特別指令である。

これまで王国史において、実際に発令された例は一度もなかった。


陛下の声は厳かに、しかし鋭く執務室に響いた。


「エレノア嬢に対する警備を増員せよ!

現状の第一騎士団全勢力と、第二騎士団の一部から、第二騎士団から第三騎士団までの全勢力を投入せよ!

第四騎士団から第五騎士団は、非常事態に備え相応体制へ移行すること!

バレンシアまでの移動には、転移門の使用も許可する!」


その命令が落ちると、執務室の空気はさらに重く張り詰めた。


「影も同様、第三隊《宵闇よいやみ》を除き全勢力を投入せよ!

さらに、海洋調査を行う際は、海軍の全勢力をもって警護せよ!」

陛下の声は冷徹でありながら、確固たる意思を伴っていた。

この瞬間、王都のあらゆる部隊は、国家の最重要機密を護るために総力を結集する――その覚悟を示されることとなった。


重鎮たちは互いに一瞥を交わし、即座に指示の伝達を開始する。

騎士団、影の諜報機関――王国の全精鋭が、この命令の下に動き出すのだ。


静寂の中に漂う緊張は、もはや単なる警護のレベルを超え、国家の命運さえ揺るがしかねない非常事態の予感を強く匂わせていた。


執務室の空気が張り詰める中、軍務卿が静かに口を開いた。


「陛下……ここまで来ると、エレノア嬢専用の警護部隊を創設すべきではないでしょうか?」


その提案に、場の空気が一瞬ざわめく。

第一騎士団から第三騎士団や海軍の全勢力を動員する命令は既に出されている。

だが、王族直属で動く専属の精鋭部隊を編成するという発想は、これまで前例のないものだった。


軍務卿は続ける。


「幸い、今年入隊した者たちは粒ぞろいです。尖鋭を数人ずつ各部隊から引き抜いても、通常業務には支障はありません」


陛下は静かに視線を巡らせ、重鎮たちの顔を確認した。

そしてゆっくりと、だが揺るぎない声で言い切った。


「よろしい。王族権限により、各魔導士団および騎士団から尖鋭を選出し、エレノア嬢専用警護部隊を創設することを決定する」


その言葉に、室内の重鎮たちは一斉に身を正した。

さらに国王は付け加える。


「「専用警護部隊には、エレノア嬢の警護に必要とされるあらゆる権限を与える。接近する不審者の排除、拘束、状況に応じた事前警戒行動など、すべて自由に行うことを許可する。

現状で護衛に当たっている騎士団員や影の諜報機関の隊員も、同等の権限を行使できるものとする」


一瞬の沈黙。

その重みを理解した全員の表情が、さらに引き締まる。


「なるほど……国家の最重要人物に準じる扱いか……」


魔導士団副団長であるエレノアの父も、肩を竦めながら頷いた。


――この措置は、ただの警護強化ではない。

王国が総力を挙げて、エレノア嬢を守る――文字通りの「王冠案件クラウン・コード」の実行にほかならなかった。

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