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転生したら錬金術が得意な貴族家の女の子でした  作者: 双葉アリア
第一章 幼少期編

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閑話 遠い記憶の灯火

今回かなり重い回なので見たくない人は見ない方がいいかも......

本編には大きく関係はしません。

ーー六年前


「いってきまーす!」


「紗月、帰りにおつかいをお願いしてもいい?」


「いいよー!」


その日も、何気ない一日を過ごすはずだった。

だが、その日常は一瞬で崩れ去ることとなる。


「速報です! 青葉区、○○高校の近くで居眠り運転をしていた男性の運転するトラックが、下校中の十五歳の女子生徒と衝突し、現場で死亡が確認されたとのことです」


そのニュースを見た瞬間、紗月の姿が頭をよぎった。

通っている高校、年齢……すべてが紗月に重なってしまう。


「まさか……」


胸の奥がぎゅっと締めつけられ、手のひらに汗がにじむ。

それでも、画面から目を離せない。

心のどこかで、まだ「これは他人事だ」と信じたかったのかもしれない。


その瞬間、電話が鳴った。

画面には知らない番号。心臓が跳ね、息が詰まる。


——まさか、あの子に……?


恐る恐る受話器を取ると、低く落ち着いた声が響いた。


「桜井紗月さんのご家族の方でよろしいでしょうか。私、仙台北警察署の○○と申します」


その一言で、胸の奥の小さなざわめきは、一気に不安の嵐へと変わった。

言葉にできない恐怖が全身を駆け巡り、時間が止まったかのように感じられる。

同時に、何かをしなければならないという衝動だけが走った。


だが、私の頭には、事実を受け入れまいとする強烈な拒絶反応しかなかった。

警察官の言葉は、遠くでこだまするようにしか聞こえない。


「嘘だ……嘘だ……。これは夢よ。質の悪い冗談に決まってる……!」


目の奥が熱くなる。胸が締めつけられ、手のひらは冷たく震えていた。

頭の中で、ただ一つの思いが反復される。


——紗月が、死ぬはずがない。


思考は現実を拒み、感情だけが暴れまわる。

涙が溢れ、嗚咽が喉を震わせる。

私は受話器を握りしめたまま、現実がただの幻であってほしいと願い続けた。


——信じたくない。絶対に信じたくない。


世界の色が一瞬にして失われ、胸の奥にぽっかりと穴が開く。

その穴を埋める術はなく、ただ、紗月の存在が消えてしまったという事実だけが、冷たく心を締めつけた。



警察署へ行くと、そこには旦那の姿があった。


「美和……来たか……」


「あなた……」


担当の警察官が、私たちをとある部屋へと通す。

その先には、変わり果てた姿で眠る紗月がいた。


「紗月!! 紗月!! お願い!! 目を覚まして! お母さんだよ!!」


必死に呼びかけるが、返事はない。

わかっている——わかっているはずなのに、心のどこかで、ほんのわずかな奇跡にしがみついてしまう。


それでも、目を覚ますことはなかった。


胸の奥がぎゅうっと締めつけられ、頭の中が真っ白になる。

視界は涙で滲み、声は嗚咽にかき消される。


「違う、違う、夢に決まってる! 紗月、お願い、目を覚まして!!」


世界がゆっくりと音を失い、重さだけが私の体を押しつぶす。

腕の中にあるのは、冷たく乾いた無。


私は身体の力を失いながら、ただ叫び続けた。


「紗月……お願い……目を覚ましてよ……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!」


——信じたくない。絶対に信じたくない。


だが、目の前の光景は、否応なく現実を告げていた。

紗月は動かない。呼びかけにも応えない。


それでも、現実は覆らない。

冷たい事実だけが、静かに、残酷に、そこにあった。



ーーあれから六年後


紗月の死から、六年が経った。


あの日を境に、私の時間は止まったままだ。


あの時の紗月の姿。

警察からの電話。

テレビに流れた無機質な速報。


それらは昨日のことのように、何度も何度も繰り返される。


私はただ、生きているだけだった。

時間に押されるように、息をして、食べて、眠る。


——それだけの、六年間。


「はぁ……買い物に行かないと……」


本当は、何もしたくない。

紗月のいない世界に、意味などあるのだろうか——そんな思いが胸の奥でくすぶり続けている。


それでも。


あの人は、変わらず私のそばにいてくれる。

東京から戻ってきた長男も、不器用な優しさで支えてくれている。


だから私は、今日も外へ出る。


向かう先は、家から少し歩いたところにある大型スーパー。


そこは、紗月と何度も手を繋いで訪れた場所だった。

お菓子売り場で目を輝かせた姿。

背伸びしてカートを押そうとした小さな手。

何気ない日常の記憶が、今も鮮明に残っている。


——もしかしたら。


そんなはずはないと分かっているのに、

生まれ変わった紗月に、どこかで会えるかもしれない。


その淡い、儚い希望だけを胸に、

私はあの日以来、毎日のようにこのスーパーへ通っていた。


大型スーパーへの通路を歩いていると、視界にふと小さな気配が揺れた。


——そして、目の前を通り過ぎた瞬間、私は全身の血が凍りつくのを感じた。


小さな女の子。

その歩き方、仕草、微かに揺れる背中のリズム——

まるで、紗月そのものだった。


「……え……?」


心臓が破裂しそうなほど跳ね、喉が詰まり、言葉にならない。

記憶の中だけにいたあの娘の姿が、目の前に——いや、現実の空間に立っていた。

笑い方も、手の動きも、ほんの一瞬のしぐさも、すべて紗月。

あまりの衝撃に、時間が一瞬止まったように感じる。


その時だった。

言葉ではなく、頭の奥深く、魂の奥底に直接響く感覚。


――紗月ちゃんは、こことは別の世界で元気に暮らしています。

どうか、お母さんも前を向いて。

私が責任をもって、彼女の人生を全うさせます。

また必ず、会える日が来ますから。


体の力が抜け、足元から地面に吸い込まれるような感覚がした。

視界は涙で滲み、呼吸が震え、全身を感覚が駆け巡る——恐怖と希望と懐かしさとが、言葉にならない渦となって私を押し流す。


振り返ると、優雅な微笑みを浮かべる顔の整った女性が立っていた。

その姿を目で追うより先に、言葉は心に染み込み、身体と魂に直接届く。

胸の奥で、固く閉ざされていた何かが、ゆっくりと解けていく感覚がした。


——紗月は、この世界ではない、別の場所で生きている。

その事実だけでも、母として生きていく希望の糸になる——。


私は、震える手で目頭を押さえながら、初めて、少しだけ、前を向くことができた。

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