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転生したら錬金術が得意な貴族家の女の子でした  作者: 双葉アリア
第一章 幼少期編

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50話 キャンプの魔法、友情の香り⑦

焼き肉を食べ終え、キャンプ用の椅子に腰を下ろす。

みんなでのんびりと、焚き火の揺らめきを眺めていた。


夜空には無数の星がきらきらと輝き、

すぐそばを流れる川のせせらぎが、静かな夜をやさしく彩っている。


火のはぜる音と水音が重なり合い、

昼間の喧騒が嘘のように、穏やかな時間が流れていた。

さっきまで食べていたお肉の余韻に浸りながら、みんなでおしゃべりする。

最高の贅沢のはずなのに、どこか物足りなさを感じていた。


「そういえば、前世では焼き肉の後、必ずアイスを食べてたなー」


「まだ食べるのかよ……」


ルーカスお兄様が眉をひそめる。


「言われてみれば、なんかさっぱりとしたものが食べたいわね」


「わ……私もです!」


「俺、お腹いっぱいなんだけど……」


するとミストルティン様は、何か良いことを思いついたかのように笑みを浮かべた。


「なら、せっかくだし、みんなでエレノアの前世の世界にでも行ってみる?」


……爆弾発言過ぎない!?!?


その言葉に、みんなは一斉に反応した。


「ちょっと待って! 行きたいっちゃ行きたいけど、異世界に俺らが行って大丈夫なわけないだろ!!」


「それもそうだけど、私たちが行ったら絶対浮くでしょ!!」


「行きたいけど……怖いです!」


「さっきまで均衡がとか言ってたのに、それこそ均衡が崩れるだろうが!」


「そもそも私あの世界では既に死んでいることになっているんだけど!?」


ミストルティン様は、それぞれの反応を見て大笑いしていた。


「あー、確かに言われてみればそうね! じゃあ、ちょっと待ってて!」


そう言うと、ミストルティン様はどこかへと行ってしまった。


……バニラ系のアイスって言うの忘れてた。


――十分後。


ミストルティン様は帰ってきて、にこりと微笑む。


「この世界の他の神族と、エレノアの前世の神族に確認してきたけど、問題ないって!」


「「「「「はい?」」」」」


開いた口が塞がらない私たちを前に、ミストルティン様は続けた。


「そもそも、私たち神族もお互いの世界に遊びに行ったりするし、それくらいでは均衡は崩れないのよ。

あと、私が大丈夫だと判断した人たちならいいんじゃない? だってさ――」


……ほんとかよ。


半信半疑の目をミストルティン様に向けると、


「まぁ、ともかく許可は下りたんだし、一緒に行くよ! 転移(テレポート)!」


有無を言わさず、前世――日本へ行くことになってしまった。


光が私たちを包み込み、気がつくとどこかよくわからない場所に立っていた。


「ここ、どこ?」


「なんか……いい匂いがするわね」


メルとアメリアお姉さまは、落ち着いて状況を把握しようとしている。


「うわっ! なんだよここ!」


「まさか……本当に異世界!?」


ルーカスお兄様とカイルは、慌てて周囲を見渡した。


「うちの近所に、こんな路地裏あったっけ……?」


私が知らない場所だと聞き、さらに二人は顔をこわばらせる。


「ここは、長町駅前の飲み屋街だよ!」


「ながまちえきまえって、どこよ!」


アメリアお姉さまが首をかしげながら尋ねる。


「私が住んでいた街の中の地区みたいなものだよ。

王都で言うところの宿場街とか、そんな感じかな。

それにしても、なんでこんな路地裏に転移したのかしら……」


「道のど真ん中に突然人が現れたら、びっくりするでしょ?」


「言われてみれば、確かにね」


私の中で納得し、とりあえず大通りへ出ることにした。

少し歩くと、私が知っている通りへと出た。


「ここに出るんだ……」


そこは駅前の通りで、近くには大型家具店や地下鉄の駅があり、人や乗り物で賑わっている。


ルーカスお兄様は目を見開き、前後を見回す。

「な……なんだ、この人の多さは……! こんな場所、俺、見たことないぞ!」


カイルも身をすくめ、目を泳がせる。

「……動く箱が、いっぱい……なんだこれ……こ、怖い……」


アメリアお姉さまとメルは、少し落ち着きながらも興味津々に周囲を観察する。

「これが、エレノアの言っていた“科学の世界”……なのね」

「全部、人間の力で動いてるのね……すごい……」


私が説明していた通り、街には見慣れない乗り物や電光掲示板が並び、信号機も規則正しく光を切り替えていた。

その様子に、二人は自然と頷きながらも目を輝かせている。


四人とも、人の多さや不思議な乗り物、そして科学で作られた世界の秩序に、ただ圧倒されていた。


「とりあえず、スーパーまで行こうか!」


そう言って、ミストルティン様は地下鉄の駅の方へ歩き出した。


「線路の向こうにもスーパーありますけど……」


「あー、あそこかー。折角だし、大きいスーパーのほうがいいんじゃない?」


……ここからだと、こっちのほうが近いのに。


信号を渡り、そのまま地下鉄の駅へ向かう……はずだったが、なぜかミストルティン様は地下鉄ではない駅の方へ進んでいった。


「私の家の最寄りのスーパーなら、地下鉄かバスじゃないと行けませんよ?」


意外な答えが返ってきた。


「知ってるよー! でも今ってICカードが主流でしょ? 地下鉄のICカードだと汎用性があまりないから、こっちのICカードのほうが都合がいいのよね」


そう言うと、ミストルティン様はJRの駅へと入り、人数分のICカードを購入した。

そして、ICカードにはそれぞれ9,500円分の残高がチャージされていた……。


「こんなにチャージしても、使いきれないと思いますけど……」


「まぁ、そうだけど。あそこでも使えるし、今後使わないとも限らないしね!」


……今後使わないとも限らないって、まさかね?


ミストルティン様は、全員にICカードを手渡すと、今度こそ地下鉄の駅へと入っていった。

改札を通り、ホームへ向かうと、ルーカスお兄様、カイル、アメリアお姉さま、メル――私とミストルティン様以外の全員が少しソワソワしている。


ルーカスお兄様は目を見開き、周囲を見回して

「……ここ、どうなってるんだ……!? こんなところ、見たことないぞ!」


カイルは身を縮めながら

「なんだこれ……動く箱がいっぱい……怖い……」


メルは好奇心全開で目を輝かせ

「わあ……全部、人間が作ったの……? 信じられない……」


やがて、ひとつの大きな箱が私たちの前に滑り込むように近づき、

全員が息を呑む。


もちろん、車内で驚いたり声を上げたりして騒いでいたのは言うまでもない。

二分ほどで到着し、スーパーの中へと入る。


「広い……!!」


ルーカスお兄様が思わず声を上げる。視界いっぱいに広がる吹き抜けのモールに、異世界の感覚では到底ありえない規模の空間が広がっていた。


「ほんとね……」


メルとアメリアお姉さまも目を見開き圧倒されている。照明に反射する床、ガラスの手すり、天井まで届く広告パネル――すべてが初めて見る世界の光景だった。


「ここのお店、変わったんだ……」


エレノアは足を止め、懐かしさの中に少しの違和感を覚える。前世で何度も通ったはずのモールだが、六年という歳月は確実に街や店舗の顔を変えていた。かつてのレストラン街や小さなショップが、新しい店舗やカフェに置き換わっている。


「まず色々なお店を見てみない?」


ミストルティン様が楽しげに提案すると、全員が自然と頷く。

エレベーターに乗り、3階へと移動する。


「上下に動く乗り物って新鮮だね!」


カイルが手すりにぶら下がるように身を乗り出し、目を輝かせる。


「それもそうだけど……箱が喋ったよね!?」


メルが指さしたのは、案内表示のスクリーン。音声で階の案内をしており、初めて聞く彼女たちにはまるで魔法のように感じられた。


降り立った先はレストラン街。


「懐かしい……」


エレノアは思わず呟く。看板の文字や色合い、店舗の配置は変わっていない。かつて家族と訪れた記憶が鮮明に蘇り、胸の奥がじんわりと温かくなる。


「ここのお好み焼き屋さん、家族でよく食べに来たなー」


それを聞いたミストルティン様は微笑みを浮かべて答えた。

「もしかしたら前世のお母さんたちと再会できるかもね」


その言葉に、アメリアお姉さまとメルは、初めて見る世界に触れる目でエレノアを見やりながらも、少し柔らかく笑った。


「うわ……こんなに色々なお店あるの?」


ルーカスお兄様は、ゲームセンターや本屋、雑貨店の看板を見て目を丸くする。


まず立ち寄ったのは本屋さん。

漫画から参考書までたくさんの本が並んでおり、その雰囲気は昔と変わっていなかった。


「こんなカラフルな本見たことない!」


「うわ……これは文字だらけで読むの疲れそう……」


絵本をキラキラと目を輝かせながら読むメルと、小説の文字量に圧倒されるルーカスお兄様。

アメリアお姉さまは、少女漫画の売り場で本を読もうと格闘していた。


「これどうやったら読めるのかしら……」


「それ買わないと読めないよ……」


そう教えると、アメリアお姉さまはその本を全巻買っていった。


「それ内容全部知っているから教えられるのに……」


一方カイルは、錬金術に役立てられそうな本をミストルティン様と一緒に探していた。


「相変わらず勉強熱心ね……ルーカスお兄様も見習ってほしんだけどなー」


そして私は、読んでいる途中で死んでしまった本を探し購入した。


……六年越しに最終巻の結末を見れるなんて思いもしなかったなー


次にやってきたのは同じく3階のゲームセンター。

私は、ここはあまり遊びに来たことがなかったので新鮮な気持ちだった。

ルーカスお兄様とカイルにメルが目を輝かせながら遊んでおり、ミストルティン様とアメリアお姉さまと私は、その光景を見守っていた。


「ここのゲームセンターちょっと高いんだよね……」


そう呟くとミストルティン様は微笑んだ。


「神族なんてやろうと思えば金を生成して売ればお金に困らないし別に気にしないんだけどね……」


爆弾発言を聞いた気がしたが、聞こえないふりをした。

そしてメルは、かわいいぬいぐるみが景品のクレーンゲームに苦戦していたので代わりに獲ってあげた。

猫耳や尻尾は魔法で隠されているので他人には見えないが、とても喜んでいたのかブンブンと振っていた。


……メル、かわいい!


一通り遊び終えた私達は、2階へ降りて洋服や雑貨を見て回った。

ルーカスお兄様とカイルは興味がないのか、それとも女性が多いからなのか、店内には入らず近くのベンチで座っていた。


「あ! これエレノアに似合いそう!! こっちはメルに似合いそうね!!」


そう言い数着の洋服を抱えレジへ向かっていった。


……確かに前世の私好みのお洋服だけど、まさかそれも知ってた!?


内心あきれながらも、その後姿を見て微笑む自分がいた。


そしていよいよお待ちかねのアイスを買うため、1階の食品売り場へとやってきた。

そこには、色とりどりの野菜や果物、精肉や鮮魚、加工食品がずらりと並んでいた。

エレノアは思わず足を止め、棚に並ぶ品々を眺める。懐かしい匂いと景色が混ざり合い、心の奥がほのかに温かくなる。


「わぁ……やっぱりスーパーって広いのね」


メルとアメリアお姉さまも、初めての世界に目を輝かせて周囲を見渡す。メルはフルーツ売り場のカラフルなアイスの棚に目をつけ、アメリアお姉さまは冷凍ケースの中のチョコ味アイスをじっと見つめていた。


ミストルティン様は楽しそうに笑みを浮かべ、私たちの動きを観察している。


「さて、アイスはどれにする?」


そう声をかけると、全員一斉に棚に近づく。

エレノアは基本に忠実にバニラ系のカップアイスを手に取り、ミストルティン様も同じものを選び、にこりと微笑む。


メルは目移りしながらフルーツ系のアイスを選ぶ。鮮やかな色合いに、思わず顔がほころぶ。


アメリアお姉さまは落ち着いた手つきでチョコ味の棒アイスを手に取り、「これにしようかしら」と小さくつぶやいた。


ルーカスお兄様は迷うことなくガリガリ君を手に取り、どこか嬉しそうに棚を離れる。


カイルは抹茶味のアイスを手に取っていた。


……抹茶味ってじじぃかよ


私は心の中で静かに突っ込んだ。


全員がアイスを手にしたところで、ミストルティン様は満足そうに笑う。


「みんな揃ったね。じゃあ、ここで買おうか!」


会計を済ませる間も、棚の間を歩くときにメルやアメリアお姉さまが「あのフルーツおいしそう!」「これどんな商品だろう?」と小さく話している。

「エレノアはその様子を静かに見守りつつ、久しぶりに訪れた街の空気に浸る。

会計を終え地下鉄の駅がある方へと歩き出した。

店内の時計を見ると間もなく21時になろうとしており、スーパー以外のお店は閉店準備を進めていた。蛍の光と西友独特の閉店ソングが静かに流れる中、前方から見覚えのある人影がスーパーの方へ歩いてくるのに気づいた。


その姿や仕草、服装まで――すべてが知っているものだった。


「お母さん……?」


六年の歳月を経て少し年を重ね、どこか疲れた表情をしていたが、直感的にお母さんだと確信した。


「やっぱりお母さんだ……」


そう呟いたが、私の横をすれ違っていった。


「そっか……今の私は桜井紗月の姿ではなく、こことは違う世界のエレノア・フォン・レーヴェンだから、気づいてもらえるはずないよね……」


少し切ない気持ちになったが、元気そうなお母さんの姿を見られて嬉しくもあった。


「エレノアー? 早くしないとおいていくよー!」


「ミストルティン様、待ってくださーい!」


そう言い追いかけると、後ろから視線を感じた。振り返ると、お母さんがカートを握ったまま後ろを見ている。


……またいつか会おうね、お母さん。


ミストルティン様の元へ走り、エレベーター近くの階段までやってきた。


「そろそろ元の世界に帰ろうか!」


ミストルティン様が声をかけると、メルとカイルは泣きそうな顔になりながら訴えた。


「もう少しこの世界で遊びたいです……!」


「俺もこの世界の知識や技術を錬金術に活かせる勉強をしたいです!」


その言葉にミストルティン様は微笑み、二人の頭にやさしく手を置いた。


「毎日は無理だけど、月に一度ならまた連れてこれるから。みんなでまたこの世界に遊びにこよう? それに、まだまだキャンプはこれからだよー?」


二人は納得し、ミストルティン様が転移魔法を使うと、いつの間にか元の世界の川辺に戻っていた。


「またみんなであの世界に遊びに行こうね!」


「「「「うん!」」」」


夜はどんどん更けていくが、私たち六人の楽しいキャンプはまだまだ続くのであった。

明日は閑話を2話分投稿します!

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