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転生したら錬金術が得意な貴族家の女の子でした  作者: 双葉アリア
第一章 幼少期編

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48話 キャンプの魔法、友情の香り⑤

「作戦会議、開始!」


川辺に集まった私たちは、それぞれ水鉄砲を手に向かい合っていた。

太陽は高く、水面はきらきらと輝いている。さっきまでの穏やかな空気はもうない。


今日の戦いは、六人対抗戦。


チームは――

私、メル、ルーカスお兄様

アメリアお姉さま、カイル、ミストルティン様


しかも今回はただの水かけ合いじゃない。


私たちの腕には、さきほどミストルティン様が空間収納から取り出した“特別ルール用”の布が巻かれている。

ダ〇ソーで買ったという、濡れると色が変わる布だ。


今は白。

でも、水がかかれば鮮やかな青に変わる。


「腕の布が完全に色変わりしたら脱落ね!」

ミストルティン様が楽しそうに宣言する。


「それ、完全に戦闘用じゃない?」

私は思わずつぶやく。


「公平で分かりやすいでしょ?」

にこにこしているけど、目が本気だ。


メルが小声で私にささやく。

「どうする? 作戦は?」


「まずはカイル。動きが素直だから狙いやすいわ」

「聞こえてるぞ!?」

向こう岸から抗議の声。


ルーカスお兄様は真剣な顔で川の流れを観察していた。

「岩陰を使おう。流れの反射も利用できる」


さすが戦略担当。


アメリアお姉さまは優雅に構え、カイルはやる気満々。

そしてミストルティン様は、なぜか一番大きい水鉄砲を持っている。


絶対手加減する気ないでしょ。


「それじゃあ――」


ミストルティン様が手を高く掲げる。

川のせせらぎが一瞬だけ遠のいた。


「開始!」


次の瞬間、六本の水流が夏空へと弧を描いた。


きらめく水しぶきが太陽を反射し、歓声が川辺に響く――はずだった。


だが、一人だけ明らかに様子がおかしい人物がいた。


ミストルティン様だ。


水鉄砲から噴き出した水の勢いが、どう見ても強すぎる。

しかも、その水流がわずかにうねった。


……今、曲がらなかった?


次の瞬間、放たれた水が不自然な軌道でこちらへ向かってくる。


「ちょっと魔法はなしでしょ!!!」


私が叫ぶと、水流はぴたりと止まった。


ミストルティン様は「あっ」と小さく声を漏らす。


「え、使ってないよ? ただ水圧をほんの少し調整して、流れを整えただけで――」


「それが魔法です!!」


ルーカスお兄様が即ツッコミを入れる。

カイルも全力で頷いた。


「反則負けって言ったよな!?」


ミストルティン様は一瞬きょとんとしたあと、観念したように両手を上げる。


「はーい、はーい。ごめんごめん。今のはノーカウントで。ちゃんと普通にやるよ」


まったく信用できない。


「次やったら即退場ですからね?」

私はじとっと睨む。


「えー、厳しいなあ」


ぶつぶつ言いながらも、水鉄砲を構え直すミストルティン様。


今度こそ本当に、公平な戦い。


川の上に、ぴりっとした緊張感が走る。


「よし……仕切り直し!」


誰ともなくそう言った瞬間。


再び、六人の水鉄砲が一斉に火を吹いた。


今度は本当に、魔法なしの真剣勝負。


「メル、右から行くわよ!」

「うん!」


私とメルは左右に散開。

ルーカスお兄様は正面から堂々と撃ち込む。


「うわっ、ちょ、待て待て待て!」

真っ先に狙われたのはやっぱりカイルだった。


三方向からの集中砲火。


バシャバシャバシャッ!


「うわあああああ!!」


カイルの腕の布が一気に濃い青へと変わる。


「脱落ぅぅぅ!?」


そのまま川辺に膝をつき、両手を上げる。


「早すぎない!?」

アメリアお姉さまが思わず笑う。


「素直に動くからよ」

私はにやりと笑った。


だが次の瞬間。


「隙ありです」


静かな声と同時に、鋭い水流がルーカスお兄様の腕を正確に撃ち抜いた。


「なっ……!」


アメリアお姉さまの一撃。


さらにミストルティン様が追撃する。


「今だね」


バシャッ!


「くっ……!」


ルーカスお兄様の布も、みるみる色が変わる。


「無念……!」


潔く両手を上げ、戦線離脱。


「ルーカスお兄様!?」


一対二。


いや、三対二。


いや違う、カイルはもう脱落してるから――二対二。


川の中央で、私とメル。

向こう側に、アメリアお姉さまとミストルティン様。


水面が静かに揺れる。


「本番はここからだね」

ミストルティン様がにこりと笑う。


「望むところよ」


私は水鉄砲を握り直した。


夏の川に、再び水しぶきが舞い上がった。

水面を挟んで、私とメル。

向こう側には、アメリアお姉さまとミストルティン様。

川の流れが、さっきまでよりも静かに感じる。


「メル、同時に行くわよ」


「うん!」


私たちは息を合わせ、一斉に発射。

ミストルティン様はひらりと身をかわしながら反撃してくる。


「甘いよー?」


だが次の瞬間。


つるっ。


「え」


足元の石でバランスを崩したミストルティン様が、そのまま見事に――


ドボンッ!!!


盛大な水柱を上げて川へダイブ。


一瞬の静寂。


そして――


「……はい、これは脱落ですね」


アメリアお姉さまが冷静に告げる。


ミストルティン様は川の中から顔を出し、髪をぺたんと濡らしたまま笑った。


「うん、これは潔く負けだね。石、滑るんだった……」


腕の布は完全に色が変わっている。


神様、まさかの物理的退場。


「やった!」


だが喜んだのも束の間。


「よそ見は禁物よ?」


アメリアお姉さまの声。


次の瞬間、鋭い水流がメルを捉えた。


「きゃっ!」


さらに間髪入れず二射目。


バシャッ!


メルの腕の布が一気に青く染まる。


「わ、私も脱落です……!」


悔しそうに両手を上げるメル。


これで――


川の中央に残ったのは、私とアメリアお姉さまだけ。


アメリアお姉さまは優雅に水鉄砲を構え、静かに微笑む。


「一対一ね、エレノア」


私はゆっくりと構え直す。


「ええ。本気でいきますよ?」


夏の太陽が水面を照らす。


せせらぎの音だけが、二人の間に流れていた。


――アメリア VS エレノア。


最後の一戦が、始まる。


川の中央。


私とアメリアお姉さまだけが、向かい合って立っている。


水面が、ぴたりと静まる。


「本気でいくわよ、エレノア」


その声音は静か。でも、刃のように研ぎ澄まされている。


「望むところです、お姉さま」


指先に力を込める。

水鉄砲の重みが、やけに鮮明に感じられた。


次の瞬間――


同時に踏み込む。


バシュッ!!


水流が真正面から激突。

衝突点が弾け、細かな飛沫が霧となって視界を奪う。


速い。


撃って、動く。

止まらない。


アメリアお姉さまは横へ滑るように移動し、岩陰へ。

撃つ角度が鋭い。無駄がない。完全に急所狙い。


私は流れに逆らわず、足裏で水を押し、低く回り込む。


水面を蹴る音。


バシュッ、バシュッ!


互いの射撃が、紙一重で空を裂く。


「っ……!」


腕をかすめる衝撃。

冷たさと同時に、布がじわりと色づく。


まだ半分。


まだ、いける。


「やるわね」


余裕の笑み。


「お姉さまこそ!」


再び正面衝突。


今度は私が先に撃つ。

だがそれは囮。


わざと大きく外し、体勢を崩したように見せる。


一瞬の隙。


「甘いわ」


――読まれていた。


岩陰から放たれた水流が、一直線に胸元を狙う。


速い。


迷いがない。


私は体をひねり、倒れ込む勢いのまま引き金を引く。


至近距離。


逃げ場はない。


バシャッ!!!


ほぼ同時。


衝撃が腕を打ち抜く。


冷たい水が跳ね、視界が白く弾ける。


時間が、ほんの一瞬だけ伸びたように感じた。


そして――


じわり。


布が、ゆっくりと、確実に青へと染まっていく。


私は息を呑み、自分の腕を見る。


完全に青。


顔を上げる。


アメリアお姉さまも、同じように自分の腕を見つめていた。


同じく、完全に色が変わっている。


沈黙。


川の音だけが戻ってくる。


「……同時だよね?」


遠くからメルの声。


「同時ですね……」


ルーカスお兄様が冷静に確認する。


ミストルティン様が、川の中で楽しそうに笑った。


「うん。完璧に同時命中。引き分けだね」


張り詰めていた空気が、ふっと緩む。


私は息を整えながら言う。


「……さすがです」


アメリアお姉さまが微笑む。


「あなたもね、エレノア」


そして同時に両手を上げた。


「引き分け!」

川辺に拍手と歓声が広がる。


茜色に染まり始めた空の下、びしょ濡れの六人は笑いながら川に座り込んだ。


勝敗はつかなかったけれど――

それでも、今日一番の熱い戦いだった。


傾き始めた太陽が川面を金色に染め、揺れる水がきらきらと光る。

激しい攻防の熱も、今は心地よい疲労へと変わっていた。


夏の一日は、静かに夕暮れへと向かっていく。

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