47話 キャンプの魔法、友情の香り④
テントの設営を終え、私たちは川辺へと移動した。
水のせせらぎが心地よく、太陽の光が水面でキラキラと反射する。夏の午後、川の冷たさが肌に触れるたび、思わず笑みがこぼれる。
「うわぁ、気持ちいい!」
メルが歓声を上げて水に足を浸す。アメリアお姉さまも小さく水を跳ねさせて、楽しそうに微笑んだ。
「冷たくて、夏らしいね」
ルーカスお兄さまは腕まくりをして流れに手を入れる。
カイルは慎重に水辺に足を下ろし、少し不安げな表情ながらも楽しんでいる。
私も川に足を浸すと、ひんやりとした感触が心地よく、思わず深呼吸してしまった。
「……あ、石に気をつけてね!」
ミストルティン様が声をかける。その淡々とした口調の中に、楽しそうな光が混じっていた。
川の中で水を跳ねさせながら遊ぶ。笑い声と水しぶきが森の静けさに溶け込み、贅沢な午後になっていく。
「ねぇ、エレノア様!」
メルが手を振る。「競争しよ! 誰が一番遠くまで飛ばせるか!」
よし、今日も一日、思い切り楽しもう。水の冷たさと笑い声が、夏の午後をさらに輝かせる。
「俺の勝ち!」
石を遠くへ飛ばしたカイルが勝利。
「くやしい!!!!」
悔しさを露にするルーカスお兄さまを見て、アメリアお姉さまは微笑む。
「よーし、次は水かけ合戦だ!」
メルが目を輝かせ、水をすくっては勢いよく投げてくる。
「うわっ!」
アメリアお姉さまが手で防ぐと、水しぶきが虹のように舞った。
ルーカスお兄さまも構え、必死に水を跳ね返そうとする。
「これは……くっ、意外と強い!」
カイルは勝利の余裕からタイミングを狙っている。
「今だ!」
全員が水のシャワーを浴び、笑い声が一層大きくなる。
「ふふっ、やっぱり川遊びは楽しいね」
私がつぶやくと、ミストルティン様はにこりと微笑み、遠くで見守る手をそっと水に浸した。
川の水は冷たく、手足を包み込みながらも心までさっぱりと洗い流してくれる。
ひとしきり遊んだあと、私たちはおやつ休憩を取ることにした。
ミストルティン様はにこりと笑い、空間収納から見覚えのあるロゴの袋を取り出す。
……なんでセブン〇レブンの袋がここにあるのよ!!
ルーカスお兄さまたちの目は、見たことのないお菓子に輝く。
ポ〇キーやポテトチップスなど、あっちの世界では定番のおやつが大量に入っていた。
「わぁ……これ、全部食べていいの?」
メルが手を伸ばすと、ミストルティン様は微笑みながらうなずく。
「もちろん。キャンプの楽しみのひとつだしね」
私たちは自然の中で、少し異世界感のあるおやつタイムを満喫した。
川遊びの疲れも吹き飛び、笑い声が川辺に溶けていく。
「このスティック状のお菓子、おいしいわね!」
「この芋をスライスして揚げたお菓子が俺の好みだな」
「私はこのクッキーが好きです!」
そんな中、一人だけ異彩を放つ人物がいた。
「俺は、この硬くて噛み応えがあって味が濃いお菓子が好き」
カイルが持っていた袋には「あたりめ」と書かれていた。
……じじぃかよ。
「それにしても、これ、見たこともない文字だな」
ルーカスお兄さまがパッケージを見つめ首をかしげる。
「そりゃあそうでしょ! だってこれ、エレノアの前世の世界のお菓子だもん!」
アメリアお姉さまとメルは、顔を見合わせて小さく頷く。
「だと思った……」
「遅刻したときの理由で、大体は察してました……!」
ルーカスお兄さまは口をぱくぱく動かす。
「は……はあああ!? 前世ってどういうことだって!?」
カイルはあたりめの袋を落とし、呆然と立ちすくむ。
「まさかじゃないわよ」
アメリアお姉さまが静かに制し、淡々と説明する。
「前世の話……つまり、エレノアはこことは別の世界から来た転生者なの」
メルも小さく頷き、すでに納得している様子。
「だから、このお菓子も……前世で食べていたものなの」
ルーカスお兄さまは頭を抱え、目を見開いたままカイルを見やる。
「な、なんだそれ……信じられん……!」
カイルは完全に固まったまま。
「じゃあこのお菓子って、全部エレノアの前世の世界の物なの!?」
「そうなるかな……」
アメリアお姉さまは静かに頷き、メルも小さく同意する。
「因みに、カイルが食べているのは“お菓子”というより……おつまみね」
「おつまみ?」
「おつまみっていうのは大人がお酒を飲むときに食べる物だよ」
そう教えるとカイルはあたりめを握りしめたまま、ぼそりと漏らす。
「……じ、じじぃかよ、俺……」
その言葉に私は思わず笑ってしまった。
「でも、食べる人は食べていたから大丈夫よ?」
ルーカスお兄さまはパッケージをまじまじと見つめ、驚きが止まらない。
「……ちょ、ちょっと待て。エレノアって、俺たちと全然違う世界から来た……転生者ってことなのか!?」
カイルもまだ固まったまま、口から出るのは小さな息だけ。
「……はい、まあ、そんな感じね」
メルはにこりと笑い、アメリアお姉さまも穏やかに頷く。
「こういうのを見ると、だいたい察せるのよね」
ルーカスは目を見開いたまま、袋の中身をひとつ取り出して眺める。
「……信じられん……前世のお菓子だなんて……!」
私はくすりと笑い、ミストルティン様が差し出す袋に手を伸ばすルーカスとカイルを見守った。
「てかミストルティン様、しれっと爆弾発言しないでください!!!!!」
ミストルティン様は両手を広げ、無邪気に肩をすくめる。
「隠しても仕方ないじゃない。せっかく楽しいキャンプなんだから、びっくりしてもらった方が盛り上がるかなって」
ルーカスはまだ目を丸くしたまま、カイルはあたりめを握りしめた手をぎゅっと固める。
「盛り上がる……か?」
「盛り上がってるよ、間違いなく!」
メルは楽しそうに笑い、アメリアお姉さまも穏やかに頷く。
「……ま、まあ、こういうのも悪くないかもね」
ルーカスの口元がわずかに緩み、カイルも少しずつ表情を戻していく。
「よし、じゃあお菓子タイムの続きといこうか!」
ミストルティン様の声に、笑い声が川のせせらぎと一緒に広がっていった。
おやつ休憩を終え、再び川遊びを再開する。
ミストルティン様はにこりと笑い、空間収納から新たな袋を取り出す。袋には大きく「ダ〇ソー」と書かれていた。
中身を一人ずつ手渡すと、ルーカスとカイルは目を丸くする。
「なら、読めるようにしてあげようか?」
ミストルティン様はニヤニヤと笑う。
ルーカスとカイルは目を見開き、固まる。
「え……え、どういうこと?」
「読めるようにって……」
「まぁまぁ見てて!」
ミストルティン様が魔法を発動すると、光がみんなを包む。
少しすると光が落ち着き、文字はこの世界の言語として見えるようになった。
「これで読めるはずだよー!」
みんなはパッケージに書かれた文字を見つめ、表情が変わっていく。
「……これ、本当に読めるのか!? 『ダ〇ソー』って書いてある……!」
ルーカスは目を丸くし、口を開いたまま固まる。
カイルも水鉄砲を止め、ぽかんと口を開けた。
アメリアお姉さまとメルは小さく笑い、うなずく。
「やっぱり、こうなると思った……」
「こういうことね……」
ミストルティン様は得意げに袋を手に取り、にこにこ笑う。
「知らない言語でも、この世界の文字に変換されて読めるんだよ」
ルーカスとカイルは目を丸くしたまま、袋の中身をじっと見つめる。
水鉄砲や小物、お菓子……見たことのない形やデザインに、驚きと好奇心が混ざった表情だ。
「……もう、何でもアリだな……」
ルーカスが呆れつつ、少し笑みを浮かべる。
私はくすりと笑い、今日の午後の川遊びがさらに楽しくなりそうな予感を胸に、そっと見守った。
「じゃあ言語問題も解決したことだし、水鉄砲で勝負よ!!」
川辺にいたみんなの視線が一斉に私に集まる。
「おお、待ってました!」
カイルはあたりめを握った手を水鉄砲に持ち替え、得意げに構える。
「俺は絶対に負けないぞ!」
ルーカスも少し悔しそうに笑みを浮かべ、構えを決める。
「ふふ、楽しそうね」
アメリアは微笑みながら手にした水鉄砲を軽く振る。
「私も負けません!」
メルも小さく叫び、準備万端といった様子だ。
ミストルティン様は川のほとりからにこにこ見守る。
「それじゃあ、ルールは簡単。水鉄砲で相手を狙って、当てたら勝ちよ!」
私たちは距離をとり、川面を蹴って走る。水しぶきが光を反射してきらめき、笑い声が川沿いの木々に響く。
――今日も、一日中、全力で遊ぶ午後の始まりだった。




