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転生したら錬金術が得意な貴族家の女の子でした  作者: 双葉アリア
第一章 幼少期編

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37話 王都初、日焼け止め誕生

ーー季節は夏真っ盛り――


今までの穏やかな風や、過ごしやすい気温と打って変わって、空気はじっとりと重い。


汗ばむ。


肌にまとわりつく熱。


王都も例外ではない。


強い日差しが空から降り注ぎ、熱せられた石畳がさらに空気を焼く。


逃げ場なし、容赦なし。


道行く人々は日傘を差し、帽子を深くかぶり、それでも額に汗を浮かべる。


庭の噴水ですら、生温い。


「……暑い」


思わず零れた言葉は、我ながら覇気がない。


室内退避、しかし限界。


屋敷や実験室の中でさえ、窓から差し込む陽光が容赦なく床を照らす。


「こんな時クーラーでもあればなー……」


この世界での涼み方は、氷の塊を風の出る魔道具の前に置き、冷やし気化させて涼むというものだった。

屋敷の至る所に同じような魔道具が置かれ、侍女や執事たちは汗ばんだ体を冷やすためにあちこちで涼んでいる。


決して効果がないわけではないが、氷の補充は頻繁に必要で、夏の間の支出は貴族も一般家庭も悩みの種だった。


「はぁ……氷補充しないと……」


そう思い振り向こうとした瞬間――


「エレノア―!!会いたかったよー!!」


避けようとするが光の速さで抱き着くミストルティン様――

……こんな熱い日に勘弁してよ……


その後ろには、大地の精霊王様が控えていた。


「お前な……エレノアが暑がっているのに抱き着くのはまずいんじゃないか……」


「えーいいじゃん!だってエレノアかわいいんだもん!!」


「大体にしてお前は遠慮というものをだな……」


「私がエレノアに加護を授けた瞬間嫉妬したあなたに言われたくないわよ!!」


二人の口論を聞きながら、私は思わず額を押さえる。


「……あー!!!!!!もう喧嘩するなら外でやって!!!!!!」


暑さと二人のやり取りで頭がくらくらする。

でも、その喧嘩を見ているだけで、少しだけ夏の日差しが和らいだ気もした。


「「はい……」」


ミストルティン様と大地の精霊王様、互いにうなずき合い、ようやく折り合いをつけたようだった。


ーー屋敷・テラス


いつものメンバーに大地の精霊王様が加わった五人でお茶会が始まった。

相変わらず、ミストルティン様の膝には暑そうにしているメルの姿がある。


「やっぱメルの猫耳、かわいいよねー!」


「ならエレノアは、私の膝の上に……」


「こんな暑い日に肌が密着すると余計暑くなるので、遠慮します!」


そう言うと、大地の精霊王様はしょんぼりした顔に。


……わかりやすい。


「大地の精霊王、ふられてやーんの!」


「ロリコンだけには言われたくないわ!!」


「へー、そういう態度をとるなら、エレノアにあなたのことを洗いざらい喋ろうかしら……?」


「!?」


……なにそれ、めっちゃ気になるんですけど。

メルやアメリアお姉さまも興味津々な眼差しを、ミストルティン様へと向けている。


「みんな気になってるみたいだから教えるとね……

エレノアが誘拐された――」


大地の精霊王様は、ガタっと立ち上がりミストルティン様の腕を掴む。


「やめろ、ミストルティン! そんな嘘で場をかき乱すのはまずいだろう!!」


「えー、でもちょっと面白いと思ったのに……」


ミストルティン様はちょっと拗ねた顔で肩をすくめる。


「面白いじゃ済まされないんだ! エレノアが本当に焦るだろう!!」


私はそのやり取りを眺めつつ、額に手を当てる。

……やっぱり今日も、この二人のやり取りは熱波より手強い。


メルは膝の上で小さく笑い、アメリアお姉さまは腕組みをして呆れ顔。


「まったく、相変わらずですね……」


こうして、屋敷のテラスには夏の陽射しに負けないくらいの熱い空気が漂っていた。


お茶会も終盤に差し掛かったころ、アメリアお姉さまはカンカン照りの外を見上げながら呟いた......


「夏は好きなんだけど、肌黒くなっちゃうから嫌なのよねー......」


「それ、わかります!」


メルも頷くが大地の精霊王様やミストルティン様は、首を傾げていた。


「自然の摂理だからねー

私達は日に焼けることはないけど」


「……ずるーい!!」


アメリアお姉さまとメルの声が重なり、屋敷のテラスに響く。


「まあ、確かにね」とミストルティン様が笑う。

「でもそれなら対策を考えればいいんじゃないかな?」


「対策?」


アメリアお姉さまが首をかしげると、私はピンときた。

……あ、これって 日焼け止めの開発フラグ かも。


「そうだ、せっかくだし私が実験室でちょっと研究してみようかな。

この世界にある魔法素材で、肌を守れる何かを作れないかって」


メルの目がキラリと光る。

「ええ!作ろう作ろう!!」


大地の精霊王様も興味深げに首を傾げ、ミストルティン様は得意げに笑う。

「なら、我々も手伝おうじゃないか。エレノアの研究は面白いものになるに違いない」


こうして、夏の暑さと日差しの中、屋敷のテラスから実験室への新たな冒険が始まる気配が漂っていた。


ーー屋敷・実験室


日焼け止めを作るにあたり、まずは使えそうな素材を調べてみることにした。

実験室の本棚にある植物図鑑や錬金術のレシピ本をめくると、早速良さそうな候補が見つかる。


「この精霊花っていうお花とかどうかしら?」


「白百合とかいいと思うよー」


アメリアお姉さまとミストルティン様が、それぞれ提案した素材を確かめていく。

ところが、どうしても一人だけ大冒険をしないと手に入らない素材を提案する人がいた。


「深海草から抽出するエキスがいいらしいぞ?」


……海まで行かないといけないじゃん。


「いやいや、今回は屋敷で完結させたいの! 遠出なしで作れる材料にしよ?」


ミストルティン様もアメリアお姉さまも、うなずく。


「なるほど......そうなると深海草はだめだな」


難しい顔をする精霊王様をよそに、アメリアお姉さまとミストルティン様が提案した素材を確認してみると、どちらも紫外線をはじく性質があるらしく、どちらを使うか悩んでしまった。


「入手しやすさで言ったら白百合なんだよなー」


「でも精霊花は効能強そうだよね?」


「そもそも王都で売っているのかしら?」


結局、散々悩んだ結果、入手しやすそうな白百合にすることに決定し、材料を市場で揃えて調合を開始することにした。


材料は以下の通り。


・蜜蝋

・ヒマワリから抽出した食用油

・白百合

・貝殻を粉末状にしたもの

・蒸留水


どれも市場で簡単に手に入り、非常に安価で購入できるものばかりだった。


「これなら屋敷で簡単に作れそうね」


そうつぶやきながら、私は早速調合の準備を整えた。


まず初めに、蜜蝋とヒマワリから抽出した食用油を大きめのビーカーに入れ、完全に溶かす。

このとき蜜蝋は焦げやすいため、弱火で加熱しつつ、時折混ぜながら抽出する。


その間に、白百合の花弁を乳鉢で細かくし、花のエキスを抽出してビーカーに加える。


火を止め、貝殻を粉末状にしたものを入れ、撹拌しながら魔力を注ぐ。


最後に、蒸留水を少しずつ加えて乳化させれば完成である。


完成したクリームを鑑定した結果は以下の通り。


【鑑定結果】


名前:日焼け止めクリーム

品質:高品質

備考:紫外線をはじくクリーム

   女性の肌を守り、色白に見せる効果がある

   無香料なので香水と合わせて使用しても匂いは混ざらない

   使用期限は約一週間。期限内に使わないと効果がなくなる


「一応完成したけど一週間しか効能が持たないのかー......」


「やっぱ満足してなかったかー」


やっぱりねとでも言いたそうなミストルティン様をよそに私は説明する。


「そもそも無香料だっていうこととできれば日持ちを一か月ぐらい持たせたいんだよね......」


「でも、肌が焼けなくなるのはいいじゃないですか!!」


目をキラキラさせ尻尾を揺らすメルーー


「でも確かに一週間は短いわね......」


完成した量はそれなりに多く、私とアメリアお姉さま、メル、そしてお母様が使ったとしても、半月分くらいは余裕である。

しかし、どうにかして日持ちを延ばす方法を考えなくてはならない。


そしてもう一つの課題――無香料であること。

これは気持ちの問題かもしれないが、やはりある程度香りがした方が良い。

というのも、この世界では香水は超高級品で、頻繁に使えるものではない。

舞踏会やパーティーといった社交の場でしか使えず、普段は香水に頼れないのだ。


今回作った日焼け止めクリームは、夏に使う物ーー

そのため、汗の匂いをある程度誤魔化せる程度の香りは必要だと考えた。


「日持ちを伸ばしつつ何か香りがつけられそうで且つ安価に抑えられるもの......」


「単純に匂いをつけるだけなら香油を使えばいいんだけど日持ちはねー......」


……香油?


アメリアお姉さまが何気なく呟いたその一言に、私の頭に一筋の光が差し込む。


香りと日持ち、両方を解決できるかもしれない。

この世界の花やハーブから抽出した香油なら、天然の香りを付けつつ、抗酸化作用でクリームの劣化も抑えられる可能性がある。

そしてこの国では香油はそれほど高くない上に、一般家庭でも使われるくらい浸透している


「それだ!!!」


「えっ!?」


私は、早速アンナにお願いし二種類の香油を用意してもらった。


一つはミント

もう一つはラベンダー


どちらも強い抗酸化作用を持つ為、香りをつけつつ日持ちを改善することができる


早速先ほどと同じ手順で作り仕上げにミントの香油を数滴入れた。

理屈通りであればうまくいくはず!

完成したものを鑑定したみた結果やはり日持ちの問題や香りが解決していた。


【鑑定結果】


名前:日焼け止めクリーム

品質:高品質+

備考:紫外線をはじくクリーム

   女性の肌を守り、色白に見せる効果がある

   ミントの爽やかな香り付き

   使用期限は約一か月半。期限内に使わないと効果がなくなる


「やった!成功した!!」


「ふむ……爽やかなミントの香りで、私が使ってもあまり違和感はなさそうだな……」


「すごいです!肌にすごく馴染むし、匂いも控えめだけど十分香りが広がります!」


メルと大地の精霊王様はミントの香りが好みのようで、次に作ったラベンダーの香りはアメリアお姉さまとミストルティン様が気に入ったようだった。


「エレノア、これ売れるんじゃない??」


「私もそう思うわ!」


「そうかな……」


「またまた謙遜して―!」


そう言いながら、ミストルティン様はもう片方の腕に日焼け止めクリームを塗っていた。

どうやらみんな気に入ってくれたみたいでとても嬉しい気持ちになった。


「これで、今年の夏は乗り切れそうだね!!」


メルは嬉しそうな顔をしながら尻尾を揺らしていた。


「あー!!もうメルかわいいー!!」


「ふぇ!! ちょ、ちょっとミストルティン様!?」


振り向くと、ミストルティン様はメルに抱きつき、肌を触りまくっている。

そして幸せそうな顔……。


「さっきと違って肌スベスベ―!!」


「ミストルティン様、まだクリーム塗っている途中ですからー!」


みんなのやり取りを見て、思わず笑いがこぼれる。


ーー屋敷・庭園


日焼け止めクリームを作った翌日ーー

屋敷の面々――エレノア、ミストルティン様、アメリアお姉さま、そしてメル――は元気いっぱいに庭園で準備をしている。


何故かミストルティン様は一泊していったことはこの際気にしないでおこう......


「よーし、今日は昨日作った日焼け止めクリームをフル活用するぞ!」

ミストルティン様は腕や首にクリームを塗りながら宣言する。


「私も塗り終わったわ。香りも良くて心地いいね」

アメリアお姉さまは肩までしっかり塗り、鏡でチェックして満足そうに微笑む。


メルも小さな手で腕や顔にクリームを伸ばしながら、

「うーん、ひんやりして気持ちいい!」と歓声をあげる。


「さあ、これで日差しに負けずに遊べるね!」

私は自分の腕にもしっかりクリームを伸ばし、みんなと一緒に庭の芝生へ向かう。


芝生の上で追いかけっこをしたり、花壇の周りで水遊びをしたり、

日焼け止めのおかげで思い切り外で遊べるのは格別だった。


ミントの爽やかな香りが風に乗って庭全体に漂い、

笑い声と共に夏の空気がより心地よく感じられる。


「ふふ、これなら暑くても快適ね!」

アメリアお姉さまが笑い、メルは尻尾を振って私の周りを駆け回る。


ミストルティン様も嬉しそうに、

「やっぱりエレノアの発明は最高だな!」と声を上げる。


そのとき――


「……む?」


不意に、ミストルティン様が空を見上げた。


つられて私たちも視線を向けると、青空の向こうに、ふわりと白い雲が流れていく。


「どうしたの?」

私が尋ねると、ミストルティン様はにやりと笑った。


「いや、日差しが強いのに誰も顔をしかめないのが面白くてね」


確かに、いつもなら少し動くだけで肌がじりじりするような感覚があるのに、今日はそれがない。

汗はかいているけれど、不快感がずっと少ない。


私は腕を見下ろす。

昨日作った日焼け止めクリームは、薄く伸びて自然になじんでいる。


「成功……だね」


思わず、胸の奥がじんわりと温かくなる。


アメリアお姉さまも頷いた。


「ええ。魔力の定着も安定しているわ。肌表面にきちんと膜を作って、でも重くない。素晴らしい出来よ」


「えへへ……」


褒められると、やっぱり嬉しい。


そのとき、メルが私の袖をちょんちょんと引っ張った。


「エレノア! 水、もっと出していい?」


花壇のそばに置いた小さな噴水用の魔導具を指差している。


「いいよ。でも滑らないようにね?」


「はーい!」


ぱしゃっ、と水が弾ける音。

夏の日差しの中で、水しぶきがきらきらと虹色に光る。


ミストルティン様はそれを見て、ふっと目を細めた。


「……こういう日常も、悪くないね」


どこかしみじみとした声。


私は少しだけ首を傾げる。


「ミストルティン様?」


「いや。エレノアがいると、世界が少し柔らかくなる気がするんだよねー」


突然そんなことを言われて、私は思わず固まった。


「え、えぇ!? な、何それ!」


アメリアお姉さまがくすりと笑う。


「素直じゃない賛辞ね」


「うるさい!」


ミストルティン様は照れたようにそっぽを向いた。


私は胸に手を当てる。

昨日まで“作れるかどうか”で悩んでいたものが、今こうしてみんなを笑顔にしている。


それだけで、十分すぎる成果だ。


青い空の下、風が優しく頬を撫でる。


日焼け止めクリームは、ただの実用品じゃない。

みんなで笑う時間を守る、小さな魔法だ。


――夏は、まだ始まったばかりだった。


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