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転生したら錬金術が得意な貴族家の女の子でした  作者: 双葉アリア
第一章 幼少期編

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34話 猫耳族の小さな風邪②

朝の光が屋敷の実験室に差し込み、机の上の薬草や器具が柔らかく照らされていた。

ミストルティン様の騒がしい抱擁事件は一応収束し、部屋にはようやく落ち着いた空気が戻っている。


「そういえばメルは? 今日もお茶会しよー!」

明らかにやばい手つきをしながら、ミストルティン様は目を輝かせて問いかける。


「……メルは、ミストルティン様の激しいスキンシップのせいで体調を崩したわよ?」

アメリアお姉さまがにまにまと笑いながら、冷静に冗談めかして言う。


「えっ、そんなことある!? いやいや、絶対嘘だよね!?」

ミストルティン様は目をぱちくりさせ、半信半疑で首をかしげる。


「冗談よ、でも体調を崩しているのは事実よ」

私は少し肩をすくめて答える。


「え!?昨日は何ともなかったよね!?」

驚きを隠せない様子のミストルティン様に、私は静かに説明した。


「鑑定したんだけど、どうやら共鳴熱っていう猫耳族特有の風邪をひいたみたいなの。

今朝起きた時から体調悪そうだったし、倒れかけたんだよね……」


ミストルティン様は一瞬固まり、目を大きく見開く。

「共鳴熱……? な、なにそれ!? メル、大丈夫なの?」


「一般的な風邪薬は効果がないらしいから、今は共鳴熱用の薬のレシピと素材を調べているんだけど……まだ見つかっていなくて……」


ミストルティン様は目を泳がせ、少しパニック気味に頭をかきながらつぶやく。

「そ、そんな……メルを放っておくわけには……!」


そう言いながら立ち上がった――嫌な予感がする。


「一応聞きますけど……どこに何をしに行くんですか?」

私は少し身構え、声を落として問いかける。


「決まってるじゃない! 神聖魔法で共鳴熱とやらを直そうと思って!!」

ミストルティン様は両手を大きく広げ、目を輝かせながら断言する。


「……ほんと、あなた達似た者同士よね……」


冷静に突っ込むアメリアお姉さまをよそに、私は全力で否定しつつミストルティン様を止める。


「体調不良に神聖魔法って、過保護を通り越して最早過剰ですよ!?」

思わず声を荒げてツッコミを入れる。


ミストルティン様は手をかざしながら、にこにこした顔で答える。

「だって、放っておけないじゃない! ならエリクサーでも取りに行ってくる?」


「そんな高価で貴重なものを体調不良のために使わないでください!!!」

私は思わず声を張り、実験室の空気が少し緊張する。


ミストルティン様は少し手を止め、眉をひそめて首をかしげる。

「え、でも本当に必要なら――」


「必要じゃないです! 必要なのは……まず材料を集めて、ちゃんと薬を調合することです!!」

私は両手を広げて強く主張する。

「体調管理も含めて、今は魔法じゃなくて地道な準備と観察が優先です!」


アメリアお姉さまは微笑みながら、肩を揺らして笑った。

「やっぱり似た者同士ね……

さっきエレノアもハイポーションで治そうとしてたし……」

アメリアお姉さまはくすくす笑いながら、私とミストルティン様の行動を比べた。


ミストルティン様は目をぱちくりさせ、首をかしげる。

「え、でも……エレノアもそんなことしてたの!? わ、私だけじゃなかったのね……」


「そうよ、ミストルティン様と同じく、即効で治そうとして暴走してたの」

私は両手を広げ、改めて釘を刺す。

「でも今回は、魔法やポーションじゃなくて、ちゃんと材料を集めて薬を調合するのが先決です!」


ミストルティン様は少し考え込み、やがてうなずく。

「……そうか、私も落ち着かないとダメだね」


アメリアお姉さまは楽しそうに肩を揺らして笑った。

「ね、似た者同士って言った通りでしょ?」


「だから違うって!!」


こうして、二人の“即効で治そうとする暴走癖”が見え隠れする中、屋敷の実験室には静かに—いや、 まだちょっとざわついた空気が漂っていた。


ーー王都・市場


薬草店や薬屋で共鳴熱用の素材や薬自体を売っていることにかけた私たちは休息日の市場へと向かった。

メンバーは、ノエルとアメリアお姉さまーーそして何故かミストルティン様も一緒だ。


「我は、ついてこなくてもよかったのでは……?」

ノエルが少し困惑気味に後ろを振り返る。


「なーに言ってんの! エレノアの護衛なんだから、ついてきて当たり前でしょ!」

ミストルティン様は胸を張り、満面の笑みで応える。


ノエルはため息をつきつつも、肩をすくめて歩き始めた。

「……まあ、暴走されるよりはマシか」


「ぐぬぬ……! 暴走なんて、我には無縁だぞ!」

ミストルティン様は手を広げ、元気いっぱいに胸を張るが、目はちょっとだけ悪戯っぽく光っている。


「てか今日開いているお店とか屋台少ないね!!」


「今日は月に四回ある休息日のうちの一回なので食品店とか薬草店とか薬とかしか開いてないんじゃないですかね?

私も休息日に屋敷の外に出るの初めてなのでわかりませんが......」


「なるほどね……今日は休息日か。なら仕方ないか」

ミストルティン様は肩をすくめ、少し不満げに空を見上げる。


「でも、こんな日に限って欲しい素材が見つかるかどうか……ちょっと不安ですね」

私は小声でつぶやく。


「フフン、私に任せて! 休息日でも最強の目で見つけ出すから!」

ミストルティン様は自信満々に胸を張るが、実際には店の看板や棚の間でキョロキョロしているだけだ。


アメリアお姉さまは私の肩を軽く叩き、くすくす笑う。

「ねえ、エレノア。やっぱり似た者同士ね……あなただって、急いでハイポーションで治そうとしてたし」


「違います! 私はまだ地道な調合で頑張ってましたから!」

思わず声を張る私に、アメリアお姉さまは楽しそうに笑い返す。


ノエルは少し呆れた顔で私たちを見やる。

「……いや、君たち本当に似た者同士だな。暴走するタイミングが違うだけで」


「違いますってば……!」

私は肩をすくめ、でも少しだけ笑ってしまった。


こうして、市場の賑わいの中、私たちは薬草店や薬屋を目指して歩き始めた。

ミストルティン様は得意げに前を歩き、目を輝かせながら宣言する。

「私が最強の目で、共鳴熱用の素材を見逃さぬぞ!」


私は少し冷や汗をかきつつ、今日の材料集めがどれだけ大変になるか、胸の奥で覚悟を決めるのだった。


まず屋敷から一番近い薬屋さんの店内へと入った。


「らっしゃい……」

店員は半分眠たそうに、少し悪そうな笑みを浮かべながらつぶやく。


「共鳴熱用の薬ってありますか?」

私は少し緊張しつつも、期待を込めて尋ねた。


「共鳴熱用?? んなもん、猫耳族ぐらいしか買わねぇから、うちにはねーな」

店員は肩をすくめ、飄々と答える。


「そうですか……。因みに、何でできているかとか、材料の種類はわかりますか……?」


「素材? 俺は商人から仕入れたもんを売ってるだけだから、生憎わからねぇ。悪ィな、嬢ちゃん」

店員は悪そうに笑いながら、棚の間へ戻っていく。


ミストルティン様は眉をひそめ、少し困惑した表情を浮かべた。

「うーん……やっぱり神聖魔法で直すしかないのかな……?」


私は深いため息をつき、まだ希望はあると自分に言い聞かせた。

「落ち着いて、ミストルティン様。諦めるのはまだ早いです……まずは他の店を回って手がかりを探しましょう」


アメリアお姉さまはくすくす笑いながら、私の肩を軽く叩く。

「こういうときは冷静が一番よ、エレノア」


ノエルは少し顔をしかめつつも、私たちの後ろで黙ってついてきていた。


次に向かったのは、私がよく通う薬草店だった。

ここは珍しい薬草も扱っているので、何かしらの情報があるだろうと思い、扉を開ける。


「いらっしゃい! あら、いつものお嬢さんじゃないかい!」

店主はにこやかに迎えてくれる。


「こんにちはー」

私は少し緊張しながら返事をする。


「今日は何を買いに来たのかい?」

店主の目は好奇心で輝いている。


「共鳴熱用の薬を調合したくて……材料はありますか……?」

私は少し声を落として尋ねた。


店主は一瞬ぽかんとした表情になる。

「共鳴熱……って、なんだい?」


(……ダメだったかー)

心の中でため息をつきながら、共鳴熱の説明をする。


「うーん……残念だけど、共鳴熱自体を初めて聞いたからわからないねぇ」

店主は首をかしげ、申し訳なさそうに笑う。


「そうですか……。すみません、また来ます」

私は少し肩を落としつつ、店を後にした。


その後も私たちは、あちこちの薬草店や薬屋を一軒ずつ回り、共鳴熱用の薬や材料について尋ね歩いた。

しかし、得られる情報は何一つとして有力なものはなく、空振りが続くだけだった。


そして、エレノアたちの目の前には――今日の探索で最後の薬屋が、静かにその扉を構えている。


「ここがラストね……お願い、何か手がかりを……!」

私は思わず拳を握りしめ、深呼吸をする。


意を決して扉を開けるとかなり暗い雰囲気の薬屋だった。


「いらっしゃいませー!初めてのお客さんですか?」


(めっちゃ明るい!!)


店内の雰囲気と違って元気よく接客する女性に共鳴熱用の薬を聞いた。

するとーー


「あー......前は置いていたんだけど売れなくて仕入れるのやめたんだよねー......」


申し訳なさそうに答える店員さん


「因みに材料ってわかりますか......?」


「材料?? 私達は仕入れることはあっても材料を聞くことはないんだよねー」


私は少し肩を落としつつ、深呼吸して気を取り直す。


「なるほど……仕方ないですね……ありがとうございます」


店員さんはにこにこと笑いながら、棚の間を忙しそうに動き回る。

「また何かあったらいつでも聞いてねー!」


ミストルティン様は眉をひそめ、首をかしげながら小声でつぶやく。

「……やっぱり、魔法で何とかするしかないんじゃない……?」


「……それ、私も思った……」

私は思わず小さく呟き、ちょっとだけ肩を落とす。


そんな中、アメリアお姉さまがふわりと笑いながら言った。

「もう結構歩いて疲れたし、どこかで休憩してから帰らない?」


ノエルは眉をひそめつつも小さくうなずく。

「そうですね……少し体を休めたほうが、屋敷に戻って作業する時も効率がいいでしょう」


ミストルティン様は少しがっかりした顔をするが、すぐに目を輝かせて口を開く。

「そ、そうだね!じゃあ、お茶でも飲みながら作戦会議ってことで!」


私は深呼吸して小さく笑う。

「……まあ、少し休憩して頭を整理するのも悪くないかもね」


「じゃあ!私のおすすめの喫茶店に行かない?」


きらきらと目を輝かせるミストルティン様に、私は思わず肩をすくめた。


「……休憩するだけだから、過剰なスキンシップをしないでね?」

軽く釘を刺すと、ミストルティン様はにこっと笑い、両手を胸の前でそろえて小さく頷いた。

「わかったよ! 今日は外だし大人しくするからね!」


アメリアお姉さまは私たちのやり取りを見て、くすくす笑いノエルは信用してなさそうな目線を送っていた。

私は心の中でため息をつきつつも、少しだけ安心しながらミストルティン様の後ろをついていった。


来た道を戻り、市場の大通りに出てから三分ほど歩いたところで、ミストルティン様おすすめの喫茶店に到着した。

「ここだよ! エレノア、やっぱりル・ビジューは外せないでしょ!」


私は思わず微笑む。名前は聞いたことがある――ミストルティン様のお土産の定番、超高級ケーキ店ル・ビジュー。

だが、店内に入るのは初めてだ。ガラス越しに見える宝石のように輝くケーキや、上品な装飾が並ぶ様子に、少し緊張しながら扉を押す。


「……思ったより華やかね……」

小さく呟く私に、ミストルティン様は満面の笑みで胸を張る。

「そうそう! 中に入るともっと素敵でしょ? さあ、心の準備はいい?」


ノエルは眉をひそめ、少し距離を取って後ろをついてくる。

「……高級すぎて、落ち着かないな……」


アメリアお姉さまはくすくす笑い、私の肩に軽く手を置いた。

「でも、こういう時のミストルティン様、意外と楽しそうよね……」


私は深呼吸し、心を落ち着ける。

「……よし、今回はちゃんと店内でも落ち着いて行動してもらおう……」


私たちはそれぞれ、ケーキ三種類とお茶がセットになった物を注文し、大通り沿いのテラス席へと腰を下ろした。

外の陽光が柔らかく差し込み、行き交う人々の声や屋台の香りが心地よく混ざる。


ノエルは甘いものが苦手らしく、ケーキには手をつけず、後で屋台で串焼きを食べるつもりのようだ。

「……まあ、無理に食べなくてもいいか」

小さく呟き、軽く肩をすくめて笑う。


私たちは届くまでの間、薬草店や薬屋で聞き回った内容を整理することにした。

「結局、共鳴熱用の薬や材料について有力な情報はどこにもなかった……」

私はメモ帳を開き、店ごとの情報を箇条書きにしながら確認する。

その情報は統一性がなく、どれも役に立つとは思えない内容ばかりだった。

一日でも早くメルを元気にしたいーーだが立ちはだかる壁はとても高く、到底超えられそうになかった。


「やっぱ、ミストルティン様の神聖魔法とかポーションに頼るしかないのかな……」

私が小声で呟くと、アメリアお姉さまが低く言った。

「そもそも鑑定結果が間違えているとか……?」


「鑑定結果は間違えないよ! スキルレベルにもよるけど、エレノアなら早々間違えない」

流石は魔法の神様ーー魔法の仕様や特性まで熟知していた。

私は少し誇らしい気持ちになりながら、メモ帳に視線を戻す。


「そういえば、鑑定結果で思い出したけど、メルの鑑定結果に『ミストルティンのお気に入り第二号(笑)』ってあったけど、あれ何!?」


「そのまんまの意味だよ!」

ミストルティン様は満面の笑みで胸を張る。

「因みに第一号は、もちろんエレノアだよ! ついでに私の加護も授けといたから!」


私とアメリアお姉さまは思わず苦笑し、少し呆れた顔で見合わせた。

「……ほんと、この人、やっぱり暴走癖あるよね……」

小声で呟きながらも、少し微笑んでしまう自分がいた。


少ししてケーキセットを持った三人の店員さんがやってきた。

「お待たせしました! ご注文のケーキセット……共鳴熱用の薬ってお客様、人間族ですよね? なんで共鳴熱用の薬を探しているんですか?」


私は思わず顔を上げ、少し驚きながら答えた。

「……あ、いえ、ちょっと……事情があって……猫耳族の友人が体調を崩していて、それで……」


店員さんたちは首をかしげながらも笑顔でケーキを置き、紅茶を注いでくれた。

この瞬間、ほんの少しだけだが希望の光が差し込んだように感じた。


配膳を終えると、一人の店員さんが空いている椅子へ腰を掛け、そっと声を落とした。


「……猫耳族の共鳴熱、ですよね?」


私たちは一斉に顔を上げる。


「ご存じなんですか?」

思わず身を乗り出す私に、店員さんは小さく頷いた。


「薬そのものはほとんど出回りません。でも……材料なら、知っています」


「本当ですか!?」


私は思わず勢いよく身を乗り出した。


店員さんは少しだけ困ったように笑った。


「ただ、きっと皆さんが想像しているような特別なものじゃありませんよ」


「え……?」


「むしろ、とても身近なものです」


私たちは顔を見合わせた。

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