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転生したら錬金術が得意な貴族家の女の子でした  作者: 双葉アリア
第一章 幼少期編

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32話 師の不在、弟子が立つ

「「「行ってきまーす!」」」


玄関の方から、エレノア様、アメリア様、それにメルの声が響いた。


今日は当主様と奥様が揃って外出。

エレノア様たちは市場へ買い物に出かける日だ。


屋敷に残るのは、俺たち使用人だけ。


留守を預かる。


それだけのことなのに、胸の奥が少しだけ熱い。


エレノア様は振り返り、俺に微笑んだ。

「カイル、お願いね」


「はい。お任せください」


扉が閉まる。


静寂。


……よし。


小さく息を吐く。


今日は、俺がこの屋敷を守る。

エレノア様がいない間くらい、胸を張っていられるように。


ーー王都郊外北部・平原の森


一方その頃――


下級騎士団と呼ばれる者たちは、鍛錬を兼ねた小規模の魔軍激突(スタンピード)の対処に追われていた。


あの日の中規模激突から、すでに幾日も経っている。

だが、森や平原に散った残党は完全には消えていない。


小規模な魔軍激突(スタンピード)は、今もなお各地で発生していた。


彼らは知っている。


未来に、再びあの規模の災禍が訪れたなら――

王都を、そして派遣された地を守れるのは自分たちだということを。


だからこそ、鍛錬を怠らない。


その熱意は、上官のみならず兵士一人ひとりにまで浸透していた。


「おい!そっちにホーンラビットが一匹行ったぞ!」


「了解!こっちで対処する!!」


洗練された連携で一匹一匹確実にその数を減らしていた。


「ナイス!アシスト!」


ホーンラビットが地に伏す。


「三時方向クリア!」


「左翼、包囲完了!」


剣と盾の連携。

槍兵が隙を作り、弓兵が確実に急所を射抜く。


若い兵士が息を弾ませながらも笑う。

「ははっ、訓練の成果が出てますね!」


「当然だ。あの日を忘れた者はいない」


上官の言葉に、空気が少しだけ引き締まる。


あの日の魔軍激突では、ベヒーモスやジャイアントベアといった上位種が主に統率し、王都を襲った。

魔導士団、騎士団、冒険者たちの総力戦――防衛はあと一歩のところで崩れそうになった。


だが、それを救ったのは一人の少女――エレノアだった。

貴族家の次女でありながら、王国がそのポーションを高く評価するほどの才を持ち、さらにベヒーモスを一撃で討つ魔法まで放ったのだ。


我々は死を覚悟した。

しかし、あの勇敢な少女を、今度こそ守る。

その決意を胸に、今日も訓練に挑む――。


休息を取るため、騎士たちは森の小道に整列した。

木陰に座り、水を飲み、息を整える。

少しの間だけだが、緊張が緩み、笑顔がこぼれる。


「ふぅ……やっと一息つけるな」


槍兵の一人が笑うと、周囲も同調して軽く笑い合った。

戦闘の連携は完璧でなくとも、この瞬間の和やかさが士気を支える。


「後半戦に備えろ。無理はするな」


上官の声が空気を引き締める。

兵士たちは深呼吸をして立ち上がり、武器を握り直した。


再開された戦闘は、すぐに苛烈を増した。

茂みの向こうから次々と魔物が飛び出し、前衛の盾が連続して弾き飛ばされる。

弓兵の矢が急所を捉えても、数の暴力は止まらない。


「負傷者、三名! 治療班!」


「ポーションが……もう残り少ない!」


医療班が悲鳴混じりで駆け回る。


小規模ながらも、圧倒的な物量の前に、士気の高さだけではどうにもならない状況だ。


下級騎士団の兵は、一瞬判断に迷うが、冷静に口を開いた。


「隊長、状況報告です――我々だけではこれ以上の前進は困難です。負傷者多数、ポーションも底を尽きつつあります」


報告を受けている間にも次々と負傷者が増えていく。

報告を受けた下級騎士団の隊長はある決断を下した。


「わかった。総員退却準備!!

動ける者は負傷者の搬送、盾を持っている者は守りながら退却しろ!」


「「「「はっ!!!!!」」」」


森の空気が一瞬、張り詰める。

盾兵が前に立ち、矢面に身を晒す。

槍兵が脇を固め、弓兵は後方から援護射撃を続ける。


「負傷者十二名、右側から搬送!」


「了解! 左翼は群れを抑えろ!」


だが物量は衰えず、魔物の群れが再び押し寄せる。

倒しても倒しても、次の影が茂みから現れる。

小規模とはいえ、12名もの負傷者を抱えながらの退却は、隊列の速度を著しく落とした。


「くっ……もうポーションがほとんど残ってない……!」


医療班の悲鳴が響く。

隊長は歯を食いしばり、必死に隊列を見守る。


「無理はするな! 焦るな! だが確実に退くんだ!」


その声で、わずかに隊列はまとまりを取り戻す。

背後からの圧迫感は消えず、森全体がざわめき、戦場の緊張は途切れない。


撤退が完了した後、下級騎士団の隊長は騎士団長に報告するため急ぎ森を駆け抜けた。


「団長、状況報告です――負傷者12名、ポーションは底を尽きつつあります。これ以上の前進は困難です」


騎士団長は眉をひそめ、視線を険しくした。


「わかった……王命により、この場にいる者の中で私だけがエレノア嬢と直接会える。

今すぐ屋敷へ行き、緊急納品できるか相談する。

数が少なくても構わん、負傷者を救うためだ!

他の者は負傷者を王城広場へ搬送しろ!」


隊長は頷き、部下たちに指示を飛ばす。


「よし、負傷者を王城広場まで安全に搬送だ! 盾は守りを固めろ!」

部下たちは整列し、負傷者を抱えて王城広場へと向かう。

隊長は後方から隊列を見守り、森の安全を確認した。


騎士団長はその間に馬に跨がり、王都の屋敷へ急行した。

森のざわめきはまだ残るが、今はエレノア嬢への緊急納品相談が最優先だった。


ーー屋敷・実験室


「ふぅ……こんなものかな?」


エレノア様が調合で使う器具や魔道具のメンテナンスを終え、屋敷の居間へと戻った。

直接お願いはされていないが、常に完璧な状態で調合してほしいという思いを叶えた達成感があった。


その時、カイルは出合い頭に騎士団長とぶつかりそうになる。


「おおっと、危ねぇ!」


「すまない……急ぎのことで失礼する。エレノア嬢は今、いらっしゃいますか?」


「エレノア様はただいま不在です」


騎士団長は慌てた様子で訪ねてきた。


「そうか……わかった。予備のポーションはあるか? 負傷者の救護に間に合わせねばならん」


「ポーションの種類にもよりますが……」


「ローポーションだ!」


「残念ながら、ローポーションはあいにく予備がありません……

エレノア様の方針で、必要な時に必要数作っているので……」


カイルは申し訳なさそうに答えた。


騎士団長は困った顔を浮かべ、肩をすくめる。


「実は、平原の森で大勢の下級騎士団の者が負傷した……

通常より多めに支払う。どうにか都合できないだろうか……?」


カイルは少し眉をひそめ、力強く答えた。


「俺、エレノア様からローポーションの作り方を教わったので、数にもよりますが調合できますよ。

一応、これでも錬金術士ですから……」


騎士団長の顔が明るくなる。


「ほんとか!?助かる!!

また負傷者が増える可能性がある

多めの七十本をお願いしたい!!」


「わかりました!

今から調合するので、中に入ってお待ちください」


カイルは実験室へ向かう途中で手順や材料を確認する。


実験室近くの薬草畑で、カイルは妖精たちに声をかけた。


「妖精さん! 緊急でポーションを作るから、ローポーション七十本分の薬草を採取してもらっていい?」


妖精たちは元気よく答える。


「「「いいよー!」」」


小さな手でサッと葉を摘み取り、カゴに詰めて渡してくれる。

カイルはそれを受け取り、実験室の作業台へ置いた。


「……よし、これで材料は揃った。急ごう!」


蒸留水を作り、薬草を下処理してビーカーに入れる。

ビーカーを熱し撹拌

しながら魔力を注ぎ、鑑定スキルを駆使して成分の溶け出すタイミングを見極める。


【鑑定結果】

名前:ローポーション

品質:高品質+

備考:一般的によく使われるポーション

   味はほんのり甘く、子供でも飲める。

   限りなく薬草本来の成分が出ており回復量は、ポーションと同等。


「よし、できた!」


一度に三本ずつ完成するが、目標は七十本。

同じ工程をあと二十三回エレノア様に教わって手順を繰り返せばいいだけの単調な作業


だが、十五本目を作ったあたりで、魔力が途切れそうになる。

「うっ……まだ半分も残ってるのに!」


カイルは作業台の横に置かれた小さなマナポーションを手に取り、一気に飲む。

体内に魔力が流れ込み、指先の震えが収まった。


「……よし、これで続けられる!」


そのとき、実験室の扉が開く音がした。


「大丈夫、カイル。聞いてるわ、急ぎで作らないといけないってこと」

エレノアが入ってくる。背後にはメルも続く。


「ええと……エレノア様、メル……!」

カイルはびっくりして手元のビーカーを少し振るが、すぐに落ち着きを取り戻す。


メルも元気に頷く。

「カイル君、がんばって! 急いでるのは知ってるけど、怪我しないでね」


カイルは照れくさそうに、でも力強く頷いた。

「大丈夫です! マナポーションも使ったので、このまま最後まで作れます!」


エレノアは黙って作業台に向かい、手早く薬草の下処理や蒸留水の管理を手伝い始める。

「ここは私がやるから、カイルは撹拌に集中して」


メルも妖精たちと協力し、必要な薬草を手際よく集める。


こうして、三人の協力で七十本分のローポーション作りは一歩ずつ進んでいった。


カイルは瓶に詰め終えるたびに確認し、次の三本分に取りかかる。


「あと、あと……まだまだ……」

「焦らずいきましょう。二人ならきっと間に合うわ」

エレノアの笑顔に励まされ、作業は続く。


完成したローポーションを箱に詰め、カイルは急ぎ屋敷へ戻る。

騎士団長は居間で待機していた。


「騎士団長、ローポーション七十本、完成しました!」

カイルは少し照れくさそうに報告する。


騎士団長は満足げに頷いた。

「よくやった、これで負傷者たちを救える」


エレノアも箱を確認し、メルも手元をチェックしてから、三人は王城の広場へ向かう。


「念のため、負傷者の回復を早く進めましょう」

エレノアの言葉に、三人は素早く動き出す。


負傷者たちはすでに待機していた。

騎士団長が指揮を取りつつ、三人に視線を送る。


「君たちに任せる。負傷者は増えている、迅速に!」


エレノアは箱を開け、ローポーションを取り出す。

メルも手伝い、カイルも手際よく手渡す。


「はい、これで少しでも楽になるといいね」

「飲んで! しっかり休んで!」


負傷者たちの顔に安堵の表情が広がる。

体力を回復し、笑顔を見せる兵士たち。

騎士団長の目にも、達成感とほっとした表情が浮かぶ。


作業を終え、三人は少し息をつきながら顔を見合わせる。


「カイル、ありがとう。あなたがいてくれたおかげで助かったわ」

エレノアの柔らかい声に、カイルは少し照れたように笑った。


「いや……僕も手伝えてよかったです。でも……まだまだですね、エレノア様には敵いませんよ。二百本も作ってしまうなんて」


エレノアは微笑みながら、カイルの肩に軽く手を置いた。

「ふふ、確かに私は一人でたくさん作れるけど……今日、もしあなたがローポーションを作ってくれなければ、助からなかった命もあったかもしれないのよ。カイル、あなたの錬金術で人を救ったのよ。本当にありがとう」


その言葉に、カイルは胸が熱くなり、目の奥が少し潤んだ。

「そ、そんな……でも、僕がやらなければ誰も助けられなかったんですよね……」

「そうよ。だから、今は胸を張っていいの」

エレノアの笑顔は優しく、そして力強かった。


メルも笑顔で頷き、手を差し伸べる。

「カイル君、本当にすごかったよ。みんな助かったんだから!」


騎士団長は遠目でその様子を見つめ、静かに頷いた。

「……よくやった。今日の活躍は忘れない」


三人は王城の門を後にし、夕暮れに染まる街道を歩き始めた。

回復した下級騎士団たちの安堵の声が門の向こうで響き、温かい光景が目に残る。

疲れ切った体に、温かいローポーションが染み渡り、兵士たちの顔には笑みが戻っていた。


「エレノア様に命を助けられた……!」

「本当に危なかった……あの子がいなければ俺たちは……」


下級騎士団の兵士たちは口々に声をあげ、笑顔を浮かべながら安堵を分かち合う。


騎士団長は苦笑し、声を張った。

「お前ら、そんなに余裕があるなら、今から鍛錬でもするか?」


「ええっ!? そんなひどいっすよー!」

兵士たちは冗談に笑いながら返す。

騎士団長は手を振り、「冗談だ、冗談!」とフォローし、場は和やかに包まれた。


カイルは胸の奥に小さな誇りを抱き、並んで歩く仲間たちの背中を見つめる。

今日一日、王城門前で負傷者を救い、屋敷と実験室で奔走した自分――その手で命を助けられたことを、まだ少し信じられないような気持ちで噛み締めた。


夕焼けに染まる街道を歩きながら、三人の間には静かな満足感と、次への決意が漂っていた。

こうして、王城門前での一日を通じて、屋敷を守る少年の勇気と少女たちの手助けによって、森で負傷した騎士団たちは無事回復へと導かれたのだった。

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