29話 虚勢崩壊、死罪宣告
王城の大広間――昼下がりの光が窓から差し込み、金色の装飾を柔らかく照らしていた。
だが、空気は重い。昼の温かさを覆い隠すように、裁きの場の緊張が漂う。
木枷を嵌め、手首を鎖で結ばれたルドルフ・フォン・グリムヴァルト子爵は、二人の衛兵に挟まれ、謁見の間へと続く通路を進む。
鎖が大理石の床を擦る音が、昼の静けさに鋭く響いた。
「王都条例違反、無断地下改築、違法魔導設備設置……だと」
子爵は眉をひそめる。木枷の重みは確かに不快だが、心の奥底ではそう大層な罪とは思えなかった。
「たかがこの程度で、鎖までかけられるとはな……」
衛兵の一人が淡々と答える。
「沈黙しておくのが身のためです、子爵様」
「落ち着けと言われても……昼の光の下で、何を取り繕えというのか」
鎖が床を擦る音は、裁きの静寂をさらに際立たせる。
木枷の圧迫感が身体だけでなく、心まで締め付ける。
だが、その奥には、わずかに残る苦笑――
人としての意地、他愛もない感情の痕跡だった。
「人は、こうして自らの過ちと向き合うのか……」
心のなかでつぶやく
衛兵に連れられ、ルドルフは謁見の間の重厚な扉の前に立つ。
「罪人ルドルフ・フォン・グリムヴァルト子爵をお連れしました!」
大きな声が響くと同時に、扉はゆっくりと開かれる。
昼の光が差し込む広間には、整然と列を作る貴族や文官たちが視線を一斉に向けていた。
木枷を嵌められ、両手を拘束されたルドルフは、重々しい足取りで指定された位置へ歩みを進める。
周囲の視線が熱を帯びる。ささやき、ため息、あるいは軽い笑み――
それらすべてが、彼の歩みに合わせて静かに空間を包む。
王座に座する陛下の前まで進むと、ルドルフは膝をわずかに曲げて頭を下げる。
陛下は穏やかな視線で彼を見下ろし、軽く手を上げた。
「よい。牢での暮らしに不自由はないか?」
その声は柔らかく、広間の緊張をわずかに和らげる。
ルドルフはぎこちなく答えるしかなかった。
木枷の重みと、これから下される裁きの重圧が肩にのしかかる。
陛下は微かに頷き、玉座に座したまま静かに告げる。
「さて……此度の裁きを始めようか」
広間の空気が再び引き締まり、昼の光の中で裁きの幕が上がった。
裁きが始まると宰相は淡々と罪状を読み上げる
王都条例違反、無断地下改築、違法魔導設備設置ーー
全ては軽犯罪とも重罪とも言えない微妙な罪状だった。
読み上げが終了すると陛下が鋭い目でルドルフに視線を向ける
「ところでルドルフよ......
これ以外に余に何か隠していることはないか?」
そう言うと何も事情を知らない貴族や文官はざわつき知っているものはルドルフに冷ややかな視線を向ける
「恐れながら陛下、何をおっしゃっているのか私には理解できません」
「そうか......
なら宰相!ルドルフに教えなさい」
宰相は頷くとまた淡々と呼び始める
「では、読み上げます
国家反逆罪、エレノア嬢を誘拐し監禁した罪、私設監獄施設建造、禁忌の古代魔法を使用した罪、違法高利貸ーー
そして、詐欺罪の計九つ
以上です。」
追加で宣告された罪状はほぼ全てが重罪級の犯罪だった。
これに驚いた貴族や文官はさらにざわつき場が騒然とした。
「静粛に!」
陛下がそう言うと静まった。
「ルドルフよ
この件に対して何か申し開きはあるか?」
「本当に身に覚えがありません!」
ルドルフの声は震え、木枷の鉄がかすかに鳴る。
「第一にエレノアという娘も知りませんし、そんな娘を誘拐、監禁する動機もありません!」
だが、陛下の目は冷たく光り、円を描くように広間に圧を広げた。
貴族や文官たちの視線が一斉にルドルフに向けられる。
ざわめきが静まり返り、しかし誰も息をするのをためらうほどの緊張が漂った。
「動機なら十分にあるじゃないか」
陛下の声は穏やかに聞こえるが、その一言一言が鉄槌のように響く。
「エレノア嬢のポーションの納品が増えてから、お前の裏稼業のポーション工場の納品がこれまでの三分の一になっていただろう?」
ルドルフの顔が青ざめる。
「……そ、それは……」
「それに、ポーションの納品の度に陰から覗いていたそうじゃないか?」
陛下は視線を下げ、王座の高さからルドルフをじっと見下ろす。
「騎士団長も目撃しているぞ。これを動機と呼ばずして何と言う?」
木枷の音とルドルフの動揺が、広間の静寂を切り裂く。
嘘を重ねれば重ねるほど、周囲の視線は冷たく、重くのしかかる。
だが、これを認めると死罪が確定してしまうのは明白だった。
ルドルフは何とかしてでも疑いを晴らす方法を考えるしかなかった。
「仮に娘を知っていたとしても、どうやって監禁したというんですか?
まさか小人が連れてくるわけでもないじゃないですか?」
その言葉に、怒りの渦が王座の間を満たす。
「テメェ!」
レオンハルト・フォン・レーヴェンが声を張り上げ、憤怒の念を全身で響かせる。
「私の娘にあんな仕打ちをしてまだしらばっくれるつもりか!
エレノアはあと一歩でも遅ければ、元に戻らんかったんだぞ!
エレノアの気持ちや、私達家族の気持ちをこれ以上踏みにじるなら、こっちも容赦しないぞ!」
その怒りの渦に、一瞬場が息を呑む。
だが、静かに、鋭く響く声が割り込む。
「落ち着け、レオンハルト」
陛下の声は穏やかだが、揺るがぬ圧を伴っている。
「その恨みは、後で存分に、この者にわからせてやる」
言葉は冷静だが、王の意志の重みは全員の胸に深く響いた。
場内のざわめきがすっと消え、怒りの焦点は一点に収束する。
陛下の声が、秩序と安心を同時にもたらす――
そして、裁きの時は静かに、しかし確実に迫っていた。
陛下は周囲をゆっくりと見渡す。謁見の間に集う貴族や文官の視線が、自ずと沈黙に包まれる。
「ルドルフ・フォン・グリムヴァルト子爵を、国家反逆罪、ならびにエレノア嬢の誘拐・監禁、殺人未遂の罪――
そして他二つの重罪により、死罪に処す。
異論はないな?」
場内に、異論を唱える者はいなかった。
全ての罪状は、擁護の余地がないほど重く、仮に弁護すれば共犯の疑いをかけられかねない。
「異論はないようだな。
では、その者を地下牢にて厳重に――」
陛下が言いかけた瞬間、謁見の間に異様な笑い声が響き渡った。
「ふふ……ふはははは!」
ルドルフ・フォン・グリムヴァルト子爵が、木枷に縛られたまま、突然、笑い出したのだ。
冷ややかで、しかしどこか底知れぬ狂気を帯びた笑い。
場内が一瞬、凍りつく。貴族も文官も、誰も息をつけない。
その笑いは、陛下の威厳にさえ微かに波紋を広げ、地下牢に連行される運命を前にしても、なお、屈しない異様な余裕を感じさせた。
陛下は眉をひそめ、一瞬だけ静止する。
「……ほう。まだ、余の裁きを愉しむつもりか」
冷静さを保ちながらも、ルドルフの声には確かな圧力があった。
「この国の王族は実に愉快だな!
死罪か――寧ろ本望だ!
あの小娘を一緒に始末できるんだからな!!」
その言葉に、謁見の間の空気が凍りつく。
貴族たちは顔を青ざめ、文官は言葉を失い、衛兵たちでさえ息を飲む。
「お前らは揃いも揃って頭の中はお花畑か?
この私が、万が一に備えて対策を講じないとでも思っていたか?
なら教えてやる――あの小娘には、ちょっとしたサプライズを授けてある!
この私が死ぬと同時に、そのサプライズは発動し――小娘は絶望の死を遂げるのだ!!」
「なっ!!!!」
その言葉に宰相は思わず書状を握る手に力を込め、顔を引き締めた。
「陛下……これは……」
貴族や文官たちもざわめき、謁見の間は緊張に包まれる。
陛下は冷静なまま、視線をルドルフに据える。
「さぁどうする?貴様ら王族が目にかけるあの小娘の命がかかっている今この場で俺を釈放した方がいいぞ?」
ルドルフが余裕の笑みを浮かべていたーーその時だった
「そのちょっとしたサプライズとは、古代魔法――終焉の連鎖のことかな?」
「何故その魔法を知っている!!」
ルドルフが驚きを隠せない中、謁見の間の空気が微かに震え、温かみのある風と緑の香りが満ちた。
大地の精霊王――そしてその隣にはエレノアがいた。
「エレノア!!」
「エレノア嬢!!」
陛下とレオンハルトは感動の再会を果たす中、もう一人の神が謁見の間に現れた。
「終焉の連鎖は、この私が解除した。」
その言葉と共に現れたのは、人間族の中で魔法を司る神と呼ばれる存在――
理を綴る者・ミストルティンだった。
「大地の精霊王に頼まれてエレノアを治療していたのだが、巧妙に隠された楔が打ち込まれていた。
その楔を解読すると、どうやら古代魔法の禁忌中の禁忌と呼ばれる終焉の連鎖ということがわかってな……
こんな腐れ外道のために、大地の精霊王の愛し子――そして錬金術の再興の最後の砦ともなるエレノアを死なせるわけにはいかないのだよ」
「念のためミストルティンに診察するように頼んで正解だったな」
大地の精霊王は、柔らかな微笑を浮かべながらレオンハルトの元へと歩み寄る。
「待たせてすまなかったな……
エレノアは無事、回復した
まだまだ経過観察する必要はあるがな」
レオンハルトの目に安堵の光が宿る。エレノアも微かに笑みを返し、体の奥底から力を取り戻しているのが伝わる。
「これで、もう心配は要らぬ」
大地の精霊王は、緑の光を帯びた手を穏やかに振り、森のような優しさと安心感を周囲に広げる。
「……ありがとうございます、精霊王様」
レオンハルトは深く頭を下げ、声に緊張と感謝が混ざる。
エレノアは小さく頷き、まだ眠気の残る瞳で王都の謁見の間を見渡す。
長い試練の後、彼女の身体と精神が守られたことを実感し、静かに胸を撫で下ろす。
大地の精霊王の微笑が、場の緊張を解き、ルドルフの狂気がもたらした重苦しさをほんの少しだけ和らげる――。
そしてミストルティンは、陛下の元へと行く
「お初にお目にかかります。
人間の王よ
少し聞きたいことがあるのだけどいいかしら?」
「ミストルティン様と言ったな
何を聞きたい」
「この腐れ外道の名は?」
「ルドルフ・フォン・グリムヴァルト子爵ーーいやもうただのルドルフだな」
陛下がそう言うとミストルティンはルドルフの元へと行きこう宣言した
「ルドルフとやらよく聞け
お前の愚かな行為は我々神族でも目に余る
貴様がやったことは人間のすることではない!!
よって神族の裁定により貴様を輪廻転生の理から外しお前の魂を冥界へ幽閉する!!」
その言葉にルドルフの瞳が一瞬見開かれ、狂気じみた笑みが消えたかと思うと、すぐに怒りと不信が混じった表情に変わる。
「……なんだと、魂を冥界に幽閉だと? 私が生きている限り、逃れられるはずがない!」
しかし、大地の精霊王が静かに一歩前に出る。温かい風と森の香りが謁見の間に流れ込み、ルドルフの空間的な圧力を押し返すように広がる。
「愚か者よ……魂を縛るのは、この私の力であり、神々の秩序だ。
だが忘れるな――我が愛し子に向けた数々の仕打ちは、決して許されぬ。お前の愚行は秩序への冒涜であり、必ずその報いを受けるのだ」
精霊王の声は穏やかでありながら、まるで世界の中心を揺さぶるような圧を帯びていた。
その隣でエレノアが立ち上がる。瞳は落ち着きと決意に満ち、微かに光を帯びている。ルドルフの狂気に押されることはない。
「この男は死罪だったな......
我々が冥界へ連れていく
よいな?」
そう言い大地の精霊王が連れて行こうとした時陛下が待ったをかけた。
「大地の精霊王ちょっと待ってくれ
まだ共犯者がわかっていない故まだ取り調べが必要だ!
事が終わったら全員をそちらに送ることを約束する!
今日連れて行くのはやめてほしい」
その言葉に大地の精霊王は鋭い視線を向ける
大地の精霊王は、ゆっくりと眉を寄せ、深く息を吐く。だが、その目には怒りよりも、秩序を尊重する冷静さが宿っていた。
「……よかろう。人間の王の意向ならば、従うとしよう」
彼の声は森の風のように柔らかく、それでいて全てを覆い尽くす存在感があった。
「だが、愚か者よ、忘れるな。お前が愛し子に向けた仕打ちは、許されぬものであり……魂を縛る裁定は、この我と神々の秩序によるものだ」
その言葉に、ルドルフの顔は瞬間的に青ざめる。
「取り調べが終わり、事実がすべて明らかになった暁には、お前の魂は冥界に幽閉される――理解しておけ」
陛下も静かに頷き、深く視線を落としてルドルフを見据える。
「今日のところは取り調べに専念する。貴様の死罪判決は変わらぬ。しかし、その執行は、すべての事実が明らかになった後にな」
謁見の間に、重く静かな沈黙が漂う。
ルドルフの周囲だけが、凍りついたかのように空気が止まり、神々の眼差しが彼を射抜いていた。
大地の精霊王は再び軽く頷き、手を下ろす。
「ならば、取り調べのために連行するがよい。エレノア嬢を守るための措置は、余が責任をもって執行する」
その言葉で、衛兵たちはルドルフを囲み、慎重に歩き出す。
エレノアは微かに息を整え、父レオンハルトと共にその光景を見守った。
場内の空気はまだ張り詰めているが、秩序の力が確実に働いていることを、誰もが肌で感じていた。
陛下は玉座から静かに立ち上がる。
その動作は威厳に満ち、空気がひとつ重く引き締まる。
歩みを進め、エレノアの元へ近づくと、穏やかながらも確かな圧力を帯びた視線で彼女を見つめた。
「エレノア嬢、まだ共犯者が捕まっておらぬ故、当面は王城にて厳重警護の上、余が責任をもって保護したい」
その言葉に、エレノアは静かに首を振る。
「陛下……ありがとうございます。ですが、私は薬草畑の管理や研究の続きを任せっきりにはしたくありません。それに、今は家族が待つ自宅に戻りたいのです」
陛下は少し間を置き、優しい眼差しでエレノアを見つめる。
「なるほど……家族のもとに戻りたいか」
視線を大地の精霊王に向け、微かに頷く。
「ならば、王城での保護は継続するが、屋敷にて事件解決の間を厳重に警護することで、屋敷に戻ることを許そう」
大地の精霊王は静かに頷き、森のような緑の風がエレノアを包む。
「それで落ち着くだろう」
エレノアはほっと息をつき、微笑みを浮かべる。
「ありがとうございます、陛下……」
王城の重厚な壁に守られつつも、家族と薬草畑の元に戻れるという安心感が、彼女の肩の力をわずかに解いた。
陛下は再び玉座へと戻り、その背後で大地の精霊王が静かに見守る。
謁見の間には、秩序と安堵の空気がゆるやかに満ちていた。




