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転生したら錬金術が得意な貴族家の女の子でした  作者: 双葉アリア
第一章 幼少期編

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27話 見えない敵、王都に潜む

エレノアが救出され、未だ目覚めぬままにあった頃。

王城第一会議室には、この国の重鎮たちが集い、陛下自ら緊急会議を開いていた。


それは、魔軍激突(スタンピート)に匹敵する――否、それ以上に重い議題であった。


「エレノア嬢は無事救出された。

 リムヴァルト子爵家の屋敷にて、だ」


陛下の低い声が室内に落ちる。


安堵する者。

貴族家が誘拐に関与したという事実に戦慄する者。

反応は様々だった。


「だが――現在も目を覚まさぬ。

 大地の精霊王のもとで治療を受けている」


一瞬の沈黙。


「それほどまでに状態は深刻だ。

 発見したのは大地の精霊王。

 屋敷の隠し部屋に、厳重に監禁されていた」


「命に危険はあるのですか……」


震える声で問う者がいた。


それに答えたのは、魔導士団副団長――

エレノアの父、レオンハルト・フォン・レーヴェンである。


「命に別状はない――」


だが、と彼は続けた。


「精霊王様の話では、精神が激しく破壊されているとのこと。

 しかもそれは――()()()()の類だ」


「古代魔法だと!?」


魔法省長官が思わず声を荒げる。


「精神破壊系統は禁忌指定だぞ!」


室内が一斉にざわめいた。


古代魔法は、現代魔法と異なり理論上の規模制限を持たない。

ゆえに多くが禁忌指定となり、魔導書や関連文献は王城地下の禁忌書庫に封印されている。

たとえ王族であろうと、持ち出しは許されない。


そして――

禁忌指定魔法を行使し被害を出した場合、例外なく死罪。


「詳細な術式は不明だ。だが、行使された系統は判明している」


レオンハルトの声は低く、重い。


「精神破壊系魔法。

 神経に作用する毒術式。

 そして古代拘束術式……。

 他にも、古代魔法と思しき残滓が確認されたとのことだ」


室内の空気が、さらに冷え込む。


「すべてが、人を肉体的にも精神的にも壊すためのものだ」


レオンハルトの拳が、わずかに震えた。


「精霊王様の話では――

 あと僅かでも発見が遅れていれば、完全な修復は不可能だったと」


「……なんと下劣な」


陛下の傍らに立つ宰相が、思わず吐き捨てた。


六歳の少女に向けられた、明確な殺意。

その事実は、この場の誰もが理解している。


レオンハルトの唇が、わずかに震えた。

抑え込んでいた本音が、静かに零れる。


「父親として……到底、許せるものではない」


低く、押し殺した声。


「……魔法を扱う者として、恥辱だ」


その言葉に、魔導士団長の眼差しが鋭くなる。

同じ魔導士として、その意味を誰より理解していた。


「法がなければ――

 相打ちになろうと、魔力のすべてを叩き込んでいた」


室内に重い沈黙が落ちた。


それは脅しではない。

本心だと、誰もが理解している。


「レオンハルトよ……」


陛下の声は静かだった。


「その心情、痛いほど理解している。

 エレノア嬢はこの国の宝だ」


玉座から放たれる威圧が、わずかに増す。


「ここまでの仕打ちを施した者に、余が同情することはない」


「だが――これは私怨ではない」


陛下の声は静かで、しかし揺るがぬ響きを帯びていた。


「余はこの国の王だ。

 ゆえに、法に則り裁かねばならぬ」


玉座から放たれる視線が、会議室を射抜く。


「……だが」


ほんの僅かに、声音に熱が宿る。


「この国の王として、かかる所業は断じて許し難い」


「もし私情を許されるならば――

 考え得る限り最も残酷な末路を与えてやりたいと思うほどだ」


重苦しい沈黙が落ちる。


そして、王は続けた。


「だが、法は感情のためにあるのではない」


「法は、この国を守るためにある。

 誰が相手であろうと、等しく裁かれるためにあるのだ」


その言葉は宣言だった。


「よって――

 本件は国家反逆に準ずる重大事案として扱う」


一瞬、誰も息をしなかった。


「……国家反逆に準ずる……?」


小さなざわめきが広がる。


「陛下、それは……いささか過大では」


老臣の一人が、慎重に言葉を選ぶ。


「エレノア嬢は確かに稀有な才を持つが、王族ではありませぬ」


「王族に対する謀反ならば理解できましょう。

 しかし、貴族令嬢への犯行を国家反逆扱いとするのは……前例が」


王は静かに彼らを見渡した。


「前例がない――か」


低い声が落ちる。


「ならば問おう」


「精霊王と直接交信し、

 国土の安定に寄与する可能性を持つ存在が害された場合――

 それは単なる貴族間の諍いか?」


誰も答えない。


宰相が静かに補足する。


「精霊王との関係は、国防・農政・気候安定……

 あらゆる国家基盤に影響を及ぼします」


「その媒介たる存在を破壊しようとしたのです」


「しかも用いられたのは、精神破壊系魔法、毒術式、古代拘束術式……」


魔導士団長が続ける。


「体系の異なる複数の禁忌級術式が組み合わされている。

 偶発的犯行ではあり得ませぬ」


レオンハルトが低く言う。


「明確な意図がある。

 肉体だけでなく、精神を壊し、回復不能にするための構成だ」


再び、室内が静まり返る。


王はゆっくりと告げた。


「これは、偶然でも激情でもない」


「複合的かつ計画的な犯行だ」


「そしてその標的は――」


わずかに間を置く。


「今やこの国にとって、代替の利かぬ存在となった少女だ」


重い言葉だった。


「ゆえに言う」


「王族であるか否かは問題ではない」


「国家の根幹に関わる存在に対する破壊行為は、

 王権への挑戦に等しい」


ざわめきが、今度は明確な動揺となって広がる。


「……前例が、ございませぬ」


「ならば、作るまでだ」


王の声は、静かに断ち切るようだった。


「この国は変わりつつある」


「その変化を守るための法解釈もまた、進化せねばならぬ」


「……以上が、本件に対する余の見解だ」


王は静かに言葉を締めくくった。


「異論はあるか」


ざわめきはあれど、明確な反対は出ない。


やがて宰相が一歩進み出る。


「陛下。法解釈の整理は急ぎ進めましょう。

 ですが――」


わずかに声を落とす。


「複数の看過できぬ報告がございます」


室内の空気が変わる。


王の目が細められた。


「……“影”か」


「は」


“影”。

それは王家直属、存在すら公にされぬ諜報機関。


財務大臣が小さく息を呑む。


「この場で扱うのですか……」


「扱う」


王は即答した。


「本件は、もはや一貴族家の問題ではない」


「陛下、読み上げてもよろしいでしょうか?」


「よろしい」


陛下がそう答えると、“影”からの報告書を読み上げる。


「まず、一件目」


「リムヴァルト子爵家は王城の正式許可なく、屋敷地下を大規模改築。

 複数の結界術式を無断で設置しております」


「無断、だと?」


「は。王城魔導管理局への届け出は確認されておりません」


魔導士団長の声が低くなる。


「貴族屋敷における結界改築は、本来、王城監査の対象だ」


「それを潜り抜けた、ということか」


「また、屋敷地下の大規模改築についても、正式な申請記録は一切確認できません」


「無届け、だと……」


「加えて」


宰相の声がさらに低くなる。


「私邸内に違法な拘束施設――いわゆる牢を設置していたことも確認されました」


室内が凍りつく。


「牢だと?」


「王都内での拘束権限は、原則として王城および認可騎士団のみ」


「貴族が私的に拘束施設を持つことは、明確な法令違反にございます」


財務大臣が息を呑む。


「それは……拷問を前提とした構造か」


「防音処理、魔力遮断壁、外部感知妨害結界が施されております」


魔導士団長の顔が険しくなる。


「逃亡防止ではない。

 外部から“見つからない”ための設計だ」


王の声が静かに落ちる。


「……つまり」


「最初から、違法行為を前提としていたということだな」


「は」


宰相は深く一礼する。


「加えて――」


わずかに、室内の空気が張り詰める。


「牢内部の残留魔力を解析した結果、

 複数人分の滞在反応が検出されております」


一瞬、誰も言葉を発さなかった。


「……複数人?」


「はい。短期滞在ではございません。

 繰り返し使用された形跡があります」


魔導士団長の声が低く沈む。


「常設施設、ということか」


「その可能性が高いと」


レオンハルトの拳が、軋む。


「エレノアだけではなかった……」


宰相はさらに続ける。


「そしてもう一点」


「牢内部および地下儀式区画から検出された魔法痕跡の一部が、

 王都で過去に発生した“行方不明事件”の現場残滓と一致」


室内が凍りつく。


「一致、だと……?」


「はい。

 三年前、南区で消息を絶った錬金術士。

 五年前の商家子息失踪事件。

 そして十年前に所在不明となった禁忌指定魔道具の痕跡」


「すべて、同系統の術式残滓を確認しております」


沈黙。


重い、圧迫するような沈黙。


王がゆっくりと口を開いた。


「……我が国の地で、長年にわたり」


「私設監獄が稼働していたということか」


誰も否定できない。


「そして余は、それを見逃していた」


その声には怒りではなく、冷たい自省が滲んでいた。


「これはもはや、貴族の暴走ではない」


「国家の目を欺き、

 人を攫い、

 禁忌を集め、

 そして精霊王と繋がる少女に手を伸ばした」


王の瞳が鋭く光る。


「……国家を侵食する病だ」


「二件目」


宰相の声は静かだが、張り詰めている。


「複数の錬金術士に対し、高利貸しを介した計画的な借財を背負わせ、

 事実上の囲い込みを行っていた形跡」


「計画的、だと?」


「材料供給を断ち、違約金を膨らませ、

 救済を装って債務を一括肩代わり。

 逃げ場を塞いだ上で専属契約を強要しております」


「……隷属だな」


「はい」


宰相は淡々と続ける。


「製造させたのは基幹回復ポーション――およびローポーション」


わずかなざわめき。


「有効成分を段階的に希釈。

 外見・色調・魔力反応は基準値を満たすよう偽装」


「検査をすり抜ける仕様です」


財務大臣の声が震える。


「市場にどれほど流れた」


「半年で推定三千本以上」


「そのうち――」


わずかな間。


「王都医療院に納入された記録を確認」


室内がざわめく。


だが宰相は止まらない。


「さらに」


「王城納品分にも、同一ロットの混入を確認しております」


完全な沈黙。


「……王城、だと?」


魔導士団長の声が低く落ちる。


「はい。騎士団備蓄のみならず、医療室保管分、

 下級騎士訓練棟、侍女区画にも流通」


「ローポーションは日常医療にも使用されております」


財務大臣が青ざめる。


「それは……王族に限らぬ。

 王城機能全体に影響し得る」


「否定できません」


「実際、回復遅延および体力回復不全の報告が複数」


「因果関係は精査中ですが、関連性は高いと判断」


王は動かない。


だが、空気が明確に変わる。


「検査はどうした」


「魔力反応値を基準範囲内に意図的調整。

 通常の抜き取り検査では発覚困難」


「つまり」


王の声が低く落ちる。


「王城の監査網の穴を把握していたということだな」


「……はい」


宰相は一礼する。


「市場から資金を吸い上げ、

 医療信用を揺るがし、

 王城備蓄へも浸透」


「偶発的詐欺ではございません」


「検査制度そのものを利用した体系的行為です」


魔導士団長が低く断じる。


「資金を得ると同時に、

 王城がどこまで汚染可能かを試した」


王の声が、氷のように落ちる。


「国民の命を削り」

「王城の安全を測り」

「その資金で禁忌を集めたか」


静寂。


「……もはや私腹ではないな」


「国家機能への試験行為だ」


「三件目」


宰相の声が、わずかに重くなる。


「闇商人との接触記録を複数確認」


「加えて、古代魔法触媒の違法取引が疑われます」


魔導士団長の眉が険しく寄る。


「触媒、だと」


「はい。失伝指定第一級――

 王立魔導院封印目録に記載の素材と一致」


室内の空気が凍る。


「闇の組織と結託していた可能性が高いと」


宰相は続ける。


「屋敷地下の儀式区画から検出された魔法陣残滓は、

 現行魔導理論では構成不可能」


「解析の結果、古代系多重詠唱陣の変形構造と判断」


魔導士団長が低く吐き出す。


「……再現に成功していたということか」


「完全再現ではございません」


「しかし“発動痕跡”は確認」


重い沈黙。


「触媒の流通経路を追跡した結果、

 複数の偽装商会を経由」


「最終的に、王都外縁に拠点を持つ地下組織と接続」


「単発取引ではありません」


「継続的な資金供給と物資供与の形跡あり」


レオンハルトが低く呟く。


「……やはり単独ではない」


宰相は頷く。


「屋敷改築、資金洗浄、触媒確保、

 古代術式構築――」


「個人で完遂できる規模ではございません」


王の声が、静かに落ちる。


「目的は」


「現時点では断定できません」


「しかし」


「精霊属性共鳴増幅の痕跡を確認」


室内が、再び凍りつく。


レオンハルトの声が、底冷えするほど低く落ちる。


感情は見えない。

だが、空気が軋む。


「……エレノアを、触媒にするつもりだったか」


宰相は、すぐには答えなかった。


書簡を閉じ、静かに目を伏せる。


――否定はない。


それが答えだった。


王の瞳が冷たく光る。


「私設監獄で人を拘束し」

「市場を汚染し」

「王城を試し」

「古代魔法に手を伸ばした」


わずかな間。


「……もはや貴族の逸脱ではない」


「国家侵食行為だ」


王の視線が、宰相へ向けられる。


「闇の組織――」


「見当はついているか」


宰相は一瞬だけ沈黙する。


「複数の候補はございます」


「しかし、確証を得るには至っておりません」


「現時点では“外縁地下勢力”としか」


魔導士団長が低く付け加える。


「組織規模は中規模以上。

 王都内部に協力者が存在する可能性も」


再び、重い沈黙。


王は目を閉じ、そして開く。


「よい」


「闇は追えばいい」


その声に、迷いはない。


「まずは、足元だ」


王の声が、静かに落ちる。


「ルドルフ・フォン・グリムヴァルト子爵」


「王都条例及び建築許可規定違反」


「無断地下改築および違法魔導設備設置の罪により」


「即時拘束せよ」


騎士団長が一礼する。


「はっ」


王は続ける。


「資産凍結」


「屋敷封鎖」


「関係者全員の出国・移動を禁ずる」


わずかな間。


王の声が、氷より冷たく落ちた。


「量刑については追って審議する」


「だが――」


誰も息をしない。


「この規模で、極刑を免れるとは思うな」


静寂。


それは事実上の宣告だった。



王城で拘束命令が下された、その頃――


神の領域。


静まり返った空間。


誰も、すぐには口を開かなかった。


禁忌術式そのものよりも――

そこに込められた“悪意”の方が、あまりに露骨だったからだ。


力を奪うためではない。

利用するためでもない。


精神を砕き、肉体を壊し、

二度と立ち上がれぬようにするためだけの構造。


不完全な禁忌術式。

成功はしなかっただろう。


だが――


意図は、明確だった。


わずかに、大地が軋む。


「……集まれ」


低く、抑えられた声。


火が揺れ、

水が静まり、

風が止まる。


四大を統べる大地の精霊王が、

自ら招集をかけた。


それだけで足りた。


対等なる神々が、静かに姿を現す。


怒号はない。

激情もない。


ただ、ひとつの認識が共有される。


壊そうとしたのは、禁忌ではない。


――エレノアそのもの。


短い沈黙。


そして、誰も否定しなかった。


「……人の域を外れている」


淡々と落ちた言葉。


冷え切ったまま、神々の会議は始まる。

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