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転生したら錬金術が得意な貴族家の女の子でした  作者: 双葉アリア


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3話 大地の精霊王、来たる

――翌日の昼下がり。


昨日と同じように庭に足を運ぶと、柔らかな陽射しが花壇を照らしていた。

けれど、昨日と同じ光景の中に、少し変わったものがある。


ベンチに座り、腰を押さえるオリバーさんの姿――。

やはり、昨日の「腰魔詰まり」がまだ治らないらしい。


「オリバーさん、大丈夫?」

思わず声をかけると、オリバーさんは申し訳なさそうに微笑む。


「はは……エレノア様、昨日よりはましですが……今日も、花壇の水やりはちょっと難しそうでしてな……」


ふう、と小さく息をつき、顔をしかめるオリバーさん。

靴の先まで伸びる影に、私の胸もぎゅっと締め付けられた。


「……じゃあ、今日も私がやるね」


小さなジョウロを手に取り、昨日と同じようにゆっくり花壇に向かう。

土を湿らせ、乾いた花びらを見つめながら、私はふと思った。


――昨日の妖精たちは、今日もどこかで私を見守ってくれているのかな。


ふわり、と頬を撫でる柔らかな風。

静かな庭に、かすかなざわめき――。

昨日と同じ、あの感覚が胸に蘇る。


けれど、今日の気配は昨日とは少し違う。

大地の奥深くから――確かに、何かが近づいてくるのを感じた。

それはまるで、神に近しい存在が歩み寄ってくるかのような、ただならぬ気配。


胸の奥がざわつく。

思わず手を止めて周囲を見渡した、そのとき――。


ぱたぱた、と小さな羽音。

気がつくと、妖精たちが次々と私のそばへ集まってきていた。

いつもの明るい様子とは違い、どこか落ち着かない様子で周囲を見回している。


「……ねえ、感じる?」

ひとりの妖精が小さな声でささやいた。


「うん……この気配……」

別の妖精がごくりと息をのむ。


そして、私の肩にとまった妖精さんが、小さく声を落として言った。


「……もしかしたら、精霊王様が来るのかも……」


「え……」


思わず息をのむ。

――大地の精霊王様が、こんな私に?


どうして。

見えてはいけない存在を見てしまったから?

それとも――私が知らない、何か理由があるのだろうか。


答えの出ないまま、私はそっと大地に手を触れた。

土の奥から、どくん……と脈打つような感覚が伝わってくる。


まるで――何かが、私を確かめるように見つめているかのように。


花壇の水やりを終え、私はジョウロを抱えたままオリバーさんの方へ振り返ろうとした――そのときだった。


ぴちちっ、と小鳥たちが一斉に鳴き声を上げる。

次の瞬間、庭を包む空気がふわりと揺れた。


優しいのに、どこか圧倒されるような――力強い風。

花々がざわめき、土がわずかに震える。


胸の奥が、どくん、と大きく鳴った。


――……エレノア。


耳元で、低く穏やかな声が響く。


――やっと、会えたね。


「……っ」


ゆっくりと振り返る。


そこに立っていたのは――

明らかに、この世界の住民とも、妖精さんたちとも違う存在だった。


大地の色を宿した長い髪。

静かな威厳をまといながらも、どこか包み込むような優しさを感じさせる瞳。


周囲の草花が自然と頭を垂れ、風さえも彼を中心に静まっている。


神秘的で――神々しい、一人の男性が、私をまっすぐに見つめて立っていた。


「エレノア……君のことを、ずっと見ていた」


低く、穏やかだが揺るがぬ声が、庭の空気ごと私の胸に響く。


「君には……特別な役目がある。まだ詳しく語るには早すぎるが、君が歩む未来のために、私は来たのだ」


私は声も出ず、ただその言葉を受け止めるしかなかった。

小さな妖精たちも、私の肩や手のひらにじっと止まり、空気の変化を感じ取っている。


「君が未来に成すべきこと――錬金術の再興。それは単なる技術の復興ではない。

古の時代、大規模なエングラム災害によって人類はほぼ絶滅し、世界は荒廃した。

その後、長い年月をかけて私たち精霊は大地を修復し、イデアを配置し、この世界に秩序を取り戻した。

だが、人間の知恵はほとんど失われたまま……だからこそ、君が再び錬金術をこの世界に息吹き込むのだ」


さらに、貴族の間で「親が望まない職業を与えられた子は捨てられる」という恐ろしい慣習や、世界のバランスを支える存在になるという話も重なる。

五歳の私には、とても荷が重すぎる話だった。


「まだ君に錬金術の力は授けられない。だが、君にはこの1週間で、心と意志の準備をしてもらう必要がある」

精霊王様の声は優しく、しかしどこか力強く響いた。


「そんなに不安にならなくても大丈夫だよ……

君をサポートし、守るために今こうして私がいるのだから」


そう言って、精霊王様は私の頭を優しく撫でる。


「じゃあ、魔法が使えないのって……」

私は小さな声で呟いた。


「それは違う要因かな。

君の前世は、魔法という概念すら存在しない世界だった。

だから自分の魔力を使うという感覚がまだ身についていないのだと思うよ。

けれど、それももう心配ない」


精霊王様はそう言うと、低く静かな詠唱を始め、丸い光を私に向けて飛ばした。

その光は、まるで私を包み込むかのように広がり、神々しくも神秘的な力を感じさせた。


「これで君も魔法を使えるようになったよ。

今後練習すれば、魔導師顔負けの魔法を発動できるだろう。

そして君に、今後に役立つちょっとしたプレゼントも授けた」


手元のステータスを確認すると――


名前:エレノア・フォン・レーヴェン

種族:人間(子爵家貴族)

職業:なし

HP:50

MP:300

スキル:鑑定(3/10)、大地の精霊魔法(1/10)

称号:大地の精霊王の加護 未来を託されし者



「大地の精霊王の加護は、君が私の眷属であることを証明するものだ。

この称号がある限り、他の眷属や、君に降りかかる困難な役目もきっと跳ね除けられるだろう。

そして大地の精霊魔法は、眷属であれば誰でも使える精霊魔法だ。

この世界には火・土・水・風の四属性があるけれど、それとは異なる性質の魔法だから、必ず君の役に立つだろう」


1週間の修行


1日目

魔法の練習を少し始める。

大地の精霊魔法はまだ1/10の力しか出せないけれど、光の粒を浮かべるだけで、乾いた土やしおれかけた花が少し元気になる。

妖精たちも飛び跳ねながら拍手してくれる。


2日目

庭の隅に咲く小さな野草が、妖精の力でも元気にならない。

私はぎこちなく手をかざすと――土の奥からかすかに震えが伝わり、花がゆっくりと頭を上げた。

「……なるほど、魔法だけじゃなくて、心を込めることも大事なんだ」

妖精は嬉しそうに目を輝かせた。


3日目

オリバーさんと少しだけ会話をする。

「エレノア様、花たちに水をあげるだけでなく、君の心の力も伝わってるみたいだな」

庭全体が柔らかく光るのを感じる。


4日目

加護の力を意識してみる。

「大地の精霊王の加護――未来を託されし者」

その称号があるだけで、胸の奥が少し強くなる。

妖精たちは「その力で、君はこれから降りかかる困難もきっと乗り越えられるんだよ」と教えてくれる。


5日目

魔法の練習に集中。

光を浮かべるだけでなく、土を揺らす、葉をそよがせる。

少しずつ、自分の心と体が魔法とつながる感覚が分かってくる。


6日目

庭の花や土だけでなく、自分自身の心も整える時間。

精霊王様は直接、職業を授けるわけではない。

あくまで未来の任務に備え、私を守り、魔法や加護でサポートする存在。

それを理解すると、少し肩の力が抜けた。


7日目

最後の日。

夕暮れの庭に小鳥のさえずり、風のざわめきが心地よく響く。

妖精たちは私の肩に止まり、小さくささやく。

「明日から、教会での儀式で職業を授かるんだね……でも怖がらなくて大丈夫。君は一人じゃないから」


ふわりと大地の奥から温かく力強い風が吹き、微かに花壇の土が震えた。

――精霊王様が、そっと私の成長と覚悟を見守ってくれている。


胸の奥で、ドキドキと鼓動が高鳴る。

でも、もう不安だけではない。

この1週間で、少しだけ自分を信じる勇気が芽生えていた。


「……錬金術の炎を、この手で再び灯す日が、もうすぐ来るんだ」

私は小さくつぶやき、手を土に置いた。

そして、明日――教会での儀式で、未来を託されし錬金術師としての道が始まるのだ。


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