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転生したら錬金術が得意な貴族家の女の子でした  作者: 双葉アリア
第一章 幼少期編

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22話 静かな居間に落ちた、不吉な知らせ

夕食を終えたあと、居間はやわらかく落ち着いた空気に包まれていた。

窓は少しだけ開け放たれ、外の風がカーテンをそよそよと揺らす。外では小鳥の声もまばらに聞こえ、昼間の活気とは違う、静かな春の夜の気配が漂っていた。

外の景色はまだ明るみを残す薄暮で、遠くの森の木々の輪郭がぼんやりと見える。屋敷の庭に植えられた薬草や花々も、昼の陽光を浴びて輝きを残したまま、夜の風にそよいでいる。


エレノアは大きなソファにゆったりと腰を落とし、両手で温かいハーブティーのカップを包み込む。かすかな甘い香りが鼻先をくすぐり、思わず小さく息を吐いた。

「ふぅ……今日もよく動いた……」


向かいのソファではアメリアが刺繍をしていた。細い針が布を行き来する音が微かに響き、時折満足そうに微笑む顔が、居間の穏やかさに溶け込んでいる。


ルーカスはその隣で本を開き、ページをめくる手はゆっくりだ。目は半分、窓の外の春の夜景に向けられている。庭の花や草の緑が、ほんのりと夕暮れの光に染まって揺れるのを、彼は黙って眺めていた。


床の上では、メルとカイルがカードゲームを広げて小声でやり取りをしている。

「それ出すの、ずるくないですか!?」

「戦略だよ、戦略」

「絶対、温存してたでしょ……!」


小さな声のやり取りが、部屋に柔らかな笑いを生む。

部屋の奥には花瓶が置かれ、先日庭から摘んできた春の花がまだ鮮やかに咲いていた。窓から差し込むやわらかな光に透ける花びらが、部屋の空気をさらに春めいたものにしている。


エレノアはカップをテーブルに置き、膝を抱えながら軽く背もたれに身を沈める。

窓の外から吹き込む風が頬に心地よく、室内の静かな香りと相まって、ほっと一息つける時間だった。


「……明日も薬草畑、順調に育っているといいな」


小さな声でそう呟くと、アメリアが笑みを返す。

「大丈夫よ。ちゃんとお世話しているもの。みんな元気に育つはず」


ルーカスも本から目を上げ、短くうなずいた。

「……朝の手入れは大変だろうけど、順調に育っているといいな」


その言葉に、メルとカイルも小さく笑いながらカードを片付ける。

居間は、夕食後のゆったりとした時間が流れ、穏やかな春の夜の匂いとともに、ほんのりした安心感で満たされていた。


しかし、エレノアの胸の奥には、どこか落ち着かない気配もあった。

(……最近、少し不安なことが続いている……)


その思いを、まだ誰にも口に出すことはなかった。

ただ、窓の外の春の風が頬を撫でるたびに、気持ちが少しだけ落ち着くのを感じていた。


「やぁ……突然失礼するよ」


低く、落ち着いた声が居間に響く。

声のした方向に目を向けると、そこにはさっきまで誰も座っていなかったロッキングチェアに腰をかけた、精霊王様の姿があった。


「精霊王様こんばんは!」


精霊王様のことを初めて見るメルとカイルはびっくりし、ソファの陰から様子をうかがっている。

メルは耳をぴんと立て、じっと見つめ、カイルは目を鋭くして精霊王様に視線を向けていた。


「そんな警戒しなくてもいいよ。悲しくなっちゃうから……それに私は君たちの味方だから……」


精霊王様は少し悲しそうな表情を浮かべながらそう言うと、お父様が口を開いた。

「大地の精霊王様、今日はどういったご用でいらっしゃったのですか?」


「とりあえず、お茶を用意したほうがいいかしら?」


お母様が優しくそう言うと、精霊王は首を横に振る。

「いや、気遣いは不要だ……あまりいい話でもないしな」


その言葉に合わせて、精霊王は一瞬、真面目な表情を浮かべた。


「実はだな……エレノアに危害を加えようと企んでいる男がいる」


その言葉にびっくりするお父様とお母様をよそに、話を続ける。


「その男の名前は知らないが、動向を観察していると君と同じ魔導士団の人間らしいな」


「魔導士団の人間?エレノアと関わった者は、魔導士団長ぐらいしかいないはずだけど……魔導士団長がそんなことするわけがないし……」


お父様は眉をひそめ、腕を組み直し、静かに唇を噛む。

お母様は手元のティーカップをぎゅっと握り、心配そうに精霊王様を見つめていた。


「……魔導士団の人間、ですか……」

お母様の声はかすかに震えていた。


その言葉に、私は思わず身体が硬くなるのを感じた。胸の奥がぎゅっと締め付けられるようで、呼吸が少しだけ浅くなる。


「……え……そんな……どうして、私を……」


お母様がそっと私の手を握り、優しく声をかける。

「大丈夫よ、エレノア。今はまだ知らせてくれただけ。精霊王様も一緒に見守ってくれているんだから」


お父様も厳しい表情のまま、静かに言った。

「焦ることはない。まずは安全を確保する。それから、どう動くかを考えればいい」


「恐らく事態が動くとしたら、ポーションを納品したタイミングだと思われる。

その男は、エレノアが納品に来る度に陰からエレノアの様子を伺っていたからな」


その言葉に、私は思わず息を呑んだ。納品――つまり、私が王城に届けに行くあの時間帯に狙われる可能性があるということだ。


「……そ、そんな……」


声が震える。胸の奥がぎゅっと締め付けられるようで、思わず肩を縮めた。


「なら、ポーションの納品は私が登城する時に持って行った方がよさそうだな。

後はそいつの特徴がわかればいいんだが……」


お父様がそう呟くと、精霊王様は特徴を口にした――

その言葉を聞いたお父様は、ゆっくりと眉をひそめ、唇をかみしめる。

目の奥に影が差し、思案する様子が静かに居間の空気に重くのしかかる。


「特徴は、少し太めで、肩幅や腕の厚みから力はそこそこあるが、俊敏さはあまりない。

鍛錬の様子も見たが、周りの魔導士と同じくらいか、それよりも下だな。

あとは……」


「あとは……?」


「その男が、貴族家の者で、魔導士団副団長の座を狙って戦っていた……ということかな」


お父様は、目を細めて静かに息を吐く。

「なるほど……やはり、あの人物か……」


お父様はしばらく黙って考え込んでいたが、やがてゆっくりと視線を上げた。


「……この情報、陛下に伝えてもよいか?」


精霊王様は静かに頷く。


「もちろん構わない。いや、もう既に伝えてある」


その言葉に、居間の空気が少し張り詰めたように感じられた。

エレノアは思わず肩をすくめ、胸の奥でざわつくものを抑える。


「もう……伝えてある……」


お父様は短く息を吐き、柔らかく頷いた。

「なら、安心だな。これで陛下も状況を把握している」


お母様もそっと微笑みながら、エレノアの手を握った。

「心配しないで、エレノア。陛下も、精霊王様も――みんな見守ってくれているのよ」


その言葉に、少しだけ胸の奥が温かくなるのを感じた。


ーー王城・執務室


夜の王城は静寂に包まれ、窓から差し込む月光が執務室の重厚な机や書類に青白い影を落としていた。陛下は革張りの椅子に腰を下ろし、机に肘をつきながら報告を聞く。部屋の奥では、影の諜報機関――通称「漆黒の影」の責任者が緊張感を帯びた面持ちで立っていた。


「夜分に失礼だ。報告は?」

陛下の低く落ち着いた声に、責任者は静かに一礼する。


「陛下、エレノア様に関わる不穏な動きが確認されました。対象は、貴族出身で魔導士団副団長の座を狙う人物です。力は周囲の魔導士と同程度ですが、狡猾な行動を取る傾向があります」


「続けて」

陛下は書類を押さえ、鋭く視線を向ける。


「対象はエレノア様の行動、とくに薬草や魔力を用いた活動のタイミングを監視しています。直接的な攻撃だけでなく、様子を見て不意を突く可能性があります。また、裏稼業としてポーションを作成し、粗悪品を混ぜて差額を懐に入れていたことも確認されました」


陛下は唇を引き結び、重々しく息を吐く。

「なるほど……やはり、油断はできぬな」


責任者は頷き、さらに詳しい情報を添える。

「外面では誠実を装い、魔導士団の名誉や立場を気にかけるふりをしています。しかし裏では利己的な行動に走り、金銭目的で粗悪ポーションを市場に流していました。エレノア様の信頼や活動を利用し、足場を固めようとしている可能性も否定できません」


「分かった」

陛下は机に手をつき、暗い夜空を見つめながら沈黙する。

「警護を強化し、エレノア嬢が安全に活動できるよう手配せよ。併せて、影の諜報機関にはこの男の行動を追跡させ、裏稼業の証拠も確保せよ」


責任者が部屋を後にすると、陛下はしばらく机に手をついたまま、夜空に浮かぶ月を静かに見つめていた。書類の上には、影の諜報機関からの報告書と、対象人物の調査メモが無造作に置かれている。月光が紙面を淡く照らし、文字の影を揺らしていた。


「……エレノアには、必要以上に接触させぬようにせねばならぬな」

陛下の声は、夜の静寂にささやくように低く響いた。


書斎の奥で火の気がわずかに揺れる暖炉の炎が、部屋に柔らかな影を落とす。陛下は静かに立ち上がり、窓辺に歩み寄った。遠く王城の庭や城下町の灯がちらちらと見え、夜の空気は冷たく澄んでいる。


「必要ならば、警護の人員を増やし、あの少女に指一本触れさせぬよう徹底せよ」

陛下は背筋を伸ばし、決意を込めて呟く。


机の上には、粗悪ポーションを密かに作り市場に流していた証拠の一部も置かれていた。それを手に取り、陛下は静かに考える。

(自分の目の届かぬところで、あの男は己の欲望に従っている……だが、これ以上は許さん)


そして陛下は再び椅子に腰を下ろし、深く息をついた。

「報告は、すでに影の諜報機関に共有済みか……」


書類の上に手を置きながら、陛下は小さくうなずく。

「よし、これで必要な手はすべて打たれたな……」


月光の下、王城の執務室には、静かだが鋭い緊張感が残ったまま夜が更けていく。

外の春の風が城の窓をかすかに揺らし、遠くで夜鳥の声が響く中、陛下の視線は窓の向こうに広がる庭先に注がれていた。

(……あの少女に、何も起こらぬようにせねば……)


夜の王城に、守護と警戒の静かな覚悟が満ちていく。



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