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【20万PV突破・毎日更新中】転生したら錬金術が得意な貴族家の女の子でした  作者: 双葉アリア
第三章 水面下の綻び編

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156話 罪を背負う少女、新たな日常へ

第三章 水面下の綻び編スタートです!


 王都には、ある噂が静かに広がっていた。


 ――セレスティア伯爵家を狙った者がいたらしい。


 しかも。


 どうやら貴族家まで関与していた、という話まで混じっている。


 もっとも。


 それを裏付ける証拠はどこにも存在しない。


 当然だった。


 今回の件は、王命錬金護衛隊によって極秘裏に処理されている。


 拘束。


 尋問。


 裁判。


 そして処刑に至るまで。


 その全てが徹底した情報統制の下で進められていた。


 表向きには“違法組織摘発”。


 それ以上の情報は一切公表されていない。


 だからこそ、王都で流れているのは断片的な噂ばかりだった。


 夜間封鎖された区画。


 突然消えた犯罪組織。


 王命錬金護衛隊の異常な動き。


 貴族街周辺へ増員された監視。


 それらが繋ぎ合わされ、“何か大きな事件が起きたらしい”という形だけが独り歩きしている。


 だが。


 その中心にいたはずのセレスティア伯爵家ですら、詳細を知る者はほとんどいなかった。


 エレノア達へ伝えられているのは、“警戒強化”という事実のみ。


 誰が関与していたのか。


 何が起きていたのか。


 どこまで危険だったのか。


 その核心部分は、意図的に伏せられている。


 理由は単純だった。


 今回の件は、あまりにも“上”や極秘部隊が関わりすぎていたからだ。


 王命錬金護衛隊。


 影。


 さらには陛下直属案件。


 関与している組織の規模が大きすぎる。


 下手に情報を流せば、王都全体へ波紋が広がりかねなかった。


 結果として。


 セレスティア伯爵家へ伝えられたのは、“警戒強化が必要”という最低限の情報のみ。


 その裏で何が起きていたのかを知る者は、極一部に限られていた。


 そんな中。


 セレスティア伯爵家へ、新たな使用人が雇われることになった。


「……新しい隊員のリュシアだ……」


 護衛隊長――アランが、なんとも言えない表情で紹介する。


 いつもの冷静な声音ではある。


 だが、僅かに警戒しているようにも見えた。


 その隣。


 一人の少女がぎこちなく背筋を伸ばしている。


 長い銀髪。


 どこか影のある紫紺の瞳。


 年齢はエレノア達とそこまで変わらないように見える。


 だが、その空気感だけは妙に落ち着いていた。


「は……初めまして! リュシアです!」


 ぺこりと勢いよく頭を下げる。


 だが緊張しているのか、若干動きが硬い。


 対するエレノアは、一瞬だけぱちぱちと瞬きをした。


 そしてすぐに、にこりと笑みを浮かべる。


「エレノア・フォン・セレスティアです」


 一拍。


「えっと……隊員?」


 率直な疑問だった。


 どう見ても護衛隊には見えない。


 むしろ研究者寄りというか、魔術師寄りというか。


 アランは小さく咳払いした。


「正式には補助要員だ」


「主に諜報、解析、魔術関連支援を担当する」


「へぇ……」


 エレノアは素直に感心したような声を漏らす。


 だが次の瞬間。


 後ろから顔を出したメルが、小声でぽつりと呟いた。


「……なんか訳ありそう」


 アランのこめかみが僅かに引き攣った。


 リュシアはものすごい勢いで視線を逸らす。


 その反応だけで、だいたい察せられる。


「えっ、本当に?」


 エレノアが素直に反応してしまう。


「い、いやそのっ……!」


 リュシアが慌てる。


 だが、その横でアランは静かに目を閉じた。


「……色々あった」


 短い。


 だが重い。


  その一言だけで、“深く聞くな”という圧が完成していた。


「えっと……よろしく……」


 エレノアは若干引き気味に笑った。


 色々聞きたいことはある。


 あるのだが――アランの空気が完全に“そこへ触れるな”になっている。


 ここで踏み込めば、間違いなく止められる。


 しかもかなり本気で。


 長い付き合いだからこそ分かる。


 今のアランは、“説明できない案件”を抱えている時の顔だ。


 つまり。


 聞いても答えは返ってこない。


 なら無理に突っ込まない方がいい。


 エレノアは即座に判断を切り替えた。


「う、うん。こちらこそよろしくね」


「はい!」


 リュシアは勢いよく頭を下げる。


 その動きは妙に真面目というか、少し軍隊っぽい。


 たぶんかなり緊張している。


 そんな様子を見ていたエリシアが、小さく首を傾げた。


「……諜報担当なのに、なんだか隠密向いてなさそう」


「やめてください!?」


 即反応だった。


 リュシアがものすごい勢いで食いつく。


 その時点で、わりと隠密適性が怪しい。


 メルがぼそっと呟く。


「反応速度だけはすごい」


「そ、そこ評価ポイントなんですか……?」


 困惑気味のリュシア。


 空気が少しだけ緩む。


 アランも小さく息を吐いた。


 どうやら最低限の顔合わせは問題なく終わりそうだ。


 ……もっとも。


 彼だけは知っている。


 目の前で困ったように笑っている少女が、“古代魔法を創作できる危険人物”だということを。


 そして。


 その少女を、陛下自らが“エレノアの近くへ置け”と判断したことも。


 一通りの挨拶を終えた後。


 リュシアはアランに連れられる形で護衛棟へ移動していた。


 木製の廊下を、静かな足音だけが響く。


 磨き上げられた床板。


 壁へ等間隔に設置された魔導灯。


 窓の外では、伯爵家の庭園がゆっくり流れていく。


 一見すれば落ち着いた屋敷の通路。


 だが実際には、内部配置が大きく変更されていた。


 もちろん、その事実はエレノア達には伏せられている。


 リュシアを迎え入れたことで、護衛体制そのものが再編されていたのだ。


 近接対応班。


 即応転移班。


 深層監視層。


 万が一リュシアが暴走、あるいは裏切った場合でも即座に制圧できるよう、極秘裏に人員配置が組み替えられている。


 それほどまでに。


 王命錬金護衛隊は、彼女を“危険対象”として認識していた。


 やがて。


 アランは護衛棟のさらに奥へ進んでいく。


 幾重もの認証術式。


 封鎖扉。


 監視水晶。


 そして最後に辿り着いたのは――


 深層監視層。


 セレスティア伯爵家全域へ展開されている防衛術式と、監視魔術を統括管理する中枢区画だった。


 薄暗い室内には、無数の術式光が浮かんでいる。


 壁面へ並ぶ監視水晶。


 領域警戒網。


 侵入検知術式。


 対転移妨害層。


 ここは、伯爵家防衛の心臓部だった。


 リュシアは思わず息を呑む。


「……すご」


 その呟きに、周囲の隊員達は無反応だった。


 視線だけが静かに向けられている。


 歓迎ではない。


 観察。


 あるいは査定。


 そんな空気だった。


 アランは部屋中央に置かれた水晶を指差す。


「この水晶に魔力を流せ」


 短い指示。


 リュシアは小さく頷き、恐る恐る水晶へ手を添えた。


 そして。


 静かに魔力を流し込む。


 次の瞬間。


 水晶が淡く発光した。


 控えめな青白い光が、薄暗い部屋を静かに照らす。


 同時に、周囲の術式層へ細い光が走った。


 認証。


 接続。


 登録。


 複数の術式が連動していく。


 やがて、水晶の光が安定した。


 アランが静かに口を開く。


「これでお前も王命錬金護衛隊の一員だ」


 一拍。


 だが、その声音は少しも柔らかくならない。


「……だが、言っておく」


 室内の空気が変わる。


 周囲の隊員達の視線も、僅かに鋭くなった。


 アランは真っ直ぐリュシアを見据える。


「不審な行動を一度でも取ってみろ」


 一拍。


「その時は、必ずお前を排除する」


 脅しではない。


 確認でもない。


 ただの事実だった。


 リュシアは数秒黙ったまま、その視線を受け止める。


 そして――


「……はい」


 小さく、静かに頷いた。


 その返答だけで十分だった。


「今日は明日に備え、使用人棟に割り当てられた部屋で休め」


「わかりました……」


 短く返事をする。


 そしてリュシアは、別の隊員の案内を受けながら部屋を後にした。


 重い扉が閉まる。


 室内へ静寂が落ちた。


 残された隊員達も、どこか微妙な空気を漂わせている。


 そんな中。


 アランは小さく息を吐いた。


「……陛下は一体何を考えていらっしゃるんだ……」


 愚痴。


 困惑。


 警戒。


 様々な感情が混じった声だった。


 すると――


「あなたにしては、随分とキツい当たりね」


 不意に響いた声。


 アランは僅かに目を見開いた。


「ミストルティン様……いつの間に」


 そこには、いつの間にかミストルティンが立っていた。


 気配すらほとんど感じさせない現れ方。


 まるで最初からそこにいたかのようだった。


 アランはすぐに姿勢を正す。


 だがミストルティンは気にした様子もなく、小さく微笑んだ。


「少し前からよ」


 一拍。


「ちゃんと全部聞こえていたわ」


 さらりと言われた。


 アランの表情が微妙に固まる。


 つまり。


 愚痴も。


 困惑も。


 全部聞かれていた。


 ミストルティン様が小さく肩を震わせた。


 笑いを堪えている。


「……笑うな」


「ごめんなさい、でもその顔は反則でしょう」


 完全に面白がっていた。


 アランは額を押さえる。


 ミストルティン様は少しだけ笑った後、すっと表情を戻した。


「お節介かもしれないけど、一つ忠告するわ」


 一拍。


「あの子を“罪人”としてだけ見るのはやめなさい」


 静かな声だった。


 だが、その一言には妙な重みがあった。


 アランは眉を寄せる。


「……警戒を解けと?」


「そうね」


 即答だった。


 アランの表情がわずかに固まる。


 だが、ミストルティン様は気にした様子もなく続けた。


「あなたは知らないだろうけど、あの時――私が古代魔法で拘束したとき、あの子には悪意がほとんどなかったわ」


 一拍。


「やりたくない。でもやらないと殺される」


 静かな声。


「そんな感情で、無理やり自分を支配していた」


 木製の廊下へ沈黙が落ちる。


 アランはすぐに返答できなかった。


 ミストルティン様ほどの存在が“感情を読んだ”と言うなら、恐らく事実なのだろう。


 だが。


 アランはゆっくりと視線を上げた。


「……部外者、と言うのも失礼でしょうが」


 一拍。


「神族の皆様は既にセレスティア伯爵家と深く関わっている。ですから、強くは言えません」


 静かな声。


 だが、その奥にははっきりとした感情が滲んでいた。


「ですが、あまりこちらの事情へ口を出さないでいただきたい」


 その瞬間。


 室内に張り詰めた空気が走る。


 他の隊員達も思わず息を呑んだ。


 相手は神族。


 しかもミストルティン様だ。


 護衛隊長とはいえ、その存在へ真正面から意見をぶつける者など滅多にいない。


 だが、ミストルティン様は何も言わない。


 怒る様子もなかった。


 アランはそのまま続ける。


「私はこの手であの女を拘束しました」


 一拍。


「尋問にも立ち会い、危険性評価にも関わっています」


 低い声だった。


「エレノア様を守るために動いた」


 そこに迷いはない。


 護衛隊長として当然の責務。


 だからこそ。


「そんな人物が、今度はエレノア様のすぐ近くへ置かれる」


 一拍。


「……信用など置けるわけがない」


 その言葉は、感情を抑え込んだ声だった。


 怒鳴っているわけではない。


 だが逆に、その静けさの方が本音を強く滲ませていた。


 ミストルティン様はしばらく黙っていた。


 やがて、小さく息を吐く。


「……そう」


 静かな返答だった。


 怒っている様子はない。


 むしろ、どこか納得したような響きすらあった。


 ミストルティン様はゆっくりと視線を上げる。


「昨日までの敵は、今日の友――」


 一拍。


「騎士をやっていたなら、その言葉の意味くらい知っているでしょう?」


 木製の廊下へ静寂が落ちる。


 アランはすぐには答えなかった。


 もちろん知っている。


 王国騎士団時代、嫌というほど見てきた。


 昨日まで剣を向け合っていた相手と、一時的に共闘することもあった。


 派閥抗争。


 魔物災害。


 利害が一致すれば、敵味方など容易く入れ替わる。


 それが国家というものだった。


 だが。


 アランはゆっくりと口を開く。


「……戦場の理屈です」


 低い声。


「命を預ける話とは別だ」


 その返答に、ミストルティン様は少しだけ目を細めた。


「真面目ね」


「それが職務ですので」


「ええ、知ってるわ」


 クスリと笑う声。


 だが次の瞬間、ミストルティン様の声音が少しだけ変わった。


「でも、その考えじゃ――」


 一拍。


「あなたは必ず、エレノアを守り切るどころか、あなた自身も守れないわ」


 空気が止まる。


 アランの表情が僅かに険しくなった。


「……どういう意味ですか」


 低い声。


 だがミストルティン様は視線を逸らさない。


「あなたは職務として“敵”と“味方”を綺麗に分ける」


 ミストルティン様は静かに続ける。


「それ自体は大事なことだし、自分や周りを守るために必要な能力であることに間違いはないわ」


 アランは眉を寄せた。


「ならなぜ……」


「簡単な話よ」


 一拍。


「例え味方だと思った相手でも、裏切られればエレノア達もあなた自身も危険に晒す」


 静かな声だった。


「けど、その時まで敵で、命を懸けて争っていた相手でも――互いに手を取り合い、守ろうとするときも必ずある」


 一拍。


 ミストルティン様の視線が真っ直ぐアランへ向けられる。


「その時あなたは、“信用できない”からって、その救いの手を蹴るの?」


 更に一拍。


 ミストルティン様は、静かに言葉を重ねた。


「“戦場の理屈で、命を預ける話とは別”って言ったけど――」


穏やかな声色ではあるが、胸に妙にささる。


「戦場の方が、もっと信用できる相手ではないと思うわよ?」


 完全なる論破だった。


 アランは一瞬、言葉を失う。


 騎士として長年戦場へ立ってきたからこそ、その言葉を否定できなかった。


 だが、ミストルティン様はそこで終わらない。


「戦場は、生きるか死ぬかを賭けた壮絶な賭け事よ」


 一拍。


「それも、“人生”を賭けた究極のギャンブル」


 静かな声だった。


 けれど、その一言一言が異様な重みを持っていた。


「でもね」


 ミストルティン様は淡々と続ける。


「命っていうBETに対して、返ってくるのは必ずしも“信頼”じゃない」


「理不尽な指令」


「無茶な撤退戦」


「見捨てられる前衛」


「味方による裏切り」


 一拍。


「ピンチに陥ることなんて、いくらでもあるわ」


 アランの眉が僅かに動く。


 心当たりがありすぎた。


 補給を切られた部隊。


 政治判断で切り捨てられた小隊。


 功績欲しさに突撃命令を出した貴族指揮官。


 戦場は綺麗な信頼関係で成り立つ場所ではない。


 むしろ逆だ。


 疑念と恐怖と打算の上で、それでも前へ出る場所。


 ミストルティン様はゆっくりとアランを見る。


「それでも騎士達は、隣の相手へ背中を預ける」


 一拍。


「“今この瞬間だけは裏切らない”って信じてるから」


 静かな声。


「完全に信用してるわけじゃない」


「でも、“信用できないから拒絶する”を続けたら、誰とも戦えなくなる」


「……」


 アランは答えなかった。


 あまりにも正論すぎる言葉に、室内の誰もが反論することができなかった。


 隊員なら誰もが、リュシアを完全に信用することはできない。


 つい数日前まで、敵側にいた存在。


 拘束し。


 尋問し。


 危険性評価まで行った相手だ。


 だからこそ。


 警戒が必要だと思っている。


 それは護衛として当然の判断だった。


 もしもの時。


 エレノアへ害が及べば取り返しがつかない。


 だから距離を置く。


 監視する。


 即応体制も敷く。


 それ自体は間違っていない。


 だが――


 ミストルティン様の言葉は、その“正しさ”だけでは足りないと突きつけていた。


 誰も軽々しく口を開けない。


 するとミストルティン様は、小さく息を吐いた。


「あなたたちの言い分は、わからないわけではないわ」


 一拍。


「でも、“警戒していればいい”という話でもないのよ」


 隊員達の空気がわずかに張る。


 アランも眉を寄せた。


 その反応を見ながら、ミストルティン様は静かに続ける。


「はっきり言うわ――」


 一拍。


「警戒するだけ無駄よ」


 その瞬間。


 空気が止まった。


「……どういう意味ですか」


 アランの声が低くなる。


 護衛隊員達も一斉に視線を向けた。


 だがミストルティン様は平然としている。


「言葉通りよ」


 静かな返答。


「もしあの子が本気でエレノア達へ害を成そうとしたなら――」


 一拍。


「今のあなた達じゃ止められないわ」


 誰も言葉を発せなかった。


 護衛隊員達の表情が強張る。


 それは侮辱ではない。


 事実として告げられている声音だった。


 ミストルティン様は淡々と続ける。


「古代魔法を“創作”できるって、そういうことよ」


「既存術式の延長じゃない」


「対策そのものが存在しない可能性があるってこと」


 一拍。


「王命錬金護衛隊だからって万能じゃないでしょう?」


 アランは無意識に唇を噛んでいた。


 反論できない。


 未知の術式。


 未確認の古代魔法。


 それらを相手にする時点で、“絶対の対策”など存在しないことは理解している。


 ミストルティン様は静かに視線を細める。


「だから、“監視してれば安心”なんて考えは捨てなさい」


 一拍。


「本当に必要なのは、“敵にしないこと”よ」


 ミストルティン様はそう言い残すと、静かに背を向けた。


 そのまま数歩だけ歩き――


 ふと足を止める。


 そして。


 振り返ることなく、静かな声で告げた。


「もしあなた達が、これからも“リュシアを信用できない”と言い続けるなら――」


 一拍。


 空気が張り詰める。


「私たちは、もう手を貸さない」


 誰も息を呑む音すら立てなかった。


 ミストルティン様は続ける。


「勿論エレノア達も連れて行くわ」


 静かな声音。


 だが、その言葉に含まれている意味はあまりにも重かった。


 アランの目が見開かれる。


「……っ、それは!」


「脅しじゃない」


 即座に遮られる。


 ミストルティン様はゆっくりと横顔だけを見せた。


「勘違いしないで」


「私たちは別に、この国へ義理があるわけじゃない」


 一拍。


「エレノア達がいるからこの国にいるだけ」


室内に重く静かな空気が満たされる。


 誰も言葉を返せなかった。


 神族。


 圧倒的な力を持つ存在。


 そして今や、セレスティア伯爵家最大級の後ろ盾でもある。


 その“協力を失う”意味を、ここにいる誰もが理解していた。


 ミストルティン様は小さく息を吐く。


「あなた達が守りたい気持ちは理解してる」


「でもね――」


 一拍。


「“守るため”を理由に、人を最初から切り捨て続けたら」


「最後には、本当に守りたいものまで壊すことになるわよ」


 それだけ言い残し。


 ミストルティン様の姿は、静かに闇の中へ溶けるように消えていった。

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