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転生したら錬金術が得意な貴族家の女の子でした  作者: 双葉アリア
第一章 幼少期編

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13話 静かな謁見、ポーションの価値

六歳の錬金術師が王城に呼び出される――

それだけでも十分に異例だった。


理由もまた、常識を超えていた。

六歳にして、自分でポーションを作れるほどの才能を持っていたのだ。

もちろん、その性能は王城で正式に鑑定されるまで、家族や屋敷の使用人以外には知られていなかった。


王都・貴族街の屋敷にある小さな実験室。

朝の光を受け、机の上のガラス瓶が静かに輝いていた。


ーーとある日の午前、屋敷・実験室


机の上に並べられたガラス瓶が、朝の光にきらきらと反射する。

淡い色の液体が揺れるたび、部屋には薬草のやさしい香りが広がった。


「ええと……これは昨日作った分ね。沈殿もないし、色も安定している」


エレノアは一本ずつ丁寧に手に取り、光に透かして状態を確認していく。


棚には同じ形の瓶がぎっしりと並び、床際の木箱にもまだ整理しきれないポーションが詰まっている。

数えようとして途中で指を止め、小さく笑った。


「……もう、数えきれませんね」


実際の本数は把握できないほど多い。

だが王城に持っていく分として、回復ポーション、ハイポーション、マナポーションをそれぞれ二百本ずつ選び出し、状態の良いものを手前に寄せていく。


栓を軽く緩めて香りを確かめ、問題なければ布で瓶を拭き、静かに箱へ。

小さな手つきは慣れたもので、末っ子とは思えないほど真剣な表情だ。


「これなら、どこに出しても恥ずかしくないね」


満足そうに頷き、箱の中を整えていく。


窓の外からは庭の音が聞こえる。

屋敷の中も静かで、いつも通りの落ち着いた朝——のはずだった。


「エレノアお嬢様、失礼いたします」


控えめなノックのあと、侍女が少し急いだ様子で部屋に入ってきた。


「お父様よりお呼びです。これから王城へ向かわれるそうで、ご準備をとのことです」


「……王城、ですか?」


驚いて目を瞬かせ、エレノアは手にしていた瓶を丁寧に棚へ戻す。

エプロンの皺を整え、作業部屋を見回してからこくりと頷いた。


「わかった!すぐ準備するね」


選びかけていたポーションの箱をそっと閉じ、エレノアは急ぎ足で支度へ向かう。


侍女に謁見用の衣装を手伝ってもらい居間に行くと、お父様が座っていた。


「お!エレノア、似合っているぞ!」


いつもはお姉さまのお下がりだが、この日は特別に仕立てた薄緑色のドレスを着ていた。


「お父様、ありがとうございます!」


今日は、自分の作ったポーションを王城で買い取ってもらえるか交渉する日——。

初めて登城するので、ワクワクする気持ちと、粗相のないように振る舞えるかの心配が入り混じっていた。


「じゃあ行こうか」

「ポーション持っていくの、手伝ってもらっていいですか?

さすがに一人で六百本は持てなくて……」


エレノアは空間収納を持っていたが、このことはまだ誰にも言っていない。

高額で取引される魔導書であり、一般家庭の年間生活費の何百倍もの価値がある。

目の前で使えば大騒ぎになるので、誰かの前では使用しないようにしていた。


「今日はまず三種類一本ずつ持っていこう」

「え?」


お父様の言葉に混乱するエレノア。

だがお父様は続けた。


「今日は王城で買い取れるかの交渉の場だから、一本ずつで十分なんだ」


優しく頭を撫でられ、エレノアは頷いた。


「わかりました!一本ずつ準備します」


実験室に戻り、準備を整えると馬車へ乗り込み王城へ向かった。


貴族街の石畳を抜けると、整えられた邸宅や手入れの行き届いた庭園が窓外を流れる。

落ち着いた雰囲気の中、紋章入りの馬車が行き交い、道端では上品な人々が談笑していた。


「……王城、すぐなんですね」

「ここからならそう遠くない。だが初めてなら長く感じるものだろうな」


お父様が穏やかに答える。

膝の上の手を握りしめ、エレノアは景色を見つめた。

今日はただの外出ではない——王城へ行くのだから。


「……緊張、してきました」

「大丈夫だ。お前はいつも通りでいい。ポーションの出来は私が保証する」


貴族街を抜け、大通りの先に白くそびえる王城が見える。

高くそびえる塔、青空を背に輝く白壁、大きく翻る王国旗。


「あ……」


胸がどきどきと高鳴る。楽しみと不安、少しの誇らしさが混ざり合う。


私は、自分の作ったポーションを持って王城へ向かう――。


馬車は速度を落とし、巨大な城門をくぐり城内へ入った。

降りて長い廊下を進むと、部屋へ案内される。


「レーヴェン子爵家当主及び次女エレノア嬢がご到着されました!」


案内役の声とともに、重厚な二枚扉がゆっくり開く。


そこは豪奢な謁見室ではなく、実務用の広い会議室。

長い楕円形の会議卓が中央に置かれ、壁には王国の地図や資料棚が並ぶ。

落ち着いた空気の中に、張り詰めた緊張感が漂っていた。


卓の周囲には、王国中枢の男たちが席につく。


白銀の鎧姿で堂々と腕を組む騎士団長。

深い色のローブをまとい、静かに視線を向ける魔法師団長。

隙のない姿勢で座る総司令官。

分厚い書類を前に控える財務大臣。

穏やかな目で見守る衛生大臣。

そして中央奥、国王の隣には冷静な表情の宰相。


国王陛下は二人の姿を見ると、優しく微笑んだ。


「よく来てくれたね。遠慮はいらない、どうぞ中へ」


胸の奥の緊張が少しほどける。


お父様が一歩前に出る。


「レーヴェン子爵家当主、並びに次女エレノア・レーヴェン、ただいま参上いたしました」


深く頭を下げるお父様に続き、エレノアも礼をする。


「顔を上げていいよ、エレノア嬢。そんなに固くならなくても大丈夫だ」


国王陛下の言葉に、自然と顔を上げる。

そこには威圧感のない、祖父のような穏やかさを感じる笑顔があった。


「本日は君の作ったポーションを見せてもらえると聞いてね。楽しみにしていたんだ」


「……はい。お時間をいただき、ありがとうございます」


少し緊張が和らぐ。


騎士団長が腕を組んだまま興味深そうに頷き、魔法師団長が魔力の流れを観察する。

宰相が穏やかに口を開く。


「本日は正式な審査というより、まず実物の確認と意見交換の場です。気負わず話してください」


衛生大臣も微笑む。


「回復効果が高いと聞いております。ぜひ拝見したい」


お父様が箱を会議卓の中央に置いた。


「回復ポーション、ハイポーション、マナポーションをそれぞれ一本ずつお持ちいたしました」


国王陛下が身を乗り出す。


「ありがとう。では、見せてもらってもいいかな?」


背中を押され、エレノアは小さく頷いた。

箱の蓋にそっと手をかけ、ゆっくり開く。


騎士団長や総司令官が静かに見守る中、衛生大臣が口を開いた。


「六歳でポーションを作れると聞き、ぜひお会いしたいと思っておりました。まさか本当にこの年齢とは……驚きですな」


「……はい。まだ勉強中ですが、作らせていただいています」


少し緊張しながらも、エレノアは丁寧に答える。


国王陛下がやわらかな笑みを浮かべる。


「そんなに肩に力を入れなくて大丈夫だよ。今日は君を叱るためではなく、噂の真偽を確かめるために集まってもらったんだ」


張り詰めていた空気が少し和らぐ。


「では、鑑定を始めよう」


宰相の合図で扉が開き、王城所属の鑑定士たちが入室する。

彼らは王国でも数少ない鑑定スキル保持者であり、重要案件でのみ招集される存在だ。


お父様が箱を開け、三本のポーションを会議卓の中央に並べた。


淡い緑色の回復ポーション。

深い翡翠色に輝くハイポーション。

透き通った赤色のマナポーション。


鑑定士たちは静かにポーションへ手をかざす。

詠唱も魔導具も使わない。ただ一瞬、瞳の奥に淡い光が宿った――鑑定スキルの発動だった。


エレノアは(あ、鑑定だ)とだけ思う。

自分も日常的に使っているスキルなので、特別珍しい感覚はなかった。


全員の視線が中央に集まる。


騎士団長は腕を組み、鋭い目で見つめる。

魔法師団長は魔力の流れを観察し、総司令官は無言で結果を待つ。

財務大臣は帳面を開き、衛生大臣は落ち着いた表情でエレノアを見守った。


やがて鑑定士たちが同時に手を下ろす。

代表の鑑定士が一歩前へ進み、国王陛下の前で深く一礼した。


「鑑定結果をご報告いたします。まず――作成者についてですが、三種すべてのポーションに同一の魔力痕跡が確認されました。作成者は……エレノア・フォン・レーヴェン嬢で間違いありません」


室内がわずかにざわめく。


騎士団長が低く「ほう……」と唸り、総司令官が視線を細める。


鑑定士は続ける。


「次に性能です。回復ポーションですが――一般的な回復ポーションを大きく上回り、回復量は標準的なハイポーションと同等です」


財務大臣の筆が止まる。


「続いてハイポーション。こちらは通常品の約二倍の回復量を確認いたしました」


魔法師団長が思わず前のめりになり、騎士団長が小さく息を吐く。


「最後にマナポーション。こちらも同様に、一般的な品の約二倍の魔力回復量を有しております」


報告が終わると、会議室は静寂に包まれる。


数秒の沈黙の後、国王陛下がゆっくりと頷いた。


「……なるほど。これは本当にすごいね」


驚きよりも、どこか嬉しそうな声音だった。


「エレノア嬢、まずは素晴らしい成果を見せてくれてありがとう」


優しい言葉に、エレノアの胸がじんわりと温かくなる。


騎士団長が口を開いた。


「この回復量なら前線の生存率が大きく変わるだろう。負傷兵を救える可能性が跳ね上がる」


総司令官も静かに頷く。


「補給が安定すれば作戦の幅も広がるな」


財務大臣が慎重に言葉を選ぶ。


「……性能は申し分ない。しかし、量産は可能なのか。価格と供給が安定せねば国家運用は難しい」


魔法師団長が興味深そうにエレノアを見た。


「製法の再現性も重要だ。特殊な才能だけに依存するなら扱いは慎重にせねばならん」


衛生大臣が補足する。


「だが、医療面への恩恵は計り知れません。地方の治療院にも回せれば救える命が増えるでしょう」


国王陛下は終始やさしい表情でエレノアを見つめる。


「難しい話は大人たちに任せていい。エレノア嬢、ひとつだけ教えてくれるかな」


「君は――ポーション作りが好きかい?」


「……はい。誰かが元気になってくれるのが、うれしくて」


国王陛下は目を細め、満足そうに頷いた。


「それで十分だ。技術も大事だが、その気持ちこそが一番の宝だよ」


しばしの静寂のあと、宰相が静かに咳払いした。


「では次に、ポーションの取り扱いについてのお話に移りましょう」


財務大臣が帳面を閉じ、エレノアに視線を向ける。


「エレノア嬢。本日お持ちいただいたポーションについて、王国として正式な買い取りを検討しております」


突然の話に、エレノアは目を丸くした。

胸の前で手をぎゅっと握り、少し迷ったあと素直な気持ちを口にする。


「えっと……あの、皆さんのお役に立てるなら……無償でも大丈夫です」


部屋の空気が一瞬止まる。


騎士団長が眉を上げ、総司令官が小さく息を吐く。

財務大臣は困ったように宰相へ視線を送る。


国王陛下がやわらかな声で口を開く。


「エレノア嬢」

「……はい」

「君の気持ちはとても立派だ。だがね、それはいけないよ」


叱るというより諭すような優しい声だ。


「価値あるものには、きちんと対価を払う。それが国の責任であり、作り手への敬意なんだ」


エレノアは少し考え込み、やがて小さく頷いた。


「……わかりました」


国王陛下は満足そうに微笑み、財務大臣に視線を向ける。


「では、適正な金額を提示してあげてほしい」


財務大臣はすぐに計算を始め、帳面に数字を書き込む。


やがて顔を上げる。


「性能、希少性、作成難度を総合的に判断し――今回購入予定の六百本は、貴族家の一か月の生活費に相当する金額、すなわち相応額の3,960万ルミナでの買い取りが妥当かと」


小さなどよめきが起こる。


魔法師団長が感心したように頷き、衛生大臣も穏やかに微笑む。


国王陛下がエレノアを見る。


「どうかな、エレノア嬢」

「……そんなに……いただいていいんですか?」

「もちろんだよ。君が努力して作ったものだからね」


胸の奥がじんわり温かくなる。


「……ありがとうございます」


深く頭を下げると、騎士団長が低く口を開く。


「金額以上の価値があるのは間違いない。前線の者たちはきっと感謝するだろう」


総司令官も静かに続ける。


「国家として正式に協力をお願いする日も近いかもしれんな」


少し重くなりかけた空気の時、国王陛下が軽く手を叩いた。


「さて、今日はここまでにしよう。難しい話ばかりでは疲れてしまうからね」


会議室の空気が再びやわらぐ。


「エレノア嬢。今日は来てくれて本当にありがとう。君の才能は、きっと多くの人を救うだろう」


優しい笑顔に、エレノアも自然と笑みを返した。


こうして、王城での初めての会議は温かな空気のまま幕を閉じたのだった。

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