表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したら錬金術が得意な貴族家の女の子でした  作者: 双葉アリア
第一章 幼少期編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/96

12話 スタンピートの足音

「一体どうなってやがる!!」

「この森ってこんなに魔物が生息していたっけ?」

「聞いたことないわよ!!」


三人組のAランク冒険者パーティーは馬車の襲撃が相次いで起きており王都へと繋がる街道沿いにある森へと調査のためにやってきた。

通常でも魔物は多いもののこれほどひっきりなしに魔物と戦闘がおこることはまずない

ーー倒しても倒しても次から次へと押し寄せてくる魔物の群れ。


「こんな数…どうやって対応すれば…!」

前衛の戦士が剣を振りながら叫ぶ。しかし、体力はすでに限界に近く、汗と血で顔が真っ赤になっていた。


「魔法も効きが悪い…? なんだか力が吸われていくみたい…」

魔法使いの少女が呟く。手元の杖から放たれる炎の魔法も、いつもより弱々しく感じられた。


「後ろからも来るぞ! 退くぞ!」

弓使いの青年が森の茂みを警戒しながら指示を出す。だが茂みの奥から、暗闇に紛れた巨大な影がゆらりと動いた。


その瞬間、森全体が震えるような轟音を響かせた。

「……な、なんだあれ……!」

3人が同時に空を見上げると、木々の間から巨大な魔物の姿が浮かび上がった。目を赤く光らせ、唸り声をあげるその存在は、森にこれまでいなかった異形の魔物だった。


「…やばい、これは…ただの魔物の大群じゃない!」

戦士の声が震える。森の奥深く、何かが目覚めた——その予感が、彼らの背筋を凍らせた。


一方の王都冒険者ギルド本部第一会議室ーー

調査の為に派遣した複数の冒険者パーティーから報告を受けるギルドマスターの姿があった。

「平原の森の中央部にジャイアントベアの存在を確認しました。」

「うちの担当区域内はデビルボアの群れをみつけた」


次から次へと強力なモンスターの目撃情報が寄せられる

そんな中ーー

「遅くなってすまない!!!」

王都最強と呼ばれるAランクパーティが戻ってきた。

「おう!お前らどうだった」

「「「・・・・・・・」」」

「どうしたお前たち.....?」

三人組のパーティの全員が沈黙する

少しの沈黙の後リーダーが重い口を開く

「ベヒーモスと思われる魔物を確認.......

恐らく状況からして魔軍激突(スタンピート)が発生する可能性は高いかと......」

会議室の空気が一気に引き締まった。


「……魔軍激突スタンピートの兆候、ですか……?」

副マスターが小さく呟く。まるで声に出すのも恐ろしいと言わんばかりだった。


リーダーは重い息をつき、険しい表情でギルドマスターを見た。

「現地の状況からすると、まだ本格的な発生ではありません。しかし、森の魔物たちは異常に活発です。これは単なる自然の暴走ではなく、何か大きな力が働き始めている兆候です。」


ギルドマスターは机に手を置き、深く考え込む。

「なるほど……兆候の段階か。しかし、このまま放置すれば、やがて国規模の危機に発展しかねん。」


副マスターが慌ててメモを取りながら確認する。

「王都にも情報を通達すべきですね。まだ戦闘は始まっていませんが、防衛準備は早めに……」


リーダーは頷き、少し沈黙した後に口を開く。

「現場の冒険者パーティには警戒を強化させてください。魔物の行動パターンや群れの動向を監視し、もし状況が変化した場合は即座に報告——」


「了解しました。」

副マスターが素早く指示をメモし、会議室の緊張感は一層増した。


窓の外、王都はいつも通りの喧騒に包まれている。だが、国中の強者たちの胸中には、静かだが確実に迫る嵐の予感が刻まれていた——

まだ…魔軍激突スタンピートは始まっていない。しかし、その兆候は確かに、王都に忍び寄っていた。


ーー王城内・第一会議室


重厚な扉が閉ざされた王城第一会議室には、異様な緊張が漂っていた。長大な楕円形の机を囲むのは、この国の中枢を担う者たち——王を筆頭に、軍の総司令官、魔導士団団長と副団長、騎士団団長と副団長、そして財務・衛生・外交・治安を司る大臣や重鎮たちがずらりと並んでいる。壁には歴代王の肖像画と戦史を描いたタペストリーが掲げられているが、誰一人としてそれに目を向ける余裕はなかった。


机の中央に置かれた報告書の束が、この場の空気を物語っている。侍従が一歩前に出て、静かに口を開いた。

「各地の冒険者および軍偵察部隊より報告。王都へ続く街道沿いの森において、上位種魔獣の異常行動を確認……ベヒーモス、ジャイアントベア、デビルボアの群れの移動が観測されています」


ざわめきが広がる。

総司令官がゆっくりと報告書をめくり、低い声で言った。

「……これだけ上位種が同時に動くなど、自然発生ではあり得ん。現段階では《魔軍激突——スタンピート》の兆候と判断する」


騎士団副団長が眉をひそめる。

「まだ発生はしていないのだな?」


「兆候段階だ」副総司令官が答える。「だが群れの密度、移動方向、上位種の存在……総合すれば予想規模は第ニ級災害に相当する可能性が高い」


会議室の空気が一段と重く沈む。第2級災害——国家規模での大規模防衛戦が想定される等級だ。


魔導士団団長が椅子から身を乗り出した。

「それ以前の問題がある。治療用ポーションの備蓄が足りない。現在の在庫では前線部隊の半数すら賄えぬ!」


騎士団団長が腕を組みながら低く唸る。

「……怪我人が増えれば、前線の維持は不可能だな」


魔導士団副団長が続ける。

「さらに深刻なのはマナポーションです。結界維持、広域攻撃魔法、通信魔法……長期戦になれば確実に枯渇します」


衛生担当大臣が重苦しく口を開く。

「増産命令は既に出しています。しかし原料不足と調合人員の限界により、大幅な増産は不可能です。正直に申し上げて——全部隊に必要数を振り分けることは不可能でしょう」


その言葉が落ちた瞬間、椅子が大きな音を立てて引かれた。

騎士団団長が立ち上がり、机を叩く。

「不可能だと!? それはつまり、前線の騎士に死ねと言っているのと同じだぞ!!」


副団長も立ち上がる。

「治療手段がなければ突撃も防衛も成り立たん!」


間髪入れず魔導士団団長も声を荒げた。

「マナポーション無しで結界を張れというのか!? 魔力が尽きた魔導士はただの的だ!」


副団長が机に身を乗り出す。

「我々に消耗前提で戦えと言うのなら、それは命令ではなく処刑宣告だ!」


議場は一瞬で荒れた。

衛生担当大臣が反論し、財務大臣が予算の限界を叫び、重鎮たちが一斉に口を挟む。怒声が重なり、椅子が軋み、机を叩く音が連続する。


総司令官が声を張り上げても収まらない。

騎士団と魔導士団が互いに苛立ちをぶつけ、会議室はまるで戦場のような混乱に包まれた。


——その時。


王が静かに立ち上がった。


「……まずは落ち着け」


低く、しかし圧倒的な威厳を持つ声が室内に響く。

騒音が一瞬で途切れた。


王はゆっくりと周囲を見渡す。

「戦いはまだ始まっていない。だが兆候は明確だ。我々が今すべきは、怒りをぶつけ合うことではなく、限られた資源で最大の防衛を構築することだ」


誰も口を開かない。


王は続けた。

「ポーションが不足しているのは事実だ。だからこそ、配備優先順位を定める。最前線部隊、結界維持部隊、救護班を優先する。騎士団は街道沿いと集落防衛を強化せよ。魔導士団は結界運用を再設計し、消耗を最小限に抑えよ。軍は全兵力の再配置案を即座に提出する」


総司令官が深く頷く。

「はっ。直ちに」


騎士団団長は拳を握りしめたまま、ゆっくり席に戻った。

「……了解しました」


魔導士団団長も息を吐き、静かに頷く。

「全魔導士に節約運用を通達します」


重鎮たちも次々と指示を書き留め始め、会議室はようやく秩序を取り戻していく。


窓の外には、何も知らぬ王都の街並みが広がっている。だが森の奥では確実に魔獣が集まりつつあった。


戦闘はまだ始まっていない。

それでも国家の命運を揺るがす嵐は、すぐそこまで迫っている——。


ーーその日の夕刻、屋敷・居間


王城での重苦しい会議を終えた私は、疲れた表情のまま屋敷へ戻ってきた。頭の中には第一会議室で飛び交った怒号がまだ残っている。第2級災害の可能性、圧倒的に不足している治療用ポーションとマナポーション、増産は間に合わないという現実——どれもが胸に重くのしかかっていた。


「……治療用も、マナポーションも足りない……あれじゃ前線がもたない……」


小さく呟きながら外套を脱ぎ、居間の扉を開けたその瞬間だった。


「うぅ……痛いってエレノア……」

「はいはい、お兄様。これ飲めばすぐ治りますから」


ソファに座ったルーカスが膝を押さえながら顔をしかめている。魔法の練習で転んだらしい。末っ子のエレノアは慣れた様子で小瓶を一本取り出し、蓋を開けて兄に差し出した。


淡く光る液体を飲み干した途端、ルーカスの表情が緩む。


「……あ、もう痛くない……」


膝を動かして確認し、満足そうに笑った。


「やっぱエレノアのポーション、おいしいな……」


「もう……お兄様はすぐ無茶するんですから。今日は絶対安静です!」


空になった小瓶がテーブルに置かれる。その横には同じ形の瓶が入った箱がいくつも並んでいた。


私の視線がそこに吸い寄せられる。


(……あの量……?)


王城で聞いた言葉が脳裏をよぎる。

不足、配布不能、増産も間に合わない——絶望的な報告ばかりだった。


だが目の前には、当たり前のように使われるポーションと、その在庫。


胸の奥で何かが繋がった。


「……エレノア」

「あ、お父様。おかえりなさい」


私はゆっくり歩み寄り、箱を見つめながら静かに問いかけた。


「……エレノアが作ったポーション、どのくらいある?」


エレノアは少し考えて答える。

「治療用ポーションとハイポーション、それからマナポーションなら……それぞれ二百本くらいあります」


「……それぞれ、二百本……?」


思わず繰り返す私に、エレノアは小さく頷く。

「はい。材料もまだあるので、もう少しなら作れますけど……どうかしました?」


私は深く息を吸い、真剣な表情で末娘を見た。


「……王城でそのポーションを買い取ってもいいだろうか?」


ルーカスが驚いて顔を上げる。

エレノアも小さく瞬きをした。


「王城が……?」


私はゆっくり頷く。

「今日、王城で緊急会議があった。スタンピートの兆候が確認された……そして今、この国は深刻なポーション不足に陥っている。治療用も、マナポーションも足りない」


居間の空気が少し張り詰める。


「まだ戦闘は始まっていない。だが始まれば、多くの兵士が傷つく……お前のポーションが、多くの命を救うかもしれない」


エレノアはテーブルの上の小瓶を静かに見つめた。


それは、まだ始まっていない戦いに向けた——小さな希望の光だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ