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転生したら錬金術が得意な貴族家の女の子でした  作者: 双葉アリア
第一章 幼少期編

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閑話 精霊魔法と王城への足跡

今日は王国が定めている四回の休息日のうちの一つの日だった。


この日は王城に出向くこともなく、商店も一部を除いて閉まっている。


本来であれば、ゆっくりと日々の疲れを癒し、明日への活力を蓄える日――のはずだ。


しかし、今手元にある報告書と文献を前にして、休む気にはなれなかった。


それは、エレノアが大地の精霊王の加護を受け、大地の精霊魔法を使えるのではないかという報告だった。


使用人だけであれば見間違いの可能性もある。しかし、妻も目撃しているため、十中八九、見間違いではないと判断せざるを得なかった。


通常、魔法の体系は火・土・水・風の四属性に、補助系魔法としての無属性で構成される。


だが、文献にはこれ以外の属性が存在することが記されている。それは神聖魔法と呼ばれる魔法体系だ。


神聖魔法には、大地を司る大地の精霊魔法、冥界を司る闇の精霊魔法、そして神族が使うとされる光魔法の三種類がある。


これらは歴史的にも扱えた者が少なく、残されている文献によると、確認された使用者はわずか数名に過ぎない。


大地の精霊魔法が最後に確認されたのは、五百年前のことである。


通常、これらの魔法は精霊と直接契約するか、精霊王の加護を受けることによってのみ使用可能であり、実用化されることは極めて難しいとされてきた。


それ故に実例も少なく研究も困難で、どのような性質を持つのかや力関係など、すべてが謎のベールに包まれている。


「はぁ……こんなの陛下に報告しないとダメだよな……でも、私が実際に見たわけじゃないし……」


この国の王族は非常に温厚で、余程のことがない限り死罪にしたり幽閉したりするような人ではない。


もちろん、陛下のご家族に害をなそうとした場合は別だが……。


しかし、報告をするには確証が必要だ。


今の段階では、報告をしても調査をしてもらえるかどうかは、五分五分の状態だった。


報告に上がった魔法――

まるで意思があるかのように草木を操る攻撃魔法。


そんな魔法は四属性にも無属性にも存在しない。


可能性としてはエレノアの創作魔法という線もあるが、状況を考えると可能性は低い……。


それに、まもなく六歳になる娘がそんな芸当をできるはずもない。


「完全に暗礁に乗り上げてしまったな……」


今日は折角の休息日で天気も良い。


気分転換にテラスでハーブティーを飲もうと居間に行き、使用人に用意を頼んだ。


テラスに出て庭を眺めると、楽しそうに薬草畑の世話をするエレノアの姿が目に入った。


少ししてハーブティーを受け取り、その姿を何気なく観察していると――


エレノアがしゃがみ込んだ先に、明らかに元気のない植物があった。


葉の先は黄色く、土の表面も乾き気味だ。


私はテラスの端に立ち、距離を保ちながら静かに様子を見守る。


エレノアは小さな手で土をならし、静かに作業を始めた。


その瞬間、土の中からかすかな振動が伝わってきた気がした。


空気が微かに揺れ、土が呼吸しているような印象。


枯れかけていた葉が、ゆっくりと生気を取り戻していく。


光は見えない。だが確かに植物が反応していた。


「……これは……まさか……」


息を呑む。


六歳の娘が、五百年ぶりに記録された大地の精霊魔法を使っている可能性。


声を出せば驚かせてしまう。


私は影に身を隠し、静かに観察を続けた。


葉は少しずつ立ち上がり、乾いていた土に湿り気が戻っていく。


手を置くだけで、大地そのものが応えるかのようだった。


「……これは……大地の精霊魔法だ……」


確証はない。


だが、目の前の現象は文献の記述とあまりにも一致していた。


慎重に足音を忍ばせ、居間へ戻る。


妻――フィオナの存在が必要だった。


「フィオナ……ちょっと、こちらに来てくれ」


しばらくして、彼女が静かに現れる。


「どうしたの?」


「見てくれ……あの子の手元を……」


二人で庭を見守る。


すると、萎れていた葉がゆっくりと元気を取り戻していく。


土の表面が湿り、根元から力強さが戻っていくように見えた。


「……ねえ……これ……どう思う?」


「間違いない……大地の精霊魔法だ……」


エレノアはまだ気づいていない。


ただ土をなぞるだけで、薬草が生き返っていく。


風もないのに葉が揺れ、土の匂いが濃くなる。


「……信じられない……」


私たちは言葉を交わさず、その光景を見守り続けた。


「……これ、王城に報告するべきだな……」


まだ幼い娘が扱うには重大すぎる力。


正確な記録が必要だ。


その日、私とフィオナは――

六歳の娘が秘めた驚くべき才能を、静かに目撃したのだった。


――後日。


王城の門をくぐると、取次ぎの者が私の手元の報告書に気づき、静かに頷いた。


「ご報告書をお持ちのようですね。中にお通しいたします。」


深呼吸をひとつして、重厚な扉の向こうへ足を進める。


中には宰相が立っており、陛下はまだ別室におられるとのことだった。


高い天井の下、静かな空気の中で待つ。


やがて奥の扉が開き、陛下が入室された。


「……お待たせしました」


私は立ち上がり、深く一礼する。


陛下は柔らかな微笑を浮かべた。


「そんな堅苦しくしなくていいよ」


宰相が報告書を手に取り、読み上げる。


「レーヴェン子爵家次女が大地の精霊王の加護を受け、大地の精霊魔法を使用した可能性――目撃者は家族及び使用人。人物鑑定の要否についてご判断を仰ぎます」


陛下は書面に目を落とし、静かに考え込む。


「なるほど……これは初めて知る内容だな」


やがて穏やかに続けた。


「だが、子供に王命で人物鑑定を行うのは酷だ。今すぐ実施する必要はない。時期を見て慎重に判断しよう」


宰相が頷く。


「次女となると……エレノア嬢かな?」


「はい、陛下」


陛下は軽く書面を叩いた。


「まずは様子を見守ろう。必要なら後日鑑定を行う。余計な混乱は避けねばならない」


そして、柔らかく微笑む。


「エレノア譲はまだ幼い。焦らず見守ろう」


その言葉に、私は胸の重荷が少し軽くなるのを感じた。


こうして報告書は王城に受理され、

慎重な観察のもと、事態は静かに進むこととなったのだった。

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