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転生したら錬金術が得意な貴族家の女の子でした  作者: 双葉アリア
第一章 幼少期編

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9話 六歳の誕生日、そして精霊王の忠告

「「「「エレノア、誕生日おめでとー!!!!」」」」

「みんな、ありがとー!!!」


今日は私の誕生日。

家中にお祝いムードが広がり、朝から屋敷はいつもよりずっと賑やかだった。


食堂に入ると、大きなテーブルいっぱいに料理が並べられている。焼きたてのパンに、色とりどりのサラダ、香ばしいお肉料理……そして中央には、六本の小さなロウソクが立てられた大きなケーキが置かれていた。


「まあ、エレノア。とっても似合っているわ」

お母様が微笑みながら言う。今日は特別に仕立ててもらった、淡い花色のドレスを着ているのだ。


「ありがとう、お母様!」


オリバーさんも、少し照れたように頭を下げる。

「エレノア様、お誕生日おめでとうございます。畑の薬草たちも、今朝はいつもより元気そうでしたよ」


「ほんと? ふふっ、嬉しい!」


ルーカスとアメリアも駆け寄ってきて、手作りらしい小さな箱を差し出した。

「これ、僕たちから!」

「昨日、こっそり準備したのよ!」


箱を開けると、小さな木彫りのラベル札が入っていた。

“月光草”“アオイ草”と、可愛く刻まれている。


「わあ……! 畑で使える……ありがとう、大事にするね!」


妖精たちも、他の人には見えないように私の周りをくるくる飛び回り、小さな光をぱちぱち弾けさせている。

(おめでとー! おめでとー!)

小さな声が心に直接響いて、思わず笑顔がこぼれた。


やがてお父様が席につき、グラスを軽く持ち上げる。

「エレノア、六歳の誕生日おめでとう。これからも、君らしく元気に過ごしなさい」


「はい、お父様!」


みんなで乾杯すると、楽しい食事が始まった。

笑い声が絶えず、まるで屋敷全体が温かな光に包まれているみたいだ。


そして食後――

いよいよケーキの時間。


「さあ、ロウソクを吹き消してごらん」

お母様に言われ、私は目を閉じて小さく願い事をする。


(薬草畑がもっと大きく育ちますように……みんなが元気でいられますように……)


ふーっと息を吹きかけると、六つの火が揺れて、同時に消えた。


その瞬間――


窓の外の風が、ふっと不思議な音を立てた。


カーテンが静かに揺れ、庭の木々がざわりと鳴る。

胸の奥が、なぜか少しだけざわついた。


(……あれ?)


妖精たちも、一瞬だけ動きを止める。

楽しげだった光が、ほんの少しだけ弱くなった気がした。


けれど次の瞬間、周りから大きな拍手が起こり、私ははっと現実に戻る。


「おめでとう、エレノア!」

「おめでとうございます!」


笑顔に囲まれながら、私はもう一度ケーキを見つめた。

――六歳になった今日が、こんなにも特別な日になるなんて、この時の私はまだ知らなかったのだった。


「今日は楽しかったなー。

やっぱり、みんなにお祝いされると嬉しいね!」


独り言をつぶやきながら自室へ戻る。

ボフッとベッドに倒れ込むと、同時に大地の精霊王様がやってきた。


「エレノア……六歳の誕生日おめでとう。

ささやかなプレゼントを用意した! 受け取ってくれ」


そう言うと、空中から私の手元へ一冊の本と箱が落ちてきた。


「ぜひ今、見てくれ! もし不満だったら交換するから」

「交換しなくて大丈夫です! 精霊王様、ありがとうございます!」


そう言いながら本を確認すると、とんでもなく高価な品だった。


「空間収納の魔導書……って、精霊王様! こんな高価な物、貰えませんよ!!!!」


精霊王様は、待ってましたと言わんばかりにニコニコする。

「いやー、エレノアが驚く顔が見たくて、つい……」


……精霊王様、こんなキャラだっけ!?


そう思いながらじーっと見つめていると、

「コホン……確かに人間族の間では高価なものかもしれないけど、我々神族は無限に複製できるから問題ないよ」


「えっ?」


話を聞くと、魔導書は本来、神族がダンジョン内のモンスターを人間族に継続的に討伐させ、ダンジョンから溢れ出させないようにするために作った物で、神族が定期的に魔導書を宝箱の中に入れているらしい。


神族が定期的に魔導書を宝箱の中に入れる――そんな話を聞きながら、私はまだ半分くらい信じられない気持ちで本を抱えていた。


「……つまり、人間族がダンジョンを攻略するのって、神族側の管理の一部なんですか?」


「うん、そういうこと。魔物の数は放っておくと増えすぎちゃうからね。定期的に減らしてもらう必要があるんだよ」


精霊王様は軽く頷きながら、ベッドの端に腰掛けた。

その表情はいつも以上に真剣で――私はふと、胸の奥がざわつくのを感じた。


「……精霊王様?」


私がそう呼びかけると、精霊王様は小さく息を吐いた。


「実はね、今日はお祝いだけじゃなくて……伝えておかなきゃいけないことがあって来たんだ」


部屋の空気が、すっと静かになる。

さっきまで楽しげに飛んでいた妖精たちも、私の肩の上でじっと動きを止めた。


「――魔軍激突スタンピートの“芽”が、発生しかけてる」


「……え?」


思わず声が漏れる。


「まだ確定じゃない。でも、エングラムの流れが少し乱れてる。王都の外――森と平原の境目あたりだね」


私は、つい先日素材採取に出かけた郊外の景色を思い出した。

穏やかな草原、風に揺れる木々、楽しそうに笑っていたみんなの姿。


「あそこが……?」


「実は、エレノアがピクニックに行ったあの日に戦った、角の生えたうさぎ……ホーンラビットって言うんだけど、あれはその亜種だ。

それに、本来あそこにホーンラビットはいない」


振り返ると、お母様に周りを歩いていいか聞いたときに返ってきた言葉は、

「ここら辺はスライムしかいない」――だった。


だが、精霊王様の言葉に疑問が生まれる。


「精霊王様。魔軍激突スタンピートは、上位種や亜種が他の魔物を統率して襲ってくることですよね?

どうしてエングラムの流れが関わってくるんですか?」


前世で読んだ漫画――そこには、上位種や魔族が他の魔物を統率して街を襲う描写しかなかった。

だが、精霊王様の言葉は、まるで魔族が存在しないかのようで……。

どうしてエングラムの流れが関係してくるのか、不思議でたまらなかった。


「確かに、そう言われているね。エレノアの前世の書物でも、そういうふうに書かれていた。

でも、この世界には魔族はいないし、普通はダンジョンでもない限り、上位種や亜種は誕生しないよ」


「えっ……じゃあ、どうして……?」


魔族はいない。しかも、普通は上位種や亜種は誕生しない――ますます疑問が大きくなった。


「実は、人間族には知られていないけど……魔軍激突スタンピートは、エングラムの流れとイデアが密接に関係しているんだ……」


混乱する私をよそに、精霊王様は続ける。


「通常、エングラムは大地のすべての生きとし生けるものへの糧として機能する。

イデアを維持するためにね。

このエングラムは、少なすぎると大地は枯れ、生命も維持できなくなる。

逆に多すぎると、イデアが過剰にエングラムを吸収しようとして、溢れないよう進化が起こる。

そうすることでパワーバランスが崩れ、魔軍激突スタンピートが発生する……というわけさ」


「…………」


「もちろん、我々神族は一丸となってエングラムの流れを調整し、魔軍激突スタンピートが発生しないようにしている。

だが……今回は、どうしても避けられそうにないんだ……」

私は、ぎゅっと膝の上で手を握りしめた。


「……避けられないって……私たち、どうすればいいんですか……?」


精霊王様は少しだけ考えるように目を閉じ、それから穏やかに言った。


「まず安心してほしい。エレノアが前に出て戦う必要はないよ」


「……え?」


思わず顔を上げる。

スタンピートって聞いた瞬間、また戦うことになるんじゃないかって思っていたからだ。


「君が戦ったのは、あのホーンラビットの亜種……あれが初めてだっただろう?」


「……はい。一回だけです」


正直、思い出すだけで少し怖い。

必死で、夢中で、何がなんだか分からないまま終わった戦いだった。


精霊王様は、小さく頷く。


「だから前線には出さない。

それに――君はまだエングラムの流れを詳しく理解しているわけじゃない」


「……うん……」


感じることは、なんとなくある。

でも、それが何なのか、どう動いているのかなんて全然分からない。


「じゃあ……私にできることって……?」


そう聞くと、精霊王様はにこっと笑った。


「錬金術だよ」


「……錬金術?」


「スタンピートが起きたとき、一番問題になるのは“負傷者の多さ”だ。

命を落とす人の多くは、戦場じゃない。――治療が間に合わないんだ」


胸が、ぎゅっと痛くなる。


「王都にも錬金術師はいる。ポーションもある。

でもね……数が圧倒的に足りない。質も安定しない」


精霊王様は私の机の上に目を向け私の机に並んだ小瓶をひとつ手に取った。


「だから、君にお願いしたいのは――戦うことじゃない。

“作ること”だ」


「……ポーションを……?」


「そう。スタンピートのときに一番必要になるのは、結局これなんだよ」


精霊王様は小さな瓶を光に透かしながら続けた。


「種類は絞ろう。

回復用の“ポーション”と、重傷者向けの“ハイポーション”そして“マナポーション”。

この三つを重点的に作ってほしい」


「……三種類だけ、ですか?」


思わず聞き返す。

もっといろんな薬が必要なんじゃないかと思ったからだ。


「種類を増やすと、現場が混乱する。

それに君はまだ六歳だ。負担を増やしすぎるわけにはいかない」


精霊王様は優しく言った。


「ポーションは軽傷者や疲労回復、応急処置用。

止血効果も含めて調整すれば、それだけで助かる命は多い。

そしてハイポーションは、騎士団や重傷者の切り札になる

マナポーションは魔法を使う人の助けになる」


私は、自分の手を見つめた。


小さな手。

剣を振るう力はない。

でも――薬草を刻んで、混ぜて、火加減を見て……それなら、できる。


「……私のポーションで、本当に助かる人……いますか?」


「たくさんいる」


迷いのない声だった。


「スタンピートでは、治療が間に合わないことが一番の問題になる。

でも、君が事前に十分な数を用意できれば――犠牲は確実に減る」


胸の奥が、じんわり熱くなる。


怖くないわけじゃない。

でも――逃げたいとは思わなかった。


「……わかりました。

ポーションと……ハイポーションとマナポーション、いっぱい作ります」


そう言うと、精霊王様は満足そうに頷いた。


「ありがとう、エレノア。

まずは明日から、備蓄用の量産訓練だ。

配合は君の普段のレシピでいい。ただし――安定性を最優先にしよう」


「はい……!」


「それと、空間収納の魔導書は材料と完成品の保管に使う。

長時間の保存でも品質が落ちないよう調整してあるからね」


「……すごい……」


思わず本を抱きしめる。


窓の外では、夜風が静かに庭を揺らしていた。

誕生日の余韻が残る部屋で――


私は初めて、

“戦わずに誰かを守る準備”を始めることになったのだった。


――そして翌朝。


目を覚ました私は、ベッドの上でそっと目を閉じた。

指先に意識を集めると――空間が静かに応える。


もう魔導書は必要ない。

あの日、魔導書を使ったことで感覚を覚えてからは、こうして直接空間収納に触れられるようになっていた。


意識の奥に、整然と並ぶ薬草束や基材の気配が広がる。


(……ちゃんと、ある)


昨日、精霊王様が言っていた言葉を思い出す。


『材料はすでに用意してある。

もし足りなくなったら――精霊が薬草の成長速度を上げる魔法を使う』


そして、その時に進化した小さな精霊が――

ふわり、と私の目の前に現れた。


「今日は始めるの?」


期待したように、くるりと宙で回る。


「うん。でも、いきなりたくさんは作らないよ」


私はベッドから降り、錬金机へ歩み寄った。

そこで視界に入ったのは――机の上に置かれた、小さな箱。


昨日、精霊王様から受け取ったものだ。


そっと手に取り、ゆっくりと蓋を開く。


中に収められていたのは、バラをかたどった小さなペンダント。

大地の色をした石が中心に埋め込まれ、静かな光を宿していた。


その下には、一通の手紙。


小さく息を吸って、私は文字を追う。


『昨日、言い忘れていたことがある。

その箱の中身は、精霊の加護が付与されたペンダントだ。


君に重大な危機が訪れた時――

私が直接、君のもとへ辿り着ける力が宿されている。


……だが、どうか無理はしないでほしい。

君はまだ、成長の途中なのだから』


読み終えた瞬間、胸の奥がじんわりと温かくなる。


進化した小さな精霊が、興味深そうに近づいた。


「それ、守ってくれるの?」


「……うん。たぶん」


私はペンダントをそっと首にかける。

軽いはずなのに、不思議と安心する重みがあった。


深呼吸をひとつ。

頭の中で、いつもの手順をゆっくりと思い浮かべる。


焦らなくていい。

大事なのは数と、安定した品質。


精霊王様の言葉を胸に、私は空間収納から必要な分だけ材料を取り出した。


外はいつも通りの朝。

屋敷も静かで、誰もまだ私の決意を知らない。


けれど――遠く、大地のどこかで何かが動き始めている。


だからこそ今は、慣れることから。


「今日から――まずは慣れるために、練習を頑張ろう」


小さくそう呟き、私は静かに前を向いた。


六歳の小さな錬金術師の“練習”が、

誰にも知られず、そっと始まったのだった。

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