友達の友達は敵
ページをめくる音が向かい側からする。
その音は本の紙質から内容までまるで想像できるような気がする。
「あなた何で本を読んでいるの?」
「え?だってやることないし」
「感情について話してっていってるでしょ」
「と言われても昨日も言ったけど普通の日にそんなに感情は動かないよ」
私はため息を吐き視線を本の文字に落とす。
まあ、いつも聞かないくてもいいかもしれない。
そんな風に割り切り本の世界に潜る。
「でさー」
「おお!それおもしろいな!」
「……」
窓の外には男子が三人いた。
彼らは三人だが一人を除いて話している。
なぜだかは分からないが一人は黙って強い眼差しで一人を見ている。
「……じゃ、じゃあ僕自転車だから…」
「おお。またな!」
「うん」
そうして駐輪所に行く男子。
一人の男子は見えなくなるまで手を振っていた。
「なあ」
「うん?なんだ?」
「何であんな無口な奴と友達なんだ?」
「いや、いつもはもっと喋るんだけどな。今日はお前がいたし遠慮したんだろ?」
「そうか、でも意外だな。お前があんな大人しそうなやつと友達だなんて」
「そうか、あいつ良い奴だし、面白い奴だぞ?」
「へーお前変わってるな」
「お前の彼女ほどじゃねーよ!」
「ぶ!それは言わない約束だろ!?」
そうして二人はじゃれ合いながら帰っていく。
それを私は横目で見ていた。
「彼らは面白いわね」
「え?どこが?」
「だって見てたでしょ?彼ら三人はおそらく一人の男子と二人が友達で二人は友達の友達っていう不思議な関係よ」
「よくあると思うけど?」
私は静かに本を机に置く。
そうして足を組む。
「そうねよくあるわね。でも気付いていた?あのおとなしそうな男子の強い眼差しを」
「……なんとなく?」
彼は確信が持てないのか少し不安そうだった。
「たぶんあってるわね。あの顔は眼差しは嫉妬の眼差しね」
「嫉妬?」
「ええ、友達を別の赤の他人同然友達の友達に取られるっていう不安からくる殺気じゃないかしら」
私は本の縁をなぞり言う。
「ああ…」
「納得した?」
「そうだね。でも一つ誤解だと思うよ?」
私は少し肩が上に上がる。
「何が誤解なのかしら」
「おそらく嫉妬の感情は合ってると思うけど彼はその友達の友達に殺気…敵意はなかったんじゃないかな」
「どうしてかしら。その男子からすれば敵みたいなものみたいなものでしょ?」
私は納得できないことに苛立ちを覚えていた。
「そうだね…でも彼は優しいって言ってたでしょ?たぶん彼の強い眼差しの正体はその友達とどういう風に仲良くしようかと緊張していたんだよ」
「……彼の友達は仲よくしようとは思ってなかったみたいだけど?」
「そうだね。思いは一方通行だったんのかもしれないね」
そういう彼には影が色濃くかかっていた。
「ほんと現実は理不尽で残酷ね……」
「そうかも……」
彼は一言つぶやいて本に視線を落とす。
その顔は矛盾をはらんでいた顔に見えた。
「あなたもそんな顔をするのね?」
「どんな顔?」
「とても苦しそうお顔よ。いつも前向きだったから意外だったわ」
すると彼は少し微笑む。
「ふふ、黒崎さんにはそう見えていたんだ?」
「…何か悪い?」
彼はただ笑うだけだ。
「あのね、確かにさっきの話は悲しいけどね。これからは誰にも分かんないと思うんだ」
「……そうかしらね」
「うん。だからもしかしたら彼の思いが一方通行じゃなくなる時も来るかもしれない。可能性は低いけどね」
「じゃあその友達と会わなかったほうがよかったのね。その男子は」
彼は首を横に振る。
「そんなことないと思う」
彼の目には確かな確信があった。
私はその目に吸い込まれそうだった。
「……どうして?」
「確かにうれしくないことだけど確実に彼の人生の糧になる。実戦経験になる。決して無駄にならないんだよ。その不安も嫉妬もね」
私は手から本が落ちる。
本は机に落ちて音が周りに反射していた。
「大丈夫?」
「え、ええ」
私は勘違いしていた。感情は整理されているべきだ。そう考えていた。
だけど、生きて泳いでいる感情は整理などできない。
だから矛盾があって理不尽なものだ。
だけど、人間も感情も泳いでいるからこそ泳いで学び考え少しづつ受け止めていく。そうして感情を自分の中で整理している。
「感情は本のようには扱えないわね……」
「うん……そうだね」
本のページが窓から入る風になびいてめくられる。
止まったページには一つの文があった「感情は生きている魚のように泳ぎ続けるのだ」




