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感情は本のようには扱えない。  作者: マモシ


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3/11

窓の外の友達

「ねえ、黒崎さん」

「……」


私は本の世界に入り浸っていた。

やはり本ほど整理されていて完璧な物はない。


「ねえてば!」

「はあ、うるさいわね。何か用なの?」


私は本を閉じて話しを聞く。


「え、いや君が僕に放課後に協力してほしいって言ったんじゃないか!?」

「ああ、それはいいの。私はただ聞くだけだから。あなたはただ日常生活での感情の揺れでも話してくれればいいのよ」

「いや、そう言われても日常の中でそうそう感情が大きく動く出来事なんてないよ」

「はあ、めんどいわね……」


でも、それは困る。

せっかく少しは期待できそうだったのにこんな理由で終わるのはもったいない。

何か題材になりそうなことはないかしら?

私は光に誘われるように窓の外を見る。

そこにはいつも私を遊びに誘ってくるクラスメイトの男子とその友達がいた。


「おい、遅いぞ?」

「すまんすまん」


そういう男は手に何か紙を持っていた。

ただ友達の男子には隠したいのか後ろに隠している。


「なにしてたんだよ?」

「ああ。便所だよ」


彼の視線は定まっていない。忙しく動いていた。


「お前便所に30分もいたのか!?」

「おお。強敵だったぜ」


そういう彼の手は自然と開いたり閉じたりしていた。

紙を握っていたほうのも少しくしゃっとしていた。


そうして彼らは駐輪所に向かって歩いて行った。


「見ていた先ほどのやり取り?」

「え?うん」

「さっきので何か感情は動かなかった?」

「え、トイレに行ってた話ではさすがに……」


彼はあの話を表面上しかわかってなかった。


「あのね、トイレに行ってたなんて嘘よ?」

「え、そうなの?」


私は指を本の縁に這わせてなぞる。


「あの男子は少なくてもお手洗いに行ってたわけじゃないわ」

「じゃあ、どこに?」

「さあね、そこまでは分からないわ。私は彼らのことを何も知らないのだから」

「同じクラスメイトなのに?」

「ええ」


彼は少し身を引いてこちらを見ていた。

よく起こることなので私は気にせずにいた。


「あのね、トイレに行ってた彼は沢木君、その友達の筒井君だよ」

「名前はどうでもいいのよ。その沢木君とやらは放課後何か用事とか何か不審だった点は普段なかったの?」

「え、うーん。そうだね一つだけ思い当たるものならあるかな」

「それはなに?」

「えっとね、彼、最近放課後にいつも用事があるっていって先に友達とかに帰ってもらってたりするみたいなんだ。今回みたいに待っててもらう場合もあるみたいだけどね」


先に帰ってもらう用事ね。

私は改めて頭の中で今回のことを整理する。


最近いつも放課後にある用事。

謎の紙

友達に隠す。


「彼は異性から人気なの?」

「う、うん。チャラいけどかっこいいしやさしいからって人気だね」

「そう……」

「でも、最近はお付き合いしている相手はいないみたいだね。多分だけど黒崎さんを好きだからじゃないかな?」

「私が好き?彼は私のことを何も知らないのに?」

「えっと、まあそうだけど、ひとめぼれってあるから…」

「まったくもって理解できないわね」


私のことを何も知らない男性に好きになられたなんて正直ぞっとするのだけだ。

仮に私のことを知っていたら好きになんてならないはずだ。

でもこれで仮定は出来た。


「彼は放課後忙しかったのね」

「え、なんで?」

「おそらく告白を断っていたのよ」

「告白を?」

「ええ、あなたの言う事が当たっているなら彼は私が好き。だからほかの女性からのアプローチを断っている。そう考えるのが妥当ね」

「なんで、分かったの?」

「彼は後ろに紙らしきものを隠していたわ。おそらくラブレターか待ち合わせの場所でも書いていたものじゃないかしら」

「なるほど」


そう、彼は友達にも隠したがっていた。彼の人柄は知らないが、告白現場を見られたくないのなら筋は通る。

他にも彼の視線は定まっていなかった。嘘を吐くときの特徴的なものだ。


「本当に理解できないわね。私は彼のことを好きでもないのにそこまでやる必要はないでしょう」


私は本を開き文字に目を落とす。

そこにはやはり並べられ歯列された文字があり事象がある。


「僕は彼を尊敬するよ」


結城君はそうつぶやいた。


「どこが尊敬できるのかしらね」


私はページをめくりながら言う。


「だって一人の為だけしかも嫌われているかもしれない相手の為にそこまで徹底できるのは彼がそこまで本気だって証拠じゃないかな」


私の手は止まる。

そうなのだろうか。私には分からない。

ただその相手に私は本気で答えていない。

それは正しいのだろうか。

自然と疑問が出てきた。


「……つまり私の方が不誠実ってことね……」


私は完全に本の内容が頭に入ってこない。

ただ本を開けたまま固まっていた。

自分は感情がないでも不義理でも不誠実でもないと思っていた。

ただ現実は逆だったのかもしれない。


窓の外から小鳥の鳴き声が聞こえる。


「僕はそう思わないよ?」

「……お世辞ね」

「違うよ。確かに彼は真剣だし本気かもしれない。でも彼は勝手にそうしているだけだよ?それに君が真剣に答えるのが絶対で誠実だとは思わない」


私は自然と本を閉じる。

それはおそらく求めていたからか、それとも好奇心か分からない。

だが気付けば聞いていた。


「どうして?」


「だって、彼の本気に本気で興味ないと言ったり嫌いだと答えるのも彼に期待させないための誠実さにもなるから。誠実は人の数ほどあると僕は思う」


そんな答えがあるとは予想がついておらず、私は一瞬フリーズする。


「……それがあなたが考える誠実の答えなのね?」

「うん」


結城君の目には強い己の意思を感じた。

正直彼は我が強くない人だと思ってた。

でも彼は彼なりの信念のもとに動いて喋っている。

私とはそこが大きく違うのだろう。

私の意思はいつも本の中で見つける。だから自然に生まれはしない。

彼は泳いで見つけて自分のものにしているんだ。


「ふ、あなたはやっぱり変な人よ」

「ええ…」


本は閉じたままだ。

私は少し現実と言う海を泳いでみようとひれを動かす練習をするのであった。















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